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 第194話 『 タツタVSカノン.Ⅱ 』



 「準備はいいか?」


 「勿論♪」


 ……俺とカノンは向かい合い、拳を構える。

 ルールは二つ。俺は〝SOC〟の使用禁止で、カノンは拳銃の使用禁止(〝装填〟に限り銃の使用可)であった。


 「……」

 「……」


 ――カノンが紫電を纏い飛び出した。


 その髪は静電気で逆立っている。


 (……〝雷華〟か!)


 カノンは一瞬にして視界から消える。


 (……まずは暗闇を攻略だ)


  夜   王   の   眼


 ……視界が鮮明になる。


 ( & )


 ――〝闇黒染占〟……!


 俺は皮膚を〝闇黒染占〟で覆った。


 (神経総動員……!)


 暗闇に電流の線が走る。それはまるでカノンの足跡だった。


 (……これなら!)


 ――カノンが踵落としを繰り出す。


 「先読みできる」


 ――ガッッッッッ……! 俺は腕で踵落としをガードした。


 「甘いな」 「甘いね」


 ――カノンが笑った。


 「 〝解放バースト〟 」



 ――カッッッッッッッッッッ……! 凄まじい閃光が視界を支配した。



 (……しまっ……目がっ!)


 カノンの脚から放たれた稲妻の閃光はただでさえ僅かな光を集める〝夜王の眼〟に突き刺さる。


 (しかも……!)


 ――ビリッ、脚から放たれた電流が俺の身体に流れ込み、一瞬身体が硬直する。


 ……その一瞬をカノンは見逃さない。


 「 〝破王拳〟 」



 ――ゴッッッッッッッ……! 土手っ腹に凄まじい威力の拳が叩き込まれる。



 「――ぐぷっ……!」


 俺は地面をバウンドしながら吹っ飛ばされる。

 しかし、空中で体勢を立て直し、衝突しそうになった木に着地する。


 「今度はこっちの番だ……!」


 ――ドッッッッッ……! 足場にした木を薙ぎ倒すほどの勢いで俺は飛び出す。


 「返り討ちにするよ……!」


 ――カノンも紫電を纏い飛び出す。


 しかし、互いに真っ正面からぶつからない。縦横無尽に駆け回り、攻撃の気配を窺う。

 とはいえ、速度では向こうが上であり、〝夜王の眼〟は閃光を恐れて使えない。カノンの有利は覆らないだろう。


 「だったら、それ以外で勝負するしかないだろうな」


 ――俺は地面に落ちていた枝を拾い上げた。


 「〝闇黒染占〟――……」


 枝が黒く染まる。

 俺は遥か上空へ跳躍する。



   黒    飛    那



 ――地上へ向けて巨大で黒い衝撃波を撃ち放つ。


 「目で追えないなら全部ブッ飛ばす……!」


 地面に〝黒飛那〟が炸裂し、周囲一帯を吹き飛ばす。


 「……やりすぎたか?」


 「 当たっていればね……♪ 」


 ――〝黒飛那〟の爆風を回避していたカノンが俺の背後にいた。


 「だろうと思ったよ」

 「……♪」


 ――カノンが拳を振り抜く。


 ――俺は踵返す。



 ――ガシッッッッッ……! 俺はカノンの拳を掴み、静止させた。



 「 〝解放〟 」

 「――」



 ――カッッッッッッッッッッ……! 凄まじい閃光と電流が俺に降りかかる。



 「やっぱり甘いね」


 「 掴まえたァ……! 」


 ――ギュッッッ……! 俺は掴んだカノンの拳を放さなかった。


 「――何っ!」


 ……そう、俺は気合いで電撃を耐えたのだ。


 ――グルンッ……! 俺は空中でカノンの腕を掴んだまま回った。


 「 落 」


 ――グルンッ、グルンッ……! 更に回転しながら地上へ落ちる。


 「ちろォォォォォォォォォォォォォッッッ……!」



 地 獄 落 と し ・ 廻



 ――ゴッッッッッッッッッッッ……! カノンを地面に叩きつけた。


 「――かはっ……!」


 遠心力を生かした叩きつけ、これは効くだろう。


 「……流石に効いたよ」


 カノンがフラフラしながら立ち上がった。


 「どうだ、ギブアップするか?」

 「まさか? これからが本番だよ」


 ――カノンが目の前にいた。


 「 !? 」


 ――カノンの拳が空を切る。


 ――俺は咄嗟に後ろへ跳ぼうとする。


 「かわす隙は与えないよ♪」



  らい      れん   しょう



 ……まさに、不可避の速攻。幾百のボディーブローが叩き込まれる。


 「 〝解放〟 」


 ――全身に電流が走り、筋肉が硬直する。


 「――ッッッッッッッッッ……!」


 「 〝装填チャージ〟――〝火音〟 」


 ――カノンが留目の拳を振り抜く。


 (再装填リロード、速――……)



   破    王    拳



 ――土手っ腹に大砲のような重い衝撃が叩き込まれた。


 「――ッッッッッッッッッッッッ……!」


 俺は堪らず吹っ飛ばされる。

 今度は着地に失敗し、木々を薙ぎ倒す。


 「……いってって」


 ……忘れていた。あいつは速撃ちの名手だったな。

 にしても、やっぱり雷速の連撃はかわしようがねェな。


 「……すげェよ、やっぱ」


 ただでさえ強力な〝特異能力〟に、一流の体術に速撃ち・高速再装填。はっきり言って隙がなかった。


 「だが、簡単に負けてなんてやらねェよ」


 俺はへし折れた枝を拾い、投擲の構えをした。


 「見せてやるよ、俺の新技」


 枝に黒い魔力が絡みつき、一本の黒い槍となる。



  こく   てん   たい   そう



 ――ドキュッ……! 圧倒的な初速で黒い槍が放たれる。


 〝黒天大槍〟は空を裂き、一直線に突き抜ける。


 「凄い威力だね」


 しかし、カノンの雷速の脚と目を前にすれば迫る漆黒の槍はあまりに遅すぎた。


 ――スッ、カノンは最低限の動きで〝黒天大槍〟を回避した。


 「だから、受けてあげないよ」


 〝黒天大槍〟がカノンの後ろへ流れていく。



 ――ガシッッッッッ……! 俺は〝黒天大槍〟を鷲掴みした。



 「――何っ?」


 カノンは振り向き、目を見開いた。

 そう、俺は〝黒天大槍〟の進路に割り込み、それをキャッチしたのだ。


 「 黒天大槍リターン 」


 ――そして、俺はカノンの背後から黒天大槍を放った。


 「でも、まだかわせるっ」


 カノンは先程よりもギリギリであったが、迫る漆黒の槍を回避する。


 ――チラッ


 ……一瞬、カノンが通り抜けた〝黒天大槍〟を目で追った。


 ――その一瞬を俺は見逃さなかった。


 「――っ!」


 ――カノンの目の前まで〝黒飛那〟が迫っていた。


 「――ッッッッッッッッ……!」


 今度はかわし切れず、カノンは破壊の奔流に呑まれ、吹っ飛ばされた。


 「――かはっ……!」


 そして、巨大な堆土に叩きつけられた。

 ……計画通りであった。

 〝黒天大槍〟を投げ、すぐに回り込みその〝黒天大槍〟を掴み、再びカノン目掛けて投げる。

 そうすることによりカノンの頭の中に一度投げた〝黒天大槍〟を掴みすぐさま投げる、という選択肢が刷り込まれる。

 そうすることにより、カノンはかわした筈の〝黒天大槍〟に気を取られる。だから、俺はその一瞬の隙に〝黒飛那〟をカノンに当てたのだ。


 「……やるね、タツタくん」


 しかし、カノンはフラフラになりながらも立ち上がる。


 「まだ、やるのか?」

 「いや、もう終わりにしようか」


 ――カノンの周りに黒い渦巻いた。


 「 この一撃でね……♪ 」


 カノンが拳を構えた。


 (……〝黒龍〟、か)


 最強の魔銃――〝黒朧〟を自身の身体に装填するカノンの奥の手。

 一時的に火力・防御力・速度を跳ね上げる厄介な技だ。


 「本気だな、カノン」

 「負けず嫌いな性分でね」


 俺は〝闇黒染占〟を右手に凝縮させた。


 「いいぜ。そういうのは嫌いじゃないよ」


 俺も拳を構えた。


 「……行くぜ」

 「いつでもどうぞ」


 ……風が吹き抜ける。


 「……」


 落ち葉が舞い上がる。


 「……」


 舞い上がった一枚の葉が落ち――……。




 ――ドッッッッッッッッッ……! 両者同時に飛び出した。




 「 一撃必殺ッ……! 」


 ―― 一瞬で間合いが制圧される。


 「 一点集中ッ……! 」


 ――同時に拳を振りかぶる。




  黒   龍   の   爪




  闇   夜   崩   拳




 ……そして、二人の拳と拳が真っ正面から衝突した。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 「……今日は俺の敗けだな」


 ……俺は夜空を見上げながら呟いた。


 「……」


 その俺の横に倒れるカノンが無言で俺を見つめた。


 「……何だよ、不満そうだな」

 「……タツタくん、手、抜いてなかった?」


 カノンは不満そうに唇を尖らせた。


 「んな訳ねェだろ。体力はすっからかん、魔力も雀の涙ほどしか残ってねェよ」


 勿論、嘘ではない。俺の〝闇黒染占〟は一度死にかけて強くなったが、魔力量はほとんど増えていないからだ。


 「……うん、信じるよ」


 カノンはそう言って俺と一緒に満天の星空を眺めた。


 「……」

 「……」

 「……ぐすっ……ぅ」

 「……?」


 俺は星空からカノンの方へと視線を傾けた。


 ……カノンは泣いていた。


 「……どうして、泣いているんだ?」


 俺は涙を流すカノンに不意に訊ねた。


 「……本当は死ぬほど悔しかったんだっ」

 「……」


 カノンは顔を手の平で覆い、涙を流し続けた。


 「……〝LOKI〟さんを救えなかった自分の弱さに苛立って仕方がなかったんだっ」

 「……」

 「……ずっと考えていたんだ。僕がもっと強かったらニアさんやリンちゃんやレイくん、〝LOKI〟さん、そして、僕の家族。皆を守ることができたのかなって」

 「……」


 俺は何も言わずにカノンの言葉を聞き続けた。


 「……タツタくん、僕、強くなりたいよっ」

 「……」

 「もっともっと強くなって大切な者を守れるようになりたいよっ」

 「……」


 俺はゴロリと転がり、カノンに背を向けた。


 「……絶対に……強くなるんだっ」

 「……ああ」


 俺はそれだけ小さく呟いた。

 カノンの気持ちは痛いほどにわかった。


 ……強くなりたい。


 この世界に来た日から俺はその想いを胸に秘めていた。

 カノンは泣き続けた。

 俺は唇を強く噛み締めた。



 ……俺とカノンは悔しさを胸に夜を越した。


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