第191話 『 メッセンジャー 』
「 こりゃあ、酷い有り様やなぁ 」
……ボクは目の前の光景に感嘆の声を漏らした。
「……お前、誰だよ」
たしか、タツタ君だったかな。白髪の青年が鋭い眼光をボクに向けた。
「ん、ボク?」
「お前以外に誰がいるんだよ」
「そやな、失敬失敬」
ボクは改めて挨拶をする。
「 ボクの名前は〝額〟。〝魔将十絵〟の一人、〝封世〟の〝額〟や 」
『……っ!』
ボクの発言に一同が警戒心を強めた。
「そな警戒せえへんといてな。ボクはただ言伝てに来ただけなんや」
「……用件を聞こう」
タツタ君が警戒心を弛めず、傾聴の態勢をとった。
(……へえ、隙がない。そこそこ修羅場潜り抜けとるんやな)
ボクは彼の評価を改めた。
「ほな、〝白絵〟様から伝言や」
「〝白絵〟だとっ!」
流石は〝白絵〟様。名前出しただけでこの反応だ。
「ドロシー=ローレンスと魔王軍は縁を切る。僕とドロシーとの間の契約も破棄する……以上や」
「……それは本当か」
「ボクが嘘を吐きそうに見えるかいな」
「……」
「……急に黙らんといてーな」
折角の重大発表が、何とも締まらん感じになってしまった。
「まあ、信じる信じないはそちらさんの勝手やけど、ボクはちゃんと伝えたから帰らせてもらうで」
役目を終えたボクはタツタ一行に背を向けた。
(……帰って昼寝でもしよー)
ボクは大きな欠伸を噛み殺し、魔王城へ向けて歩き出す。
「 悪い、一つ聞きたいことがある 」
――呼び止められたボクはタツタ君の方を振り返った。
「……何や、タツタ君」
「いや、一つ気になってたんだが、〝水由〟って、〝魔将十絵〟の何番目なんだ?」
「……〝水由〟、君?」
ボクはタツタ君にされた質問の答えを記憶から引き出す。
「 3番やで 」
「……」
タツタ君はボクの解答に沈黙する。
「じゃあ、お前は何番目なんだ」
「あかんで、タツタ君。質問一個だけ言うたやろ」
「……む」
「だけど、今日は気分がいいから答えてやってもええで」
ボクは基本太っ腹なんで、彼の質問に答えてやることにした。
「 10番や 」
ボクの解答にタツタ君は何とも言えないような渋い顔をした。
「悪いな、引き留めて」
「かまへん、かまへん。ボクは暇人やから」
それだけ言ってボクは鼻唄混じりに歩き出す。
「ありがとな」
「おおきに」
「だけど、その首飾り似合ってねェぞ」
タツタ君はボクの首にぶら下がる、薔薇の形を模した銀の首飾りに対して酷評した。
「知っとるよ……♪」
ボクはそれだけ言って、タツタ一行の前から姿を消した。
それからボクは暗い森を闊歩した。
「 貴方も悪い人ですわね 」
――すると一人の少女がボクに話し掛けた。
「これはこれは〝黒土〟ちゃんやないか」
〝魔将十絵〟の麗しの幼女――〝幻影〟の〝黒土〟がそこにはいた。
「デートのお誘いならいつでも構わへんでぇー」
「……まったく、貴方の軽薄さには調子を狂わされますわ」
〝黒土〟ちゃんは飽きれ気味に溜め息を吐いた。
「話は戻しますけど、〝額〟さんあの人達に嘘吐きましたね」
「人聞き悪いで、〝黒土〟ちゃん」
「あの言い方だとあの人達、勘違いしてしまいますわ」
「謙虚と言うて欲しいんやけど」
……そう、ボクは謙虚で恥ずかしがり屋なんや。
「だから、逆順に言ったんですか?」
「そやで」
……そして、悪戯好きでもあったりする。
「まったく、もう少ししっかりしてください」
「しっかりは性に合わへんねん」
「貴方は〝七つの大罪〟のローズ=レッドを落としたんですからその自覚を持ってください」
〝黒土〟ちゃんはボクの首にぶら下がる薔薇の形を模した銀の首飾りを見つめ、溜め息を溢した。
「あり、バレてはった?」
「堂々と首にぶら下げて言うことですか?」
「男は手柄を見せびらかせたがるものなんやで、〝黒土〟ちゃん」
「わたしはもっとクールな人が好みですわ」
「……」
……そりゃ、残念や。
「にしても、大変なことになったで」
「……大変なこと?」
ボクはケラケラと笑う。
「タツタ君は曲がりなりにも〝魔将十絵〟の一人、〝水由〟を倒したんや。他の〝魔将十絵〟が黙っとらんで」
「……特に〝糸氏〟さんは〝水由〟さんと仲良かったですからね」
どうやら、タツタ君の未来は修羅場不可避のようであった。
「まっ、誰がどうしようが所詮は〝白絵〟様の手のひらの上やな」
「ですわ♪」
……そう、誰も〝白絵〟様には勝てない。例え、世界中を敵に回してもあの人が勝つ。それほどまでにあの人は無敵であった。
「帰るで、〝黒土〟ちゃん」
……まあ、何にしてもボクはやりたいように遊ぶだけ。ただそれだけだった。




