第186話 『 コンタクト 』
……カノン様が倒れた。
……フレイ様も倒れた。
……ギルド様もクリス様も力尽きた。
そんな絶望的な状況下、ユウ様が颯爽と登場したのだ。
これは希望だ。T.タツタ最後の希望だ。
――1分48秒
……それが最初の〝重王弾〟の効果時間であった。
動きが遅くなっている今、〝重王弾〟の効果が切れる前にタツタさんと接触したいところであったが……。
「……ところでコイツ誰?」
「……」
……そう言えば説明していなかった。
「その怪物はタツタ様です、ユウ様!」
「えぇっ! この怪獣、タツタなの!」
ここまでの流れを知らないユウ様はかなり驚いた。
「とにかく、タツタ様の動きを封じてください!」
「OK♪ 任せ――」
――ユウ様が圧倒的な初速で飛び出した。
「 て! 」
――タツタ様がユウ様を迎え撃つ……しかし、計十二発の〝重王弾〟を受けているせいか、その動きは鈍かった。
「行くよ――捌の型」
闇
―― 一瞬にして視界が真っ黒になった。
しかし、僅か数秒後、闇は解除される。
「……あれ? ユウ様は?」
そう、あの僅か数秒の内に、ユウ様は姿を眩ましたのだ。
……では、一体どこへ?
「 〝結〟、型式――〝弓〟 」
『……ッ!』
……ユウ様はタツタ様の遥か頭上へ跳躍していた。
――弓形となった〝幻影六花〟から一本の〝幻影六花〟が放たれる。
「 〝裂〟 」
――〝矢〟は五つに分裂し、各々が両手両足・尾を貫いた。
『グルァァァァァァァァァァァッッッ……!』
タツタさんが咆哮しながら、〝矢〟を引き抜こうとする。
「 逃がさないよ――〝伸〟 」
――〝矢〟の刃が伸び、地面に深く刺さってタツタさんを逃がさない。
「そんで、だめ押し」
氷
――更に氷結して、刃と地面を固定した。
「はい、捕獲完了♪」
「……」
〝闇〟で目を眩まし、〝矢〟で手足を貫き、更に〝伸〟で地面に深く突き刺し、〝氷〟で氷結して固定する。その間、僅か二十秒であった。
……速い! ユウ様はあっという間にタツタさんを捕縛してしまった。流石は元〝KOSMOS〟の一員と言えよう。
「ドロシー姉ちゃん、後はお願い」
ユウ様はそれだけ言ってその場で尻餅をついた。
「俺、ちょっと疲れたから休むよ」
ユウ様は一人で〝裂火〟を倒し、全速力でこちらまで駆けつけたのだ、疲労困憊は当然のことと言えよう。
「ありがとうございます」
私はそれだけ言ってタツタ様の下へ駆け出した。
『……』
「……」
程なくして私とタツタ様は無言で睨み合った。
「少し、お話をしませんか?」
『――』
私は言葉に〝彼〟は動揺した。
何故なら、〝彼〟は生まれて初めて自身と言葉を交わせる人間と出会ったのだから。
「あっ、申し訳御座いません。まずは挨拶が先ですよね」
ギルド様や皆様は勘違いしているのだ。
タツタ様は我を失って暴れている訳ではなく、ただ、肉体の主導権を奪われているだけなのだ。
「 初めまして 」
……それが正しい挨拶であった。
「私はドロシー=ローレンスという者です」
……〝彼〟とは初対面であったので、私は丁寧に名乗りをあげた。
「お噂は伝承より拝見させていただいております」
……〝彼〟はタツタ様ではなかった。
この方は古きより語り継がれる伝説の龍――……。
「 空龍様 」
……そう、〝彼〟こそが伝説の八頭の龍――空龍であった。




