第180話 『 極・闇黒染占 』
「……格の違いを教えてやるだと?」
俺はタツタの言葉をおうむ返しした。
「お前、まさか自分が強者だとでも勘違いしていないか?」
「まさか? 俺は弱いよ」
俺の質問にタツタが受け流すような軽口で答える。
「俺が弱いせいで皆を泣かせたし、今も皆をボロボロに傷つけちまった」
タツタは溜め息混じりに空を見上げた。
「……まったく、嫌になっちまうな」
奴の言葉は嘘ではないだろう。少なくとも奴の背中の哀愁は自身の言葉を肯定していた。
「だがな、こんなに弱い俺だけど」
「……」
「お前には勝てる気がするんだよな」
「……」
――チリッ、両者の間に緊張感が走る。
「だって、お前、弱いだろ?」
「真面目に聞いて損したよ」
高 機 動 爆 弾 × 219
――無数の〝高機動爆弾〟がタツタを包囲した。
「まずは、この攻撃を凌いでから大口を叩いてもらおうか」
――360度、計219発の〝高機動爆弾〟がタツタに襲い掛かる。
「いや、弱いよ」
――タツタは〝黒飛那〟で三十発ほどの〝高機動爆弾〟を消し飛ばす。
だが、まだ〝高機動爆弾〟は残っている。
「だから、〝LOKI〟の力を手に入れようとしたんだろ」
タツタは高速機動で降り注ぐ〝高機動爆弾〟の雨を回避する。
「更に、今のお前は俺や皆のことを見下している。そんなんじゃ、アリンコ一匹殺せやしないぜ」
タツタは〝高機動爆弾〟の雨を高速機動で回避し、回避しきれなくなったら〝黒飛那〟で道を切り開いた。
「 お前 」
――俺は意図的に全ての〝高機動爆弾〟を爆破し、煙幕を展開した。
「 少し黙れ 」
そして、間髪容れず――再び、無数の〝高機動爆弾〟をタツタに撃ち込んだ。
これならタツタは煙幕で〝高機動爆弾〟の軌道を見切れない。
そして、俺には〝火の眼〟がある。この眼さえあれば、たとえ煙幕に隠れようが特定の熱エネルギーを感知できる。
「さて、どう凌ぐ?」
「 凌がにゃならんのはてめェの方だ、バーカ 」
黒 飛 那
――〝高機動爆弾〟を無視して、真っ直ぐに俺の方へ〝黒飛那〟が放たれた。
「――ッ」
――ドッッッッッッッッッッッッ……! 〝黒飛那〟が直撃した。
(……この威力……重いッ)
〝黒飛那〟は俺のガードを突き破り、吹っ飛ばし、木々に叩きつけた。
「――ぐっ!」
今日一番のダメージが俺を襲う。
「……だが、貴様も喰らった筈だ。ありったけの〝高機動爆弾〟をな」
俺は〝高機動爆弾〟によって舞い上がる土煙に笑った。
「ああ、効いたよ」
土煙が鎮まり、タツタが姿を見せる。
「ちょっとだけな」
「……減らず口を」
タツタの姿は傷だらけであったが、見た目に比べて当人は余裕そうであった。
「……まったく、よく回る舌だ」
コイツの傍若無人な態度には溜め息が尽きなかった。
……うんざりだ。
……本当に苛立たしい。
「頭ごと吹き飛ばして黙らせてやろう」
――最速……。
「……?」
超 ・ 高 機 動 爆 弾
――轟ッッッッッッ……! 大爆発がタツタを呑み込んだ。
「……見えなかっただろ?」
この〝超・高機動爆弾〟は雷の速さで走る爆弾だ。
「これが雷速の爆弾――〝超・高機動爆弾〟。貴様程度には見切れ――……」
「 こんなもんかよ 」
「――」
……馬鹿な。確かに直撃した筈だ。
「かわしきれなかったよ」
しかし、タツタは一切のダメージを受けていなかった。
「だから、ぶった斬った。ただそれだけだ」
「……雷速を見切るか」
「まあな、悪いがウチにも一人スピード自慢がいてな」
……カノン=スカーレットか。
「悪いが雷速ぐらいなら見慣れてるんだわ……だから、俺にお前の最速は通用しねェ」
「……」
タツタは服に着いた砂ぼこりを払い、〝SOC〟を肩に乗せる。
「そして、何度だって言ってやるよ」
タツタが笑う。
「俺はお前より強いってな……!」
「……」
……まったく。
「……」
……本当に苛つく小僧だ。
「……いいだろう。ならば証明するがいい」
――展開、〝高機動爆弾〟。
「この千を超える殺炎の嵐を掻い潜ってな……!」
× 1 2 2 1
「……なんだよ……それ」
天を覆う無数の〝高機動爆弾〟にタツタが戦慄した。
「……戦慄しろ」
……これぞ、地上を蹂躙する爆撃の嵐。
千 年 炎 舞
――千を超える〝高機動爆弾〟がタツタに襲い掛かる。
「――ッ!」
タツタは自慢の高速機動で迫り来る爆撃の嵐を回避する。
回避しても別の〝高機動爆弾〟が回り込み、退路を塞ぐ。
「当たるかよッ!」
タツタは回り込む〝高機動爆弾〟を〝黒飛那〟で凪ぎ払う。
――が、しかし。
「マジかよ……っ」
間髪容れずに次弾がタツタに襲い掛かる。
「クソッ!」
タツタは再び高速機動で逃げ回る。
「だったら、本体をぶっ飛ばすまでだ……!」
超 ・ 黒 飛 那
――特大の衝撃波が俺に放たれる。
「……軽いな」
――俺は二〇〇発程の〝高機動爆弾〟で〝超・黒飛那〟を相殺した。
「なっ……!」
そして、無理なタイミングで〝超・黒飛那〟を放ったせいか、タツタに隙ができていた。
「ほら、隙ができたぞ」
――無数の〝高機動爆弾〟の内の一発がタツタを吹っ飛ばす。
「……っ!」
それ自体大したダメージではないが、その一撃によりタツタの体勢が崩れる。
しかし、この余裕のない現状において、一瞬の隙が命取りになる。
「……嘘……だろっ」
――既にタツタは無数の〝高機動爆弾〟に包囲されていた。
「……眠れ」
―― 天を覆うほどの〝高機動爆弾〟が一挙に降り注いだ。
「紅蓮の豪雨に呑まれてな……」
――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!
……大爆発がタツタを呑み込んだ。
「……失敗した」
俺は今は亡きカラアゲタツタに呟いた。
「これでは頭蓋どころか骨すら残らないな」
爆煙と土煙が視界を奪う。
しかし、爆煙は風に流され、空気よりも重い土煙は地に降り積もる。
そして、開けた視界。
「……これは驚いた」
……カラアゲタツタは立っていた。
「……まさか、人の形を保っているとはな」
「……くっ……そが……」
しかし、その姿は満身創痍そのものであり、立っているのでさえ不思議なレベルであった。
「だが、それだけだ」
「……」
俺は追撃の〝高機動爆弾〟を展開する。
「そこが貴様の限界だ」
「……勝手に決めつけるなよ、バーカ」
タツタは地面に〝SOC〟を突き刺し、辛うじて立っていた。それなのに強気な姿勢は崩さなかった。
「……クソ、やっぱり無理だよな」
タツタは既に満身創痍だ。
「力、抑えて勝とうなんざ甘い話だったよ」
……もう、勝機は無い筈だった。
「……言葉には気をつけろ、小僧」
なのに何だこの笑みは? この、底知れぬ威圧感は?
「貴様は俺よりも弱い、それは覆らぬ真実だ」
「それはどうかな」
「ハッタリだ」
俺はタツタの言葉を一刀両断した。
「貴様の奥の手、〝超・闇黒染占〟は今一度敗れた筈だ」
「ああ、確かに〝超・闇黒染占〟でもあんたには届かねェよ」
……だがな、とタツタが笑う。
「〝闇黒染占〟には更に上の領域があるんだよ」
「貴様はその領域を達したと?」
俺の問いにタツタは首を横に振った。
「いや、まだまだ俺の手に余る代物だ」
「……」
「だから、気をつけろ」
「……?」
……何かが来る。
「たぶん、手加減はしてやれない」
……それは確信に近い直感であった。
「……〝魔将十絵〟、〝写火〟の〝水由〟も舐められたものだな」
「強気で良かったよ」
――ズァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 黒い魔力が噴き出した。
「お陰で気兼ねなくやれる……!」
タツタは〝SOC〟を地面から抜き、俺に構えた。
「 ギルドッ! 」
――タツタがギルドの方を向いた。
「今までありがとな……!」
「……タツタ……さん」
……タツタが笑った。
「カノンもフレイもドロシーもクリスも夜凪もフゥもありがとな!」
タツタが〝SOC〟を天へと突き上げた。
「皆、大好きだったよ……」
タツタの笑顔はどこか淋しげであった。
「……本当に……楽しかったっ」
タツタは再び俺の方を向き直った。
「……〝水由〟」
「どうした?」
その瞳は力強く、恐れや不安など一ミリも無い瞳であった。
「 俺はお前に勝つ……! 」
――ゾクッッッ……!
(……来る!)
……それはとてつもなく巨大な力の波。
(これが……!)
……これこそが!
極 ・ 闇 黒 染 占




