第177話 『 黒龍、発動! 』
――空上龍太が来る。
……あと、五分ぐらいで来る!
「……どうした?」
〝水由〟がわたしの表情を見ていぶかしんだ。
「急に目の色が変わったぞ」
「そうかな?」
〝水由〟の言葉にわたしはおどけてみた。
五分。それがクリスちゃんと感覚をシンクロさせて、判断した数値であった。
(……この速度とこの距離ならあと五分ぐらいで到着する)
勿論、タツタさんが来たからといって、わたし達の不利は覆らない。
それでも、わたしはタツタさんに期待していた。
(……タツタさんなら何とかしてくれるんじゃないかなってね)
だからこそ、わたし達がしなければいけないことは時間稼ぎであった。
「カノンくん、動ける?」
「……うん、身体ボロボロだけど」
カノンくんは苦痛で顔を歪めながらも、弱々しくはにかんだ。
「時間稼ぎ、頼める?」
「……時間稼ぎ?」
「そう、時間稼ぎ。五分ほど」
わたしは小声でカノンくんに耳打ちした。
「……何か策があるのかい?」
「策は無いけどーー来てるんだ」
「……何が」
「 タツタさんが 」
「――」
……それだけで、それだけで充分だった。
「わかった」
その言葉だけでカノンくんの闘志は蘇ったのだ。
「 作戦会議は終わったか? 」
――〝水由〟がわたし達の会話に割り込んだ。
「悪足掻きは無駄だと、何故わからない」
「そうだね、確かに悪足掻きかもしれない」
身体がピクリとも動かないけど、わたしは真っ直ぐに〝水由〟を見つめた。
「足掻かなければ全てが終わる、それなら足掻かない訳にいかないんじゃないかな?」
「……正論だな」
……だが、と言って〝水由〟は小さく呟いた。
「貴様らの死は覆らないぞ」
「優しくないんだ」
……残り――四分と少し。
「殺れ、〝LOKI〟」
『yes.Master』
――〝LOKI〟さんの拳が振り下ろされる。
「 装填――〝黒朧〟 」
……カノンくんが暗唱した。
――ゴッッッッッッッッッッ……! 〝LOKI〟さんの拳が大地を揺らした。
「……」
その衝撃に呼応するように無数の鳥が森から羽ばたいていった。
「……かわしたか」
〝水由〟を舞い上がる土煙から視線を逸らした。
「驚いた、まだ動けたのか」
わたしとカノンくんは生きていた。何故なら、カノンくんがわたしを抱えて、〝LOKI〟さんの拳をかわしたからだ。
「動くさ」
カノンくんの周りに黒い魔力が渦巻く。
「親友が歯を食い縛って来てるんだ、寝てる訳にはいかないよ」
……出た。これぞ、カノン=スカーレットの奥の手。
「さあ、本当の勝負はここからだ……!」
黒 龍
……残り――四分!




