第175話 『 九重の影 』
『 〝幻影九麗〟ィ……? 』
……〝炎帝の右手〟が首を捻った。
『それがキミの奥の手なのかい?』
「ご明察♪」
俺は二本の〝刃〟の柄頭を重ねた。
漆の型――……。
「 〝結〟 」
――すると、二つの〝刃〟がくっついた。
「複数の〝刃〟を結合する型、これが〝幻影九麗〟、漆の型――〝結〟だ」
『くだらないッ』
『ただノ、子供の工作ではないか』
……あいつらの感想もわからないことはない。
「だったら見せてやるだけだね」
俺は更に〝刃〟を二つ召喚し、計四本の〝刃〟で風車の形を造った。
「〝結〟の真髄って奴を……♪」
四本の〝刃〟で造られたそれは――……。
「 〝影風旋〟 」
……大きな手裏剣だった。
「行っくよー!」
俺は〝影風旋〟を〝炎帝の右手〟目掛けてぶん投げた。
『ふんッ、その程度の攻撃当たらんよ』
〝炎帝の右手〟が身を屈ませ回避する。
――同時。
俺の背後に〝炎帝の左足〟が右手を振りかぶっていた。
『後ろががら空きだネ』
「知ってる♪」
――斬ッッッ……! さっき投げた筈の〝黒風旋〟が〝炎帝の左足〟を一刀両断した。
『……さっき……投げたンじゃ』
「悪いね、〝黒風旋〟は風向きや投射角によって、弧を描いて戻るようになっているんだよ」
『だヶど、効かないよ』
「知ってる♪」
『ついでに教えるけド』
――〝炎帝の右手〟と〝炎帝の右足〟が挟み撃ちで襲い掛かる。
『キミ、今ピンチだよ』
「それも知ってる♪」
――俺は高く高く跳躍して、二人の攻撃を回避する。
「三人まとまったね♪」
俺は二本の〝刃〟の柄頭を〝結〟した。
「これは弓」
更に一本の〝刃〟を召喚する。
「これが矢」
そして、俺は弓術の構えをした。
『弦、無いヨ』
『馬鹿ヵ』
『マヌケだね』
「関係無いね♪」
――疾ッ、弦が無い筈なのに〝矢〟が発射された。
「〝幻影九麗〟はイメージの力、俺が〝弓〟・〝矢〟だと思えばその通りになる……!」
『……ナんだと!』
「それにまだ終わりじゃないよ」
肆の型――……。
「 〝裂〟 」
―― 一本の〝矢〟が一瞬にして百本になった。
「……これが全てを貫く漆黒の雨」
闇 矢 業 雨
――ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッッッッ……! 百本の〝矢〟が〝裂火〟と地面を貫いた。
「まっ、効いてないだろうけどね」
そう、〝裂火〟には俺の〝闇矢業雨〟は一切効いていなかった。
……やはり、肉体の炎化は厄介だな。
『何故、効ヵない攻撃を放った』
「ただの〝幻影九麗〟の試運転だよ」
『……試運転だとォ』
「うん、対〝水由〟用のね♪」
『嘗めるなよ、小僧がッ……!』
――三体の〝裂火〟が一斉に襲い掛かってきた。
――ザクッ、俺は地面に〝刃〟を一本突き刺した。
「じゃあ、次は――……」
――行こうか! 〝幻影九麗〟、捌の型……!
闇
――瞬間。世界が闇に包まれた。
『『『――ッ!?』』』
「これが〝幻影九麗〟、捌の型――〝闇〟」
俺は〝闇〟の外側から〝闇〟の中にいる三体に話し掛けた。
「発動範囲内全ての光を喰らう絶対暗黒空間だ」
『見えないッ!』
『何故、燃エている我々の光さえも無いのだッ!』
『貴様ァ、何処にい――
――轟ッッッッッッッッッ……! 俺は〝裂火〟に巨大な黒い炎弾を叩き込んだ。
「……これも――効かないか」
俺は遠目で舞い上がる粉塵を眺めながら呟いた。
晴れた粉塵、そこには無傷の〝裂火〟が立っていた。
(……最初から〝核〟なんて無かったのかもね)
だったら、炎属性攻略の王道で攻めてみるか。
『万策尽キた、かな?』
「どうかな?」
『素直二認めたらどうだ?』
「何を?」
――〝裂火〟二体が同時に襲い掛かる。
『貴様の敗北ヲだッ……!』
「やだね」
俺は〝結〟で弓矢を造って迎え撃つ。
――ドッッッッッッ……! 俺の心臓に風穴が空いた。
「……おま……えっ」
『後ろ、ガら空きだったよ』
……〝炎帝の右手〟の右手が俺の心臓を貫いていた。
『……終わッたな』
「そんじゃあ、最後の悪足掻き♪」
――〝俺〟は頭上に〝矢〟を放った。
――同時、〝俺〟の身体が粉々に砕け散った。
『……ッ!』
……そう、心臓を貫かれたのは〝鏡〟であった。
撃ち上げられた〝矢〟がやがて重力に従い落下する。
「 〝裂〟 」
――ドドドドドドドドドドドドドドドッッッッッッ……! 計百本の〝矢〟が〝裂火〟と地面を貫いた。
勿論、奴等にはダメージを与えられてはいない……だが、作戦通りであった。
ステップ1――〝鏡〟で三体を一ヶ所に誘導する。
ステップ2――〝闇矢業雨〟で三体を貫く。
「そして、ステップ3」
〝幻影九麗〟、玖の型――……。
「 〝氷〟 」
……………………。
…………。
……。
「 よしっ、試運転終了 」
……俺、背伸びをして、〝幻影九麗〟を解除した。
「まっ、初めてにしては巧く使えたかな」
俺の〝幻影六花〟もとい〝幻影九麗〟の基盤は俺の想像力だ。
〝刃〟や〝伸〟は西日のときの影が尖って見えたり、長くなったりするところからできた型。
〝朧〟や〝蛇〟は影が触れられなかったり、地面を這って伸びる様子が蛇に似ているからできた型。
〝裂〟は複数の角度から照射すると幾つも影が伸びることからイメージされた型。
〝鏡〟は影の形が影の主と同じであることをイメージした型。
〝結〟は影と影が重なると一つに見えることをイメージした型。
〝闇〟は影が黒いというイメージから創られた型。
そして、〝氷〟――……。
「うわあ、カチコチだねー」
俺は巨大な氷塊をコツコツ叩いて、感嘆の声を漏らした。
……そう、そこには巨大な氷塊があった。
そこには〝裂火〟の姿は無かった。ただ、巨大な氷の固まりがあるだけだった。
これが〝幻影九麗〟、玖の型――〝氷〟である。
〝氷〟は日陰が涼しいというイメージから創られた型であり、周囲一帯の熱エネルギーを奪うことができるのだ。
結果、熱エネルギーの集合体であった奴等の熱エネルギーは無数の〝矢〟に吸収され、熱エネルギーが尽きると同時に三体は消滅したのだ。
「……ふう、疲れたー」
俺はぺたんと尻餅をついた。
何とか勝ったとはいえ、正直ギリギリの戦いだった。はっきり言って、身体も魔力も限界だった。
「……ごめん、皆」
俺は樹にもたれ掛かり、小さく呟いた。
「どうやら加勢はできないみたいだ……」
俺は俯き、瞼を閉じる。
「……」
……そして、俺は深い深い眠りに着いた。




