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 第171話 『 火霊憑依 』



 ――〝風刃〟と〝高機動爆弾〟が衝突し、暴風が吹き抜けた。


 「……相殺?」


 粉塵と礫が飛び散る。


 「ギルドさん! 上だっ……!」

 「――ッ!」


 ――〝高機動爆弾〟が一つ、わたしの頭上にあった。


 (……一発だけ別の軌道で飛ばしていた?)


 考えている暇はない! わたしは後方へ跳ぶ。


 「 そこはハズレだ 」


 ……わたしが跳んだ先、そこにも一つ〝高機動爆弾〟が待機していた。


 (……動き、読まれて



 ――轟ッッッッッ……! 〝高機動爆弾〟が爆発した。



 「気をつヶて、ギルドさん」

 「……カノン、くん?」


 間一髪、カノンくんが壁になってくれて爆発からわたしを庇ってくれた。


 「あイつは爆発魔法が得意な上に経験論で相手の動きを先読みシてくるよ」

 「わかったわ……それでカノンくんは大丈夫なの」

 「心配はいらないヨ、この身体はとても丈夫なンだ」


 なら良かった。今、カノンくんを失う訳にはいかないからだ。


 「でも、イマだに彼の能力を見破れないんだよね」

 「……そうね、爆発だけではなさそうね」


 改めてわたし達は〝水由〟を観察した。


 「 彼の〝特異能力〟は熱エネルギー移動能力――〝写火〟です 」


 ――疑問の答えを出したのはドロシーちゃんであった。


 「故に、熱エネルギーを圧縮させた球を造り出すことも、それらを移動させることもできます」

 「……ドロシー、貴様」


 能力の種明かしをするドロシーちゃんを〝水由〟が低い声で咎める。


 「やはり、確実に殺しておくべきだったな」


 〝水由〟がドロシーちゃんに掌をかざした。


 「この技は周囲一帯の熱エネルギーを一ヶ所に集め、一瞬にして灼熱空間を展開する――〝灼熱レンジボックス〟」


 ドロシーちゃんはひょいと軽いステップで前に出た。


 「しかし、来るとわかっていれば僅かな違和感で回避すれば間に合わないことはありません」


 ――そして、とドロシーちゃんが笑う。


 「性格のネジ曲がった貴方は、後ろへ跳ぶことを予想して予め、背後に〝高機動爆弾〟を設置しているでしょう」


 ……ドロシーちゃんの言う通り、〝灼熱の箱〟の後ろには〝高機動爆弾〟が待機していた。もし、ドロシーちゃんが後ろへ跳べば、回避は不可能であっただろう。


 「……」

 「貴方の側でずっと戦ってきた私は貴方の戦い方を把握しています――私に貴方の〝写火〟は通用しません」

 「……」

 「貴方の思考は丸っとお見通しです!」

 「……よく喋るな」



 高 機 動 爆 弾  × 30



 ……〝水由〟の周囲に多量の熱の球が展開された。


 「ならば見切ってもかわしきれない攻撃をするまでだ」

 「そちらその気なら、私から一つ忠告させていただきます」


 ――既にカノンくんが〝水由〟の背後にいた。


 「貴方、今ピンチですよ♡」

 「――ッ!」


 ――ゴッッッッッッッッッッ……! カノンくんの拳骨が〝水由〟を吹っ飛ばした。


 「……ガード、速っ」


 そう、完全な不意打ちにも拘わらず〝水由〟はカノンくんの攻撃をガードしていた。


 「これが〝フレアアイ〟です。〝水由〟様は全身で熱エネルギーを感知することができます」

 「お喋りが過ぎるぞ、ドロシー」


 〝水由〟は再び空中に展開された〝高機動爆弾〟をドロシーちゃん目掛けて撃ち出した。



 降 り 注 ぐ 光 の 雨



 ――無数の閃光が〝高機動爆弾〟を貫き、相殺した。


 「ドロシーちゃんに手を出させないわ……!」

 「邪魔をするな、ギルド=ペトロギヌス」


 その一瞬、わたしは思考した。


 「……」


 ――よしっ、整った!


 「カノンくん!」

 「ナニ?」


 〝水由〟は間違いなく強敵だけど倒せない相手ではない。それでも、この場において〝水由〟が最強である事実は揺るがない。


 「カノンくんはわたし達に構わず接近戦で攻め続けて!」

 「わかッた」


 だから、チームワークで勝つ。


 「ドロシーちゃんは常に〝水由〟を観察して、カノンくんのフォローをして!」

 「承りました!」

 「フレイちゃんはわたしと一緒にカノンくんのサポートとドロシーちゃんの護衛をお願い!」

 「任せてください!」


 カノンくんは攻撃に徹して、ドロシーちゃんがそれをフォローする。わたしとフレイちゃんはドロシーちゃんを護衛しつつ、カノンくんのサポートをする。


 「 一つ忘れていないか? 」


 ――〝水由〟が小さく呟いた。


 「 撃て、〝LOKI〟 」


 ――〝LOKI〟さんの大きな口に膨大な熱量が集まった。


 「カノン様! 避けてください、その技はカノン様の最大防御を貫きます!」

 「――ッ!?」


 〝LOKI〟さんの攻撃を受け止めようとしたカノンくんであったが、ドロシーちゃんの指示により、回避行動を取る。



  獄   炎   大   葬



 ――轟ッッッッッッッッッッ……! 紅蓮の業火が一瞬にして森を吹き飛ばした。


 ……何て威力だ。ドロシーちゃんの指示がなければカノンくんもただではいられなかったであろう。


 「……また、ドロシーか」


 〝水由〟がドロシーちゃんを睨み付けた。


 「どうやら、俺は貴様を見くびっていたようだな」

 「お誉めにお預かり恐縮至極で御座います♡」


 憎々しく呟く〝水由〟にドロシーちゃんはスカートの端を摘まんでお辞儀をした。


 「作戦変更だな」


 〝LOKI〟さんが真上を向いた。


 「ドロシー=ローレンス」


 そして、その口に膨大な熱量が圧縮される。


 「 まずは貴様から殺してやろう 」


 ――何か来るッッッッッ……!


 「カノンくん、〝LOKI〟さんを止めて……!」

 「遅いな」



  獄   炎   大   葬



 ――灼熱の大玉が天空に撃ち出された。


 「……降り注げ」


 ――パチンッ、〝水由〟が指を鳴らした。




   ペル   セウ   




 ――パンッッッッッ……! 灼熱の大玉が破裂し、幾つもの流星群となって、地上に降り注いだ。


 その威力は凄まじく、木々を焼き払い、大地を抉り、暴風を撒き散らした。


 「……っ!」


 まずい! 範囲が大規模すぎる! これじゃあ、ドロシーちゃんを庇いきれない!

 わたしは咄嗟に〝風読み〟で安全地帯を絞り出す。


 「見つけた!」


 僅か数平方メートルの安全地帯をわたしは発見した。

 わたしはドロシーちゃんとフレイちゃんと共に安全地帯へ向けて走り出す。


 「間に合えっ」


 ……わたし達は頭上を気をつけながら全力疾走で駆け抜ける。


 ( よしっ! )


 何とか間に合っ――……


 「 読んでいたさ 」


 「駄目です! ギルド様っ……!」

 「……えっ」


 ――安全地帯には既に〝高機動爆弾〟が設置されていた。


 「読んでいたよ、貴様なら僅かに残された安全地帯を導き出すとな」


 ――ドンッ、わたしとフレイちゃんはドロシーちゃんに突き飛ばされた。


 「申し訳御座いません、どうやら私はここまでのようです」

 ドロシーちゃんは優しげに笑った。

 「お父様のこと、宜しくお願いします」

 「ドロシーちゃん!」

 「ドロシーさん!」


 ――轟ッッッッッ……! 大爆発がドロシーちゃんを吹き飛ばした。


 「ドロシーちゃんッッッ……!」


 わたしはすぐに吹っ飛ばされたドロシーちゃんの下へ駆け寄った。


 「……っ!」


 酷い怪我だった。無理もない、肉体も普通の女の子で、魔力的防御もほとんどできないドロシーちゃんが無事な筈がなかった。

 それでも、不幸中の幸いとでも言うべきか、ドロシーちゃんは息をしていたし、心臓だって動いていた。


 「……ごめんね」


 わたしは意識を失ったドロシーちゃんに語りかけた。


 「わたしが不甲斐ないばかりに傷つけちゃったね」


 わたしはドロシーちゃんの小さな掌を握り締めた。


 「約束する、必ず〝LOKI〟さんを取り戻すから……!」


 それは誓いだ。絶対に違えてはならない女と女の誓いだ。


 「フレイちゃん、わたしに力を貸してくれるかな」


 ――風霊解除。


 わたしはフゥちゃんを解除した。


 「一度、考えたことがあるの」


 わたしはドロシーちゃんを抱きかかえて、茂みの裏にゆっくりと下ろした。


 「わたしの得意魔法は火と光。そんなわたしに火霊や光霊を憑依したらどうなるんだろう、て」


 ――チリッ、空気が焼けた。


 「そして、その火霊が〝八精霊〟の一人――〝フレイチェル〟だったら?」



  火   霊   憑   依



 「 どうなるでしょう? 」


 ――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!!!


 ……わたしを中心に巨大な火柱が立ち上がった。

 やがて火は一点に凝縮される。


 「……ああ、体が熱い」


 火炎の集まるその先にはわたしがいた。


 「わたし自身が炎になったみたいね」


 わたしの背中に赤い花弁の翼が展開された。


 「……ほう」


 〝水由〟が感心するように呟いた。


 「俺にはわかるぞ、貴様の体内に規格外の熱量が渦巻いていることが」



 高 機 動 爆 弾 × 67



 「ならばこのぐらいは凌げるよな」


 ――無数の〝高機動爆弾〟が一挙に飛来する。


 「 勿論☆ 」




  灼   煌   ・   殲




 ――轟ッッッッッッッッッッッッッッッ……! 目映い閃光と熱風が吹き抜けた。


 「……3……2……1」


 ……一瞬の静寂。


 「 BANG☆ 」




 ――轟ッッッッッッッッッッ……! 全ての〝高機動爆弾〟が空中で爆発した。




 火の粉が粉雪のように降り注いだ。


 「……期待以上だ、ギルド=ペトロギヌス」


 無表情の〝水由〟が笑った気がした。


 「今更、警戒したって遅いよ」


 ――ギロリッ、わたしの冷たい眼差しが〝水由〟を貫いた。


 「わたしの大切な仲間を傷つけた分、きっちりとぶっ殺してあげる☆」

 「……あまり図に乗るなよ」


 ……わたしの冷たい眼差しと〝水由〟 の凶暴な眼差しが交差する。


 「「 殺す 」」



 ……そして、死闘は再開された。


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