第169話 『 孤軍奮闘 』
――強いね。
……それが目前に立つ男の第一印象であった。
(……さっきは相手の油断で何とか二撃当てることができたけど、これから先はそういかないだろう)
僕は〝水由〟の方を真っ直ぐに見つめた。
「……」
……一分の隙も無かった。今から何をしても反応される未来しか思い浮かばなかった。
「……仕掛けて来ないのか」
「……」
「……無視、か」
〝水由〟が右手を僕にかざした。
「ならばこちらから行かせてもらおうか」
何かが来る! そう思った瞬間――……。
――チリッ、僅かに僕の髪が焼けた。
「――ッッッッッ……!?」
僕は咄嗟に後ろへ跳んだ。
「……ほう、鋭いな」
今の攻撃、かわさなかったら危なかった。技の正体はわからないけど、僕は直感的にそう悟った。
「今の技はなんだい」
「俺は敵に種明かしするほど甘くはない」
――今度は小さな熱の球が幾つもの射出された。
「ほら、サービスだ。幾らでも観察するがいい」
熱の球が縦横無尽に飛来して、僕に襲い掛かる。
雷 華
――僕は雷速移動で全ての熱の球を回避
「 したと思ったか? 」
――ギュンッ……! 熱の球が方向転換して僕に追尾する。
「……っ!」
「それに〝高機動爆弾〟は爆弾だ」
――解ッッッ……!
「 えっ――…… 」
――熱の球が爆発し、僕はその爆発に呑み込まれた。
「直接当てる必要は――ない」
僕は吹っ飛ばされるも、空中で体勢を立て直して着地する。
――キィーンッ
(……やばっ、鼓膜片方やられたかも)
――チリッ、今度は皮膚が微かに焼ける感覚に襲われた。
「……ッ!」
――僕は後ろへ跳んで、正体不明な攻撃を回避する。
「 ハズレだ、そこはギロチン台だぞ 」
……僕が退がった先には――熱の球が既に設置されていた。
(――しまっ)
――轟ッッッッッッッッッッ……! 大爆発が僕を呑み込んだ。
「 あっ 」
――装填
「危なかったー……」
破 王 砲
後一歩発動が遅かったらやられていたか――……。
超 ・ 凝 炎 砲
――圧縮された熱の球が僕の土手っ腹に炸裂した。
「 おっ 」
――重いッッッッッ……!
僕の身体は為す術もなく吹っ飛ばされた。
「――かはっ!」
その衝撃は重く、〝破王〟の耐久力をぶち破る程の威力であった。
「言い忘れていたが、威力だったらいつでも上げられるぞ」
「……忠告、ありがとう」
「更に朗報だ」
――ブンッッッ……! 何かが空気を切る音がした。
「 お前、今ピンチだぞ 」
「――えっ」
――ゴッッッッッ……! 岩の拳が僕に叩き込まれる。
「油断するな。死ぬぞ」
「――ッッッッッ……!」
しまった! 〝LOKI〟さんのこと忘れていた!
僕の身体は幾つもの木々を薙ぎ倒し、やがて静止した。
「……っ、今のは少し効いたかも」
〝破王〟で耐久力を上げていたお陰で助かった……とはいえ、現状が絶望的なことには変わりはなかった。
「……経験値では向こうが上か」
戦場における直感・判断力に関してはまったくと言っていいほどに隙がなかった。
しかし、全てにおいて負けている訳ではない。
瞬間の火力ならば負けていないし、速さという一点に関してはこちらの方が勝っている自信があった。
「だったらそこで勝負するしかない」
雷 華
……紫電が走る。
……静電気で髪が逆立つ。
「行くよ」
「さっさと来い」
――バチッッッ……! 紫電が弾け、僕は雷速で飛び出した。
僕は大地を、木々を蹴って縦横無尽に駆け回る。
「……確かに速いな」
〝水由〟は静かに呟いた。
「これ程の速力は〝魔将十絵〟でもそうはいないだろう」
僕は〝水由〟の背中目掛けて飛び出した。
「だが――直線的過ぎるな」
――〝水由〟が跳躍する。
――〝水由〟がさっきまでいた場所には、小さな熱の球が幾つも設置されていた。
「――」
「読ませてもらったよ、攻撃の筋」
――轟ッッッッッ……! 大爆発が僕を呑み込んだ。
「殺った……とは思わない」
そう、僕は爆発を回避していた。
「〝高機動爆弾〟を回避したお前は爆煙で身を隠し――……」
――舞い上がる土煙の中から一筋の熱線が、〝水由〟目掛けて飛び出した。
「 遠距離攻撃を仕掛ける 」
――しかし、〝LOKI〟さんの岩の腕が〝破王砲〟を弾く。
「だが、それも囮に過ぎない」
……既に僕は〝水由〟の背後にいた。
「〝LOKI〟の腕を壁に、前方への退路を断ったお前は背後から奇襲を掛ける」
ぶつぶつと呟く〝水由〟を無視して、僕は右手に〝装填〟された拳を繰り出す。
「 だが、俺はその拳を受け止める 」
――パンッッッ……! しかし、〝水由〟はそれを意図も容易く受け止めた。
「 まだまだァ……! 」
破 王 拳
――ドッッッッッッッッッッ……! 僕の繰り出した拳が加速した。
「……その程度か?」
「……嘘……だろ」
僕は確かに〝破王拳〟を発動した。しかし、その拳は依然として彼の手中にあった。
「さっきは油断したが、もう貴様の拳は俺には届かない」
そう、〝水由〟は純粋な腕力で僕の〝破王拳〟を受け止めたのだ。
――ガシッッッ……! 〝水由〟が僕の拳をがっちりと掴まえた。まずいっ、逃げられない!?
「お前とは自力が違うんだよ、自力が」
――ゴッッッッッッッッッッ……! 〝水由〟の渾身の右ストレートが僕の土手っ腹に叩き込まれた。
……おっ、重いッッッッッ……!
僕は為す術もなく吹っ飛ばされた。
「諦めろ、これが〝魔将十絵〟」
地面を二転三転して、木々を薙ぎ倒し、やっと静止する。
「最強の火炎魔術師――〝写火〟の〝水由〟だ」
僕は顔を上げる。
「チェックメイトだ」
「――ッ」
……既に、周囲には無数の圧縮された熱の球が包囲されていた。
「 焼かれ、潰され、抗うことなく死ね 」
――解ッッッッッ……!
――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 灼熱と暴風が駆け抜けた。
「……忘れていたな」
燃え盛る炎を前に、〝水由〟が呟いた。
「この場所に迫っていた熱エネルギーの存在を」
そう言って、〝水由〟は後ろの方へと視線を傾けた。
「ギリギリセーフだったね、カノン兄ちゃん」
僕は生きていた。燃え盛る炎の中で焼かれている〝僕〟はダミーであった。
「足止めありがとね、カノンくん☆」
「凄いです、カノンさん!」
「本当に感謝をしてもしきれません」
四つの人影が僕の背後に立っていた。
「待ってました♪」
どうやら僕は任務達成していたようだった。
「こっからが本番だよ、〝水由〟」
そう、僕はただの足止めだ。
「 T.タツタ、全員集合だ……! 」
……ギルド=ペトロギヌス。
……〝フレイチェル〟。
……ドロシー=ローレンス。
……夜凪夕。
その四人が来たのだ。
主力の到着、それは待ちに待っていた瞬間であった。
「さあ、〝LOKI〟さんを返してもらうぞ……!」
……僕は〝火音〟を構え、不敵に笑んだ。




