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 第147話 『 狂者VS狂者 』



 ……一目でわかった。


 ――俺の額に拳骨が叩き込まれた。


 ……コイツは俺の同類だ。


 ――俺はその圧倒的なベクトルに抗うこともなく吹っ飛ばされる。


 ……コイツは獣。


 ――俺は空中で一回転して、靴の踵を削りながら着地する。


 ……他人の血を喰らい、己もまた血を流す、生粋の戦闘狂。


 ――俺は一瞬の間を空けて、飛び出す。


 ……獣? いや、違うな。


 ――俺は仕返しに回し蹴りを繰り出す。


 ……化け物、かな。



 ――ガッッッッッッ……! 彼は腕でその回し蹴りをガードした。



 「強いね、あんた」

 「お前こそな」


 両者の視線が交差する。


 ――俺は回し蹴りから間髪容れずに左の拳を叩き込む。


 「ねえ、名前教えて――よっ」

 「しつけーな、赤目っ」


 ――しかし、彼は容易くそれを受け止める。


 「〝空門〟だ! 〝空門〟!」


 ――ギュルッ、〝空門〟が受け止めた手を捻った。


 (……まずい! 手首折られる!)


 ――パンッッッ、俺は咄嗟に〝空門〟の手を弾いて、骨折を防いだ。


 〝空門〟の手を弾いた俺はそのまま後ろへ跳んで間合いを取った。


 「……〝空門〟ね、覚えたよ」

 「忘れてもいいぞ」


 ――〝空門〟は縦横無尽に駆け回る。


 「どうせ死ぬんだからよ!」




  超   ・   黒   棺




 ――計十六発の黒い波動が俺を囲うように放たれる。


 「これ、ちょっとヤバいかも」


 ……かわし切れないし、一撃一撃が重そうだった。


 「だったら♪」


 ――憤怒。



    6    0    %



 「全部、打ち落とすよ……!」


 ――俺は黒い波動を裏拳で弾いた。


 「まだまだ!」


 続いて、二発目、三発目を弾き落とす。

 三発目を弾き落としたら軽く跳躍して、四発目、五発目を回避する。


 「 廻転 」


 空中で回避できない俺は、回転蹴りで六、七、八、九発目を一蹴する。


 「からの♪」


 俺は着地と同時に、肘打ちで一つ、裏拳で一つ、裏拳の推進力を生かした回転肘打ちで一つ、計三つの黒い波動を弾いた。


 「残り四つ……!」


 ――残り四つの黒い波動は重なり合い一つの巨大な波動となった。


 「かわしてもいいけど♪」


 俺は巨大な黒い波動を真っ正面からぶん殴る。


 「敢えて受けるよ……♪」



 ――巨大な黒い波動は俺の拳に競り負け、霧散した。



 「終わり、だね」

 「お前がな……!」


 ――特大の黒い波動が俺に迫っていた。


 「それはもう飽きたよ」


 ――俺は正拳突きで特大の黒い波動を消し飛ばした。


 「 !? 」


 ……これは予想外だ。


 ――〝空門〟は特大の黒い波動を死角に使い、俺の目の前まで迫っていた。


 「 ぶっ飛べよ、宇宙の果てまでな……! 」



 ――零距離で特大の黒い波動を叩き込まれた。



 「――ッッッッッッッッ……!」


 ……これ、重ッ。


 俺は為す術もなく吹っ飛ばされ、煉瓦の建物に突っ込んだ。

 その衝撃に耐えきれず、煉瓦の建物が倒壊する。


 「イテテッ、油断した――……」


 無論、生きていた俺はすぐに立ち上がるも言葉を途中で切る。


 ――〝空門〟が俺の頭上にいて、既に刃を構えていたからだ。


 「 特別サービスだ、鱈腹喰いやがれ 」



  超  ・  黒  飛  那



 ――直撃。俺は黒い波動に呑み込まれた。


 「……60%? そんなんで俺に勝てると思ったの?」


 〝空門〟は挑発的に笑う。


 「甘いんだよ♪」

 「……」


 一方、俺は夕焼け空を見上げながら思考していた。


 「……」


 それは故郷の記憶だ。



 ……俺達〝紅牙族〟は緑豊かな広い草原で暮らしていた。


 家のほとんどは動物の皮を使った巨大なテントであり、狩りや釣りをしながら生きていた。

 同じ場所に居座り続けると周りの動物の数が減り過ぎてしまうので、定期的に拠点を変えて生活をする毎日を過ごしていた。

 何度か他国に侵略されかけたことはあったが、〝紅牙族〟は生まれつき強靭な肉体を持つ種族で、幾度となく他国からの侵略を返り討ちにしてきた。

 〝紅牙族〟は平和だった。


 ……一方、俺は退屈していた。


 平和は素晴らしいが、続きすぎれば退屈だった。

 そんな俺はふと思いついたのだ。

 ある日、部族の中でも特に腕に自信があった俺は部族の若者を集めて、ある計画を立てた。


 ――隣国のシルベア王国を潰そう。


 シルベア王国はいつも〝紅牙族〟を侵略しようとしてくる鬱陶しい連中だった。

 平和主義者であった族長は反対したが、俺は一族の若い者を集めて、計画を強行した。

 そして、ある晴れた日。俺と若い奴らはシルベア王国に乗り込んだ。


 ……結果は俺達の惨敗だった。


 シルベア王国は既に俺達ようの罠を仕掛けており、俺の仲間は俺を残して全滅した。

 命からがら敗走した俺は、ボロボロになりながらも一族の拠点に戻った。

 そして、絶望した。


 ……そこには惨殺された一族の亡骸の山があった。


 一人だけ息のあった親戚のヴィオ叔父さんが言うには、俺達がいない間に近隣にある魔法兵団が攻めてきて、全員殺されたそうだった。

 ヴィオ叔父さんは生きていたが、もう助からない傷を負っていた。

 何度も殺してくれと頼まれ、俺はそんなヴィオ叔父さんの心臓を突き刺し、殺した。

 遂に一人になった俺は一族の亡骸を前に思った。


 ……許せない。


 そう、俺は怒っていた。

 ……シルベア王国?

 ……近隣にある魔法兵団?


 ――否、それ以上に許せない者がいた。


 ……俺が馬鹿な作戦を立てなければ、一族の若い奴らがシルベア王国に殺されることはなかった。

 ……俺が若い奴らを沢山引き抜かなければ、残った奴らが魔法兵団に殺されることはなかった。


 ――そう、俺が許せないのは俺自信であった。


 その日、俺は一族の亡骸を前に吼えた。それはまるで獣の遠吠えのようであった。

 そして、俺の中の〝憤怒〟が覚醒したのもその刻であった。


 ……………………。

 …………。

 ……。





  1   0   0   %





 ――ゴッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!


 ……俺は数年振り己の限界を解放した。


 「 逝くぞ、同類バケモノ 」


 俺は真っ直ぐに〝空門〟を見つめる。


 「 これがお前が見たがっていた、全力全開 」


 ……風が吹き荒れる。

 ……大地が揺れる。



 「 俺の本当の姿だ……! 」



 ……本当の戦いが幕を開けた。


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