第145話 『 蹂躙 』
「 さあ、始めようか 」
――グレゴリウスが笑った。
「 殺し合い、を……♪ 」
――グレゴリウスが消える。
それは一瞬のこと。
「 ♪ 」
――グレゴリウスは夜凪の目の前にいた。
「――っ!」
――グレゴリウスが横蹴りを繰り出す。
――夜凪は〝幻影六花〟でガードする。
「――重っ……!」
夜凪がそう呟いた瞬間――……。
――夜凪が勢いよく吹っ飛ばされた。
「夜凪……!」
吹っ飛ばされた夜凪は民家の一つに直撃し、建物一つ倒壊させた。
「うん、軽いね♪」
グレゴリウスが微笑する。
「もっと俺を楽しませてく――……」
……そこでグレゴリウスは言葉を切った。
「 これならどうですか? 」
……八雲がグレゴリウスに斬りかかっていたからだ。
「 遅いね 」
――しかし、それよりも速く、グレゴリウスが八雲の土手っ腹をぶん殴った。
――スカッ、グレゴリウスの拳は空を切った。
(……巧い! 〝惑わす雲〟か!)
グレゴリウスが殴ったのは八雲の残像だった……ならば、本体は?
「 流雲蒼天流 」
――八雲はグレゴリウスの懐に潜り込んでいた。
「……おや?」
「遅いですよ」
神 憑 く 雲
――斬ッッッッッ……! 神速の抜刀がグレゴリウスに放たれる。
「……えっ?」
……しかし、そこにグレゴリウスの姿は無く、神速の抜刀は空を切った。
「 うん、速いね 」
否、グレゴリウスは消えたのではなく、高く跳躍して、〝神憑く雲〟を回避したのだ。
――ギュルッ、グレゴリウスが空中で身を翻して、回し蹴りを繰り出す。
……一方、八雲は全力の抜刀を放った反動で、身体が硬直していた。
「 でも、俺の方が速いよ♪ 」
――ゴッッッッッ……! グレゴリウスの回し蹴りが八雲の側頭部に直撃した。
「ッッッッッッ……!」
――八雲の身体は宙へ投げ出され、そのまま民家を突き破った。
「八雲……!」
俺が叫ぶも、八雲から返事は返ってこない。
「……あれ? こんなもんか」
グレゴリウスは拍子抜けと言わんばかりに首を傾げた。
「 魔力 」
――解放。
――轟ッッッッッ……! 崩れた民家の瓦礫から黒い火柱が立った。
「誰がこんなもんか、だって?」
……夜凪だ。夜凪が闇の魔力と火の魔力を解放したのだ。
「……魔力、上がったね」
グレゴリウスが不敵に笑む。
「行くよ」
「いつでもどうぞ」
――夜凪が真っ正面から飛び出した。
――グレゴリウスも真っ正面から拳で迎え撃つ。
「遅いよ」
夜凪はグレゴリウスの拳を見切り、回避する。
「ならこれならどうだい?」
――ギュルッ! グレゴリウスは拳を突き出した勢いそのまま回し蹴りを繰り出した。
夜凪は腕を出してガードする。
「それ、さっき止められなかったよね?」
――ガッッッッッ……! グレゴリウスの回し蹴りと夜凪のガードが交差した。
「……あれ?」
「憤怒の兄ちゃん、悪いけど」
……しかし、夜凪は身動ぎ一つしなかった。
「 今の俺、さっきの五倍強いんだよね 」
――ゴッッッッッ……! 夜凪の右ストレートがグレゴリウスの頬に叩き込まれた。
グレゴリウスは十数メートルと吹っ飛ばされるも、空中で姿勢を直して着地した。
「……へえ、意外にやるじゃん♪」
グレゴリウスは口元から滴る吐血を腕で拭い、不敵に笑んだ。
「今の結構、効いたなぁ」
トンットンッ、グレゴリウスは小さく跳ねる。
「じゃあ、今度は――……」
憤 怒
「 こっちの番♪ 」
2 0 %
――グレゴリウスが十数メートルあった距離を一瞬で制圧した。
「――!?」
「かわせよ♪」
――グレゴリウスが拳を振りかぶる。
――夜凪が後方へ跳ぶ。
――ゴッッッッッッッッッッ……! グレゴリウスの拳が地面に叩き込まれ、巨大なクレーターができた。
「……化け物かい」
「誉め言葉として受け取っておこうか――……」
――パシッ、宙に浮いた小石をグレゴリウスが掴み取った。
「 な 」
――グレゴリウスが小石を夜凪の顔面目掛けて投げた。
「――ッ!」
空中で回避できなかった夜凪は咄嗟に首を傾いで、小石を回避した。
――ゴッッッッッ……! 夜凪の背後に立つ民家が小石との衝突と同時に瓦解した。
「――!?」
……ただの投石がなんて威力なんだ。
夜凪とグレゴリウスが同時に着地した。
「やるね」
「憤怒の兄ちゃんこそ」
夜凪が〝幻影六花〟を構える。
「だったら、これならどうかな!」
暗 黒 大 炎 弾
――特大の黒い炎弾がグレゴリウス目掛けて撃ち出された。
「そんな大味な技、当たらないよ」
「当てないよ」
――〝暗黒大炎弾〟はグレゴリウスの手前に落ちた。
「目隠し、かな?」
「正解♪」
――夜凪は既にグレゴリウスの背後を取っていた。
「でも、それを読み切れない俺じゃないんだよん♪」
――ドッッッッッ……! 夜凪が何かするよりも速く、グレゴリウスの肘鉄が夜凪の鳩尾にめり込んでいた。
「 知ってる♪ 」
――ニヤリッ、〝夜凪〟が笑った。
次 の 瞬 間 。
――肘鉄を喰らった〝夜凪〟が粉々に砕け散った。
「……およ?」
「ゲームオーバーだよ、憤怒の兄ちゃん」
――本物の夜凪はグレゴリウスの目の前にいた。
……そう、今肘鉄を喰らった夜凪は〝鏡〟で造った分身だったのだ。
「 零式 」
「 憤怒 」
夜凪がグレゴリウスが何かするよりも速く、〝幻影六花〟を振り下ろした。
黒 羽
――凝縮された、巨大な黒炎がグレゴリウスを呑み込んだ。
「やった……!」
直撃だ。しかも、当てたのは夜凪の必殺技――〝黒羽〟、これはもらったか!
「 30% 」
――〝黒羽〟が粉々に砕け散った。
「――」
「うん、やるね」
降り注ぐ黒い火の粉の中、グレゴリウスは平然と立っていた。
「個人で30%以上出させたのはあんたで五人目だ、誇ってもいいよ」
「……」
……強い!
俺を圧倒していた八雲を圧倒していた夜凪。その夜凪を手玉に取るグレゴリウス。
レベルが違う! コイツ、〝むかで〟クラスの化け物だ!
「……まだだ」
夜凪だ。夜凪はまだ諦めてはいなかった。
「まだ負けてない……!」
「いいね♪」
夜凪が〝幻影六花〟を構え、一方、グレゴリウスは不敵に笑う。
――ジャリッ、何者かが地面を踏み締める音が聴こえた。
「……いけない、ちょっと寝てしまっていたようですね」
……八雲だ。八雲が瓦礫から身を起こし立ち上がったのだ。
「僕も交ぜてもらってもいいですか」
「うんうん、大歓迎だよ」
八雲の参戦をグレゴリウスが笑顔で受け入れた。
「獲物は多いに越したことはないしね」
「余裕だね」
余裕綽々なグレゴリウスに夜凪が噛みつく。
「その余裕無くしてやるよ」
「いいよ、できるならね」
「ならばお言葉に甘えて♪」
……夜凪・グレゴリウス・八雲が睨み合う。
「……」
「……」
「……」
……一瞬の静寂。
……微風が砂埃を巻き上げる。
……ジャリッ、三名が地面を踏み締めた。
「「「 殺す……! 」」」
――ドッッッッッ……! 三名、同時に飛び出した。




