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 第141話 『 姉妹喧嘩 』



 「 アーク……! 」


 「 お姉ちゃん!? 」


 ……顔を合わせるなり、わたしとアークはすっとんきょうな声を漏らした。


 「……」

 「……」


 ……そして、しばらくの間、見つめ合い沈黙する。



 ――ダッ……! アークがわたしの手を振りほどいて、逃げ出した。



 「……っ!」


 わたしは一瞬立ち止まるも、すぐにアークの背中を追った。


 「待って、アーク!」


 「 来ないでっ……! 」


 アークが怒鳴り、わたしは思わず追う足を止める。


 「今更、ノコノコあたしの前に現れてどういうつもりなの!」

 「……」


 アークの悲痛な叫びにわたしの胸は締め付けられるように痛かった。


 「あたしを見捨てたくせに! 化け物になったあたしから逃げたくせに!」


 ……耐えろ! わたしはアークの言葉を受け止めないといけないんだ!


 「今更姉を気取るな! あの日、あの時! あんたがあたしを見捨てたときに、もう決別したんだから!」


 ……全部自分が蒔いた種なんだ。だから、わたしは逃げずに受け止めないといけないのだ。


 「さっさとどっかに消えて! あんたの顔なんて見たくもない!」


 「 嫌だ 」


 叫ぶアークの拒絶をわたしは即座に否定した。


 「わたしはアークと一緒にいたい。アークと一緒に暮らしたい」

 「……うるさい」

 「一緒にご飯を食べたいし、一緒にお風呂にも入りたい」

 「黙れっ」

 「また、姉妹に戻りたいよ」


 「 黙れ……! 」


 ――アークが吼えた。


 「見捨てたくせに! 裏切ったくせに! 今更、姉妹なんて戻れる訳ないでしょ!」


 「 戻れる 」


 「何で! 何でそんなこと言い切れるのよ!」


 アークの激昂にもわたしは勉めて平常心を装った。



 「 だって、わたしはアークが大好きだから 」



 「……」

 「この気持ちがあれば、また戻れるよ」

 「……」


 アークが俯き、沈黙した。


 「だから、一緒に帰ろ」

 「……」


 ――ギロリッ、アークが冷たい眼差しがわたしの瞳を真っ直ぐに見つめた。


 「……ふざけるな」


 ……それが、アークの答えだった。


 「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな」


 ……アークがまるで呪いの言葉のようにブツブツと呟いた。


 「アーク?」

 「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな」


 ……駄目だ、わたしの声が届いていない。


 「 ふざけるなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ……! 」


 ――アークの背中から醜く巨大な片翼が飛び出した。


 「――」


 わたしは目の前の光景に言葉を失った。


 「あたしを連れて帰る? いいよ、やればいいよ」


 アークが虚ろな眼でわたしを睨み付けた。


 「 た   し 」

     だ


 アークが笑った。


 「あたしに、片膝一つでも着けさせることができたらね」


 「……」


 ……とんでもない魔力と威圧感だった。

 それは当然だ。アークは魔王軍No.2なのだ、弱い筈がない。

 とはいえ、アークが自分の口で戻ってもいいと言ったのだ、この機会を逃す由はないだろう。


 「いいよ、やろう」


 わたしはアークの提案に乗った。


 「わたしもあれからずっと遊んでいた訳じゃないんだから……!」


 ――わたしは魔力を解放した。


 「決着つけましょ、わたしとアークのこれまでの全てを……!」


 「後悔するよ」


 「いいよ、もう後悔には慣れたから」


 ――わたしは〝太陽の杖〟をアークに向けた。


 「だから、今日こそ過ちを清算する……!」


 「やってみろ……!」



 ……そして、何年振りかの姉妹喧嘩が始まった。


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