第139話 『 タツタVS八雲 』
――キンッッッッッ……! 鋼と鋼がぶつかり合う音が響き渡った。
「 へえ、これも凌ぎますか 」
……八雲が意外そうに笑った。
「おかしいなぁ、あのときの実力から半年間だったらこのぐらいで十分なんだけどなー」
八雲が一人ぶつぶつと呟いた。
「……」
何というかマイペースな奴だな。
「おい、八雲とか言ったな」
――斬撃が走る。
「はい、僕が八雲です」
俺はその斬撃を弾く。
「お前の目的は何だ、それにお前がそこまで熱心になる〝空門〟についても詳しく聞きたい、ねっ」
俺も反撃する。
「いいですよ、別に隠すことでもありませんし」
八雲は俺の攻撃を受け流す。
「僕の目的は貴方の人格を殺して、〝空門〟さんの人格を取り戻すこと」
八雲がカウンターで斬りかかる。
「そして、〝空門〟さんは僕の命の恩人にして、名付け親です」
俺も身を翻して、斬りかかる。
「だから、貴方は死んでください」
――キンッッッッッッ……! 二つの斬撃が交差した。
「やだね!」
――俺は八雲の斬撃を弾いて、距離を取った。
「俺にはやらなきゃいけないことがまだ沢山残っているんでね」
……まだ、ギルドとの約束も果たしてないし、まだまだ異世界冒険ライフを楽しみたいんだ。
「こんなところで死ぬ訳にはいかんのよ」
……だから、負けられない。
「……わかりました」
「……っ!」
……八雲のプレッシャーが更に跳ね上がった。
「 なら、50パーセントで行きます 」
――八雲の姿が消えた。
「 ―― 」
――斬ッッッ……! 俺の肩が引き裂かれた。
「 〝瞬駆〟 」
……はっ、
「 一瞬で相手の間合いを詰める高速歩行術です 」
――速い……!
「……でも、流石です。50パーセントとはいえ、咄嗟に身体を引いてダメージを軽減したんですから」
――タンッッッ……! また、消えた。
(純粋な速さならカノンの〝雷華〟の方が速い。だけど、この〝瞬駆〟は速さ+小回りによって一気に視界から消えやがる!)
――斬撃が走る。
――俺は〝闇黒染占〟を皮膚や目・耳に集中させる。
――キンッッッッッッ……! 今度は受け止められた。
「へえ、やりますね」
――タンッッッ……! また消える。
「なら、これならどうです」
流 雲 蒼 天 流
――八雲は俺の背後にいて、既に刃を振りかぶっていた。
「単調だな!」
俺はカウンターで斬りかかる。
惑 わ す 雲
――スカッ、俺の刃は空を切った。
「――残像!」
「 正解です 」
――八雲は俺の背後にいた。
「ですが、少し遅いですね」
――斬ッッッッッ……! 今度は背中を斬られた。
「――ッ!」
咄嗟に身を翻して、ダメージを軽減したが、完全には回避できなかった。
「……これで、50パーセントか」
……まったく、ふざけた話だぜ。
「どうやら、俺も出し惜しみしていられないようだな」
超 ・ 闇 黒 染 占
……黒いオーラが全身から噴き出した。
「へえ、まだ強くなりますか」
しかし、八雲は至って飄々としていた。
……その余裕、無くさせてやるよ。
「 今度はこっちから行かせてもらうぜ……! 」
――ドッッッ……! 俺は圧倒的な初速で飛び出した。
更に建物も足場に使って縦横無尽に駆け回る。
「 喰らえ! 」
――俺は計十六方向からほぼ同時に〝黒飛那〟を八雲目掛けて放った。
黒 棺
「 これはかわせないや 」
……しかし、八雲は至って冷静であった。
「 流雲蒼天流 」
――八雲が〝黒飛那〟を受け流した。
流 れ る 雲
―― 一つ、二つ、三つと受け流す。
「馬鹿な……!」
確かに一つ一つの〝黒飛那〟には一コンマ程の誤差がある。それでも一コンマ。
だが、八雲の目はその一コンマの誤差を見逃さなかった。
――ビシッ……! 十四発目の〝黒飛那〟が僅かに肩を掠めた。
……しかし、それだけである。八雲は残り二発の〝黒飛那〟を受け流し、悠然と立っていた。
「うーん、やっぱり一発喰らっちゃいましたね」
「……」
……マジかよ、これで50パーセントかよ。
「でも、中々いい技でしたよ」
八雲の視線が鋭くなる。
「なので、敬意をもって御返しさせていただきます」
瞬 駆
――八雲が消えた。
(――見える!)
一瞬、姿を見失ったが〝超・闇黒染占〟で強化された動体視力は高速で動く八雲を捉えていた。
(これなら戦える……!)
――八雲が斬りかかる。
――俺もカウンター斬りかか――らず寸止めする。
……すぅ、八雲の残像が消えた。
反対方向から斬撃が走る。
俺は踵返して、斬りかかる。
――キィンッッッッッッ……! 二つの斬撃が交差した。
「へえ、〝惑わす雲〟も見切りますか」
技が一つ破られたというのに八雲が嬉しそうに笑った。
「なら、これならどうで、すっ!」
――八雲が一直線に突進する。
「――ッ」
俺は迫る八雲を迎え撃つ。
空 龍 心 剣 流 突 進 術
――俺も真っ正面から飛び出した。
八 叉 連 斬
――計八つの連撃を八雲に繰り出す。
流 れ る 雲
「――ッ!」
――八つの連撃全てがいなされた。
「 からの 」
八雲が斬りかかる。
俺は咄嗟に〝SOC〟でガードした。
「 無駄です 」
乱 れ る 雲
――八雲が手首をスナップさせて斬撃の軌道を、まるで蛇のように屈折させた。
「――ッ!」
斬撃が喉元を狙う。
俺は咄嗟に首を捻って斬撃を回避する。
(これ以上この距離はヤバい……!)
黒 飛 那
――俺は〝黒飛那〟を地面に叩き込み、その爆風で距離を取った。
「……」
「……」
俺も八雲もすぐに構え直して、睨み合う。
「あっ、いけないいけない。危うく殺すとこだった」
八雲がおどけるように頭を掻いた。
(……こっちは危うく死にかけたよ!)
そんな八雲に俺は心中でツッコミを入れた。
(……とはいえ、実力は確実に向こうの方が上だな)
俺は満身創痍だが、奴は〝黒飛那〟一発を僅かに掠めただけ……これが俺と八雲の実力の差だった。
「……」
「やだなあ、そんな恐い顔しないでくださいよ」
奴は油断していた。なのに隙は全然なかった。
「あれ、来ないんですか? 僕はいつでも構いませんよ」
八雲は刃を降ろして、俺の攻撃を待った。
「余裕だな」
「いけませんか?」
俺の問いに八雲は笑った。
「正直、さっきの〝八叉連斬〟もですが、〝空門〟さんの実力の半分も出せていませんでしたよ」
「……」
「そんな人に本気なんて出したら、ほら、すぐ死んじゃうじゃないですか」
……何てこった。どうやら、俺は八雲に生かされていたようだ。
「……気に入らねェな」
「それはどうもすみません」
苛つく俺にも八雲は悠然に笑みを浮かべていた。
「その余裕、無くしてやるよ」
「どうぞ、やってみてください」
「……」
「……」
――〝特異能力〟
解 放
――途端に視界が真っ暗になった。
極 黒 の 侵 略 者
「 アーンド! 」
夜 王 の 眼
――一瞬にして、視界が甦った。
「 さて、反撃の時間だ! 」
「 へえ♪ 」
……後半戦、ここから巻き返す!




