第138話 『 再会。 』
「 きゃーっ! フレイちゃん、可愛いーーー! 」
……新作の服を着るフレイちゃんを前にわたしは興奮気味に叫んだ。
ちなみに、今、フレイちゃんが着ているのは夏の新作、妖精をモチーフにしたワンピースであった。
「……そっ、そうですか。えへへー」
フレイちゃんが恥ずかしそうに頬に手を当て、はにかんだ。もう、可愛いすぎるんだけど!
最初は二人で試着したりしていたものの、気づけばフレイちゃんの着せ替え祭になっていた。まっ、可愛いからいいんだけど!
「そういえば皆さんはどちらへ行かれたんでしょうか?」
フレイちゃんがキョロキョロと周りを見渡す。そこにはドロシーさんやクリスちゃんの姿は見当たらなかった。
「二人は髪飾りのお店に行ってたよ、有名ブランドの最新作が出ているとか何とかで」
「はえー、髪飾りも見に行きたいかも」
「そうだね、じゃっ行こっか」
「じゃあ、着替えるからちょっと待っててください」
「うん、ゆっくりでいいよ」
そう言って、フレイちゃんは試着室のカーテンを閉じた。この店は他の店と違って試着サービスがある、そこはわたし的には好評価であった。
「ふーふふふーん♪ ふーふふふーん♪」
わたしは鼻唄を奏でながら、フレイちゃんが着替え終わるのを待った。
……並立する石造りの家々。
……流れ行く人混み。
……高い石の煙突からゆらゆら上がる煙。
……広場で駆け回る子供達。
……青い空と白い雲。
……流れ行く人混みに声を掛ける肉屋の店主。
……白い鳩が屋根に留まっていた。
(……平和だなー)
パールの街並みを見てわたしはそんなことを思った。
そういえば、この二ヶ月の間、しばらく休んでいなかったな、とも思った。
〝灰色狼〟と闘って、吹雪を踏破して、野生の狼と闘って、〝四泉〟と闘って、そして〝むかで〟にフレイちゃんを奪われて、それからノスタル大陸と暗黒大陸とイーストピア大陸を横断して、〝むかで〟からフレイちゃんを取り返したのだ。
……うん、ハードスケジュールだ。
ここ最近まで忙しかったというのもあったけど、やけに時間がゆっくりと流れていた。
……ハードスケジュールと言えば、この半年間、タツタさんと出会ってからの半年間は自分の人生の中でも特に濃密なものであった。
この半年間、楽しいこともあったし辛いこともあった。だけど、一つ言えることはタツタさんと出会えて良かったということだ。
タツタさんと出会うまで、わたしはずっと一人だったのだ。だけど、今は違う。
フレイちゃんやカノンくん、ドロシーさんやクリスちゃん、ユウくんやフゥちゃん。こんなに素敵な仲間ができたのだ。
わたしは今、幸せである。
とても幸せである。
だけど、心配なことも一つあった。
――アークのことだ。
わたしは今、幸せだ。だけど、幸せ過ぎていつかアークのことを忘れてしまうのではないのだろうか。
……それは凄く悲しいことである。
だから、わたしは常に心を強くもとうと意識している。
アークはわたしの妹で、わたしはアークのお姉ちゃんなんだ。
お姉ちゃんはしっかりしないといけないんだ。
……穏やかな時間。
……世話しなく行き違う人々。
……わたしはぼんやりと人混みを眺めていた。
――そのときだ。
「 ―― 」
……それは刹那の出来事だ。
行き交う人々の中にいたのだ。
……誰が?
――気づいたらわたしは駆け出していた。
わたしは人混みを掻き分けながら前進する。
「すみません」「通ります」「急いでいるんです」、わたしは行き交う人々に頭を下げながらただ一心にその人を追った。
「 待って 」
……やっと追いついた。
わたしはその人の手を引いて、その歩みを止めた。
……知っている。そう、わたしはその温もりを知っていた。
「……お姉……ちゃん?」
――少女が振り向き、驚きの声を溢した。
……そうだ。
……わたしはその少女の姉だ。
……そして、少女はわたしの妹だ。
「 アーク……! 」
……そう、
……アークウィザード=ペトロギヌスがそこにいたのだ。




