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 第136話 『 パールの都 』



 ――パールの都。


 ……イーストピア大陸西部にある、比較的文明の進んだ都市である。

 宝石や服といった装飾品が有名であり、その質の高さは他大陸からわざわざ人が集まる程のものであるとか。

 しかし、一方で魔族に対する差別があるなど、固定観念に縛られている風習もあったりするらしい。


 「……という訳で、今日はここで一泊しようか」


 フレイを無事奪還した俺たちはひとまず休息をしようと、パールの都の小さな宿の前にいた。


 「話に聞けば、魔導師とかはお断りらしいからな、ギルドはちゃんとローブで服を隠しとけよ」

 「りょーかいです☆」


 ギルドは既にローブに身を包み、放浪者スタイルになっていた。


 「取り敢えずまだ昼間だし、夕方までのんびり都巡りでもしようぜ」

 「確か、パールの都は装飾品とかで有名だし、ファッションの最先端とか言われてるんだよね」

 『……っ!』


 カノンの一言に女性陣が色めき立った。


 「散☆」

 「わたくし、少々晩餐の買い出しに言って参ります」

 「可愛い服ー!」

 「……えっと………行ってきますっ」


 そして、一瞬にして解散した……てか、晩餐の買い出しって、今日は宿で飯食うんだが。


 「……僕達はどうしようか?」

 「別に服とかどうでもいいしなー」


 残された男共は女性陣とは正反対に実にクールなものであった。


 「そうだなー、俺はちょっと散歩してくるわ。もしかしたら、何か掘り出し物とか見つかるかもしれないし」


 別にお金が無い訳ではないのに、何故か俺の装備はいまだに〝見習い冒険者の鎧セット〟であった……面倒臭かっただけだが。


 「じゃっ、俺はちょっと出店で甘いもの食べてくるよ」

 「いいけど、夕飯が食べられなくなるからおやつは300円までなー」

 「子供扱いすんなし!」


 夜凪は子供っぽくあっかんべーして東の方へ走っていった。


 「……子供じゃん。で、カノンはどうするんだ?」


 小さくなる夜凪の背中を見送った俺は、今度はカノンの方を向いた。


 「そうだねー、僕は都の入り口付近に占い屋があったからちょっと行ってみようかな」

 「あー、あったな」


 ……確か、都の入り口付近。肉屋の隣に建ってたな。


 「それじゃあ、別行動だな」

 「うん、夜までには帰るよ」


 そう言ってカノンは西の方へ歩いて行った。


 「……俺も行くか」


 俺は独り言を溢して、南の方へ歩いた。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 「 うーん、微妙だったなー 」


 ……武器屋を一通り回った俺は独り言を呟いた。

 確かに装備品の質は良かったんだが、全体的に割高で結局何も買わなかったのであった。

 まっ、しばらくは今のままでいいかな。破れてたりしたところもドロシーが縫って直してくれるし。

 ドロシーは自分のことを役立たずと言っていたが、俺達はドロシーに沢山助けられていた。

 料理も裁縫もマッサージもやってもらってるし、知識も豊富で、目的地までの道程やその土地の風習にも詳しいのだ。

 何より、この前のフレイ奪還作戦は、ドロシー無しには成功しなかった。そんな仲間を誰が役立たずなんて呼ぶものか。


 「もう少し自分に自身を持ってほしいんだけどなー」


 俺はやや雲の掛かった青空を見上げ、独りでに呟いた。


 「……」


 疲れたし、宿に戻って寝てようか――……。



 「 あっ、見つけましたよ――空上龍太さん 」



 ――名前を呼ばれた。


 「 ―― 」


 俺は後ろを振り向いた。


 「お久し振りです、空上さん。いやあ、捜しましたよ、半年振りぐらいですかね」


 ……俺はそいつを知っていた。

 それは半年前、〝FG〟を撃破し、フレイを仲間にした後のことだ。

 俺達は買い物をしたり、甘いものを食ったりしていたんだ。

 その日の夕暮れ――俺はそいつと出会ったんだ。


 「では、改めて挨拶させていただきます」


 そいつは女みたいな綺麗な顔立ちで、まるで舞い落ちるこの葉のように飄々としていた。あと、この世界では珍しく和装をしていた。


 「 僕は流浪集団――〝空龍〟。斬り込み隊長 」


 ……そいつの名は?



 「 八雲です 」



挿絵(By みてみん)


 ……以後お見知り置きを、と八雲が小さくお辞儀した。


 ――だが


 次 の 瞬 間 。


 ――八雲は俺の目の前にいた。


 「 空上さん。僕はあなたを殺しに来ました♪ 」


 「 ―― 」


 ――斬撃が俺の目の前まで迫っていた。


 ――俺は〝SOC〟を振り抜いた。

 






 ――キイィィィィィィィンッッッ……! 二つの斬撃が交差した。


 「あれ? 思ったよりも反応速いや」

 「何すんだよ、てめェ……!」


 俺と八雲は交差した二本の刃越しに睨み合う。


 「あのー、僕、お願い事があって来たんですよ」


 八雲はニコニコと笑いながら、〝お願い事〟を話した。


 「使っていただきませんか――〝極・闇黒染占〟」


 ……〝極・闇黒染占〟? 初めて聞いたな。


 「ハッ、お前馬鹿だろ。どこの世界に斬りかかりながらお願いする奴がいるか、よっ」


 俺は〝SOC〟で八雲の刃を弾いて、距離を取った。


 「そうですね」


 ――ゾクッ、八雲のプレッシャーに心臓が跳ねた。


 「では、訂正します」


 八雲が刃を構える。よく見るとそれは日本刀であった。


 「 死んでください 」


 「 断る 」






 ――キイィィィィィィィンッッッ……!


 ……二つの斬撃が交差した。


 「 なら力づくで♪ 」


 「 上等だ、コラ……! 」



 ……そして、死闘が始まった。


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