第135話 『 魔女の我儘 』
――魔王城のある一室。
「 困りますよ、黒魔女様! 」
……あたしの申し出にMs.ムーンが制止した。
あたしの名前はアークウィザード=ペトロギヌス。魔王軍で二番目の地位にいる黒魔女である。
そんなあたしは現在、御付きのMs.ムーンと口論になっていた。
「何でよ、あたしだってオシャレぐらいしたいのにー」
「それでもパールの都は駄目何ですよ。あそこは何年か前に〝白絵〟様が暴れて、都を半壊させてしまったので魔族に対する風当たりが強いんですよ」
「何で、〝白絵〟様は暴れたのよ!」
「ワタシが知る訳ないじゃないですか!」
流石のMs.ムーンも声を荒あげた。なんせ、このやり取りをかれこれ一時間は続けているのだからだ。
「だって、パールの街はオシャレの最前線よ! 噂では新作のドレスが販売しているとか! そのデザインがすっごく可愛いとか!」
「でーすーかーらー、文句なら〝白絵〟様に言ってくださいよ!」
「言える訳ないでしょー!」
「 パールの都は魔族差別があったからね 」
――あたしとMs.ムーンの口喧嘩を仲裁したのは〝白絵〟様だった。
「……僕が暴れる前からパールの都には、魔導師・魔人・魔物・亜人に対する差別意識が強かったんだ」
「……それで、〝白絵〟様が鉄槌を下したと?」
「別に、僕がただ気に食わなかっただけさ」
……僕は人間が嫌いなんだ、と〝白絵〟様は呟いた。
「行ってくるといいよ、アーク」
――〝白絵〟様が外出の許可を出した。
「たまには息抜きも大事だし、それに自ら名乗らなければ魔族だなんてバレはしないさ」
「やったー!」
あたしは年甲斐も無く万歳をした。
「では、ワタシも御同行しましょう」
「いや、アーク一人で行った方がいいだろうね」
一緒に行こうとしたMs.ムーンを〝白絵〟様が制止した。
「君の顔は外ではよく目立つ、だから、今回はアークでいいだろう」
「しかしっ!」
「君もアークの実力は知っているだろう? なあに、君が心配するようなことは起きないさ」
「……」
〝白絵〟様に嗜められ、Ms.ムーンは沈黙した。
「ただし、アークも都じゃ魔術を使わないこと――それが条件だよ」
「承知しました!」
……パールの都で買い物できるのであらば何でもよかった。
「まっ、気を付けてね」
それだけ言って〝白絵〟様は部屋から出ていってしまった。
「ふーふふふーん♪」
ついつい鼻唄を溢してしまう。
「おっ買い物ー♪ おっ買い物ー♪」
あたしは久し振りのお買い物が楽しみで仕方なかった。
そう、あたしは浮かれていた……予想外な人物と会うことになるとも知らずに。




