第130話 『 決着! 勝利の刻! 』
――〝神月〟
……〝超・黒飛那〟を刃に圧縮し、そのまま放たず、斬撃に乗せて斬る紛れもない俺の必殺技だ。
――だから、斬れる!
……〝百足王〟だって、
……どんな敵だって、
「 斬るんだよ……! 」
――斬ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!
……〝百足王〟は一刀両断された。
「……どうだ、〝むかで〟」
「……」
俺は覚束ない足取りながらも〝むかで〟に挑発する。
「……斬ったぜ、お前の全力」
「……」
……やべ、立ってられねェ。
「……だから……フレイのことは諦めな」
「……」
倒れそうになった俺をギルドが肩を貸して支えてくれた。
「……何度奪われたって取り返すし、何度だって歯向かってやる」
「……」
〝むかで〟はただ無言で俺達を見つめる。
「 俺の大切な仲間は絶対に渡さねェ……! 」
「 見事だ 」
「 ―― 」
――〝むかで〟が静かに笑んだ……気がした。
「だが、ここで引き下がるのは俺の沽券を汚すことになるのでな」
〝むかで〟は右手を俺達に突き出した。
「〝フレイチェル〟は俺が貰う」
……〝むかで〟はまだ諦めてはいなかった。
「さあ、戦いを続けるぞ」
「 いや、戦いは終わりだよ 」
――俺は不敵に笑んだ。
「 タツタ様、お待たせしました 」
――茂みから一人の少女が俺達の前に現れた。
「おう、待ってたぜ――ドロシー」
……そう、ドロシーだ。ドロシーが偉くボロボロななりで登場した。
「……貴様は?」
「T.タツタ、最後の一人――ドロシー=ローレンスです」
ドロシーが品良くお辞儀をした。
「悪いな、〝むかで〟」
――ピシッ……。
「 俺達の勝ちだ……! 」
――パリイィィィィィンッ……! 〝むかで〟の後ろにいた〝精霊王〟が粉々に砕け散った。
「 ―― 」
「……気づかなかっただろ ――それ〝鏡〟だったんだぜ」
「貴様ァ……!」
〝むかで〟のポーカーフェイスが崩れた。
「楪を何処にやった……!」
……そう、今まで〝むかで〟の背後にいた〝精霊王〟は〝からす〟の〝幻影六花〟、肆の型――〝鏡〟だったんだ。
「自分で捜せよ、てめェの〝魔眼〟でな」
「……殺すぞ」
「それはできないよ」
殺気立つ〝むかで〟の前にカノンが立つ。
「僕の第六の銃――〝呪龍〟は対象の心臓に呪いの弾丸を撃ち込む、その弾丸は通常時は無害だけど僕が念じればその弾丸は心臓を破壊する」
「――」
「さっき、僕は逃げたんじゃない。僕は〝精霊王〟の隠し場所まで行ってこの〝呪龍〟を撃ち込んだんだ」
「……」
――勿論、嘘である。
……カノンにそんな能力は無い。何故なら、カノンの第六の銃はまだ使いこなせていないので、カノンの実家の地下室に隠しているからだ。
だから、これは〝むかで〟を騙すための嘘なのだ。
「……」
〝むかで〟は完全に真に受けてはいない。しかし、〝むかで〟にカノンの嘘を見破る手段は無かった。
「僕らに手を出せば〝精霊王〟を殺すよ」
「……」
〝むかで〟は無言で殺気を立たせていた。
「それに〝精霊王〟の魔術無効化能力には頼れないよ。彼女は睡眠薬で少なくとも半日は目を覚まさないからね」
「……」
反論される前にカノンが先手を打って〝むかで〟を黙らせた。
「……」
「……」
俺と〝むかで〟が睨み合う。
「……俺の敗け、だな」
……〝むかで〟がそう呟いた。
「まさか、この俺が楪と〝鏡〟が入れ替わっていたことに気がつかなかったとはな」
――ギロリッ……! 〝むかで〟の鋭い視線がドロシーを貫いた。
「なるほどな。この風と暗闇、そして敢えて俺と面識の無い微小な魔力保有者を暗躍させることによって、俺の五感と〝魔眼〟を欺くとはな」
……〝むかで〟は今回の作戦の全てを理解していた。
俺やカノン・ギルドがオーバーペース気味に縦横無尽跳び回りながら攻撃していたのは、〝むかで〟と面識が無く、魔力の少ないドロシーを隠蔽するための意識誘導であったのだ。
更に、カノンが途中で抜けることにより、〝呪龍〟のブラフを完成させたのだ。
その後の回避優先はドロシーとカノンが戻ってくるまでの時間稼ぎだったのだ。
ちなみに、〝からす〟が〝むかで〟を裏切らなかった場合は、ドロシーが〝精霊王〟を拐い、人質にするというもっと強引な策ではあったが、〝からす〟と〝むかで〟の一戦から〝鏡〟の存在を知り、それを作戦に組み込んだのだ。
この一連の流れこそが『オペレーション‐ファイア』なのだ。
「さあ、何処へでも勝手に行くがいい」
「追う気は無いのか?」
「当然だ。楪の安全が第一だからな」
〝むかで〟はそれだけ言って俺達に背を向けた。
「 空上龍太 」
――〝むかで〟が呟く。
「 貴様は殺す 」
……それは宣戦布告。
「 この俺の手でな 」
そんな〝むかで〟に俺は――……。
「 受けて立つよ、〝強欲〟 」
……〝SOC〟の切っ先を向けて、〝むかで〟の宣戦布告を受け取った。
「……」
〝むかで〟は無言で姿を消した。恐らく、〝精霊王〟を捜しに行ったのだろう。
「……俺達も行くぞ」
さっさとこの場を離れなければならなかった。何故なら、〝むかで〟が〝精霊王〟を発見し、安全を確保すれば、この交渉は破綻してしまうからだ。
「はい」
「そうだね」
ギルドが気を失ったクリス(〝凍幻郷〟の反動で)を、カノンが〝からす〟を背負った。
そして、俺達は闇夜を速足で駆ける。
「……タツタさん」
ギルドが俺を呼んだ。
「どうした?」
先導する俺はその後ろに続くギルドの方を振り返った。
――ぷにっ、振り返った俺の頬をギルドの小さな指がつついた。
「――」
「……お仕置きです☆」
ギルドに叱られた。それはまるで子供を叱る母親のようであった。
「あんな自分を捨てるようなこと、もうしないでくださいね」
「……」
……どうやら、〝百足王〟に一人で立ち向かおうとしたことを咎められているようであった。
「わたし、本当に心配したんですから」
「……その、ごめん」
叱られているのに俺は何だか嬉しくて涙が出そうになった。
嬉しかったのだ、誰かに心配してもらえることが。
「 でも 」
――ギルドが朗らかに笑んだ。
「 今日はよく頑張りました。お疲れ様です 」
……そんな笑顔を向けられた俺は単純にも。
「――おう」
――頑張ってよかった。
……とか、思ったりしたのであった。




