第126話 『 憑依抜刀! 氷龍装填・蒼天斬華!! 』
「 久し振りだな、〝むかで〟 」
……俺は〝むかで〟を真っ直ぐに見据えて、不敵に笑んだ。
「……空上龍太、か」
「覚えていてくれたのか、光栄だぜ」
〝むかで〟は以前と変わらない冷たくて暗い目で俺を見定めた。
「……この三週間、遊んでいた訳では無いようだな」
「……どうかな? 買いかぶりじゃないのか」
「……」
「……」
「 ならば試してみるか 」
――〝むかで〟が消えた。
――〝闇黒染占〟を皮膚に集中させる。
――30!
――10ッ!
――1ッッッ!
――キイィィィィィィィィィイインッ……! 〝SOC〟とナイフが交差した!
「 見えてるぜ、〝むかで〟 」
「どうやら、まぐれでも無いようだな」
「余裕だな、〝むかで〟」
――俺は後ろに一回だけ跳んだ。
「その余裕なくしてやるよ」
俺は〝闇黒染占〟を脚に集中させ――地面を強く踏んだ。
「……なるほど」
――次の瞬間、俺は〝むかで〟の背後にいた。
「……少しは速くなったようだな」
「まだまだ速くなるぜ」
――俺は更に加速する。
――前後左右、縦横無尽に駆け回る。
……もっと!
……もっと速くなれ!
――加速に加速を重ねた俺は幾つもの残像をつくりだす。
「 必殺! 」
俺は高速移動をしながら〝SOC〟を構える。
……喰らえ、〝むかで〟! これが俺の新技!
俺は〝SOC〟を薙いで〝黒飛那〟を放った。
……計十六ヶ方向からほぼ同時に。
〝むかで〟の前後左右・上・斜め上から〝黒飛那〟が〝むかで〟に迫る。
これが俺の新技だ。
超高速移動で縦横無尽に駆け回り、相手の全方位から〝黒飛那〟をタイムラグ無しで放つ。すると〝黒飛那〟は〝隙間なく襲い掛かる――相手を閉じ込めるように。
「――うむ、これは」
……〝むかで〟は計十六発の〝黒飛那〟を目の前にしても冷静だった。
「……かわしきれないな」
黒 棺
――計十六発の〝黒飛那〟が〝むかで〟に炸裂した。
……極黒の衝撃波が爆ぜる。
……その衝撃波は地を抉り、粉塵を撒き散らす。
「どうだ!」
正直、〝黒飛那〟十六連発は身体に堪えるが、それを考慮しても〝黒棺〟の威力は凄まじかった。
「……それじゃあ、駄目だよ」
後ろに立っていた〝からす〟が諦めの色を含めた声を漏らした。
「その程度の攻撃じゃ〝むかで〟には通らない」
「……だよ、な」
俺は渋い顔をして、〝むかで〟の方へと視線を走らせた。
「 軽いな 」
……晴れた粉塵の隙間から黒くて巨大な〝ムカデ〟が渦巻いているのが見える。
「……何だ、あれ」
「あれは〝むかで〟の絶対防御――〝とぐろ〟だよ」
俺の疑問に〝からす〟が答えた。
「……絶対防御?」
「うん、俺は今まで〝むかで〟と一緒にいてきたけど、〝とぐろ〟が破られるところは見たことが無い」
……確かに、俺の渾身の〝黒棺〟を受けていながらひび一つ入ってはいなかった。
やっぱり強いな、〝むかで〟。勝てる気がしないぜ。
そもそも、最初にでっかい〝ムカデ〟を真っ二つにできたのも、〝からす〟の渾身の一撃で威力がほとんど落ちていたからできたのだ。
だから、今の俺が逆さになったって〝むかで〟の全力には遠く及ばないのだ。
「だが、威力・速度ともに三週間前とは較べるべくもない」
「そりゃ、どーも」
……正直、誉められても嬉しくない。なんせ、渾身の一撃を軽くいなされてしまったからな。
「だが、足りぬ」
蜘 蛛
計八本の〝ムカデ〟が〝むかで〟の背中から生えてくる。
「 〝空門〟を出せ 」
……〝むかで〟が催促する。
「貴様の本気を見せてみろ」
「断る」
しかし、俺はそれを拒否した。
「お前を倒すのに〝空門〟は使わねェ、これは俺たちの勝負だ」
「それは残念だ」
〝蜘蛛〟が頭を持ち上げ、俺を睨む。
「 ならば死ね 」
――〝蜘蛛〟が一挙に押し寄せた。
「嫌だね」
――俺は高速移動で迫り来る八本の〝ムカデ〟を回避する。
「それでかわしきったつもりか?」
――〝蜘蛛〟が更に変則的に動き、そして加速する。
「――ッ!」
――チッ、八本の内の一本が俺の頬を掠めた。
(速い! これはかわきれねェ!)
――〝蜘蛛〟が絶え間なく襲い掛かる。
俺は〝SOC〟で弾いたり、回避するので手一杯だった。
「どうした? さっきまでの威勢が無いぞ」
「……」
「もう、返す言葉も出てこないのか?」
「 遅ェよバーカ 」
……それは空を切り、
……全てを焼き尽くす灼熱の一撃。
破 王 砲
――灼熱の弾丸が〝むかで〟に襲い掛かった。
「これは、銃使いの小僧の――……」
――轟ッッッッッ……! 灼熱が〝むかで〟を呑み込んだ。
「大遅刻だ――カノン」
「お待たせ、タツタくん」
カノンが俺の横に着地した。
「状況は?」
「全員配置まで完了、後は暴れるだけだよ」
「 小細工は無駄だ 」
――舞い上がる土煙の中から〝むかで〟の声が聴こえた。
「圧倒的な力は如何なる小細工をも踏み潰す」
当然のように〝むかで〟は無傷だった。
「今からな」
「 残念ですが、あなたのターンは回って来ませんよ☆ 」
絶 空 十 字 閃
――交差した二つの真空の刃が〝むかで〟の頭上に迫っていた。
「――貴様はっ」
「 ギルドちゃんでーす☆ 」
――超炸裂! 〝絶空十字閃〟が〝むかで〟に直撃した。
「あなたを殺しに来たわ」
……ギロリッ、ギルドが〝むかで〟を冷たい目線で睨み付けた。
ギルドが着地する、その隣にはクリスもいた。
ギルドが俺の横に歩み寄る。
「思っていたよりも早かったな」
「はい、全力疾走で駆けつけました☆」
……まあ、何にしてもだ。
「 全員集合だな 」
「はい☆」
「だね♪」
「……うん」
俺達は〝むかで〟の方へと視線を集めた。
「……まったく、次から次へと現れるな」
……〝むかで〟はやはり無傷であった。
「片付けの時間だ」
「上等だ!」
――俺は〝SOC〟を地面に突き刺し、叫ぶ。
「 憑依! 」
「 抜刀! 」
……冷気が吹き抜けた。
……周囲の気温は急激に下がり、僅かな霜ができる。
……その中心には俺が立っていた。
「……それが、貴様の新しい力か」
「そうだ」
……〝SOC〟は巨大な氷の刃となり、
……俺の背には氷の花弁の翼が生え、
……俺の右腕は氷の豪腕となっていた。
「 これが俺の新しい力 」
氷 龍 装 填
蒼 天 斬 華
「 霜焼けするぜ 」
……さあ、第二ラウンドの始まりだ。




