第124話 『 電光石火の戦い 』
……フレイの頬から一粒の汗が滴り落ちる。
――キイィィィィィンッ……! 〝むかで〟のナイフと俺の〝幻影六花〟が交差した。
「――」
「――」
更に間髪容れずに〝むかで〟はもう片方の手で握ったナイフを繰り出す。
しかし、俺は〝裂〟で〝幻影六花〟を分裂させ、受け止める。
パッ、〝むかで〟がナイフを手離した。
――同時、〝むかで〟が視界から消える。
俺は咄嗟に跳躍する。
間髪容れず、俺が今さっきいた場所に〝むかで〟の下段蹴りが通り抜けた。
体勢が崩れた〝むかで〟に〝幻影六花〟を薙ぐ。
しかし、〝むかで〟は刀身の横を裏拳で弾いて、軌道を逸らす。
俺はもう一本の〝幻影六花〟を振り抜く。
〝むかで〟は袖の裏に隠していた暗剣を手に振り抜く。
――キイィィィィィンッ……! 二つの刃が交差した。
……同時、フレイの頬から滴り落ちた一粒の汗が地面に落ちた。
俺と〝むかで〟は互いに後方へ跳んで距離を取る。
「……少し、腕を上げたな」
「〝むかで〟こそ、昔から速かったのに更に速くなってるよ」
……正直、ギリギリだった。集中力を切らせばすぐにやられるだろう。
「でも、少し嘗めすぎなんじゃない」
「……」
「〝蟲龍〟を使わずに俺に勝つつもり?」
「死にたいのか?」
「やってみれば?」
「……」
「……」
――雷速の〝ムカデ〟が俺の目の前まで迫っていた。
「――」
――俺は〝幻影六花〟で〝雷〟を弾いた。
「 俺に〝蟲龍〟は通じないよ 」
弾かれた〝雷〟が大回りして、俺の背中を狙う。
「 どれだけ、〝蟲龍〟を見てきたと思う 」
――しかし、俺の動体視力は迫り来る〝雷〟を捉えていた。
「 どれだけ、〝むかで〟の背中を見ていたと思う 」
――俺は〝幻影六花〟で〝雷〟を弾いた。
「……むっ」
そして、〝雷〟が弾かれた方向は〝むかで〟、だ!
だが、〝むかで〟は身を屈ませて、〝雷〟を回避する。
そ の 背 後 に 。
――俺がいて、〝幻影六花〟を薙いだ。
「 ―― 」
「 ―― 」
――僅かに、僅かに〝幻影六花〟が〝むかで〟の頬を掠めた。
「――ッ!」
俺と〝むかで〟は各々反対方向へ跳んで距離を取った。
「……」
「……」
――つぅ……、〝むかで〟の頬に鮮血が滴り落ちた。
「……悪いけど、俺に〝蟲龍〟は通じない」
「……」
「 今日こそ勝たせてもらうよ、〝むかで〟 」
――〝蟲龍〟、壱式。
「……図に乗るなよ、小鳥風情が」
蜘 蛛
……〝むかで〟の背中から計八本の〝ムカデ〟が生えた。
「捻り潰してくれよう……!」
――〝むかで〟が俺に向かって飛び出した。
(……〝蟲龍〟、壱式――〝蜘蛛〟)
……〝むかで〟が操る〝ムカデ〟の中で威力・速度・手数が最もバランスの取れた〝ムカデ〟である。
「 暴れろ 」
〝むかで〟がそう命じた瞬間、〝蜘蛛〟が――縦横無尽に暴れた。
もう、滅茶苦茶だった。〝蜘蛛〟は木々を薙ぎ倒し、地面を抉る。
俺は辛うじて破壊の嵐を回避する。
(……でも、避けるだけじゃ勝てないよね)
俺は後ろに跳んで距離を取る。
「これならどうだい?」
俺は地面に〝幻影六花〟を突き刺した。
「 〝幻影六花〟、陸の型 」
蛇
――黒い刃が地を這い、〝むかで〟に襲い掛かった。
〝蛇〟は地を這う刃、防御の死角である下を貫く。
「 ならば下を叩くまでだ 」
――ドンッッッ……! 八本の内の一本が地面を叩きつけ、地割れを起こし、〝蛇〟を遮った。
「 まだまだだね♪ 」
……俺の〝蛇〟はまだ死んでいなかった。
――〝蛇〟は八本の内の一本を伝い、その延長戦にいる〝むかで〟に襲い掛かった。
そう、〝蛇〟は地面だけじゃなくてあらゆる物を伝うことができるのだ。
「……解除」
――すぅ、〝蜘蛛〟が消えた。
しかし、〝蛇〟は消えない。そのまま〝むかで〟に直進した。
「 地から離れた蛇はただの餌なのだよ 」
――〝むかで〟は素手で〝幻影六花〟を弾いた。
……また、刃を素手で弾いた!
確かに、〝むかで〟程の身体能力と動体視力があれば不可能じゃないけど、刃を素手で受けるなんて軽い覚悟や度胸でできることじゃない。やっぱり、〝むかで〟は怪物だ。
圧倒的な力。
冷静な分析力。
そして、死をも恐れぬ胆力。
これが〝強欲〟、これが〝KOSMOS〟のリーダー!
「……でも、負けてない」
そう、俺は〝雷〟だけじゃなくて〝蜘蛛〟も凌いだのだ。
〝蟲龍〟の型は七つで全てだ。あと五つ攻略すれば俺の勝ちだ。
「 油断したな 」
「――えっ?」
――目の前に神速の〝ムカデ〟が迫っていた。
「 さっ 」
――さっきよりも速い!
俺は反射神経を総動員させ、首を捻って〝雷〟を回避する。
――ズバッッッッッ……! 〝雷〟が俺の耳元を通り抜けた。
「 言ってなかったか? 」
――ぐらぁ、脳が揺れた。
「 俺の〝雷〟の最高速度は――光速だ 」
――ブシュッッッ……! 耳から鮮血が飛び散った。
「……光速だって」
……ふざけるなよ、まるで見えなかったぞ。
「……ははっ」
……何が〝雷〟と〝蜘蛛〟は攻略したって?
……何が残り五つを攻略すれば勝てるって?
俺は馬鹿だ。全然〝むかで〟の実力をわかっていなかったじゃないか。
「……どうした、さっきまでの威勢が無いぞ」
「……」
静かに煽る〝むかで〟に俺は反す言葉も思い浮かばなかった。
「……ユウさん」
……フレイが俺を心配そうに見つめていた。
「――」
……そうだよな。
「 魔力 」
……兄貴が妹にこんな顔させちゃいけないよな。
「 解放 」
……兄貴は妹にとって一番格好よくないといけないよな。
――轟ッッッッッッッッッッ……! 漆黒の炎が俺の周りを渦巻いた。
「 まだまだ、ここからが本番だよ……! 」
「 いや、終幕としよう。貴様の敗北でな 」
千 獄
――千の〝ムカデ〟が天を覆い隠し、その先端は全て俺に向いていた。
「 行くよ 」
「 さっさと来い 」
――〝千獄〟が一挙に襲い掛かる。
――俺は黒炎を纏い飛び出した。




