第123話 『 〝からす〟VS〝むかで〟 』
「 何をしている 」
――目の前に現れた絶望に心臓が跳ねた。
「……〝むかで〟っ」
そう、〝むかで〟が〝精霊王〟を引き連れ、俺とフレイの前に姿を見せたのだ。
「……そんな、寝ていたんじゃなかったの?」
「悪いな、俺の身体は少し敏感肌でな。微かな魔素の流れにも反応してしまうのだよ」
「〝魔眼〟……!」
……〝魔眼〟、それは魔素の流れを目や肌で知覚する高等技術だ。一部の優れた魔導師にしか扱えないそれを、魔導師ではない〝むかで〟は意図も容易く扱っていたのだ。
――化け物
……そうとしか言い表せなかった。
「それより質問の答えを出せ、〝からす〟」
――ビクッ、圧倒的なプレッシャーに俺の肩が跳ねた。
「貴様は今、何をしている」
「――ッ」
――駄目だ。
……勝てない。
……〝むかで〟は別格だ。
……死ぬ。
……俺は死ぬ。
〝 む か で 〟 に 殺 さ れ て 死 ぬ 。
「……」
「さあ、答えろ、〝からす〟」
「……」
「貴様は今、何をしようとした」
――ドクンッ
……ヤバい、心臓が暴れてる。
――ドクンッ
……脳味噌が、身体が、〝むかで〟に逆らうなと叫んでいる。
――ドクンッ
……逃げないと。
――ドクンッ
……逃げないと、死ぬ!
―― 一瞬、逃げ出そうとした俺の瞳に一瞬だけフレイの姿が映った。
『 皆に会いだいよ 』
――フレイが泣いていたんだ。
……今日まで一回も涙を見せなかったフレイが泣いていたんだ。
……生きたいと、皆に会いたいと泣いていたんだ。
「 ごめん、〝むかで〟 」
……俺はフレイの兄貴なんだ。
「俺、フレイを死なせたくないんだ。だから、フレイを連れて逃げ出そうとしたんだ」
……妹を見捨てる兄貴なんてどこにいるってんだ。
「俺、〝KOSMOS〟を辞めるよ」
……〝むかで〟と決別するのは心が張り裂けそうなほどに辛かった。
「今までありがとう、〝むかで〟には沢山感謝しているんだ」
……でも、一生会えない訳じゃない。だから、今の俺はフレイを選ぶ、そうするべきだと思ったからだ。
「……我が儘に育ったな、〝からす〟」
「育てたのは〝むかで〟だよ」
「……そうだな」
〝むかで〟の顔は眉一つ動かない、いつも通りの鉄仮面であった。
「ならば、貴様はもう用済みだ。どこへでも行くがいい」
「……うん、そうする」
「 だが 」
――〝むかで〟の姿が消えた。
――俺は〝幻影六花〟を発動する。
――ガキイィィィィィンッ、〝むかで〟の振り下ろしたナイフと刃と化した〝幻影六花〟が交差した。
「 〝フレイチェル〟は置いていけ 」
「 嫌だね♪ 」
……譲れない意地。
……交差する刃。
……そして、初めての兄弟喧嘩が始まる。




