第122話 『 オペレーション‐ファイア 』
――俺とギルドは夜の闇を駆け抜ける。
今日は風が強い、その証拠に俺達の周りに生い茂る草木は風に煽られ、激しく傾いでいた。
ちなみに風向きは俺達の進行方向と反対方向である。
だからこそ、今日乗り込むのだ。
ギルドが、アジトやその周辺を歩いている〝精霊王〟と感覚をリンクさせていたお陰で、奴らのアジトの見取り図は大体把握できていた。
そして、その見取り図から〝むかで〟の位置とフレイの位置を導きだし、更に、ギルドの〝風読み〟によりこの日の風向きを予測し、最善の前進経路を導きだしたのだ。
……まず、黒いローブと夜襲。これにより視覚を誤魔化す。
次に風向きにより嗅覚を誤魔化す。
更に風と草木がなびく音によって聴覚を誤魔化す。
最後にニア直伝の〝絶法〟によって気配を隠蔽したのだ。
……〝むかで〟は強い。
だけど、フレイは助けたい。だから、フレイを奪い返して逃げる――それが、俺の考えた作戦であった。
そう、無理に戦う必要は無いんだ。
俺達の目的はフレイを救出することであって〝むかで〟を倒すことじゃない。
だからこれでいい。
……だが、一つ懸案事項もあった。
それは――〝からす〟だ。
フレイの見張り役を任せられている少年で、〝KOSMOS〟の一員だ。
この二週間、ギルドはフレイを介して〝からす〟とフレイのやり取りを見聞きしていた。
そして、わかったことは一つ。〝からす〟は〝KOSMOS〟の一員だが、フレイを殺すことには否定的だということだ。
はっきり言って〝からす〟がどう転ぶか俺にも予想がつかない。
これから俺達は〝むかで〟に気づかれないようにフレイと接触する。
そのとき、俺達の壁となるのは〝からす〟だ。
〝からす〟も〝むかで〟程ではないにしろ、間違いなく俺達より格上だ。だから、なるべく戦いは避けたい。
それに、〝からす〟と戦いながら眠っている〝むかで〟を起こさないというのは至難の技であろう。
故に、〝からす〟と和解するか、〝からす〟が眠るなり隙を見せ、その隙を突いてフレイを奪還するしかなかった。
「 タツタさん 」
――ギルドが俺を呼んだ。
……ちなみに、カノンとドロシーは別行動であり、ここには俺とギルドしかいなかった。
「……どうした?」
俺は足を止めて、ギルドの方を振り返った。
「……逃げました」
「……えっ?」
……どういうこと?
「 〝からす〟がフレイちゃんと一緒にアジトを脱出しました 」
「……っ!」
――状況が一変した。
……確かに〝からす〟はフレイに対して気を許し、フレイも〝からす〟に気を許していた。
しかし、〝からす〟は〝むかで〟に逆らえないと俺は思っていた。
だが、結果はどうだ。
〝からす〟は〝むかで〟を裏切り、フレイを逃がしたのだ。
「……あっ」
――ギルドが声を漏らした。
「……どうかしたか?」
「……最悪です」
ギルドの頬に一筋の冷や汗が滴り落ちる。
……それがことの重大さを物語っていた。
「 〝むかで〟です 」
「――」
……最悪だ。
「 〝むかで〟が二人と接触しました 」
……状況は二転三転し、最早、予測なんてできる筈がなかった。




