第115話 『 閻水 』
「……〝閻水〟?」
「そう、これが〝水〟に続く僕のもう一つの魔力だ」
〝しゃち〟は黒い水の刃を構えた。
「……〝闇〟の魔術、スか」
……聞いたことがあった。
確か〝闇〟の魔術は大量の魔力を消費し、体力を著しく消耗する代わりに、通常の5~6倍の火力を引き出すんだっけ?
だとすれば勝負はわからなくなった。
これで火力は向こうが上、とはいえ持久戦に持ち込めば、〝しゃち〟はすぐにガス欠になるだろう。
それに彼はオイラの〝悪戯な風〟の性質を見破っている。
つまりそれは、これから怒濤の攻撃が始まるということである。
「逆に言えばそれを凌ぎきればオイラの勝ちッス」
「 60秒 」
「……ん?」
〝しゃち〟のプレッシャーが上がった。
「 60秒で仕留めるよ♪ 」
――斬ッッッッッッ……! 横一閃、斬撃がオイラの土手っ腹を横切った。
「……あ」
危 な か っ た !
……オイラは水の斬激が当たる直前に〝悪戯な風〟を発動した。しかし、後一歩遅ければ――オイラの胴体は真っ二つに引き裂かれていた。
威力だけじゃない、スピードも5~6倍なんだ!
「 呆けているところ悪いけど、あと55秒しか無いんだ 」
――更に間髪容れずに伸縮自在の黒い水の斬撃が迫る。
――オイラは咄嗟に風の防御壁を展開する。
「 今更、そんな技が通用すると思った? 」
――黒い水の刃は意図も容易く風の防御壁を貫通した。
「 甘いんだよ 」
「――くっ!」
悪 戯 な 風
――オイラは〝悪戯な風〟を発動して、水の刃を回避する。
……駄目だ! 〝悪戯な風〟を解除する隙が無い!
――48.79
「 畳み掛けるよ 」
――地面に巨大な魔方陣が展開される。
「――くっ!」
「逃がさないよ」
黒 龍 陣 ・
魔 狂 水 衝
――黒い濁流がオイラを呑み込んだ。
「――っ! いきなり飛ばし過ぎッスよ!」
――しかし、オイラは〝悪戯な風〟を継続したまま、〝黒龍陣・魔狂水衝〟から逃れた。
――43.11
「 まだだよ 」
……しかし、〝しゃち〟はオイラを逃がしてはくれなかった。
「 まだ、僕の攻撃は終わりじゃないよ 」
――オイラの目の前に〝しゃち〟がいた。
黒 爆 水
――黒い濁流がオイラを呑み込んだ。
「 作戦変更ッス! 」
オイラは〝悪戯な風〟を継続したまま黒い濁流の中で、ピストルの構えをした。
〝しゃち〟からはどうやったって逃げられない。
だから、逃げるのはやめる!
真っ正面から打ち勝てばいい……!
「 今度はこっちの番ッスよ! 」
圧 空 銃
――圧縮された空気の弾丸が〝しゃち〟に直撃した。
「いつもより威力は割増ッスよ」
……これで少しの時間は稼げるだろう。
オイラは〝悪戯な風〟を解除し
――黒い水の刃がオイラの身体を切り裂いた。
「 今のが割増? 」
……何てことは無い。
「 物足りないねェ……♪ 」
……〝しゃち〟は無傷だった。
「……無傷、ッスか」
何てことだ、どうやら今の彼は、肉体の強度も5~6倍のようである。
「さあ、まだ何かあるんだろう?」
〝しゃち〟は更なる戦いを催促してくる。
「……」
オイラは沈黙する。
――21.33
「ほら、早くしないと自爆しちゃうよ」
「 解除 」
――オイラは〝悪戯な風〟を解除した。
「……何をしているんだい?」
「〝悪戯な風〟を解いたッス」
「そんなことしたら君、死んじゃうよ」
「……どうッスかね」
――ドッッッッッッッッッッ……! オイラはいっきに魔力を練り上げた。
「このまま逃げを続けるとオイラは自滅するッス」
オイラの頭上には巨大な魔方陣が展開される。
「そんな格好悪い負け方真っ平ごめんッス」
――風神召喚。
「悪いッスけど、今から君には個人的な都合で奥の手を出させてもらうッス」
風 神
――そこには巨大で美しい女神がいた。
「……それが君の奥の手かい?」
「そう、これこそがオイラの最大魔法――〝風神〟ッス」
「面白いね」
〝しゃち〟が笑った。
「力比べといこうじゃないか……!」
――〝しゃち〟の足下に巨大な魔方陣が展開される。
「 出でよ 」
鯱 王 ・ シ ャ ル カ ラ
――〝しゃち〟は巨大な鯱を召喚した。
「さて、こっちの準備は整ったよ」
「オイラもッス」
――オイラと〝しゃち〟の視線が交差する。
「……」
「……」
……静寂。
……しかし、それもただの一瞬。
……終わる、静寂が終わる。
そ し て 。
――激動が始まる。
「 呑み尽くせ 」
「 凪ぎ払え 」
闇 涙
神 風
――〝鯱王・シャルカラ〟の巨大な顎から圧縮された巨大な玉状の〝閻水〟が撃ち出された。
――〝風神〟の口から極限まで圧縮された空気の砲弾が撃ち出された。
――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!
……二つの破壊の奔流が周囲を巻き込み、呑み込んだ。




