第113話 『 水と風 』
……水飛沫が舞う。
……暴風が吹き荒れる。
―― 一瞬のまばたき。
(……あれ?)
……クルツェを見失った。
「へえ」
背後から微かな殺意を感じ取る。
――斬ッッッッッッ……! 風の斬撃が空気を切り裂く。
同時。僕は身を屈ませて、斬撃を回避する。
「速いね♪」
「これを見切るッスか」
僕は右手に魔力を込める。
「今度はこっちの」
水 閃
――カウンターで僕は水の刃をクルツェに繰り出す。
「 番♪ 」
「速いッスね」
――水の刃がクルツェの喉元へと走る。
「――でも、当たらないッスよ♪」
……これは驚いた。
「 これが僕の〝特異能力〟 」
――〝水閃〟はクルツェを貫いた。しかし、クルツェは一切のダメージを負っていなかった。
「 〝悪戯な風〟 」
「……!?」
「ほら」
――クルツェの右手は既に僕の心臓を捉えていた。
(……しまった!)
「 隙だらけッスよ 」
圧 空 銃
――風の弾丸が〝僕〟の心臓に炸裂した。
「……むっ?」
しかし、〝僕〟の形は崩れ、ただの水に変わる。
「水分身……凄い完成度ッスね。オイラでも見切れなかったッスよ」
「……そりゃどうも」
……正直、こっちも危なかった。なんせ、水分身と入れ替わったのは僅か数秒前、あと一歩遅ければ僕の心臓に風穴が空いていた。
「ふふっ、楽しいねェ♪」
僕は思わず笑ってしまう。
「これだからこの趣味はやめられないんだよなァ」
「迷惑な話ッスね」
……だが、楽しんでばかりではいられない。
(……彼の〝特異能力〟――〝悪戯な風〟を見破らないとね)
……確かに僕の〝水閃〟は彼を貫いた。しかし、〝水閃〟はどういうことか彼の身体をすり抜けていった。
(……光の屈折か)
似たようなことなら陽炎や蜃気楼といった類いの方法がある。
それでも僕の勘ではもっと別な何かな気がする。
「なら、これならどうかな」
……大量の水が宙を漂い、クルツェを囲う。
千 年 水 槍
――千の水の槍がクルツェ目掛けて降り注ぐ。
「見極めさせてもらうよ、君の〝特異能力〟」
「期待されているところ悪いッスけど」
――クルツェが半歩下がった。
「この程度の攻撃じゃあ使うまでも無いッスよ」
風 読 み
――ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッ……!
千の水の槍が炸裂した。しかし、クルツェは意図も容易く全ての水の槍を回避した。
「……オイラに見切れない攻撃は無いッスよ」
「 うん、知ってる♪ 」
――〝千年水槍〟が炸裂した僅か一秒後、僕はクルツェの目の前にいた。
「……!?」
――クルツェは咄嗟に身を引く。
――しかし、僕はそれよりも速く彼の腕を掴んだ。
「 捕まえたァ♪ 」
これで、〝風読み〟は意味を為さない。あとは――……。
「これは……!」
――僕とクルツェの足下に、青白く発光する巨大な魔方陣が展開された。
「さあ、どう凌ぐ?」
水 龍 陣 ・
魔 狂 水 衝
――地面から大量の濁流が天高く舞い上がり、僕とクルツェを呑み込んだ。




