第111話 『 クリス 』
「……てか、生きてるよな」
……水晶の中で眠る十二、三歳の容姿の少女を前に、俺はそんな疑問を抱いた。
しかも、水晶もただの水晶ではなく、その中は液体であり、クリスはまるでホルマリン漬けにされているようであった。
「生きています、感覚的には眠っているようなものです」
「……どうやって起こせばいいんだ?」
「うーん、それはわかりません」
「……探すか」
……俺は何か無いかと、水晶の周辺を見渡した。
「――ん?」
――偉く達筆な字で、「封印」と書かれた御札が水晶に貼ってあった。
「これじゃんっ……!」
……見るからにこれであった。
それにしてもわかりやす過ぎやしないか?
「……もしかして、罠!」
「あっ、ほんとですね☆」
――ペリッ、ギルドが何の躊躇いもなしに御札を剥がした。
「勝手に取んなしっ……!」
「……だって、封印とか書かれてたら気になるじゃないですかー」
「わかるけど我慢して!」
――ピシッ……。水晶に亀裂が走る。
「……あっ」
……これ、割れるわ。
次 の 瞬 間 。
――バッシャァァァァァァンッッッ……! 水晶が砕け散り、中かの水が濁流の如く飛び出した。
「まずいっ!」
俺は咄嗟に〝クリスティア〟の方へと注意を向けた。
水自体は大したこと無いが、水晶の崩壊と同時に〝クリスティア〟が飛び出す水と共に宙へ放られたのだ。
取り敢えずキャッチだ! そう思った俺は〝クリスティア〟を目で追っ
――〝クリスティア〟の顔が目の前にあった。
「――」
……回避もキャッチも間に合わなかった。
……〝クリスティア〟はそのままベクトルに従い、前進する。
――チュッ、〝クリスティア〟の唇と俺の唇が重なった!?
「……むがっ!?」
「――!?」
――同時、〝クリスティア〟が目を覚ました。
「「――」」
……一瞬、俺と〝クリスティア〟の視線が交差する。
しかし、落ち着く間も無く、俺と〝クリスティア〟は濁流に呑まれてしまう。
「のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」
「タツタさーん!」
ギルドが手を伸ばすも空しく、俺は床に叩きつけられた。
「いてっ」
腰を強く打った。あと、頭も。
水はすぐに捌けて、俺は落ち着きを取り戻す。
――むにっ
うわっ、何だ! 胸元に偉く柔らかくて温かい感触が……!
俺は恐る恐る目を開ける。
そ こ に は 。
「……うぅ……痛い」
――〝クリスティア〟が俺の胸の上に倒れ込んでいた。
……てか、見た目の割りに胸でかっ!? ロリ巨乳やないか!?
「大丈夫か」
「うっ、うん」
俺は〝クリスティア〟の身体を起こした。
「どこも怪我してないか?」
「うん、大丈夫、だよ」
〝クリスティア〟は顔を少し赤らめながら頷いた。
「あの、名前、聞いてもいいかな?」
「タツタ、空上龍太」
「タツタさん」
「おう、よろしくな」
「……わたしの王子様♡」
「……………………はっ?」
……この子、頭でも打ったのか?
「すまん、もう一回言ってくれないか」
「タツタさんはわたしの王子様なの♡」
「……」
……聞き間違いでもないようだ。
「なあ、〝クリスティア〟」
「ファーストキス♡ ファーストキス♡ ファーストキス♡」
……話聞けや。
〝クリスティア〟の目は既にとろんとしており、最早、俺しか見えていなかった。
「……えーと、〝クリスティア〟」
「クリス、って呼んでほしいな」
「えっ、えーと。クッ、クリス?」
「えへへー、嬉しいなぁ♡」
クリスは俺の腕にしがみつき、無邪気にはにかんだ。
(……むっ、胸が~~~~~~っ!)
ついでに、クリスの豊満な谷間に腕をホールドされ、俺は胸がドキドキメモリアルだった。
「すっ、凄い! 十歳ぐらいの女の子にものの見事に振り回されている!」
カノンが目の前の光景に衝撃を受けた。
「むぅー」
ギルドは何とも言えない複雑な表情をしていた。
「ロリコンですねー」
ドロシーは笑顔でドン引きしていた。
まあ、それはさておき、そろそろ本題に入ろうか。
「あー、クリス」
「なぁに、タツタさん」
……やりずらいなぁ。
「お前が嫌じゃなかったら俺達の仲間にならないか?」
「なる」
「返事早っ!?」
「なぁーーーるぅーーー」
「そういう早さじゃないから!」
……やりずらいなぁ。
「まあ、聞いてくれよ」
クリスのノリに振り回されている俺は一旦、間を空け、落ち着かせた。
「俺達の旅は命懸けの旅な上に、外の世界にはお前を狙う輩も多い。勿論、俺達は全力でお前を守るが絶対に守りきれる保証は無い」
「……」
「それでもお前は俺達の仲間になってくれるか」
「なる」
……君、本当に話聞いてた?
「タツタさん達はいい人そうだし、わたしもタツタさんの力になりたいから」
クリスはどこまでも能天気で、マイペースだった。
「それに、わたしのファーストキスもあげちゃったし(ぽっ///」
「えぇー」
……うっ、重いな。
まあ、何にしてもクリスが仲間になるって言うなら断る由は無いが。
……むっ? 待てよ。
クリスが仲間になって、フレイがいないとなると、巨乳はギルドとドロシーとクリス。貧乳はカノンだけになって、バランス悪くないか?
「さらっと僕を混ぜるのやめて!」
俺のモノローグに、カノンが突っ込んだ……コイツ、いつもモノローグに突っ込んでくるな。
「まあ、何にしてもこれからよろしくな」
「こちらこそ、ヨロシクお願いします♡」
俺は右手を差し出し、クリスはその手を快く受け取った。
「 ギルド 」
「はい☆」
「 カノン 」
「わかってるよ、タツタくん」
「 ドロシー 」
「何なりと申しつけてください♡」
「 フゥ 」
『きゅー!』
「 クリス 」
「……タツタさん」
……俺は深く深く深呼吸をし、そして――宣言した。
「 フレイを助け出すぞ……! 」
「はい☆」
「うん♪」
「喜んで御供します♡」
『きゅーっ!』
「わたし、頑張る」
……待ってろよ、フレイ!
「 絶対にお前を死なせたりはしねェからよ……! 」
……かくして、俺達は〝氷の花園〟を飛び出し、〝KOSMOS〟のアジトを目指すのであった。




