第110話 『 リミット.21 』
「 ところで、ギルド 」
……カノンとドロシーが待っている場所までギルドと歩いている途中、俺はギルドに確認したいことがあった。
「……ん? 何ですか?」
ギルドはまったく気にした様子では無いが、俺は気になって仕方がないことを確認する。
「あの、だな」
俺も聞きずらいので、思わず口ごもってしまう。
「おっ、お前がさっき言っていた、その、「大好き」とか「好き」って、Like? それともLove?」
「~~~~~~~っっっ……!?」
……ギルドがわかりやすく悶絶した。凄く可愛い。
「らっらっらっらっらっらっらっ……!」
ギルドが壊れたロボットみたいに連呼した。
「らっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっらっ」
……らっ、多すぎ。
「 ライブです……! 」
「どっち!?」
……音楽でも始めようってか。
「えーと、あのときはちょっと勢いで言ってしまいまして、えっと、その、タツタさんのことは好きなんですが、恋愛感情ではないんです、ハイ」
……滅茶苦茶早口で言った。
まあ、動転するギルドが可愛いかったから良しとするか。
「……あっ、カノンくんとドロシーさんです」
「おー」
カノンとドロシーが少し離れた場所で手を振っていた。
「待ってたよ、タツタくん」
「私は信じてましたよ、タツタ様」
カノンとドロシーは帰ってきた俺を温かく受け入れてくれた。
「二人共、ごめん!」
俺は開口一番、二人に頭を下げた。
「お前らの気持ちを無視して、勝手に解散して悪かった。俺が独りよがりだった」
「……タツタくん」
「……タツタ様」
「勝手に解散させておいて言うことじゃないが、また皆で旅を続けたいんだ」
……本当に自分勝手だが、これが俺の本心だ。テキトーには取り繕えない。
「だから、お前らがよければ仲間になってくれないか」
……うむ、我ながら、中々の上から目線な物言いであった。
「……本当だよ、タツタくん」
カノンが溜め息混じりに笑った。
「そもそも言葉は要らない筈だよ。タツタくんはここに戻ってきて、僕はここで待っていた――それが答えだ」
カノンが手を差し伸べる。
「もう君だけには背負わせない、僕らは親友じゃないか」
「だな」
俺はその手を握った。
「 こほんっ 」
……ドロシーが俺とカノンの間に立ち、小さな咳を一つ挟んだ。
「私もカノン様と同じ気持ちです。私も微力ながらタツタ様の力にならせていただきます」
「……ドロシー」
ドロシーはカノンと俺の手の上に自分の手を重ねた。
「 T.タツタ、再結成です……! 」
「おう!」
「だね♪」
……こうして、やっとT.タツタは復活したのであった。
「 皆様、盛り上がっているところすみませんが今は時間がありません 」
――ギルドが再結成を喜ぶ俺達に水を差した。
「……」
……そう、問題はまだ何も解決していなかった。
「フレイちゃんを取り戻せる時間はそう残されてはいないんです」
「どういうことだ」
ギルドの暗い口調がことの深刻さを物語っていた。
「わたしの〝霊王〟は精霊と感覚をシンクロできまして、その効果範囲は精霊の魔力量によって変わります」
「ああ」
……これはギルドから聞いたことがあるから知っている情報だ。
「なので、〝八精霊〟や〝精霊王〟クラスになれば世界の反対側まで索的できます」
……凄いな。
「それで、わたしにはどの精霊がどこにいて、どんな状態なのかもわかるんですが……問題は〝むかで〟が既にフレイちゃん以外の精霊を手に入れているということです」
「……それは?」
「 〝精霊王〟、です 」
「……っ!」
……マジか。
「それで、奴が〝精霊王〟を持っていると何が問題なんだ?」
確かに〝精霊王〟は驚いたが、それがフレイの身の上と何の関係があるのだろうか。
「はい、問題は〝精霊王〟の食事です」
「……食事?」
「はい」
……それが何の問題なんだ?
「〝精霊王〟の主食は――……」
「 精霊、なんです 」
――共食い。
「〝精霊王〟には二つの能力があります」
――ギルドが指を二本立て、その内の一本を曲げた。
「一つは任意で半径数百メートルの魔術を無効化する能力」
――ギルドが二本目の指を曲げる。
「 もう一つは、精霊を食し、その精霊の能力を吸収する能力です 」
「……っ」
俺はフレイが食われる姿を想像し、吐き気を覚えた。
「じゃあ、今からでも行った方がいいんじゃないか?」
「いえ、そこまで焦る必要はありません」
「……どういうことだ?」
……もし〝むかで〟が〝精霊王〟を所持しているのであれば、時間は無い筈だ。
「……〝精霊王〟の食事には準備がいるからです」
「……準備?」
「はい、手順としては、一週間綺麗な清水だけを飲ませ、一切の食事を禁止します。一週間を終えれば今度は一週間、厳選された清水と薬草だけを食べさせ、準備が完了するんです」
……何でまたそんな面倒なことを? と言うとギルドが即答した。
「〝精霊王〟は精霊の中で、最も強大な力を持ちますが、同時に最も繊細なんです。なので、体内に不純物があるとすぐに体調を崩してしまうんです」
……なるほど。
「幾つかある〝KOSMOS〟のアジトの一つがイーストピア大陸にあり、そこに〝精霊王〟がいます」
結構、遠いな。
「なので」
ギルドが人指し指を立てた。
「〝むかで〟の移動速度ならおよそ一週間で着きます」
ギルドが中指を立てる。
「それから絶食期間が一週間」
ギルドが薬指を立てた。
「最後に食事期間が一週間」
……そう、それが。
「 残り三週間、それがわたし達に残された時間です 」
……ということになる。
「……話はわかった」
要は、俺達は三週間以内に奴等のアジトに乗り込み、〝食事〟が始まる前にフレイを奪還しなければいけないのだ。
「とにかく、いつまでもここに居たって仕方がないな」
「はい」
とにかく、作戦は移動しながらでも考えられる。だから、まずはここから離れよう。
「……でも、その前にだ」
「どうかされましたか?」
「忘れものかい?」
「おいおい、お前ら。何の為に俺達はここまで来たんだよ」
俺の言葉にギルドとカノンが顔を見合わせた。
「「 〝クリスティア〟!! 」」
……そう、俺達は水の精霊〝クリスティア〟を仲間にしに、この〝氷の花園〟へ足を運んだのだ。
「ギルド、〝クリスティア〟はどの辺に居るんだ」
「えーと、細かい位置まではわかりませんが、広くて、外の光の差し込まない部屋です」
「……光の差し込まない部屋、か」
〝氷水呼〟の視点に立てば、〝クリスティア〟をなるべく気づかれない部屋に置く筈だ。
「……うーん、下とか?」
直感的にそう思った俺は――〝SOC〟の柄を掴んだ。
「まっ、試してみるか」
闇 黒 染 占
――黒いオーラが渦巻いた。
「皆、ちょっと離れてくれ」
黒 飛 那
――極黒の衝撃波が地面に叩き込まれた。
〝黒飛那〟は床を破壊し、そのまま下へ突き抜ける。
「 解除 」
俺はすぐに〝闇黒の覇者〟を解除する。まだ、体力は完治していなかったからだ。
俺やギルドは穴の空いた床を見下ろした。
「 ビンゴ♪ 」
……なんと、床の下には大きな空洞があった。
「……ここに〝クリスティア〟が」
「わからんが、とにかく行こう」
俺が飛び降り、ギルド達も俺に続いた。
俺とギルドはそのまま、ドロシーはカノンにお姫様抱っこをされ、着地した。
「やっと見つけたぜ、〝クリスティア〟」
――見上げるとそこには巨大な水晶の固まりと、その中で眠る一人の少女がいた。
「 少しお話でもしようじゃないか 」
……俺は〝クリスティア〟を真っ直ぐに見据えて、不敵に笑んだ。




