第98話 『 怪物と怪物 』
「 くだらないな 」
……〝むかで〟が怪物となった僕にそう吐き捨てた。
「……そんな見かけ倒しに構っている暇は無いのだよ」
――計七つの豪腕が〝むかで〟に襲い掛かった。
「……やはり、遅いな」
――しかし、〝むかで〟は最低限の動きで計七つの腕を回避した。
「 まダ、だ! 」
――ドッッッ……! 〝むかで〟の死角である地面から、最後の一本の腕が伸びた。
……七つはフェイク! 本命は八本目!
「……だから、遅いと言っているのだ」
雷
――斬ッッッッッッ……! 八本目どころか僕の全ての腕が切り落とされる。
「 大ジョウ夫 」
そして、間髪容れずに僕の八本の腕は――全て再生した。
「 & 」
……腕・脚・胴・顔、全てが白く硬質な鎧に覆われた。
これが僕の〝魔銃転生〟IN〝水蓮〟――〝水獣〟である。
〝水蓮〟の性質は〝水〟つまり――〝変化〟だ。
〝水獣〟は変化の力だ。発動すると肉体を変化することができる。
故に、タンパク質・脂肪・鉄分・カルシウム・水分と言ったものは僕の体内に限り操ることができるのだ。
だから、肉体を改造して化け物になったり、細胞を造り直して切断された腕を再生したり、体表をカルシウムの鎧で保護することもできるのだ。
「ただの曲芸だな」
「だッたら」
装填――〝火音〟!
「 こレナら 」
破 王
――ブシュッ、僕の身体から蒸気が噴き出した。
「 & 」
……装填――〝雷羽〟!
雷 華
――バチッッッ、紫電が走る。
「……っ!」
……初めてやるけど〝三重装填〟は結構身体にくるな。
でも、この〝三重装填〟は強い! なんせ、〝水獣〟の変則性・〝破王〟のパワー・〝雷華〟の速さを兼ね備えているからね。
「……行くゾ」
「さっさと来い」
――僕は雷の速さで飛び出す。
先手必勝、僕は雷速の拳を突き出した。
「直線的だな」
――パンッッッ……! 〝むかで〟が僕の渾身の一撃を意図も容易く受け止めた。
……〝水獣〟で筋肉増加・〝破王〟で威力上乗せ・〝雷華〟で雷の加速、これだけやっても容易く受け止めたのだ。やはり化け物か。
「今度はこっちの番だな」
――ゴッッッッッッッッッッッ……! 〝むかで〟の拳骨が僕の頬に叩き込まれた。
……おっ!
「……グッ!」
……重いッッッッッ……!
僕は為す術も無く、吹っ飛ばされる。
――パリイィィィィィンッッッ……! 僕の骨の鎧が粉々に砕け散った。
……まだだッッッ!
「まだ! 負けてナイ……!」
――計六つの拳が〝むかで〟に伸びた。
「 いや、貴様の敗けだよ 」
雷
――斬ッッッッッッ……! 全ての腕が切り落とされた。
「まダだ……ッ!」
――ドッッッ……! 地面から残る二本の腕が飛び出した。
「 同じ手は通用せんよ 」
――斬ッッッ……! 最後の腕二本も落とされた。
「 グガァァァァァァァァァァァァァァァッッッ……! 」
――僕は真っ正面から飛び出した。
「……獣、風情が」
――僕は巨大な顎を開いて、〝むかで〟を噛み殺そうとした。
――〝むかで〟は一歩も動かない。
「ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ……!!!」
――斬ッッッ……! 横一閃、僕の土手っ腹に斬撃が走った。
血飛沫が飛び散る。
激痛が稲妻のように走る。
ヤバい、意識が飛ぶ。
( ……でも、良かった )
――僕は自分自身の腕を、人差し指を〝むかで〟に伸ばした。
(……気づかなかったようだね)
……喰らえ! これが僕の奥の手だ!
「……何をする気だ」
「 解放 」
――轟ッッッッッッッッッ……! 超密度の破壊の奔流が〝むかで〟を呑み込んだ。
……やった、か。
「……」
〝雷鳴閃〟の加速・〝火音〟の火力を組み合わせた超速・超威力の弾丸を更に〝水蓮〟の形状変化によって圧縮された一撃が直撃したのだ。ただ事ではいられないだろう。
「 つまらないな 」
……ただ事ではいられない筈だった。
「やはり、かわすまでもなかったよ」
……平気な筈は無いのに。
「これで終わりか?」
……〝むかで〟は傷一つ負わずに生きていた。
「……ちくしょう」
……もう、いいや。
「……この手は使いたくなかったんだけど」
……何せ初めてだし、僕自身がどうなるか想像もつかないからだ。
「奥の手を超えた更なる深層――見せてあげるよ」
装填――〝黒朧〟……。
「……逃げて、フレイちゃん」
「カノンさん……!」
……暗黒のオーラが渦巻く。
……僕の魔力がいっきに膨れ上がる。
黒 な――……。
「 黒飛那……! 」
――ドッッッッッッ……! 極黒の衝撃波が目の前に吹き抜けた。
そして、間髪容れずに二つの影が僕の前に滑り込む。
「 大丈夫か、カノン! 」
「 カノンくん、フレイちゃん、お待たせ☆ 」
……それは光だ。
……絶望的な状況に差した一筋の光。
「 タツタくん! 」
「 ギルドさん! 」
……タツタくんとギルドさんが助けに来てくれたのだ。




