第93話 『 タツタVS〝紫鶴〟 』
「……すみません、タツタさん」
「謝んなよ。間に合って良かった」
……危なかった。後一歩遅れていたら間に合わなかったな。
「……うーん、君はこの子の仲間なのですか?」
「まあな」
どれ程強いかはわからないがコイツはギルドを倒す力を持つ敵だ……油断は大敵だろう。
「なら僕の敵になりますね」
「そうなるな」
……両者、睨み合う。
「……タツタさん」
満身創痍な状態で氷の床に倒れるギルドが一旦水を差す。
「彼は水や毒ガスを使います。なので特に呼吸には気をつけてください」
「ギルド、ありがとな。ここは俺に任せて、お前は少し寝ていてくれ」
そう言って俺は再び〝紫鶴〟と向かい合った。
「作戦会議は終わりましたか?」
「お陰様でな」
闇 黒 染 占
――俺の身体に黒いオーラが渦巻く。
「 行くぜ 」
「 いつでもどうぞ 」
……俺は大量の酸素を吸い込み――そして、息を止めた。
――ドッッッ……! 俺は全力の踏み込みで一挙に間合いを詰める。
――59.99
「速い、ね」
――キンッッッ……! 俺の繰り出した斬撃と奴の繰り出した氷の刃が交差する。
……コイツ、俺の〝闇黒の覇者〟に反応してやがる!
「 〝四泉〟筆頭――〝紫鶴〟 」
――バチッ、俺の目の前に火花が散る。
「 推して参る……! 」
――ボンッッッ……! 俺の目の前で大爆発が起こった。
「……っ!」
しかし、俺は辛うじて後ろへ跳んで爆発を回避した。
「中々の反応ですね♪」
「……」
――ダンッッッ……! 俺は地面を力強く踏み、最高速度で飛び出した。
そして、床、壁、天井を縦横無尽に駆け回る。
――48.21
……喰らえ! これが俺の新技!
――俺は〝紫鶴〟の背後を取り〝SOC〟を薙いだ。
黒 飛 那
――漆黒の衝撃波が 〝紫鶴〟に撃ち出された。
「……これは先程の」
そうだ。〝黒飛那〟はさっきギルドを守る為に撃ち出した黒い衝撃波だ……放つ速度をだいぶゆっくりにしているが。
「凄い威力だね」
……しかし、〝紫鶴〟は至って平静だった。
「まあ、当たらないけど」
――〝紫鶴〟は〝黒飛那〟の射線を見切っていた。
……やはりコイツはただ者ではない。
――だが、甘い。
……何故なら〝黒飛那〟が〝紫鶴〟に届くよりも速く、俺は〝紫鶴〟の背後を再び取り、二発目の〝黒飛那〟を放っていたのだからだ。
二つの〝黒飛那〟が交差するように飛び、〝紫鶴〟を挟み撃ちにする。
「じゃあ上で♪」
――〝紫鶴〟は高く跳躍して、二つの〝黒飛那〟を回避した。
「残念でしたね、タツタくん」
――43.34
……にやり。俺は口を閉じたまま笑った。
気持ちがいいねェ、敵が自分の策に嵌まるというのは……。
「先読み、ですか」
……そう、俺は〝紫鶴〟が跳躍することを見越して、一撃目よりも遥かに遅い〝黒飛那〟を〝紫鶴〟の頭上に撃ち出していたのだ。
〝黒飛那〟は威力を高めれば高める程にその速度は遅くなる。
逆に言えば――〝紫鶴〟の頭上に撃ち出した超低速の〝黒飛那〟は最も威力の高い〝黒飛那〟である。
つまり、俺は一番当てたい〝黒飛那〟を、一番理想的な形で〝紫鶴〟に当てることに成功したのだ。
「 お見事です♪ 」
――ドッッッッッ……! 〝黒飛那〟が〝紫鶴〟に直撃した。
「……」
……やったのか? それにしては偉くあっさりと決着が着いたものだ。
てか、息を止めるのも辛いけど、もう息を吸っても大丈夫かな?
「……」
……確認しようにも、〝紫鶴〟はボロボロな様で倒れていた。
術者を倒したんだ。流石に大丈夫……だよな?
「……ぷはっ」
俺は恐る恐る呼吸をした。
「――ッッッ……!?」
……しかし、すぐに口を閉ざした。
(……しまったっ)
……ヤバい、めまいがする。つか、立ってらんねェ。
俺は思わず膝を氷の床に着いた。
( 〝紫鶴〟はまだ起きている!? )
油断し――……。
――ガッッッ……! 俺は顔面を蹴飛ばされて、吹っ飛ばされた。
「……確かに君の一撃は僕には届きました」
……〝紫鶴〟だ。〝紫鶴〟が氷の床を横たわる俺を見下ろしていた。
「でも、それだけです」
ジャリッ、〝紫鶴〟が〝SOC〟を握る俺の右手を踏みつけた。
「残念ながら僕を倒すには至ってはいない」
――19.99
……駄目だ。息を止め続けるのも限界だ。
「 君の敗けです 」
――どうする?
このままじゃ〝紫鶴〟に負ける。
そうなったら俺もギルドもコイツに殺される!
「 さようなら 」
〝紫鶴〟が右手を振り上げる。
……その右手には氷の刃が握られていた。
……ふざけんなよ。
俺はこんなところで死ぬ訳にはいかねェんだよ。
じゃあ、どうする?
どうするもこうするもじゃねェよ。
突破するんだ!
勝って! 生きて! また冒険するんだよ!
俺はまだ満足してねェし、まだまだやりたいことがあるんだよ!
だから、潜れ!
……もっと深く、
……もっと暗い、
闇に潜るんだ……!
じゃあ――行くぜ。これが臨界突破のその先――……。
超 ・ 闇 黒 染 占
「 これで幕引きです 」
――〝紫鶴〟か氷の刃を振り下ろす。
「……」
……大量の黒いオーラが全身から吹き出した。