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  第92話 『 ギルドVS〝紫鶴〟~満身創痍の闘い~ 』



 「 よし、これで死ぬことは無いですねー☆ 」


 ……わたしは血塗れで横たわる〝葵〟から手を離した。

 〝葵〟との死闘に勝利したわたしは、彼が死なない程度に治癒をしたのだ。


 「それにしても焦りました、まさかあそこまで血が出るなんて」


 上級風魔法――〝絶風ゼロ〟。目にも映らない真空の刃で相手を切り裂く呪文なんだけど、初めて使ったので加減がわからなかったのだ。

 ……と今更ながら、わたしの〝特異能力〟――〝霊王ジ・シャーマン〟の説明をしていなかったことを思い出した。

 〝霊王〟の能力はこの世の精霊を自身に憑依させ、その属性の魔術を行使できるようになるというものである。

 故に、わたしは通常操ることのできる火炎魔法・光魔法・治癒魔法に加え、通常時であれば絶対に使えない風魔法を操れたのだ。

 しかし、欠点としていきなり普段使っている火炎魔法や光魔法のときほど巧みに操れないが、わたしの卓越した魔術センスに掛かれば風魔法を操るのも難しいことではなかった。


 ――天才魔導師。


 ……自分で言うのも恥ずかしいけどそうなんだよねー、えへへー☆


 (……〝葵〟の出血も落ち着いたし自分の治療でもしますかねー)


 あまりにも〝葵〟の出血が酷すぎて、自分よりも優先して〝葵〟を治療してしまったのだ。

 でも、仕方ないよね。そうしないと〝葵〟が死んじゃうし、人を殺してタツタさんに嫌われたくないし……。

 わたしは床に腰を下ろして、自分の治療に取り掛かる。


 そ ん な と き だ 。



 「 あれー? もしかしてお客様ですかー? 」



 ……声は正面から聴こえた。


 「……!」


 バッ、わたしは咄嗟に正面へと目をやった。


 「……あれ?」


 ……しかし、前には誰もいなかった。


 「 初めまして、魔導師さん 」


 ――声は真後ろから聴こえた。


 「……っ!?」


 ……反応できなかった。それ程までに彼の気配隠蔽能力は優れていた。


 「 僕は〝四泉〟筆頭――〝紫鶴しづる〟♪ 」


 ……〝紫鶴〟は男だか女だかよくわからない整った顔立ちで笑った。


 「以後お見知りおきを♪」


 ――ゾクッッッ……!


 ……何だか嫌な感じがした。少なくとも彼は〝四泉〟の一人、強くない筈がなかった。


 「それでその〝紫鶴〟さんはわたしに何の用でしょうか?」


 わたしは試しに惚けてみた。


 「はい、忠告しに来たんですよ」

 「……忠告?」


 ――ドッッッ、〝紫鶴〟の背後に氷の壁が立ち上がった。


 「ここから先は通行禁止、すぐに引き返してください」

 「……」


 ……まあ、やっぱりそうなるよね。



    キャ    ノン    ボール



 「なら、突破するしかないですね」


 わたしは幾つもの圧縮された炎弾を召喚する。


 「 へえ 」


 ……〝紫鶴〟が笑った。


 「 君は〝火〟を使うんですね 」


 ――次の瞬間。



 ――ボンッッッ! わたしの〝火焔球〟が爆発した。



 「……っ!?」


 わたしはその爆発に吹っ飛ばされ、尻餅を着く。


 「……何を……したの?」


 本当に突然のことであった。わたしが支配していた筈の〝火焔球〟が突如爆発したのだ。


 「……残念ですが、僕には〝火〟は使えませんよ」


 ……理由は企業秘密ですが、と彼は付け加えた。


 「だったら☆」



   風   霊   憑   依



 ……風が吹く。

 ……そして、それは渦を巻く。


 「 風なら 」



     ウィンド     サーベル



 ――幾つもの風の刃が〝紫鶴〟に撃ち出された。


 「 遅いです 」


 しかし、〝紫鶴〟は軽いステップで〝風刃〟を回避した。


 「 ね 」


 ――〝紫鶴〟がわたしの目の前まで接近していた。


 (……速い!)


 わたしは咄嗟に身を引く。


 ――ズキッ、〝葵〟戦での傷が傷んだ。


 「……っ!」


 身体が硬直する。当然ながら〝紫鶴〟はそれを見逃さない。


 「……ん?」


 ――〝紫鶴〟の前蹴りがわたしの土手っ腹に叩き込まれた。


 「かはっ……!」


 わたしは勢いよく吹っ飛ばされ、氷の床を転がる。


 「何で避けなかったのですか?」

 「……」


 ……避けなかったんじゃない、避けられなかったのだ。

 〝葵〟との闘いのダメージはわたしが思っていた以上に大きかったようであった。


 「あんまり僕をがっかりさせないで下さい」


 ……スッ、〝紫鶴〟が腕を差し出す。


 「ね♪」


 ……パチンッ、そして指を鳴らした。



 ――ボンッッッ……! 何の前兆も無く、わたしの目の前が爆発した。



 「……ッ!」


 わたしは為術もなく、吹っ飛ばされる。


 ……駄目だ。


 〝紫鶴〟は強い。少なくとも満身創痍の状態で闘う相手ではなかった。


 ――バッッッ、わたしはきびす返して、〝紫鶴〟から逃げ出した。


 「……あれ?」


 とにかく作戦を立て直そう。その為にまずは逃げるんだ。


 「残念ですが逃げられませんよ」


 とは言うものの〝紫鶴〟はその場から一歩も動いていなかった。


 (……追い掛けて来ない?)


 何故、逃走するわたしを追い掛けて来ないのか、わたしは彼の考えがわからなかった。

 とはいえ、追い掛けて来ないというのであればわたしにとっては好都合であった。

 とにかく、このまま逃げよう――それがわたしの判断であった。


 「 無理ですよ 」


 ……〝紫鶴〟が笑った。


 「 ? 」


 ……異変はそのとき起こった。


 「 あれ? 」


 わたしの逃げる脚が止まる。


 脳みそが揺れる。


 ……突然、地面がわたしに迫り来る。


 「 わたし、倒れてる? 」


 ……そう、わたしは氷の床の上に倒れていた。



 「 オゾン、という言葉を聞いたことはありませんか? 」



 ……〝紫鶴〟の声がやけにぼんやりと聴こえた。


 「……H3。水素原子を元とした一種のガスです」


 ……知らない。わたしは科学は苦手だった。


 「低濃度であれば通常問題はありませんが、ある一定の濃度を超えればそれは――毒ガスになるのです」


 ……毒……ガス? ああ、駄目だ。頭が回らない。


 「あなたはそれを吸ったのです、知らず知らずの間にね」

 「……」


 ……駄目だ。返す言葉も浮かばない。意識を保つだけで一杯一杯だ。


 「さて、つまらないうんちくは終わりにしましょう」

 「……」

 「留目は僕自身の手で下します」

 「……」


 ……駄目。


 ……限界?


 ……どうしよう。


 ……意識が遠退く。


 ……わたし、死ぬの?


 ……アーク、ごめんなさい。


 ……駄目なお姉ちゃんでごめんなさい。


 ……死ぬ?


 ……タツタさん、助けて。


 ……たす……けて。


















 「 起きろ、寝坊助 」


 ――ドッッッッッ……! 漆黒の衝撃波がわたしと〝紫鶴〟の間に走り抜けた。


 「……っ!」


 突然の光景にわたしの意識は覚醒した。


 「……君は誰ですか?」


 〝紫鶴〟が乱入者に問い質す。


 「 空上龍太 」


 ……来た。



 「 今からお前をぶった斬る男だ……! 」



 ……ヒーローが、空上龍太がわたしのピンチに颯爽と現れたのだ。


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