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狼のような狼
目の前の、おそらく人間が、
私に敵意を向けていた。
いや、見たところ、どこをどう見ても
彼女は人間であり、コートにマフラーを
して、それなりに防寒対策をしていた
私の格好の方が、遠目にはビックフット
や二足歩行の獣に見えるかもしれない。
ただ、眼前の展開に追い付かない私の
拙い思考回路の速度では咄嗟に考えられる
のはその程度のことだったのだ。
「応えろ!」
彼女は再び私に向けて言葉を投げかけ、
腰に装着していた鞘から剣を抜き、
自らの肩に振り上げるように載せ上げた。
剣道の上段の構えまではいかないが、
隙あらばその剣を振り落とそうという気概が伺えた。
未だに頭の中にもやがかかり、
思考の方向が定まらない私は、
またしても同じように拙い思考を巡らせ、
今度はそれをなんとか口から外に表出す
事ができた。
「君に合わない、な」
......巫山戯たような返答であり、
受け取りかたによっては物凄くキザな
口説きのようにもとられる言葉になってしまった。
単純に不釣り合いな格好だということ事への
感想であったのだ。
いい歳をして、
一瞬で恥ずかしい思いになってしまい、
一応、解説と釈明を果たそうとしたのだが、
彼女は目の色を落とし、
両手に更にちからを込めた。




