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喝采をうけない羊
迷ってる暇はなかった。
驚きと、恐怖だ。
満員電車。その中で、いきなり、私は手首をつかまれた。
さっ、とその手を払う。
そこまでは、無意識に対応できた。か、そのあとに
何をすれば良いのか、どうすべきかなのか。
あらゆることが、まったく浮かばなかった。
寝ぼけたまま覗いた、鏡越しに映る窓越しの景色を見たときに「雨」という単語がぼやけた色合いと共に浮かぶように、
「痴漢」「冤罪」
というワードが想起された。
精一杯の、頭の奥底からの防衛反応なのかもしれない。
まさに恐怖という感情から、思考回路が無理やり起動させられた、逆流的なもの。
電車は「まさに」駅に停車した。
何駅なのか、今どこなのか、そのような疑問すら浮かばないまま、
流れの強い、決壊した堤防の濁流に飲み込まれた、放置中のサッカーボールが、様々な流物に揉みくちゃにされながらも淡々と流されてゆくように。それは、結局はサッカーボール自身が望んだかのように、私は開かれたドアをくぐった。
??「誰だ貴様!!」
透き通った、それでいてしっかりとした声で
そう叫ばれた。
眼前にいたのは、鎧のようなものを着た、女性であった。




