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5話 見送るのもお仕事です

 新たな魔王が生まれ、勇者であるカケルを召喚してから1年が経った。

 最初は言葉すらおぼつかない彼であり、争いとは無縁の生活を送っていたらしい彼は当初、敵であっても暴力を振るう事にためらいを持っていた。それでもその持ち前の明るさと、誰にも見せようとしなかったが血の滲むような努力を、この一年間毎日欠かさず重ねていた。結果、今では誰もがカケルの実力を認め、彼こそ勇者だ!と言われるほどの力を身に着けていた。


 そして今日は、彼の――勇者カケル・ナイトウの旅立ちの日、である。


「そんな顔するなよー、ガレオン!」


 カケルが困ったような声で笑って言う。

 彼の有名なジメック老――ドワーフの一流の鍛冶師――の作った鎧・兜・小手・ブーツを身に着け、国に伝わる勇者の証でもある聖剣レーヴァテインを腰に下げている。伝説級の装備でありミスリル製のそれらは普通の兵士たちが身に着ける鉄製の装備違い軽いとはいえ、それでも全てを足せばかなりの重さになると思われる。しかし、そんな重さを感じさせない動きができるようになった彼は、一流の戦士であると言えるだろう。


 それでも。それでも、魔王は強い。

 勇者専用ではあるが、蘇生術が確立される前は勇者の死亡率は100%であったし、蘇生術の組み立てに成功した後であっても……歴代の勇者たちが殺されなかった事は一度としてない。

 勇者(かれら)は死なないが、殺される事はあるし、怪我も負う。


「……カケル」

「大丈夫だよ、ガレオン。オレは負けない」


 言うべき言葉が見当たらない俺を諭すように、カケルは言う。

 でも違う。勝ちとか負けとか、そんな事はどうでもいいのだ。


「まあ、一年修行したくらいで勝てるような相手じゃないのはわかってるよ。素人のオレでもわかるくらいの防具を装備していても、それでも魔王は強いんだろ?」


 小さい子に聞かせるようにゆっくりとした口調は、彼が考えながら言葉を選んでいるからだと、この1年の付き合いしかないが、それでもわかった。

 カケルは優しい。普段の軽い言動で隠れてはいるが、人の気持ちを察し、相手を思いやり、相手の負担をどうすれば減らせるのかと常に考えてるとしか思えないほど、繊細で優しい心を持っている。

 そんな彼に、彼を巻き込んでしまったことが、とてもつらい。


「そりゃ怪我したら痛いだろうし、何度も殺されれば辛くなって勇者を止めたくもなるだろうさ。そのくらいはオレだってわかるよ。だから、だからさ」


 カケルは俺の両肩をつかみ、屈みこんで下を向いていた俺と視線を合わせた。

 歴代勇者と同じと言われる黒い目は、優しさだけではない…何と言えばいいのか“強さ”がたしかにあった。


「大丈夫、殺される前にオレは逃げるさ! 何しろオレにはさ、ガレオン。おまえ直伝の逃げ足があるからな!」


 そう言って、カケルはニカッと笑うのだ。

 それを見たら、俺だって笑わねばならない。

 彼を巻き込んで申し訳なかろうが何だろうが、それは今更どうにもならないことで、俺が辛かろうがなんだろうが、それ以上に辛いのはカケルであるのだから。

 謝って済むのは俺の気持ちだけで、カケルの気持ちやこれから受けるものには何の効果もない。


「…そうだね。でもさ、カケル。女型の魔族に誘惑されそうだよね」

「あー、それはありうるな……って、おーい! それはちょっと酷いんじゃないの、ガレオン」


 俺の冗談に、カケルは否定しきれないけどさぁと苦笑してぽりぽりと頭をかいた。

 冗談のつもりで言ったのだが、よく考えなくてもカケルならありえそうなソレに俺も笑う。


「ひっでー、そんなに笑う事ないじゃん?」

「あはは、ごめんごめん。まあ、死なせないけど、死ぬなよ?」

「任せろ!」


 そんなやり取りの後、カケルは国から旅立った。

 



 そして、そんな旅立ちから1ヶ月後、カケルは魔王によって“封印された”のだ。

勇者召喚編はこれで最後です。

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