歴史書「魔王と勇者の召喚」より
はじめて異世界から呼ばれた勇者は、その天敵である魔王との長い長い戦いの後に負けて死んだ。
勇者を殺した魔王を止められるモノは誰もなく、何もなく、世界は魔王によって蹂躙され、その手に堕ちた。
それから50年が経ち、魔王が支配する前の世界を知る者が寿命により死に始めた頃。
ある魔法使いがその命をかけて再び異世界から勇者を召喚する事に成功した。
人々は沸き、魔王を打倒すべく勇者に強力し、それに応えるように勇者も強くなっていった。
それでも勇者は魔王に敗れて死んだ。
さらに100年が経つと人々は魔王に支配されているこの状態が普通のことであると認識していて、誰も勇者を呼ぼうとしなかった。
それなのに勇者はどこからともなく召喚され、人知れず魔王に挑み、死んだ。
3番目の勇者が魔王に敗れて死んだ時、魔王は世界に向かってこう叫んだ。
「何人来ようが誰が来ようが私は負けぬ。逆らう者には等しく死を。逆らう者らには絶望を与えよう」
その言葉に人々は震え上がり、それから100年の間、誰も魔王に逆らおうとは思えず、魔族に虐げられながら細々と暮らした。
勇者を召喚しようとする者は誰もなく、いたとしてもすぐにその召喚しようとした人物は同じ人によって殺された。
それでも諦められない人々によって、何度か召喚は行われ、何度も失敗し、たまに成功したとしてもその 召喚された勇者共々、守るべき存在のはずの人々によって殺された。
人々は絶望していたのだ。
だからこそ、それ以上の絶望を味合わぬ為にと勇者と勇者を召喚する者を殺す。
人々は絶望していたのだ。
だからこそ、少しでも希望を見い出す為に諦めずに勇者を召喚する。
同じ想いで、しかし人は違う行動を是として動く。
たとえ勇者が召喚されても、それは魔王自らが手を下すまでもない。
勇者は同胞たる人々によって殺されるようになった。
それから数十年。
ある時、諦めずに勇者の召喚を試みる人々の中で、誰かがこう言った。
「勇者が死ななければいつかは魔王を倒せるんじゃないか?」
その言葉に打倒魔王と人の復権を目指した人々は希望を抱いた。
それ以来、人々は召喚陣を改良しながら勇者を召喚し、その勇者と同胞が殺される度に失敗を知った。
何度も何度も勇者は召喚され、何度も何度も勇者と召喚した人々は殺された。
最初の勇者が死んでから数千年の時が経ち、その召喚は成功した。
勇者を召喚した人々は魔王を恐れる人々によって殺されたが、勇者は何度殺されても生き返ったのだ。
何度殺しても死なない勇者は何度も何度も魔王に殺されながらも、死なないために何度も挑んで経験を積み強くなり、そしてついには魔王を倒すことに成功した。
世界は魔族から人々の手に戻ったのである。
その魔王の倒れた年は勇者暦1年となり、それ以後何度魔王が現れようがその度に召喚された殺しても死なない勇者によって倒され、世界は平和を手に入れたのだ。