大嫌いだと、ただ叫ぶことしか出来ない
「私のこと、好きになった?」
俺を面倒事に巻き込む度に、そう尋ねてくる糞女が、俺は大嫌いだった。
乙女ゲームだか何だかしらねーが、たくさんの男をたぶらかすだけたぶらかして、面倒になったからと切り捨てようとする、最低女。
自業自得の面倒ごとを、ゲームの隠れキャラだという、無関係な俺に押し付けようとまとわりついてくる、自己中女。
「――誰がてめぇなんか好きになるかっ!!」
そんな性格悪ぃ女、好きになるはずがない。
好きになるはずが、ねぇのに。
「……あぁ、やっぱり好きだな。そうやって私を拒絶してくれる君が、大好きだ」
心底嬉しそうに、そう口にする糞女が、どうしようもなくむかついた。
大嫌いだ。こんな性悪。
なのになぜか、気が付けばいつも、糞女のことを考えてしまう。近寄れば、視線で追ってしまう。
糞女は、たぶらかした奴らの執着の強さに日に日に窶れ、どこか壊れていった。
自業自得だと嘲笑いだからも、放って置けなくて、俺の権力で何とかなるなら助けてやると手を差し伸べてやろうとした。
しかし糞女はいつも、差し伸べた手をけして掴もうとはしない。
「―…なに、カイザーまで私のこと好きになっちゃった?いやん。モテる女は辛いね」
茶化すようにふざけた返事を返す糞女に俺が苛立って、いつもそこで会話が終わる。
真剣に心配してやっているのに、真面目に取り合わないことに腹がたったわけではない。
ふざけたように笑う、糞女に隠しきれない脅えと拒絶が見てとれたから、腹がたった。
俺のことを好きだとほざくこの女は、その癖俺が近付くことを嫌がる。好きだと言いながら、俺に好かれることを拒絶する。繭のような目に見えない防御膜を全身に纏い、けしてその核心に触れさせようとはしない。
――ふざけるな。
どこまで人を心を弄べば、気が済むんだ、この糞女は。
好きだとほざくなら、求めればいい
全てを晒して、助けて欲しいと泣きついて俺にすがればいい。
そうすれば、
そうすれば、俺は――……
糞女が、糞女に一番執着をしていた生徒会長と共に消えた時、堪らなく嫌な予感がした。
単なる駆け落ちだと、糞女が会長を選んだのだと、必死に思い込もうとしたが、無理だった。
俺は実家に頭を下げて、ありとあらゆる情報網を駆使して糞女を探した。
会長が持つ、山奥の別荘。巧妙に入り口を隠す細工がされた、その地下牢に、糞女はいた。
幸せそうに微笑み眠る会長の腕の中で、物を言わぬ骸になっていた。
何かを求めるように、その右手を遠くに向かって伸ばしながら。
俺はその場に屈みこんで、糞女の顔を覗きこむ。
糞女の目蓋と、唇はうっすらと開いていた。指先で、そっとその死に目蓋を閉じる。
その死に顔は、悲痛の表情を浮かべていたが、けして醜くはなかった。美しいとさえ思える、綺麗な顔だ。会長は心中に、苦痛を感じないような特殊な気体を用いたらしい。
頬にはまだ乾ききっていない涙の跡が残っており、先刻まで糞女が生きていたのが、分かった。
もっと早く駆けつけていれば、と思う反面、俺が駆けつけてくる時間ですら、恐らく会長の計算のうちだったのだろうとも思う。俺が、この場所を見つけたことを察知した上で、けして救助が間に合わないタイミングで事に及んだのだろう。確実に糞女を連れて逝けるように。天才と称された会長なら、そんなこと簡単だったはずだ。
伸ばされていた、糞女の手を両手で握りしめる。
握りしめた手は、まだ完全に冷たくなってはおらず、微かな熱が伝わってきた。
まるで、ただ、眠っているだけみたいだ。少し揺らせば、目を醒ますんじゃねぇか。
そして、目を醒ました糞女は、何でもないような顔で、いつものように俺に聞くのだろう。
『私のこと、好きになった?』と。
「――い、だ…」
唇が、震えた。
「…っ大嫌いだよぉぉっ…てめぇなんか、大嫌いだよぉぉぉっっ!!!!!!」
吼えるような叫びが、狭い地下牢の中、木霊する。
視界が霞んで、何もかもが滲んで見える。
大嫌いだ。
大嫌いだ。
俺を振り回すだけ振り回して、勝手に死にやがった、糞女が大嫌いだ。
――俺の心を連れて逝きやがった糞女が、殺してやりてぇくらい、大嫌いで仕方ねぇ。