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-008- 石川県! お姫様と愉快な奴隷たち!

 富山県チームが噴水を破壊している頃。

 石川県金沢市市役所――そのすぐ隣にある金沢21世紀美術館を前に、石川チーム三人はいた。

 そこは綺麗な場所だった。

 自然と美の一体を追及してか、点々と木々が植えられた芝生の中央にそれは置かれ――建物は全体が円形状、側面がガラス張りになっており、正面といえる面がなく、逆に言えばすべてが正面といえるかもしれない。外壁同様、各所にガラスが多用されているため、館内の見通しが非常に良く、開放的かつ前衛的ともいえる。

 おかしな話ではあるが、22世紀の大日本帝国からは想像も出来ないほど、それは近未来的な建造物だった。

 そんな場所で、雰囲気をぶち壊すように女のわめき声が響き渡る。


「なんであんなのと一緒なチームなのよ! それも“皇帝”って……あーもう、どうなってるのよいったい!」


 少し小太りのその女は、身振り手振りを存分に使い不機嫌を体していた。

 年はそう若くは見えない。せいぜい30代後半か――悪く言えば50代。

 つまりはおばちゃんである。

 毒沢錐子ぶすざわきりこ、石川県チームの“姫君”だ。


「なあ、そろそろ落ちつこうぜ? わめき散らしたって仕方ないじゃん」


 なだめるように、茶髪の若い男が言った。

 その言葉は毒沢を刺激する。


「うるさい!」


 一蹴。

 その口ぶりから察せられるように、彼女は傲慢だった。

 本来なら彼女は、テレビの前でお菓子をむさぼり、笑いながら“これ”を見ているはずだった。自分はこの立場ではなく、あちらの立場にいたはずだったのだ。

 まさか自分が“これ”に参加することになるなど、夢にも思わなかっただろう。だが、他の参加者にとってもそれは同じことで、墜落すると分かっている飛行機に乗り込もうなどという物好きなんてまずいない。

 “これ”に参加することは死に直結するに等しいのだから――

 しかし、不幸なことに選ばれた。選ばれてしまった。死の舞踏を踊るステージ、“全バト”の出演者に。

 彼女はいま、その舞台で踊っている。


「なんで私があんたらみたいなガキと組まなきゃいけないのよ! だいたいなに? なんでこんなガキばっかりが集まってるの? 選考基準どうなってるのよ、もう! それにあんた“騎士”でしょ、だったら“姫君”の私を守らなきゃいけないでしょ。なにしてんのよ全く。使えない、ホント使えないガキ!」


「……なんだよ、うぜえな」


 邪険に扱われた男は舌打ちを交え嘆息する。

 こんな奴にはかまってられない、と耗部八太郎もうぶやつたろうは、ごろんと芝に転がり、天を仰いだ。

 右手首のリング。

 普段アクセサリーなど付けないせいか、どうも馴れない。

 ただ鉄を巻いたようなセンスの感じられないデザイン。たしか、デバイス……といったか。

 支給された機能は“騎士”だった。

 八太郎はうんざりする。

 あの醜悪の権化とも言える女――それを守る“騎士”だなんて、なんとも笑える話じゃないか。


「……こんなことなら、あいつに着いていきゃよかったかな……」


 近くの配給所から持ってきたチョコレート菓子のパッケージを剥き、一口サイズのそれを口に放り込む。

 じんわりとした甘さが口内に広がった。

 チョコといえば、帝国ではなかなか支給されない貴重なものだが――どうやら世界線の違うこの日本では配給所がいたるところにあり、お菓子は勿論のこと、趣向品もそれは数多く陳列されていた。

 袋でもあれば良かったのだが、あいにく手持ちにはなく。とりあえずと、八太郎はポケットに入れれるだけ詰めて持って来たのだった。

 芝の上には缶コーヒーとお菓子が無造作に並べられている。

 

「完全消費型文明とは羨ましいもんだな……、お前も食うか?」


 八太郎の視線の先、そこには幼い少女がいた。

 見立て小学校高学年か、中学校低学年ほどの年齢に見えるその子は、不安そうな目で八太郎を見ている。

 

「……ううん、いらない……」


 少女は首を振る。両結びにされた髪が小さく揺れた。


「なかなかイケるぞこれ。……つかお前、チョコって食ったことある?」


「ない……けど……」


「あーそりゃよくないな、すんごくよくない」


 八太郎は芝生に開いたお店からチョコを一つ取り、少女に差し出した。


「一個食ってみ? 人生得した気分になるぞ」


「……おなか、空いてないから」


「いーから、ほれ」


 そう言って、八太郎は少女の顔にチョコを押しつけた。

 半ば無理やりとも取れる行動ではあるが、それは少女に対する気遣いでもあった。

 観念した少女は小さい口でそれを受け取る。

 一噛みして重たそうだった瞼がぱあっと開いた。


「……どうだ?」


 もぐもぐと口を動かし、固かった表情が次第に解れていく。

 こくんと喉を通るころには、陽に当たったように少女の顔は明るくなっていた。


「おいしい……!」


「でしょうに。そーでしょうに。帝国じゃめったに食えねえから、今のうちにたらふく食っとけ。ほら、まだまだあるぞ。飲み物もあるから、好きに食っちゃえ」


 少女は芝の上にちょこんと腰を降ろす。

 品定めをするように、開いた小さいお店から缶コーヒーと棒状のチョコ菓子を手に取り、咀嚼した。

 何気ない光景ではあったが、心が穏やかになっていく気がした。

 八太郎の心は荒んでいた。

 それは当然であり、いきなり陣取りゲームという名の殺し合いをしろと、この世界に放り投げられたのだから、不安を感じてしかるべきだ。

 だが、見回してみるとそこには自分よりも圧倒的な弱者がいた。

 小さく幼い少女が自分と同じようにこの世界に放り出され、右も左も分からないまま、死と隣り合わせという理不尽な状況下で、押しつぶされそうになりながらも、必死にそれに耐えていたのだ。

 その姿は八太郎に冷静さを与えてくれた。


「……うええ、苦い……」


 ふと見ると、少女は渋い顔で可愛らしく舌を出していた。少女の胸の前には無糖の缶コーヒーが両手で握られている。

 八太郎は思わず笑う。


「ブラックだからそりゃ苦いさ。こっちは甘いから、これ飲め」


 パシュっと新しい缶を開け、手渡す。

 少女は恐る恐る口をつけ、苦くないことを確認してから、こくりと飲み込んだ。

 八太郎は出会ってから間もない、歳も一回りほども離れた女の子と、まるでピクニックのような穏やかな時間を過ごしていた。

 ここは自分たちの世界ではない――異世界だ。冷静に考えると本当によく分らない状況だった。……冷静じゃなくても分らない状況ではあるけれど。

 少女の名は五木六華いつきりつか

 金沢市役所で、亜蓮るいに受けた説明を鵜呑みにするなら彼女はまだ中学生で、歳は14。今大会最年少らしい。

 どこをどう間違ってこんな子供がこの舞台に上げられたのだろうか……。

 八太郎の知る限り、国営テレビ番組の“全世界仰天無差別バトル・ロワイアル”で選ばれるのは成人を超えた、それも男性がほとんどだったわけだけれど――なぜか今回は女性が半数を占め、それも二十歳以下、まだ軍校にも社会に出てもいない若者が選ばれている。これは異例のことだ。

 名前は覚えてはいないが、たしか富山には高校生が二人選ばれていたはず。

 帝国はいったい何を考えているのか……?

 この変化はいったいなにを意味するのだろうか……?


「……心配すんな。なんとか、なる」


 独り言のように、ぽつりと。

 その言葉はまるで自分に言い聞かせているようだった。


「……?」


「これも何かの縁だし、しゃーなし俺が守ってやっから。なんとかしてやるから。だから、お前は心配すんな」


 ぽんぽんと、六華の頭を撫でてやる。


「……っても、なにをどーすりゃいいのかわかんねーんだけどな」


 わからないはずはなかった。しかし、それでも八太郎は笑い飛ばすように微笑する。

 その言葉に少女は頷いた。

 ――案外、助けられているのは八太郎のほうなのかもしれない。

 不意に六華が何かを見つけたように顔をあげる。その視線につられて見ると、ずかずかと歩いてくる女がいた。

 八太郎の顔に憔悴の色が浮かぶ。

 毒沢だ。


「あんたたち、なにしてんのよ! こんな状況で遠足気分なわけ!?」


 湧水に泥を投げ込まれた気分だった。

 毒沢の放つ言葉は耐えがたいくらい気持ちの悪いもので、単純に不快感しか生まれない。

 穏やかだった空気は一変した。


「……子供の前で怒鳴んのはよくないと思うぞ。だいたい、あんたがそんな状態だからまともに会話すら出来ねーんじゃんか」


「ガキが生意気な口をきくな! ガキは大人のいうこと黙って聞いてればいいのよ、ほんと使えないガキ! 愚図! ほんと愚図!」


 ガキとはいっても八太郎は二十歳を超えている。

 軍校だって出たし、仕事だってしている。

 しかし、よくもまあこう次々と暴言を吐けるものだ。ある種の才能かもしれない。


「じゃあ大人のあんたが指示してくれよ。そんだけ偉そうに言ってんだから、この状況を打破出来るなんかがあんだろ?」


「黙れ愚図! それをあんたが考えろって言ってるんでしょ!」


「……ははっ」


 呆れを通りこして、笑えた。

 いい加減、冗談はこのゲームだけにしてほしい。

 わめき散らしながら、いったいなにを言っているかと思えば……毒沢は目的を八太郎に委託しているだけだ。

 自分の意思決定を他人に丸投げして、他人の意見をまるで自分のもののように扱う。帝国には自己を持たず、指示を待つだけの人間が多すぎる。それは歳を重ねるごとに顕著だ。

 毒沢はその典型ともいえた。

 他人からの指示を待っているだけで、勝ち残れる世界なんてどこにもあるはずがないのに。

 

「……つまりはなにか? 『私じゃどうしようもないので、あなたが私を助けてください』ってか? 笑わせんなよ、冗談も大概にしろクソババア」


「く、くそば……っ!?」


「わりーけど、お前に付き合ってらんねーよ。一人で勝手にやってくれ」


 行こう、と八太郎は六華に手を差し出す。

 掴んだ手を引き、その場を去ろうとする。


「待ちなさい! そんな勝手が許されるわけないでしょ!? これはチーム戦なのよ、そんなことも分からないでどの口がそんな生意気を」


「うるせえなあ。お前とチーム組むなんて願い下げだっつってんのがわっかんねーかなあ」


 六華はおどおどと毒沢と八太郎に視線を往復させている。

 八太郎は静かに首を振り、歩き出した。


「待てって、言ってんでしょ!」


「――痛ッ!」


 小さい悲鳴とともに八太郎は後に引かれた。

 思わず、よろける。

 毒沢が六華を引っ張ったのだ。


「やめて、痛い、痛いっ!」


 鬼のような形相で毒沢は六華の服を掴んでいた。

 背筋にぞぞぞ、と悪寒が走る。人の形はしているが、八太郎にはまったく別の生き物のように見えた。

 咄嗟に手が出る。


「おいババア! なにしてんだよ、放せよコラ!」


 掴んだ八太郎の手を払うように、毒沢は腕をブン回す。

 裏拳が首元に当たり、八太郎は鈍いうめき声上げて後ずさった。


「――っげほ! ……クソ、この野郎……ッ!」


 さすがの八太郎も限界だった。

 腹の底で押えていた怒りがふつふつと込み上げる。


「六華から手え放せっつってんだろーがッ!」


 言葉で理解できないなら、痛みで理解させるしかない。

 飼育された動物のように――言葉でわからないなら暴力でわからせる。

 ただシンプルに、力でねじ伏せればいい。

 八太郎は固く拳を作り、醜悪な毒沢の顔面めがけ拳を振り抜いた――が、


「――ッ?!」


 パリン、と。

 毒沢の頬に当たろうとする瞬間、甲高い音が響き渡った。

 そしてまるで磁石にでもなったかのように拳は弾かれ、八太郎は吹っ飛ばされた。

 芝の上を転がり、驚愕の体で毒沢を見上げる。


「……な、なんだ? ……なんだよ……いまの……」


 誰に言うでもなく、零す。

 それを説明できる人間はこの場にはいない。毒沢も六華も何が起きたのか理解できない様子だ。

 ルールにある、“騎士は敵味方問わず姫君には攻撃出来ない"。

 いま、それが発動した。


「――やめて! 乱暴しないで!」


 六華は呆気に取られる毒沢に体当たりする。

 完全に不意をつかれ、彼女は芝に倒れ込んだ。

 八太郎は一瞬反応が遅れた、しかし呆けている場合ではない。


「六華ッ!」


 逃げる。

 考えたわけでもなく、八太郎はそれを選択する。

 状況を把握する暇などなかった。相手の攻撃は通り、こちらの攻撃が通らない事実。それが無意識的に逃げることを選択させたのだ。

 判断は正しい。

 だが――得体の知れない“何か”に弾かれ、飛ばされた――それは密かに八太郎の中に残ることになる。

 恐怖、という小さなトゲとして。


「……う、あ、ああ、あああああああああああああああああああああああああああッ!!」


 突然の金切り声。

 その怪鳥の嘶きのような声に八太郎は委縮する。

 振り向くと、毒沢が頭を地面に擦りつけながら悶えていた。


「クソガキ……ほんっとクソガキ……ッ! 許せない……許せない、もう許せない絶対に許せない! ガキッ! ガキッ!! ガキがッ!! 殺して殺してやる、絶対に殺してやるからッ!」


 人間とは思えないその声に全身が粟立ち、嫌な汗が噴き出た。

 心臓が爆音をたてて唸り、こいつから離れなければ危険だ、と脳が全力で訴える。


「――おい、なにしてんだ! いくぞ!」


 いまにも泣きだしそうな六華の腕を掴み、八太郎は駆けだした。

 六華との歩幅が合わず、つんのめりそうになりながらも必死に走る。

 その背後で、毒沢がむくりと立ち上がり、腕を掲げた。


「……これは裏切り……私を裏切って石川県民全てを裏切ったおぞましい愚行……ッ! あり得ない、ほんとあり得ない! ……あぁ……そうよ、そうだわ……裏切り者には罰を与えなくちゃ」


 振り向くと、殺意に塗れた顔で毒沢がこちらをにらんでいた。

 猛烈に嫌な予感がした。


「あんたが悪いんだから……私に使わせたのはあんたなんだから! 私は悪くない! 全部あんたが悪いッ! デバイス“お姫様のわがまま”!」


「お、おい……なんだよ、あいつなにする気だ?」


「パーフェクトメランコリー!」


 毒沢が掲げた右腕――そのデバイスが白く光った。

 最も悪しく、最も醜悪な彼女にこそふさわしい、下劣極まる姫君デバイス――“お姫様のわがまま”。

 それを受けたのは八太郎ではなく、幼い少女。

 五木六華だった。

 射抜かれたように、彼女は転ぶ。


「――うわっ!」


 その手を引いていた八太郎もバランスを崩し、慣性の働くまま芝の上を二転三転。

 すぐさま起き上がり、左右に首を振る。

 すでに六華は立ちあがっていた――が、どこか様子がおかしい。正体なさげにぼうっと突っ立っている。


「おい、大丈夫かッ!?」


「…………」


 返事はなかった。

 いったいなにをされたのか?

 怒りが込み上げてくる。その矛先は当然、毒沢へと向かう。


「おい! てめえ、なにしたんだよ!」


 醜悪は形容し難い表情を浮かべ、吐く。


「はああぁ? 知らないわよそんなの。知るはずないでしょ馬鹿じゃないのあんた? これはあんたのせいなんだから。私が言う通りに戻ってくればよかったのにそうしなかった、だからあんたが悪い! 全ッ部あんたが悪い!」


 怒りで頭がおかしくなりそうだった。

 こいつは、どこまでも自分のことしか考えていない。


「……戻るって、どこにいけばいいの?」


 囁くように、六華が言った。

 さっきまで泣きそうだったのとは一転して、機械的なまでの無表情だった。

 指示を待つかのように、六華は毒沢を見つめている。


「はあ? なに言ってんの。頭でも打っておかしくなった?」


「……ごめんなさい、それがどういう命令なのか、わからない……」


「あ? 命令……?」


 毒沢桐子。

 彼女は醜く、醜悪であり、下賎で卑劣で下劣だった。

 不幸にも舞台に上がった彼女は“全世界仰天無差別バトル・ロワイアル"の熱烈な視聴者であり、生命の危機に瀕していない場所で、テレビの中、虫のように必死に生にしがみつく参加者たちを見るのが好きだった。

 それは圧倒的上位の立場から見降ろす景色で。

 彼女はいま見降ろされる側にいた。

 悲劇だった。

 敗戦し、強国に支配される側の帝国民であり、低国民でもある彼女はそのさらに下、低国民の娯楽へと成り下がった。見る側からすれば喜劇に踊るピエロに仕立て上げられたのだ。

 だが、醜悪な彼女は聡明でもあった。そして悪運も持ち合わせていた。

 パーフェクトメランコリー。

 それは彼女に支給された姫君デバイス“お姫様のわがまま”の機能であるが――少女、五木六華の反応と過去放映され、食い入るように見てきたそれを掛け合わせ、彼女はその能力を瞬時に察する。

 そして、それが自分にとって最も相応しいモノであることに震えた。

 その能力とは――自分の下を作る力。

 “完全洗脳”だ。


「おい、なに呆けてんだよババア! 六華になにをしたかって聞いてんだろーがッ!」


 静かに視線を送る六華を前に、八太郎は怒鳴り散らす。

 いまにも毒沢を殺しそうな勢いだ。

 毒沢はゆるみ、吊り上がりそうになる口元を丁寧に動かす。


「ふふ、そうね。……いいことお譲ちゃん。この男がもし“私の命令に背くことがあればこの男を殺してあなたも死になさい”。これは命令よ?」


「……ああ? お前、なに言って――」


「わかった」


 と。

 六華はさも当たり前かのように頷いた。


「……えっ?」


 八太郎は振り向き、少女を見る。

 そのときの彼の顔はどんな風に染まっていたのだろう? きっとそれには、醜悪が好みそうな、負に濡れた表情が描かれていたに違いない。

 六華は歩き出す。

 少女を前に、毒島は優しくその頭を撫であげた。


「いい子ね。……そうよ、ガキは大人に逆らったりしちゃダメなんだからね。ふふっ……いい子。ホントにいい子」


 八太郎は絶句する。

 笑えないにもほどがあった。なにかの間違いであってくれと心の底から願った。彼の胸の中にあった大切ななにかが――折れた。そんな音が聞こえた。

 八太郎はへたりと膝を折り、力なく芝に腰から砕け落ちる。

 その姿を見て、毒沢は堪え切れなくなった笑いをぶちまけた。


 “騎士”、耗部八太郎。

 “魔術師”、五木六華。


 かくして――石川県チームは醜悪な姫君によって牛耳られ、二人は奴隷と化す。

 北陸エリアの均衡は一日を待たず、早くも崩れ去ろうとしていた。



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