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-005- いざ開かん! 異世界の扉!

『以上で説明を終わります。こんな説明に一体何ページ費やすつもりですか、いい加減にしてください! 質問とかもう面倒くさいので受け付けません! 後は各自で頑張るように!』


 説明は30分そこそこで終わった。

 亜蓮は飽きたのか後半から投げやりな態度だ。

 最後とかよく分らないことを言っている。


「……外?」


 翔兵は何気なく亜蓮の言ったワードつぶやく。


『ああ、言っていませんでしたっけ。もうすでにここは試合の舞台である世界線HW0000116の日本ですので』


 亜蓮は流暢に答えた。

 ほんの数秒前まで質問にはもう答えないとか言っていなかったっけ?

 初志を貫徹しろ。と、思う。

 しかし、答えてくれるというならば、こっちの望むところだ。


「まさか……いつの間に連れて来たんだよ……」


『国家機密によりお教えできません! てへへ!』


 てへ、ぺろっと。

 亜蓮は可愛らしく舌を出して、拳を頭にコツンと当てる。

 このふざけた態度に馴れてきている自分が怖い。


『とにかく皆さん、なるべく早くここから出ないと大変なことになりますよー? ゲーム開始直後にこの場所は禁止エリアになりますので。開始早々分解なんてしたくないでしょう?』


「禁止エリア……って、ここからどのくらい離れればいいの?」


 つられて、蒼井雫も訊いた。


『禁止となるエリアはこの建物の敷地内だけですので、道路に出れば問題ないですよー!』


「道路?」


『もう、面倒くさいって言ってるでしょ! 出ればわかるのでさっさと出やがれください!』


 邪険に扱われるまま、四人は部屋を出た。

 そこはいきなり現実味のある風景で――というか、まっ白い空間にいたせいで色があるというだけで現実味が湧く。

 普通の建物のようだった。

 国家施設というよりは、どこか公民館だとか役所といった風。部屋から出た通路の端には等間隔に入り口が設けられ、室内は雑務用のオフィスを思わせる景観が見てとれた。


『ほらほら、ぼやっとしてないでさっさと着いてきてください! アヒルの子供だってそれくらいは出来ますよ? 大丈夫ですか?』


 とにかくこいつは一言多い。

 亜蓮に先導されるままついて歩く。

 階段を下りて、通路を進む。どうやらさっきいた場所は三階だったらしい。

 しばらくして、出口と思われる場所、その前で亜蓮は足を止めた。


『ここを出ればゲーム会場、今回の全バトの舞台となります。開始にはもうしばらく時間がありますので、それまでにくれぐれもこの敷地内から出るように。皆さんの健闘を祈ります! それではまた――ばいばーい!』


 そんな言葉を残して、亜蓮と脇野は消えた。

 忽然と消えた。

 人間が二人いきなり消えたのだから、それは驚くべきことかもしれない。が、翔兵は少しも気にしなかった。

 鈍感だとか、無関心というわけでもない。

 翔兵の意識は前に向けられていた。

 扉の向こう。それはゲームの舞台。

 負ければ死ぬデスゲーム。

 死にたくなんてない。

 ゆゆ一人を残して死ぬなんて、できるはずもない。

 生きて帰る。絶対に。

 自らに鼓舞をうち、扉に手を掛ける。

 恐る恐るそれを押し――外に出た。


「うわっ!」


 ずっと室内にいたせいか、あまりの眩しさに目がくらんだ。

 そして目に飛び込んでくる景色。


「……なんだ、これ……」


 そこに広がっていたのは綺麗に舗装された片側3車線の道路。脇には歩道まで設けられ、等間隔に並べられた木々が風に葉を揺らしていた。

 見上げる空はどこまでも青く――澄み切った新鮮な空気に翔兵は感嘆の息を漏らす。

 大日本帝国のある同じ土地とは思えなかった。


「すっげえ……綺麗だ……」


「違う世界線ってだけでここまで違うもんなんか……」


 目多牡も蒼井も、その光景に感動しているようだ。

 辺りを見回していると、ふと、あることに気がつく。


「……あれ? でもトトゥーリアがない……?」


 翔兵が見上げた空に、“天使の輪”は無かった。


「当然でしょ、世界線が違うんだから。それにここは100年も昔の世界よ?」


 雫が言うように、ここは翔兵がいた世界とは違う。

 さらに付け加えるならば、“天使の輪”が作られたのは20年前であり、この時代にはあるはずもない。


「あ……そういえば。そりゃそう……っ!?」



<HELLO SYOUHEI>



 突如、頭の中に文字が浮かび上がった。


「なんだこれ……。なあ、なんか頭にハローって出た、っていうか浮いてるっていうか……なんか見えるんだけど……」


「ちょっと、静かにして」


「わしも見えるぞ、見える……というか認識できるみたいな感覚やけど」


 突然のことに三人は狼狽える。

 意識に穴があき、そこに文字が出現するーーそんな感覚に襲われれば、誰だってそうなるだろう。

 しかし、一人だけ冷静に現状を見ている者がいた。今すべき最善はなにか? それを示唆するように、


「あ、あの……皆さん。それも気になるところですが……いまはとりあえず、この場所から離れませんか? 亜蓮さんも言っていたように、この場所はもうすぐ禁止エリアに……」


 月野憂沙戯。

 にこやかな表情とは裏腹に、おどおどとした風に憂沙戯は言った。

 彼女は終始その口を閉ざしていたので、どこか蚊帳の外のような雰囲気はあった。

 翔兵はなぜか彼女が気にかかっていた。

 妹と似ているから?

 ……いや、それとはまた違う気がする。

 どこか作りものっぽい、ぎこちなさが翔兵にそう感じさせたのだ。

 しかし憂沙戯が言うように、いまここに留まることは得策ではない。単なる愚策――というかただの馬鹿である。


「そうだ、いまはこの場所から離れることが先だ。行こう」


「行こうって翔兵くん、なんか当てでもあるんか?」


「そんなもんないけど……こんなとこで爆死したら笑い話にもならないだろ?」


 説明の中で、ゲーム開始はPM0:00と亜蓮は言っていた。

 現時刻はAM11:50。

 つまり、後10分で開始ということになる。

 さらに言えば、いま翔兵らが立っている場所は、もう間もなく禁止エリアになるということだ。

 この建物の敷地内――振り返ると、思った以上に普通の施設だった。八階建てでわりと大きな施設ではあったが、いたって普通である。

 富山市役所。

 ここに先ほどまで翔兵らはいた。

 ここまでたいそれたことをやってくれるんだから、その施設くらいもう少し前衛的であって欲しい気もするが……とにかく、いまはこの場所から離れなければ。

 足早に四人は歩き出す。

 なんの当てもなく。闇雲に。

 しかし目的はある。

 敵皇帝を倒し、エリアを奪うこと、だ。

 漠然としてて全く現実味のないものでもあるが――しかし、どんなに漠然としていようとゲームは始まる。あと8分で。

 いま、残り7分になった。



  ***



 翔兵らが去った後、説明会場にはまだ二人の影があった。


『無作為、ねえ……』


 ハゲ散らかった頭の男、脇野周三はぽつりとつぶやく。


『ん? どうかしましたか、脇野さん』


『るいちゃん、あの男の子のデバイス選んだでしょう?』


『……あっ、バレちゃいました? えへへ……』


『いけませんよ、私たちはフェアな立場なんですから』


 亜蓮はぷくっと頬を膨らまし、いじらしい仕草をみせる。


『だって、あの子面白いじゃないですか。それに可愛いし。……あーあ、どうせならこんなんじゃなくて“実際に”会いたかったなあ……』


『そのための“トトゥーリア移住権”でしょう?』


 ……たしかに、表向きは。

 そうですけど――と、亜蓮は目の前にある机に視線を落とした。

 白い机の上には資料が無造作に並べられている。

 脇野はその一枚を手に取り、しばらくそれを眺め、


『……ふむ。るいちゃんはこの中で、どのチームが勝ち残ると思いますか?』


 と、問う。

 亜蓮は差し出されたそれを受け取り、同じように見た。


『んっと……』



 石川県代表


 皇帝:皇帝の統制権

 田氏恋次(24)男性


 姫君:お姫様のわがまま

 毒沢桐子(41)女性


 騎士:大鎌切り

 耗部八太郎(21)男性


 魔術師:炎の涙

 五木六華(14)女性



 福井県代表


 皇帝:皇帝の創造権

 神谷葵(25)男性


 姫君:お姫様親衛隊

 仙石茉莉(29)女性


 騎士:妖刀憑依

 田中・ロベルト・武蔵(年齢不詳)男性


 魔術師:異次元の旅行者

 斉藤詩織(22)女性



 富山県代表


 皇帝:皇帝の選択権

 月野憂沙戯(21)女性


 姫君:お姫様の抱擁

 目多牡薫(47)男性


 騎士:不吉な贈り物

 蒼井雫(17)女性


 魔術師:摂理への否定

 戸津甲翔兵(17)男性



 それには幸運にも選ばれた北陸エリア、各県4名、計12名の選手の名前と、年齢、支給されたデバイス、その機能が書かれていた。

 今回の全バトの選手名簿だ。


『……若い子が多いっていっても、まだ二十歳以上が過半数占めてますよね』


『それは、まあ、仕方のないことでしょう』


『脇野さんは……あの子、勝ち残れると思う?』


 脇野は小さく笑った。


『それをあなたが聞きますか』


追記 8/4  誤字修正 

追々 8/18 『皇帝の統率権』→『皇帝の統制権』に訂正しました。

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