-027- 得てして少女はアイを喰らう!
――30分前。
計画を緻密に建て過ぎると、思わぬアクシデントが起こったとき対応出来なくなる――ゆえに計画――というか、物事にはすべからく遊びが必要なのである。
もちろんのこと、憂沙戯もそのくらいわかっているだろうし、常に彼女は行動する時は余裕を持っている様に見えた。
少なくとも、これまでは。
「翔兵さんの馬鹿ッ!」
五階建てビルの屋上。
夕闇が終わり、闇が一段と濃くなった世界で、月のわずかな光と端末液晶の明かりが憂沙戯の顔を照らしていた。まるで信じられないことが起こったような顔で、もうすでに切れているのであろう、携帯端末をいまも睨めつけている。
「どうしたんですか?」
雫は訊いた。
会話こそ聞こえなかったが、憂沙戯のその取り乱した姿を見る分に、なにかしらアクシデントが起こったのだろうとは予測できた。
こんな憂沙戯を見るのは初めてかもしれない。
「わかんないです……なんか、いきなり怒りだして……」
「怒る?」
「騙して殺すなんて、そんなこと出来ないって……。でも、なんでいきなりそんな……」
「ああ……」
なるほど、やっぱりな――と。
雫は声には出さず、心の中で頷いた。人を殺す手段を持たない翔兵には、多分、それがまだ漠然としか掴めていなくて、想像の、それこそ絵空事でしかなかったのだろう、と。
だが、それはなにも翔兵だけではない。
“死”という絶対に逃れられない絶望に対し、人は皆勝手にフィルターを付けている。
その想像は自らの“死”を連想させるから――というのもあるけれど、戦争の映像や、軍隊の演習ニュースを見てもわかるように、その暴力の映像には、弾や爆弾を撃つ側からの様子しか映し出されていない。
太平洋戦争の映像を見て貰えれば尚わかりやすいかもしれない。
戦闘機から爆弾を投下する映像はあっても、“受ける側の映像”なんていうものは、いくら探したところで存在はしない。だから、投下された爆弾の下にいる人間の視点、銃口を向けられ弾が飛んでくる視点というものがわからない。そちら側がどのくらい阿鼻叫喚としているかなんて、想像もしない。
人は人の不幸には敏感だけれど。
人は人の痛みに対しては鈍感なのだ。
それを教える学校の教材ですらこれなのだから、そういった世界から無縁の一般人が、それこそ、その惨状を想像することなんて、出来るはずもないだろう。間違いなく出来るはずがない。
つまり、究極言ってしまえば――基本的に人間とは“死”に対して他人ごとなのだ。
自分とは無関係の世界のお話で、
で、なに?
だからどうしたの?
とか、そんなお話。その程度のお話。
しかし。
手段を得ると、人間は想像を始める。
浅ましくも利己的にそれを扱うために、妄想を開始する。
大金を得たら何に使おう――とか。
銃を手にしたら何を撃とう――とか。
人を撃ったら、どうなるのか――とか。
殺せる手段と条件を得て、翔兵はようやくそれを想像し、その意味に気がついた。
殺す、という意味を。
やっと。
彼は理解した。
不謹慎なことかもしれないけれど――親近感が湧く。
自分だけじゃなかった。
まともな人間は。
「最悪……ちょっとどころじゃなくマズイですね……。相手は“騎士”、目多牡さんはともかく翔兵さんが……」
翔兵のデバイスは“魔術師”――しかもその機能については全く把握できていない。敵の“騎士”がどんな機能を持ち、どのような能力で攻撃を仕掛けてくるか、それは雫にはわかるはずはないけれど――やはり自分と同じ種類のデバイスだ。
その機能に頼れない、言ってしまえば丸腰の翔兵らが、どうにか出来る相手だとは到底思えない。
「……助けに、行きましょう」
「え?」
憂沙戯は不意をつかれたような短い声をあげた。
「いま、この現状、敵“騎士”があちらにいるなら囮はむしろ私たちのほう――“魔術師”はこっちを攻撃してくる。ホテルのときみたいに身動きがとれなくなる前に、早くここから移動しましょう」
きょとん、と。呆けたような顔。
うーん。この顔もなかなか珍しいかもしれない。
「……えっと、どうかしました?」
「あっ、いえ。なんか……雫さんが急に頼もしく見えて……」
逆に言えばそれは、普段の雫は頼りないと言っているようなものなのだけれど――まあ、それはさておき。憂沙戯がそう見えた理由が何故だか、雫も自分でもわからない。
けれど、翔兵の行動を聞いて気持ちが楽になった気がした。自分より慌てている人間を見ると、逆に落ち着いて冷静になれるような――そんな曖昧な感覚。
憂沙戯には翔兵の行動の理由、その思いがわからないだろう。
臆病者の考えなんて理解できるはずもないだろう。
いまなら彼と、少しは素直に話せる気がする。
ほんの、ちょびっとだけ。
そんな気がした。
「……しかし、雫さんの言う通りです。助けにいきましょう!」
間を置いての即断即決――という言い回しが正しいかはともかくとして、憂沙戯の決断は早かった。
言葉に、雫は頷く。
五階建てのビルとはいっても、昨日の設計ミスのようなホテルとは違い、屋上に設けられたらせん状の階段があるので今回は楽に移動できる。もちろん、ビル内部に繋がる階段室もあり、そこから降りることだって可能だ。しかし、周囲の状態を把握する上で、外部設置されたそのらせん階段を使った方が建設的であるということは言うまでもない。
迷うことなく、二人はそれを選択する。
「雫さん。敵の炎……あれには弱点が二つあります」
カンカンカン、と。
ぐるぐると続く鉄製の階段を降りながら、憂沙戯は言う。
「……攻撃までに時間が掛かる……ってことですか?」
「そう」
それがまず一つ目――と、言葉を繋ぎ、
「決定的なのはその大き過ぎる攻撃範囲」
その言葉に雫はハッとする。
「……そうか、近づきさえすれば……あの炎を封じることが出来る……」
「理解が早くて助かります。あの戦闘機爆撃のような広範囲に及ぶ攻撃――たしかに脅威ではありますが敵は戦闘機ではない、地にその足を付けている。敵のデバイスの機能は恐らく炎を精製する能力。いったん切り離してしまえばその炎を操るようなことは出来ない。それが出来たのであれば昨夜、炎の雨を降らすなんて殺傷能力の低いことはしなかったはず」
間近に落ちればあの液状の炎は飛び散る、それを防ぐ手段は当の本人ですら不可能。遠距離の強さは反比例し、接近時の弱さになる。
叩くならそこしかない。
「理由こそわかりませんが、幸いにも敵は攻撃を仕掛けてこない。……たぶん、本気だったんだろうなあ……あの人……」
希望にすがりたくなる気持ちはわかりますけどね――と。
意味深な言葉をつぶやく憂沙戯。
それの意図することは、男――耗部八太郎と接触を持たない雫には知るよしもないことだけれど、翔兵の反応を聞くに、そこには冷たい意味が込められてると、なんとなく悟った。
憂沙戯は常に最適解を求め、導く。
もちろんそれは富山県チームにとって光であり、この上なく頼もしい存在ではあるが……時折見せる強い光に、眩しくて直視できなくなる。
怖いくらい、その行動が一貫しているから。
「っと!」
階段も終わりが見え、三段跳びで地面へと着地。
眼下に見据えられていた中立エリア――北陸自動車道路線は見上げる位置になっていた。
直線距離にして約50メートル、全力で走れば数秒で辿り着く距離ではあるが……。そのとき、
ヒュン――べちょ。
「――ひゃっ!?」
そうは問屋が卸さないとばかりに、地に足をつけるや否や、聞き覚えのある擬音と共にオレンジ色の雨が前を行く憂沙戯をかすめた。
「憂沙戯さんっ!」
飛び散り、燃えあがるそれを獣のような動きで回避する憂沙戯。
あまりの機敏なその動きにちょっと驚く。
「ああもう! なんでこう面倒に面倒が重なりますかっ!」
見上げる夜空には、恒星よりも強く輝く無数の物体があった。むろんそれは星ではなく、炎の球体――敵“魔術師”の攻撃だ。マップで移動を確認した途端、躊躇なく即座に攻撃を仕掛けてくるあたり、なかなかどうして敵も相当まともじゃない。
怯えているのか、躍起になっているのか――しかし、こちらは一度殺されかけた身だ。
同じ手を食らうような、そんなヘマはしない。
雫は即応する。
「憂沙戯さん、突っ切りましょう!」
「はい! ――“皇帝の選択権”、オプション!」
止まることは賢い選択ではない。攻撃までのタイムラグがあるからこそ、移動を続けることがこの雨に対するなによりの防御となる。
憂沙戯ほどの度胸はないにしても、この蒼井雫も頭が回る。
その臆病な性格から初見異物異変に対する対応力は乏しいが、一度経験した問題に対する対応力、処理能力は目を見張るものがあった。
しかしそれは、心に余裕が出来たから――というのが一番大きい要因かもしれない。
「雫さん! 手を!」
そう言って差し出された憂沙戯の手。
掴む。
強く引かれたそれに導かれるように――二人は駆け出した。
「――右!」
「次は左! ――止まって、こっちです!」
「おっと危ない! へへん、当たるもんかっ!」
未来を選択し、決定できる機能――そんな力を憂沙戯が持ったのだから、それは鬼に金棒どころじゃない。虎に翼というか、兎に翼……はすごく弱そうだけれど……こんな炎なんかが命中することなど、まずあり得ない。
飛んで跳ねて回って――まるで踊るかのように二人は突っ走る。
「あはっ」
憂沙戯が小さく笑った。
その活き活きとした横顔に、雫も思わず顔がほころぶ。
そんな状況じゃないってわかっているのに、ちょっと間違えれば死ぬってわかっているのに、胸の内から溢れて出てくるそれを、止めることはできなかった。
舞踏。
陽気なウサギに連れられて、不思議の国へと迷い込んだ。
私はアリス。
彼女は私をどこに連れて行ってくれるのか――希望の陽の元か――はたまた地獄のなれの果てか――でも、待ち受ける未来がどちらだとしても、きっと自分の望む場所ではない。それはもうわかっている。
普通でいたかった。
自己嫌悪に浸って、消極的に、無気力に、それこそ平凡な人生でも良かったのに。
「――っと。……ここなら一先ず安全ですね」
飛び込んだのは陸橋真下。
北陸自動車道を横断するため、設けられた小さなトンネル。
安全とはいっても、やはりこの炎の雨が降る中だ。長居することはできない。
「……憂沙戯さん、いまのってやっぱり……」
「はい、間違いなく位置を把握されてますね……これ。うー、あんにゃろめ」
いまは中立エリアに入ってこそいるが、先程までの彼女らの位置はその外。
マップを見れば一目瞭然ではあるが――しかし、この場合の『把握されている』とは、それよりもっと精密な、『目視されている』ということに他ならない。
雫らは敵“魔術師”の眼によって直視され、攻撃を受けた。そうでなければ先ほどのピンポイントな攻撃は、偶然で済ますには出来過ぎている。
だが、それならなぜビルから出たときなのだろうか? という疑問も浮かぶ。
屋上にいるときに攻撃してくれば、敵もアドバンテージを潰されるようなこともなかったはずなのに、そうしてこなかった理由がわからない。
まあ、そこはいくら二人が考えたところで、わかるはずもないことなのだけれど。
「むぅ、どうだろう、敵はこの上――道路の路線上のどこかにいる……(翔兵らのところへと向かう)敵ドットが現れたのがもう少しあっちだから……」
と、憂沙戯は指で宙をなぞりながら、独り言のように言う。
状況を整理、かつ想像しているのだろう。
雫は補填するように、
「移動手段が車だと考えると、そこにいる可能性は高い……いや、でもビルからはそれ見えませんでしたよね。徒歩で近づいてきたとすれば――この真上……とかでしょうか?」
いやいやそんなまさか、そんなご都合主義的展開が待っているはずが――と、憂沙戯は笑ってみせた。そこは、なんか本当にすいません、としか言いようがないのだけれど、その可能性だって否めないわけで。
陸橋の上に上がったらいる可能性だって十分にある。
「いや、でも、近くにいることには間違いないですよね」
「あっ! 雫さん。あそこから……上に上がれます?」
「ん……」
雫は憂沙戯の指さす方を見た。
急勾配の短い坂。その上の侵入防止フェンス、そこを越えると北陸自動車道路線がある。
フェンスの高さは2メートルくらいだろうか……登ること自体はさして問題ではないけれど、ここで問題があるとすれば、この局地的に降る炎の雨だ。
登っている最中に頭上にでも降らされたら、それはたまらない。髪が燃える程度では済まない――というか、髪を燃やされるくらいなら死んだほうがマシだ。
そこでふと、思いつく。
敵は一人、こちらは二人なのだから、人数こそ違えど当初の作戦がここで使えるのではないか? と。
つまりは囮作戦だ。
「……いや、それは駄目……」
しかしその場合、“皇帝”である憂沙戯を囮にすることになり、ゲームの仕様上タブーとも思える愚策ではあるが――
「雫さん、わたしが囮になります」
雫の不安を孕んだ視線から読み取ったのか、憂沙戯がそれを口にした。この状況での最適解を導き出しただけかもしれない。しかし、禁忌を犯すようなその発言は、雫にとってみれば意外だった。
「えっ? なんで、そんな!」
と、思わず狼狽する。
「大丈夫、心配しないで。わたしにはこのデバイスがありますから。簡単になんかやられたりするもんですか!」
「それだったら私が! 憂沙戯さんは“皇帝”ですよ? もし何かあったら、翔兵くんも、目多牡さんまで……」
返しつつ、語尾が曖昧になった。こんな状況でその言葉を使いたくなかったからだ。
そんな雫を見、憂沙戯は手をそっと彼女の肩に乗せ、
「……雫さん。やっぱり、あなたは優しい。誰よりも」
やわらかな笑顔で、そう。
なんでこの人はこうまで私の心を動かすのだろう? と、思う。
子供みたいな声で、仕草で、そのくせこういうときに限って姉のように振舞うんだから。
本当、ずるい。
「だからこそ、わたしだってあんなことは言いたくなかった。……これだけは本当です。ごめんなさい」
憂沙戯は雫の顔を抱いた。
ぎゅっと、割れものを扱うように丁寧に、そっと、強く。
「わたしを――わたしたちを守って。それは雫さん、あなたにしか出来ないこと」
腕の中。
勝手なことを言ってくれる、と思った。
でも、耳元で囁く声は優しくて――何故だか胸に込み上げてくるものを感じた。
憂沙戯の胸が離れ、顔を見る。
頬笑み。撫でる手。それが止まり、
「行ってきます――ていやっ!」
と、ボト、ボトッと炎の雨が降る中、憂沙戯は陸橋の下から飛び出した。
「こるぁー! がきんちょ! わたしはここだぞー! かかってこーい!」
両手を上げ、大声を張り、自分の存在を存分にアピール。
そして走り出した。
憂沙戯を追うように、空中に浮かぶ炎の種が現れ、後を追って落下。道しるべのごとく駆ける後ろに炎が闇を照らしていく。
事象が起こる、ということは憂沙戯にとって好都合だ。
“皇帝の選択権”は自らの機能で起因こそ作れないが、それさえ与えてくれれば後はどうにでも出来るはず。だからこその囮であり、その役目は自分こそ適任だ、と憂沙戯は判断したのだろう。敵を目視出来ない以上、デバイスを防御に使えない雫よりは断然マシであることに違いないが、迷いなくそれを決断する憂沙戯も憂沙戯だ。
「……頑張れ、私……っ」
小さく自分に鼓舞を打ち、少し間を置いて、雫は腹をくくった。
顔を上げ、前を見る。
目の前には点々と燃えあがる地面。けんけんぱの要領で、その奇跡的な間隙を縫って、炎を避けつつ、急勾配の坂までたどり着く。這いつくばりながら坂を駆けあがり、登頂。
行く手を塞ぐ高い侵入防止用のフェンス――その網に手を掛け、よじ登る。
すぐとなりを見ると炎が金網を溶かし、粘状を思わせる炎が地面へと滴っていた。それを横目に、フェンスを乗り越え、飛ぶようにアスファルトに足を落とす。
着地。
たららを踏んで、よろけながらも周囲を確認する。
――いた。
見据える先――50メートルほどのところに、敵“魔術師”が走っている姿を目視。その右腕にはめられたデバイスはコバルトブルーに輝き、まるでホタルのように、雫にその存在を揺れ動きながら示していた。
何を思って敵はここまで接近し、それを許し、反撃する隙を与えたのか――それは雫の知るところではないし、言ってしまえば神のみぞ知る、ということなのだろうが。
しかし、そんなことを考えている暇はない。
走る少女、その手のかかげる方向には雨が降り注いでいる。憂沙戯はいまも攻撃を受け続けているのだから。
「……はっ……はっ……はっ……」
短く浅い息。
心臓がバクバク脈打つのがわかった。
焦燥。
焦燥。
焦燥。
得も言えぬ畏怖のような感覚が雫を粟立て、足が竦み、手先が震え始める。
いまや敵との距離は目算100メートルに近い。だが、雫の持つ騎士デバイス――“不吉な贈り物”をもってすれば、1センチだろうが1キロだろうが“そう思って撃てば”変わる距離ではない。
「…………ッ!」
縛っていた髪紐を強引にほどき取る。
夜に映える長い髪がなびいた。
自分はどうするべきか――最適解はなにか――百回どころじゃない、億回兆回と繰り返した自問自答。それプラス一回の醜くドス黒い回答。
いま、越えなければならない。
「……“不吉な……贈り物”……ッ!」
声をコマンドにデバイスが起動。
腕輪が茜色に輝き、闇よりも深い黒が雫の背後、その空間で蠢き始める。
薄ら蒼く光輝く銃身、乗用車ほどあるそれは雫の掲げる腕、視線――その先にある少女――“魔術師”五木六華を捕捉する。甲高い超高速を思わせる駆動音が夜の街に響き渡り、巻き起こる向かい風が彼女の髪をより一層なびかせる。
――得てして、蒼井雫は臆病だった。
失うことに臆病だし、
自分が傷つくことにも臆病だし、
悲しむことも喜ぶことにさえ臆病だった。
だったら、それだったら。
失うようなモノは最初からいらないし、
傷つかないように歩み寄らないだけだし、
最初から期待なんてしなければ、悲しむことも喜ぶことだってしなくて済む。
そうやって、生きてきたし、これからもそうやって、生きていくと思っていた。
無意味に生まれて、
無関係に生きて、
無価値に死ぬ――それでも良いと思っていたし、そうなるんだろうな、とも思っていた。
自分は愛情を求めない。哀のまま、そのままでいい。
しかし。
この舞台に立たされて、関係を与えられ、
意味を押しつけられ、自分に価値を“見出して”しまった。
雫は憂沙戯の言葉を思い出す。
自らを囮に、炎の中駆け出して行った彼女の姿を思い出す。
「……なにが『行ってきます』だ……」
ここを踏み越えたら、もう、まともには戻れない。いままでの自分には戻れない。
そんなことはわかっている。
「……それじゃあまるで、『信じてます』って言っているようなもんじゃない……っ!」
その覚悟は終わった。
ならば、せめて――せめてその答えに、理由を飾ろう。
とっておき綺麗な理由を。
仲間を守るために――
殺す――と。
「……アンラッキー……ギフト……ッ!」




