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-025- 続々、両雄対峙! ロリコンとシスコン!

 ――4時間前。



「ワンチャン、三人同時撃破まであります」


 買い物を終え、インターから離れた富山市某所。

 富山県チーム四人は四方50センチほどの大きな紙を囲んでいた。広げられたそれは付近一帯を図化した実測図、つまりは地図だ。

 作戦会議。

 その議題は恐らくまた襲ってくるであろう石川チーム、それの対策及び打開策。


「……翔兵くんとペアかいな……うう、不安やなあ……」


「おっちゃん、それ……こっちの台詞だから」


「仕方ないじゃないですか。より精度を上げるためですから、わかってください」


 例によって憂沙戯が主となり筋道を立て、それに沿って班別けされた。

 翔兵、薫ペア。

 そして憂沙戯、雫ペア。

 作戦は大まかにこうだ。

 石川県チームが攻めてくるならば、それは中立エリアである北陸自動車道において他ならない。その理由は、中立エリア内ではマップに位置が表示されないから、というのは今更言うまでもないことだろうけれど、やはり、自らの位置を掴めさせず、奇襲をかけることができるのは大きなメリットだし、同時に自身らの守りへと繋がる。

 それに、敵“魔術師”にとって、敵に位置を把握させないというのは、一方的な炎による広範囲攻撃を行う上で絶対に外せないファクターとなる。炎を精製し、落とすまでの時間――その遅すぎる攻撃速度は、絶望的なまでに致命的だからだ。敵だって馬鹿ではないだろうし、当然それをわかっているはず。レンジ、範囲、威力こそ強力ではあるが、それを放つまでに攻撃されては元も子もない。事実として、昨夜ホテルで雫が“不吉な贈り物”を意図して外さなければ、敵を間違いなく討ち取れていたし、それでなくとも十分に反撃する時間はあった。

 故に希望的観測ではなく、敵は中立エリアから攻めてくるはずだ。

 また、逆に。

 こちらから奇襲を仕掛ける――という選択肢もないにはないが、結論から言ってしまえば、それはリスク・リターンが見合わなさ過ぎる。

 富山チームの持つ攻撃手段は雫のデバイスのみであり、夜襲、奇襲、位置を把握させない、というメリットを差し置いても、敵のように広範囲攻撃は出来ない。それになにより、石川チームには未知のデバイスが三つあり、中立エリアには一人潜伏しているのだ。

 これじゃあ不安定要素が多すぎるし、不確定要素もてんこ盛りだ。そんなギャンブルに命をベットすることなんて、出来るはずもない。 

 そこで自ずと立てられた作戦が、伏撃。

 つまりは、待ち伏せである。

 

「でも、こうなってくると問題なのが待ち伏せるポイントですよね」


 皆に意見を求めるように眼を配り、憂沙戯は言った。

 敵に中立エリアというアドバンテージをあえて譲り、おびき出す。奇襲を万全で迎え討ち、奇襲する。これのメリットは低火力でもその効果を発揮し、相手に反撃や回避行動ができる余裕を与えないことがあげられる。

 

「……一方向に固まるのはやめたほうがいいよな」


「昨日みたいんなったら、目も当てられんしな」


 デメリットとしては、敵を組織的に誘致する必要があり、事前に察知されることのないようにしなければならない。敵も自由意志と思考力を有するから、実現はしばしば困難かと思われる。

 勿論、乗ってこなければ徒労に終わし、そのときは持久戦も覚悟しなければならない。まあ、その為に昼間、食糧などを調達した訳なのだろうが。

 しかし、攻めてくるポイントは確定的だ。安全確保、とまではいかないにしても、保険を掛けて損することもあるまい。

 ましてや。

 掛けているのは金ではなく、命なのだから。

 しばらく各々の案を出しつつ、広げられた地図と睨めっこを続け、

 

「じゃあ……ここと、ここはどうだ?」


 翔兵はトン、トンと地図の上にペットボトルのキャップを二つ置いた。

 表面に『デ』・『狙』と書かれたそれは中立エリアを挟むように平行に並べられ、『デ』はデコイを差し、囮役。つまり翔兵と薫の位置を示し、いわずもがな『狙』は狙撃役で憂沙戯と雫だ。

 班構成も狙撃役の雫と、命中する未来を掴む憂沙戯がペアになるのは自然のことだった。


「ん……これだと狙撃班のほうに攻撃してくるかもしれなくない? デコイをもっと西側に置いたほうが安全だと思うけど……」


 私たちが――と、ぼそっと付け加える雫。


「おい!」


「…………なによ?」


「……いや、言ってることは真っ当なんだろうけどさあ」


 突っ込まずにはいられない。

 役目を考えれば、それは当然だろうけれど……それでも命を餌にするわけなのだから、もう少し配慮があってもいいんじゃないだろうか。と、思う。

 合流してからというもの、どこか雫は機嫌が悪い。


「……これで、どうかな?」


 言って、雫はキャップを移動させる。

 数キロ続く北陸自動車道の直線、その右手側にデコイ班。そこからやや南、車道を挟み反対側にある、ビルの上に狙撃班を置いた。

 これなら、たしかに。

 敵もまずデコイのほうへと攻撃するだろうし、流れ弾が当たらないよう高低差を考えてつつ、対角に味方を置かないことも評価すべき点だ。

 雫の意見を押すように、憂沙戯が口を開く。


「わたしもこの位置はいいと思います。ここ一帯でこのビルより高い建物もありませんでしたし、中立エリアを狙撃するにおいて、死角もそうないと思います……けど、みんなはどう思いますか?」


「またビルか……」


 独り言のように呟く翔兵。

 昨夜あんなことがあったばかりだから、気が重くなる単語ではあるけれど。


「翔兵くん、そこは仕方ないやろな。地べたからやとビーム撃とうにも見えんねんし」


 そいういうことだ。

 狙撃班は中立エリアより高い位置にいることが望まれるし、勿論、囮班だって、単に囮をやるわけではない。いち早く敵を発見するために互いに高所で待ち伏せるのは必然というか、当然だ。


「……万が一、敵が死角に入るようなら、こっちから端末に連絡を入れるから。そのときは翔兵くんたちは東……自エリア中央へ逃げて。そうすれば敵はきっと私たちに攻撃してくる」


 淡々と、冷たい口調で雫はそう言った。

 雫はわかっているのだろうか? いま一瞬前に自分が言った言葉と、矛盾になっていることを。


「いや、待てよ。それだと囮の意味なくなんだろ? ていうか、お前らに攻撃いくってわかってて逃げろってのかよ? そんなこと出来るはずねーだろ」


 キッと、雫は翔兵を睨め付け、


「攻撃手段も持っていないのに、翔兵くんにあの炎、どうにかできるの?」


「……それは、どうだろう……わかんないけど……」


 いや。

 言われるまでもなく、翔兵には無理だ。

 しかし、そうだとしても女の子二人を残して男だけ逃げるっていうのは、格好悪いにもほどがある。


「できないよ。できるはずない」


 きっぱりと断言する雫。

 その言葉に翔兵は眉を寄せる。流石にそこまで言い切られては面白くない。


「でもだからって――」


「――だから私ならできるって言ってるの! 私なら炎を落とされる前に撃ち抜ける! 私じゃなきゃ敵をこ……倒せないんだから! だから翔兵くんたちがわざわざ危険になることなんてない。だから逃げてって言ってるのっ!」


 怒鳴るように言う雫。その真っすぐな視線と絡んだ。

 彼女の眼が少し、潤んでいるように見えた。


「な、なんやなんや。また痴話喧嘩かいな? いやー妬けるなぁ! 中睦まじいってのはええことやなあ! あっはっはっはは……はは……」


 空気を取り持とうとする薫が不憫でならない。

 押し負けた翔兵は小さくクソッ……と吐き捨て、


「……わかった……わかったよ、ちくしょう……」


 あなたは無力なのだから――だから私に任せて逃げろ、と。

 しかし、それが事実であるからこそ、突きつけられた言葉に翔兵もそう頷くしかない。

 しん……と、少し間が合って、


「……ごめん。ちょっと……言い過ぎた……」


 雫は謝り、申し訳なさそうに顔を落とす。


「いや……お前の言う通りだ。……俺も、悪かった」


 戦力になれない辛さ。

 役に立ちたいのに、現実がそれを拒む。翔兵は唇を噛み、拳を握った。 

 沈黙。

 しばらくして、

 パンっと。

 その空気を裂くような乾いた音が鳴り、


「――うん、だいぶ固まってきましたね!」


 両手を胸の前に合わせ、明るい口調で憂沙戯は大きく頷いて言った。


「敵に勘付かれないよう、早めにポイントには移動していたほうがいいですよね! 荷物はあらかじめ二つに分け、持ち物にもチェックを入れましょう! 別れたらくれぐれもマップ、敵の位置から目を離さないようにだけ気をつけてください!」


 空気を和ませようとしてか、いつもより元気に振舞う憂沙戯。


「もう、翔兵さん? なに死にかけたヒヨコみたいな顔してるんですか!」


「……俺はいつから鳥類になったんだよ」


「それは……ほら。初めて会ったとき、真っ白い会議室で、翔兵さん壁に顔面ぶつけたじゃないですか。あれが豆鉄砲くらった鳩みたいで」


「出会った当初から俺の位置付け鳥だったのっ!?」


 というか、よく覚えてるなあ。と、思う。

 逆に感心してしまう。


「思わず吹きかけましたもん。反逆罪になったらどうしてくれるつもりだったんですかっ!」


「あー、あれな。わしも危なかったわ」


 合わせて頷く雫。口元が緩み、笑顔を見せた。

 それを見て、翔兵も笑った。


 誰かと敵対するのは苦手だ。いがみ合うのは好きじゃない。

 言い争うのも好きじゃない。こういう笑っていられるときが、一番好きだ。

 だからこそ、守りたい、と思った。

 だからこそ、自分に力がないのが、悔しくてたまらなかった。


「……生きて帰りましょう。“みんなで一緒に”――ですよね? 翔兵さん」


 笑顔で鼓舞を打つ憂沙戯。


「ああ、もちろんだ。生きて帰る。絶対に……っ!」


 絶対に、と。

 その言葉の裏に潜むのが不安、劣等感であることを、少年はまだ知らない。


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