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温かさ

 その事件のせいで、浩之は顔、両腕両足に大火傷を負い、失明してしまった。そして今は病院で治療を行っている。

 浩之がこの病院に入院してから一週間が経った。浩之の身体には痛々しい火傷の痕が残っているものの、痛みや痒みは大分引いたようだ。

 しかし問題は目だ。浩之は自分の目が見えなくなったことに相当ショックを受けている。それもそうだ、今まで見えていた目が、知らない男によって一瞬にして奪われてしまったのだから。幸い犯人は捕まったのだが、そんなことは浩之にはどうでもよかった。どうやったって自分の目は戻ってこない、そのことしか考えられなかったのだ。

 浩之は今も病室で安静にしている。ただ、浩之の心の中はもうぐちゃぐちゃで、何がなんだかわからなくなっていた。

 今まで浩之はお手本のような親思いの子供だった。そして、延子と和彦も一人息子の浩之を本当に可愛がっていた。絵に描いたような幸せ家族だった。しかし、あの事件のせいでその素晴らしい関係が壊されてしまった。自分の事など誰もわかってはくれないと決めつけ、病室に入る両親に心を閉ざす浩之。それに対し、息子の痛み、そして心の痛みもとてもよくわかっているのだが、それを伝えることができない延子と和彦。完璧だった家族が、真っ二つに割れてしまった。

「コンコンコンコンコンコン」

 誰かが浩之の病室のドアをしつこくノックした。

「・・・・・・・・・」

 しかし浩之は返事すらしない。あの事件以来ずっとこの調子だ。

「入りますよ~」

 浩之が返事をしないので、外にいた誰かが恐る恐る中に入って来た。

「浩之!」

 病室に入って来た人が大声で名前を呼んだ。病室に入って来たのは浩之の学校の友達だったのだ。しかも二人。健一と優斗(ゆうと)だ。

「しっ! 病院は静かにしなきゃいけないんだよ」

 注意したのはしっかり者の優斗。

「優斗! 来てくれたの?」

 浩之はムクッと起き上がって嬉しそうに笑った。

「オレもいるぞ」

 健一が小さな声で言った。

「先生がここに浩之がいるって教えてくれたんだ。それで、ほら、お前の好きな物いっぱい持って来たんだ」

 優斗と健一は、持ってきたナップザックを浩之のベッドの上に置いた。

「ほらサッカーボール! 体育倉庫から持ってきた。それにグローブとボールも!」

 二人はナップザックに入っていた物を、次から次へとベッドの上に出していった。

「ありがとう」

 さっきまで卑屈な態度をとっていた浩之が、ニッコリと笑い二人にお礼を言った。やはり友達が来てくれたことが、浩之には単純に嬉しかったのだ。

「それと~、お前から借りてたマンガ!」

 健一が数冊のマンガをベッドの上に置いた。

「ありがとう」

 浩之の表情が少し曇った。

「お前に借りてたゲームも!」

 今度は優斗がゲームソフトをベッドに置いた。

「ありがとう」

 また浩之は元気のない声でお礼を言った。

 その後、浩之は健一達から学校で起こった事や他の友達の事などを聞いた。久しぶりに友達と話せたこの時間は、浩之にとって、とても幸せな時間だった。でも、幸せな時間はあっという間に過ぎてしまった。

「じゃーな浩之!」

「おう、またな!」

 優斗と健一が病室を出て行く。浩之は、二人の声がする方へ大きく手を振った。

「バタン」

 病室のドアが大きな音を立てて閉まった。

「静かに閉めろって」

 病室の外から優斗の声が聞こえた。相変わらずな友達に、浩之の口元が緩んだ。

 しかし、病室から友達がいなくなった今、浩之に再び暗い闇が襲いかかる。何故自分はあんな目に遭ったのか? 何故目が見えなくなったのか? 何故自分がその被害者なのか? 何故友達は学校に行っているのに自分はここにいるのか? 浩之の頭の中はぐちゃぐちゃになった。

「うわあー!」

 浩之は奇声を上げながら、健一が置いていったマンガを床に叩きつけた。

「うわー!」

 もう制御が効かなくなっていた。グローブ、ボール、テレビゲーム、浩之は何これ構わず床に叩きつけた。

 その時、「ガラッ」という音とともに誰かが浩之の病室に入って来た。ノックもせずに。浩之はバッと布団を頭まで被った。

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