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まじかるタイム  作者: 匿名
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第80話:魔法の時間の終わり

「何それ、バグって……そんな言い方……。」


「ごめんね。でもどう言い方を変えても、あの子は世界に取ってはバグなのよ。そもそもバグを取る役目の私達がバグだって認識してしまう事その物が、あの子の異常性を表しているの。私達は真魔の力によって世界の異常を察知する事が出来るわ。例えば真魔の様なイレギュラーが生まれたり、バグが生まれるような時にはそれが分かるのよ。」


「成程、世界からの警報みたいなものか。デバッガーというより、世界に取っての正義の味方と言った所だな。悪が蔓延るとすぐさまそれに気付いて対処をすると。」


「あ、命ちゃんそれいいね。これからは正義の味方って名乗ろうかなー。」


「桜……、世界の事を正義とか言うと、天使の事大好きな人達に襲われるわよ。寧ろ襲うわよ、私が。」


 シュリがあからさまに苛立った様子で桜を睨みつけると、桜もビクリと体を震わせてカラ笑いをした。新羅達が真面目な顔で真剣な話をしている横でこんな会話をするものだから雰囲気がぶち壊しである。だが、新羅はそんな中でもシリアスな雰囲気を壊さぬように真面目な顔のまま続けた。


「この子達の事は放って置きなさい。……あの子がバグとされる理由は幾つかあるわ。まず第一に男である事。これはさっきも言ったけど、世界のルール上では女の真魔しか生まれない筈ってルールを破っているわ。」


「まあ、私達からしてみればたまたま初めて男の子が生まれたんじゃないのかって言いたいですけどね。高魔力保持者って善人が多いんでしょう? 偶然翔君がその枠に入れるくらいの善人だったって可能性も……世界に取っての善人って基準も良くわからないですけど。」


「そうね、でも結論から言ってそれはないわ。そもそも真魔の魔法と貴女達の魔法では根本的に違う。貴女達の中から真魔の資質があるものが生まれるって前提が違うのよ。真魔は真魔の血筋からだけ生まれる、そして真魔は女しか生まれない。これは絶対のルールなの、偶然で捻じ曲がるものじゃない。だからこそ真理って言われるのよ。高魔力ってのは単なるおまけ、真魔になる際にある程度の知識と良識が世界から与えられるから、それによって善人の要件も満たして、高魔力になるってだけ。前提が違うわ。」


「……難しい……。」


「つまりは高魔力だから真魔になるんじゃなくて、真魔は世界から優遇されてるから勝手に高魔力になるってわけ。分かるかしら?」


 詰まるところ真魔というのは、第一に真魔からの血筋である事、第二に女である事を条件としている存在で、真魔として生まれると知識と良識がある程度世界から与えられるが為に、善人が高魔力保持者になるというルールに引っかかる。だから翔や新羅達は高魔力保持者として生まれたという訳だ。


「それで……、つまり、翔君は男の子だからバグって呼ばれてるって訳ですか?」


「まあ言うなればそういう事ね。真魔として生まれるはずのない男の子って訳。」


「……なーんだ。さっきから突拍子もない話ばっかりで、世界を滅ぼしたりとか、世界に居られなくて消えちゃうっていうのを想像しましたよ。」


「あら、分かってるじゃない。」


「え……?」


 魔夜がホッとして不安を口に出した次の瞬間、新羅は真面目な顔を変えずにそれに同意した。一瞬弛緩したかの様に見えた場の空気が、また緊張に支配され始める。軽口を止めて黙ったままのシュリや桜達も、新羅の言葉を否定しなかった。


「ちょっ、ちょっと待って下さい!! どういう事ですか、それ!!」


「魔夜ちゃんが言った通りの意味よ。少なくとも世界の認識では、翔坊君は世界を滅ぼしたりする可能性を持ってる。更には、それが原因で世界から消される可能性も持ってるのよ。」


 ぼかすでもなく淡々と言い切った新羅に、先程その事を言った当人である魔夜も呆気に取られて茫然としてしまった。これは質の悪い冗談だろうか、それとも本気でそんな物語の中のフィクションの様な事を言っているのだろうか。確かに、今までの話も大分非現実染みたものだったが……。


「い、いや、私、さっきのはただの冗談で……。」


「でも、これは冗談でもなんでもないわ。そもそも私達がバグと呼ばなければならない理由も、優ちゃんが翔坊君を守るために必死になる理由もそこにあるんだから。」


「でもそんな、男の子ってだけで!!」


「それが凄く重大な問題なのよ。翔坊君が男の子の真魔として生まれたイレギュラー、それがイレギュラーである限り、問題は残る。」


 話を聞いただけの彼女達には、翔が男であると言う事がそこまで重大な事実であるようには思えなかった。男と女が変わるだけで、そこまで大きな変化があるのだろうか、それは部外者であるが故に分からない事なのか……。


「正確には男とか女である事自体が問題な訳じゃないのよ、世界のルール上では起こりえない事だから問題なの。実際、その一つが違うせいで、翔坊君が私達と違う部分がもう一つ出来てしまったのよ。」


「違う部分って、さっき理由は男である事だけだって言ったじゃないですか。それがなんでそんな消されるとかいう話に……。」


「ええ、バグと言われる理由はそれだけよ。でもその世界からバグと認識される事で、翔坊君は世界に嫌われてしまった。私達真魔は世界の味方であり、協力者である筈なのに、その真魔の一人である翔坊君は男の子ってだけで世界から敵扱いをされてしまったの。翔坊君の性格とか云々は世界にとって関係ない。世界にとっては、世界を滅ぼすかも知れないイレギュラーとして認識されているのよ。」


「そんな、世界を滅ぼすなんて翔さんはそんな事しません……。あ、そうです、そういえば真魔って世界からも何も出来ない、凄い力を持ってるんですよね? 別に世界から敵扱いされたって……。」


 真魔の力については先程よく聞いた。世界に干渉出来て、世界から干渉されない力、まさに無敵の力だ。真魔の力よりも下に位置する世界のシステムとやらが翔の敵に回った所で、結局世界は翔に何も出来ないのではないか。


「そうね、確かに真魔の力は世界からの干渉すら受けないわ。いくら翔坊君が世界に取って邪魔でも、直接どうにかする事は出来ない。真魔の力は、無意識の内に全ての害から翔坊君を護るわ。」


「なら安心じゃないですか。いくら世界が翔さんの敵に回っても、それなら無敵です!! 世界だかなんだか知りませんが、翔さんが無事なら私的には何も問題はありません。翔さんを邪険にする世界なんてどうにでもなってしまえばいいんです!!」


「……美里ちゃん、良い事言った……。」


 完璧に翔本位の考え方をしている美里の発言に、当然だとばかりに頷く真夕であった。そんな二人の発言には他の聞いていた面々も思わず苦笑を漏らしてしまったが、内心ではかなりホッとしていた。翔が消されるだなどと言われては、正直心中穏やかではいられなかったのだ。しかしそんな皆の前で、新羅は少し言いにくそうに視線を泳がせつつ、溜息をついた。


「美里ちゃん、忘れてない? 私達は世界から外れながら、それでも世界の中で生きてるってこと。」


「それが……何か関係あるんですか?」


「ええ、関係大アリよ。さっき言ったでしょう? 私達は普通には死ねない、心がある限り真魔の力で護られてるって。だから世界のルールでは私達を消せない。ならどうすれば死ぬのか、さっき話したわよね? 真魔の魔法が発動しなくなればいいの、つまり……。」


「それって、まさか心を……!? なら、その方法って……。」


 新羅の言葉の中から可能性を導き出した美里の顔は驚愕に歪んでいた。先程から話していた真魔の力、不死であり不老である彼女達が死ぬには真魔の力の発動を抑えなければならず、その方法はただ一つだけだった。つまりは翔の心を壊してしまえば済むということ。しかし美里を除いた他の面々には、その自体がイマイチ飲み込めていないようだった。


「えっと、でも心を壊すにしても、世界は翔君には手を出せないんじゃあ……。」


「確かに翔坊君には手は出せないわね。でも、さっきも言ったように私達は世界から外れながらもその中で生きているの。だから様々なものに影響を受けるわ………気付いていないかも知れないけど、澄ちゃんもまた、今回の事の当事者なのよ?」


「私が当事者……?」


「新羅さん……まさか、澄が翔ちゃんの魔力の暴走に巻き込まれたのって……事故じゃないの?」


「……事故と言えば事故ね。そう、不運な事故よ。でもその不運っていうのは一体何によってもたらされるのかしらね。」


 琴がふと言った言葉に、新羅は苦笑混じりにそう返した。その内容はまさに答えそのものである。不運な事故、確かにそうだ。誰かが意図的に起こしたものではない、だが誰かではなく、実体のない何かが意図して起こしたものを、人は一体なんと呼ぶのだろう。


「宗教家なら天罰って言うのかしら……本当に、あの子は罰を受けるべき何かをした訳でもないのに……理不尽よね。」


「……なら……翔君が世界からされた攻撃って言うのは……。」


「ええ、ご想像の通りだと思うわ。翔坊君から奪われたのは……澄ちゃんでね、三人目なのよ。」


 三人目、奪われた、その表現だけでは一人目と二人目がどうなったのかも、誰なのかも分からない。しかし、それが差す意味は理解出来る。


「三人目……なら、もしかしたらこれからも……翔さんの周りの誰かが……。」


「それは大丈夫。それをさせない為に優ちゃんがいるんだもの。それどころか、今の翔坊君は世界から守られる立場にある。真夕ちゃん、そして美里ちゃんと魔夜ちゃんの存在がそれを証明しているから。貴女達の存在は、優ちゃんの計画に世界が乗ってきた証拠よ。」


「そ、そうなんですか? そういえばさっき、渚先輩が優の計画に都合がいいとかなんとか言ってましたね……。」


「そういえば……それに私達はともかくとして、翔君が世界から守られてるってどういう……。」


「そう、それよ!!」


 美里の言った可能性を新羅が否定した事で少しだけ緊張が和らいだその瞬間、シュリが突然に机に身を乗り出して新羅に詰め寄った。


「私が聞きたいのはその事よ!! 天使はいきなり私達の事忘れてるわ、進はじじいになってるわ、桜は天使と同化してるわ、挙句の果てに天使に恋人が出来るとかどういう事よ!! そんな美味しい計画があるなら私も混ぜなさい、というか何があったのかちゃんと説明して!!」


「ほらほら、シュリもちゃんと落ち着いて。いま説明するから……。」


 新羅は『こほんっ』、と可愛らしく咳払いをすると、もう一度その場にいる面々を見渡した。全員が真剣だ、良くもこれだけいい子達が翔の周りに集まってくれたものだと感謝するほかない。……きっとそれは、世界からの影響だけではないはずだ。翔が自分の力と魅力で集めた女性だからこそ、本心から愛してくれた女性だからこそ、きっと優も翔の事を預けようと思ったのだろう。本来ならば今ここに一番居なければいけない人間が欠けている事実、それはつまり、彼女達ならば翔を任せられると思ったからなのだろう。なら、そんな風に信頼された彼女達には全部知ってもらうほうがいい。


「優ちゃんからは言わないように言われてたんだけど……仕方ないわね。」


「しっ、んっ、らっ!! 勿体ぶらないの!!」


「……もう、分かってるわよ。じゃあ、取り敢えず最初から説明しましょうか……。」













――――――

――――――――

――――――――――














「………翔、寝てるわよね?」


「……………。」


「ふふっ、可愛い。」


 夕暮れに染まった部屋の中、何もない場所から現れた優は、静かに寝息を立てる翔の傍らに腰を下ろし、優しく髪を撫でた。


「最初は真夕と美里辺りが居れば十分だと思ったのに……なんというか、本当にこんなに増えるなんてね。」


 クスリ、と笑いながら優は呟いた。今なら下の階では新羅が翔の事を伝えている頃だろう。


「何人残るかしら……なーんて、全員残るんでしょうね。あの子達良い子だもの。」


 そう言いながら笑った優の瞳は何処か寂しげで、そんな瞳を翔に見せてはならないと、寝ているのは分かっていてもつい視線を逸らしてしまう。


「翔を害するやつ、利用するやつ……そんな存在はもう居ない。後はあの子達が翔を癒して全てが終わる。真夕と美里辺りはきっと、進さんの様に不老不死になって翔と一生を過ごす事を望むでしょうね。そうなれば翔は、一生誰かの愛を受けて生きられる。」


 そう、それこそが自分の望み。望みの筈だ。自分以外の誰かでもいい。


「なんて、嘘ね。本当は新羅さん達も、あの子達も要らない。ふふっ、そんな事を翔に言ったら幻滅されちゃうかしら。」


 そう口には出しても、そんな事はないだろうと予想はつく。きっと翔は怒らないし幻滅もしない、ただ一心に私の事を思って済まないと言ってくれるだろう。この状況を望んで作り出したのはこの自分自身だと言うのに。


「……あの子達には偉そうな事言ったくせに………結局、一番翔を傷つけたのは……。」


 こんな自分を、翔は許してくれるだろう。自分がどんな罪を犯しても、翔ならばきっと許してくれる。翔は絶対に自分の味方になってくれる。欲しい言葉をかけてくれる。それが分かるくらい長い時間一緒に居て、翔を見てきた。


「………恋人になる資格なんてないのに、親友になる事も辞めちゃって………でも、私はずっと……翔だけを……。」


 優はうわ言の様に呟きながら、翔の唇に自分の唇を寄せていく。


「………翔、思い出さなくていいの。辛い事は全部、私と一緒に忘れていいの。それでも、私はずっと翔を愛しているわ。親友になれなくても、恋人になれなくても、母や姉や妹や、家族になれないのだとしても。私はずっと、愛しているわ。貴女と歩む資格はなくても、想い続けることだけは辞めないわ。私はそうして生き続ける、何があっても、貴女を愛する人が居なくならないように……。」


 夕暮れに照らされたその表情を見ているものは誰もいない。唇を軽く触れあわせる音が聞こえ、優の姿が闇に溶けていく。いつの間にかその温もりも、夕暮れの光と共に消えていった。




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