第64話:美里と命(後編)
大変お待たせいたしました。というのも、今回の文章量はいつもの3倍くらいあるからだったりします。慣れない事したせいで編集も遅れてしまい、大変申し訳ございませんでした。
他の作品の中にはこのくらい書いている方もいたのでちょっと真似して2、3話分一気にやってみたのですが……皆様からの御意見、御感想を作者の構成力向上の為に宜しくお願い致します。
「えっと、お邪魔しますで良いのかな……?」
「しょ、翔殿!? あぁ、えっと……ど、どうぞ……。」
美里に先に部屋に行くように促されていた翔が命の部屋をノックをすると、中から入って良いと命から返事があったので、そのまま中へと失礼した。
特に下心があって来ている訳ではないし、落ち着いていれば良いのだが……命が明らかにテンパりまくっているのが翔にも移ったのか、凄くいたたまれない気分になってくる。第三者が見たら見合いの席か何かかと思うだろう。
「えっと、美里に先に行っていてくれって言われたんだけど……その……なんかごめん。」
「いや、翔殿が謝る事は何もない、美里にも用事があるのだろうし。……そもそも、元はと言えば私の両親が原因なのだ!! 翔殿を殆ど無理矢理に………。それにこんな真似、美里まで同意するなんて思ってもいなかった。……っと、すまない、そこらに座ってくれ。そうだな、じきに美里も来るだろうし、そこのソファーの右端に座るといい。美里はどうもその辺りが気に入っているらしいからな、どうせ隣に座りたがるだろうし。」
「ああ、分かった。……それと、俺は気にしてないから、無理かも知れないけど命もあんまり気にしないでくれ。俺の方は若干予想はしてたからな………経験則の関係で……。」
翔の最後の呟きは命には聞き取れなかった様で、命は首を傾げた。本来なら同衾等は全力で拒否しなければならないのだろうが、澄や真夕の時にも感じた『私では嫌ですか?』オーラを受けるのは遠慮したかった。
それから暫く無言になってしまった。何かと間が持たないのは、翔に原因があるのか、命に原因があるのかは分からないが、二人とも、何となく話難い感じだ。沈黙の中、耐え切れなくなったのか、唐突に命が切り出した。
「そ、その………わないだろう……?」
「………?」
命は何かぼそぼそと言ったようだが、翔は良く聞き取れなかったので返事が出来なかった。
命もそれを察したのか、一拍置いて、恥ずかしそうに言った。
「わ、私に似合わないだろう? こんな部屋……。」
「はい? えっと………部屋?」
翔は命に言われて初めて、気が付いて辺りを見回した。どうやら緊張し過ぎて周りが見えていなかったらしい。
命の部屋は、確かに翔が予想していた雰囲気とは大分違っていた。和風な感じのする他の部屋とは違い、和洋折衷といった感じの部屋だ。それに、予想以上に女の子らしい部屋だ。命の性格から、さっぱりした感じの部屋を予想していたのだが……前に入った琴の部屋程に、特別ファンシーという訳ではないが、縫いぐるみや、華やかな装飾、化粧台等が『女の子の部屋』を主張している。今は男の部屋にもたまに置いてあるらしい縫いぐるみが女の子らしいと言うのは、琴の部屋の影響かも知れないが……と、翔は心の中であの猫だらけの部屋を思い出しながら何やら自分の反応を待っているらしい命の方へ向き直った。
正直な所、命の部屋に関しては、決してそれが似合わないという事はないと思う。命の普段の雰囲気からして意外ではあったが、これくらいは普通だろう。いや、寧ろ良い感じなのではないだろうか?
「そんな事もないと思うけどな。それに女の子らしい感じがするし、可愛い部屋だと思うけど……。」
「うっ、だ、だが、こういうのはやっぱり美里とか先輩方みたいな人の方が似合うと……。」
「何言ってんだ。別に命がこういうのが好きでもおかしくないだろう? 似合うとか似合わないとかは基準が良く分からないけど……もしかして、気にしてたのか?」
「その……あまり人を部屋には入れないし、今までは別段気にしていた訳ではないのだが……やはり、変に思われるのではないかと思って……。神斗にはいつも『姉さんの趣味は普段からは全く想像出来ないなぁ』って言われているし……。」
確かに、自分自身も意外に思ってしまったのは事実だし、本人としては気になるものらしい。命に対しては可愛らしいと言うより凛々しいイメージが先に来る事もあったのは確かだし。
とは言え、確かに真面目な性格なのは分かっていたけど、初めて合った時から、女の子らしい華やかさも命からは同時に感じていた。特に今は、湯上がりで濡れた長い髪が解かれ、いつものポニーテールでなくなっているのもそう見せる一因としてはあるのかも知れない。女の人は髪型が変わると雰囲気が一転してしまったりすると言うが、確かに今の命からは凛々しさよりも可愛らしさが先に感じられる気がする。
「んー、確かに凛々しいイメージが命にあったのは認めるけど、命はどっちでもいけると思うぞ? そうやって照れてる所とか、初めて見る身としても凄く新鮮だし、美里や先輩達にだって見劣りしないと思うけど?」
「て、照れてなんて……っ!! そ、それに、翔殿はそうやって次から次へと新しい女性を喜ばせようとして………だ、駄目だぞ、浮気は。そういう言葉は美里に言ってやってくれ、あれでも嫉妬したりもするんだからな。さっきも、翔殿と二人の時に話した事とかを洗いざらい聞きたがっていたし。美里は聖母ではないのだし、そういう感情も多分に持ち合わせているんだからな。」
「へぇ、美里がそんな事を聞いてたのか。……でも……浮気ねぇ……?」
そういえば、今自分が置かれているかなり複雑な状況を命にはまだ話していなかった。先程は話そうとした矢先に美里の襲撃(?)があったので話せなかったのだが、今の内に話しておくべきだろう。命は美里の親友である事もあるし、翔としてもこのまま何も知らせないのは少し心苦しい。命は美里の良い理解者であるし、他人を思いやる事も出来る人間に見える。それを騙しているようなものなのだから。
「なぁ、命。」
「……まぁ、もし万が一美里以外の女と……。なんて事になったら、その女と一緒に切り刻んでコンクリートに混ぜた後、海に捨てるつもりだから覚悟して欲しい。まぁ、美里なら翔殿を不満に思わせる事もないだろうから特に心配はしていないが。」
「………そうか……そうだな、気をつける……。」
うん、優しい嘘って言葉もあるもんな。誰に対して優しいかはともかくとして、今、命の眼の色が変わったのは流石にちょっと決意を鈍らせた。先程美里が暴走した時に見せた眼に感じが似てなくもない。というかそっくりである。流石は幼なじみと言った感じなのだが……とても困った。さっき、せめて気持ち的な部分は誠実でありたいと思った所なのに……。
「と、ところで翔殿。先程言いかけた真面目な話と言うのは……。」
「あ、あーそれな。いやー、何だったかな。……あはは……忘れたかも。」
「……忘れた………?」
……何故だろうか、寧ろ命が不機嫌になった気がする。自分は何かマズイ事を言ったのか? と、翔が苦悩している間にも、翔には命の機嫌が悪くなっていく気がした。
「忘れる様な事だったのか? その真面目な話というのは。」
「ああ、いや、大切な話だし、命には知っていて貰いたい事なんだけど……。」
「なんだ、覚えているじゃないか。」
「…………。」
沈黙した翔を、命が疑い満点の表情で見つめる。翔にとって辛過ぎる沈黙が続いた。だが、その沈黙も直ぐに敗れ去った。
コンコンッ
「むっ、美里か。遅かったな、神斗がまた何かやったのか?」
「いえ、私用で少し…………翔さん? どうされたのですか?」
「えっ? ああ、何でもない……事はないんだけど……。」
「聞いてくれ、美里。翔殿から大事な話があるらしいのだが、焦らして教えてくれないんだ。」
「翔さん、そうなのですか?」
ドアをノックして入って来た美里に、一瞬場の空気が元に戻ったが、直ぐにまた同じ沈黙が訪れた。
だが命の話を聞いた後に、美里の前で命に真夕達との事は話したくはなかった。確かに美里がその場に居れば、美里自身が命の怒りを抑える事は出来るだろうし、事実、美里は翔の味方をするだろうが、命の気迫に一瞬決意が鈍った手前、それが美里を利用する様で翔は釈然としないのだ。
確かに、美里自身が納得しているのだし、命はそういう意味では部外者なのだが………翔自身が、エゴだと分かっていても気になってしまうのだ。……そういう点では翔も潔癖症な所があるのかも知れない。翔は美里に見つめられて、ふとそんな事を考えてしまった。
「翔さん……?」
「……いや、やっぱり後で話す事にするよ。ごめんな、命?」
「い、いや、それは構わないのだが……………もしや、美里がいるとマズイのか……? いや、それでは美里を裏切る事に…………っ!?」
「……命ちゃん、どうしたのですか? 少し顔が赤いですよ?」
「な、なんでもない!! 今日は少し暑いかも知れないな。」
「そうでしょうか……? あ、そういえば命ちゃん。」
部屋に入ってから立ったままだった美里は、命の予測通りに翔が座っている隣に腰掛けると、不思議そうに命を見た。
「今日は、浴衣にならないんですね? お風呂の前から着ている事もあるのに。暑いのもそのせいでは?」
「………み、美里っ!? 今日はその……先程、湯浴みの時に言ったではないか!! もしかして、聞いていなかったのか?」
「ああ、そういえば言っていましたね。男性の前では恥ずかしいから、今日は浴衣になるのを止めると……。」
「っぅ〜〜〜っ!? 美里、何でわざわざ言うのだっ!?」
「浴衣か……そういえば神斗君もそんな事言ってたな。」
美里がそういってクスリと笑うと、命は真っ赤になって美里を睨んだ。睨んだといっても戯れている様なものに見えるが、何故か命は焦っている様にも見えた。
「翔さん、見たくありませんか? 命ちゃんの浴衣姿。髪を降ろしている時の可愛さといったら三国一なんですよ♪」
「あ〜ぅ〜………美里、一体どうしたというんだ……。翔殿もそんなもの見たいだなんて……。」
「………あー、見たいかも知れないな、浴衣姿も。滅多に見れる物じゃないし。それに見てるだけでも涼しげな気分になれるからな。」
「しょ、翔殿!? 浴衣姿ならば美里のを見れば良い!! 言えば何時でも見せて貰える筈だ!!」
「ふふふっ……これで決まりですね、命ちゃん。先程お母様達が持ってきた着替えにも浴衣は持ってきてありませんでしたし、私の浴衣姿はまた今度見ていただきます。」
美里はそういって命のクローゼットの方に歩いて行くが、命の手が美里を阻んだ。命を見ると、明らかに焦った様な表情をしている。恥ずかしがってと言うより、本気で嫌がっている感じがした。翔もそれに感づいて言った。
「いや、いいよ。それは次の機会にしよう。夏祭りにでも見せて貰えばいいさ。」
「……翔さん、駄目ですよ、今見るべきです。さぁ、命ちゃん、どいてください。見ていただきましょう。」
「美里、翔殿もああ言っているし、また今度に……。」
「それも駄目です、命ちゃん。と言うより、今は命ちゃんの意思は聞いてません、私ももう、焦れったいんですよ。」
美里のあんまりと言えばあんまりな言いように、命も美里が本気で言っていると気付いたのか、明らかな動揺を見せた。
「み、美里!? こんなの……本気で冗談じゃないぞ!? 今日はどうしたんだ? ここに来てから美里は少しおかしいぞ。父様と母様もそうだし、神斗もいつもとは違う。少なくとも神斗はあんなに無茶苦茶で聞き分けのない子じゃなかった!! 美里だって私が嫌がる事をするような事は………私が何かしたのか!? 私がお前達に何か……っ!!」
「み、命……?」
命はそう言うと半分泣き顔の様になってその場で沈黙してしまった。翔は突然の事に驚いて、クローゼットの前で立ちはだかる命を見つめるしかなかった。
だが、美里は翔とは別の、少し悲しく、だが、優しげな瞳で命を見ていた。
「やっぱり此処までしても、何も話してはくれないんですね。まぁ、命ちゃんの性格は分かってますから、私に言えるとは思ってませんでしたが。」
「え………?」
「命ちゃん……もう二年くらい前になるでしょうか? 貴方が嬉しそうに、一度だけ語った出来事。私は衝撃的だったのでよく覚えています。でも命ちゃんは、私に話した事を覚えていないのでしょうね。」
「………美里? 二年前って………?」
命が驚いた様に美里を見た。一方美里は翔に視線を移して、自分がこの場所に居て良いのか分からず、静かにその場から立ち去ろうと腰を上げかけた翔に、この場にいるようにとアイコンタクトを送った。
「命ちゃんが浴衣を家で着るようになったのもその辺りの時期でしたね。……可愛い物なんて自分には似合わないなんて言ってたのに、浴衣だけは着るようになって。私には、理由が簡単に分かりましたが。」
「そ、それがどうしたというんだ。それに理由なんてない、ただの趣味で、気まぐれだ。」
「弟さんも、喜んでいたみたいですよ? 自分を自由にするために当主に相応しく在ろうとした姉さんが、やっと少しは自由に振る舞ってくれたって。」
「なっ………!?」
美里がしれっとそう言うと、命は言葉も出ないという風に茫然とした。
そんな命に、美里は可笑しそうに微笑みかけた。
そして少し、命に近付く。
「皆、ちゃんと知っていますよ。命ちゃんのご両親も、弟さんも。貴方がどれほどに頑張ってきたのか。弟さんが家に縛られずに生きられる様に、どれほど我慢したのか。………魔法学と違い、武道に関しては筋力の問題もありますし、男が継ぐ物という見識もあります。だから命ちゃんは能力だけでなく、その他も武芸の家の当主『らしく』あろうとしたんでしょう? 女が家を継ぐ為に。周りが文句を言いにくい様に。」
「…………そうだ。だが、別に私は自分を犠牲にした覚えはない。私は私の為にそうしたんだ。確かに昔から神斗は訓練を嫌がり逃げ出したりしていたが、それがなくとも私はこうしていた。」
「ふふっ、貴方がそう言うならそれで構いません。」
命の言葉に、美里はまた、優しく微笑んだ。まるで、褒められて照れている子供を見つめる様に。命は少し居心地悪そうに視線を逸らしたが。
「ですが、話はまだ終わっていませんよ? 私は覚えています。私に話してくれた、夏祭りの、私と逸れてしまっていた時の話を。さっきも言った通り、衝撃的だったんですよ? 命ちゃんが私と一緒にいる時に、私や、命ちゃんの家族以外の話を楽しそうにするんですから。凄く嫉妬しちゃいました。あんな事は、今まで初めてでしたし。」
「……夏祭りの……。」
「ええ、命ちゃんが覚えていないのも無理はありません。内容も殆ど掴めない、ほんの些細な会話です。ですが、私は覚えています。命ちゃんの浴衣姿を見る度に、何度も命ちゃんから聞かされてる様な気になりましたし。あの時、命ちゃんが照れながら言った、『浴衣姿を褒めて貰った』って言葉。命ちゃんが、凄く嬉しそうに、何処かで取ってきた小さいカメの人形を大事そうに抱えながら言ったんです。……そういえば、あの人形は何処にあるんです? いつもはベッドの上にありましたよね?」
「それは……。」
美里がそれを言った途端に命の顔が一瞬で青ざめた。翔も何事かと思ったが……命がこちらを見ているのに気付いた。
「あんな笑顔されたら、興味のなかった私にだって分かってしまいますよ。命ちゃんが、その相手を気にしている、或いは好きになったのだという事くらい。」
「……そんな事はない、美里の勘違いだ。私達が褒められる事くらい大して珍しい事ではないだろう。あれは、暇潰しに行った店で人形が取れたから喜んでいただけだ。あの言葉は、人形を取って喜ぶなんて子供っぽいと思われると思って、恥ずかしかったから……。」
「確かに、こう言っては何ですが、命ちゃんも私も周りから褒められ慣れていますし、それが世辞でない事も分かっています。……馴れ馴れしい方に、自分勝手な方、自分の気持ちを伝える事ばかり考えて配慮に欠ける方ばかりですし、好意などを寄せられても困ってしまいますけれど。……とはいえ、私はもう、褒めて頂きたいただ一人の方が見付かりましたから、他の方がどんな方であろうと興味もありませんが。」
美里が自分の方を見て言ったので、翔も美里を見て、つい微笑み返してしまった。褒められ慣れているのは、やはりそういった接待じみたやり取りに慣れているという事なのだろうか? これから九条院の集まりに呼ばれる事もあるかも知れない以上、翔自身も覚悟はしておいた方が良いかもしれない。
そして、美里がそう言うのを聞くと、命も安心した様に苦笑した。
「私だって同じだ。あれは褒められたから嬉しかった訳じゃない、今言った通りの理由だ。」
「そうですか、でもそれはおかしいですね。」
「……まだ何かあるのか? 何もおかしな事はないだろう。」
話を続ける美里に対して、訝しむと言うより苛立った様子の命が言った。
だが、それを気にした様子もなく、美里はまるで惚けた様な口調で答えた。
「実はその時、弟さんが見ていたんですよ。命ちゃんと……恐らく命ちゃんが恋した青年が、一緒に居て、青年の方が人形を取ってあげていたのを。」
「……み、見ていた!? か、神斗がか!?」
「はい、間違いありません。あの弟さんが、命ちゃんを見間違えるとは思えませんし。断言していましたから。相手の顔も覚えているそうですよ? それどころか、なんと素性まで調べたみたいですね。何とも姉想いではないですか。若干行き過ぎな気もしないではありませんが。」
「…………神斗が………。」
美里がそう言い放つと、命は何も言えなくなって俯いてしまった。そこまで聞いて、話に加わっていなかった翔も、自分が無関係ではなさそうな事を何となく悟る事が出来た。
「……私もあの時、直ぐに気付かなかったのはどうかしていました。命ちゃんは翔さんと私が出会った時、あの場に居ましたよね? でも、私が翔さんにぶつかって倒れたのに、声をかけるでもなく、ただ見ていただけなんて、そんな命ちゃんは明らかにおかしいんです。……だって、命ちゃんは知ってる筈ですものね、私の、人の感情や思考さえ汲み取る、異常な気配への敏感さを。先程翔さんが拉致されたと勘違いした時は、私も頭に血が上ってしまい皆さんに敵意がない事も感じられませんでしたが、平常なら、それこそ目の前にいる人どころかこの屋敷内にいる人間の気配や悪意くらいなら、意識しないでも感じられますよ? そんな私が人にぶつかって倒れるなんて、それこそ異常なのは命ちゃんも気付く筈です。それに、私が恋に焦らざるおえない様な状況で、周りから見れば間に合わせに恋した様にも見える相手を簡単に信用して、あまつさえ無条件で応援するなんて、私が命ちゃんの立場なら絶対に有り得ません。少なくとも相手の事を調べるくらいはしますよ、大事な親友の将来の相手になるんですから。」
「そう、確かにそうだな……。だが、ここまで私を追求してくるということは……美里は、全部知ったのか。」
「……隠し事は無しにしましょう、命ちゃん。私は正直な貴方だから親友で居たいと思うんです。親友に隠し事なんて水臭いですよ? このままでは私は、翔さんに心から愛して頂く事も出来ません。誰かに遠慮をしたままなんて、翔さんにも失礼でしょう?」
「だがな……。」
命はそういって言葉に詰まると、視線を翔と美里の間で行き来させた。
はっきり言って、此処まで聞いて理解出来ない程に翔は愚かじゃない。だが、この状況で何と言っていいか分からないのは翔も命も同じだった。特に翔の方に関しては、その出来事を覚えてすらいない。
「命ちゃんは自分の事を低く見てしまいがちですからね。さしずめ、自分は女の子らしくないから翔さんには釣り合わないとか思っていたのではありませんか? こんな事は自画自賛の様で言いたくはありませんけど、命ちゃんは、翔さんが自分が好きな相手だから私を任せたいと考え。更に、私なら翔さんに相応しい女性だと考えたから応援してくれた、違いますか?」
「………ああ、違わない……全部美里の言う通りだ。」
「命……。」
話を纏まると、命は翔に好意を寄せているという事になる。神斗の行動の目的も、美里の少し不可解な行動も、命の両親の翔への態度も、これで納得はいった。つまりは、皆最初から知っていた訳だ。命が自分を好きになった時の話は……正直直ぐには思い出せそうにない。美里の力が自分に対して効かなかった理由も確かに気になったが、またの機会にでも聞けばいいだろう。
「ねぇ、命ちゃん。話してくださいませんか? 最初から全部を、命ちゃんの口から。」
「……そうだな………私も、美里に猶予期間が与えられたからと言って、それを単純に喜べたわけじゃない。猶予期間と言うことは、期間が過ぎれば自由はないと言うことだ。とはいえ、期間が過ぎても、いきなり政略結婚と言う事にはならないだろうし、美里は潔癖だからな、正直何だかんだで結婚の事もうやむやで終わる事になるだろうと思っていた。美里は一族の中でも一際特別視される存在だからな。だが、そんな事になれば当然周りからの美里への評価にも関わるし、このままずっと結婚をしないと言う訳にはいかない。だから私も、色々と考えたんだ。」
「確かに……正直私も高々三年で誰かと恋に落ちるなんて思えませんでしたし。翔さんと教室で出会った時にはドキッっとしましたけど、まさか本当にお付き合い出来るなんて……。私は恋が何かも理解出来ていませんでしたから。」
翔も、そんな話は美里から聞いていた。九条院程の家を絶えさせる訳にはいかないだろうし、妹もいるらしいが、美里が特別視される程の力の持ち主である以上は、美里が結婚して家を継ぐのが当たり前なのだろう。
「それで、翔殿がどう関係してくるかなんだが…………実は、私も調べていたんだ、翔殿の事。翔殿が私を見ても思い出さないという事は、既に忘れてしまっているのだろうが、あの夏祭りの後、翔殿と交わした少しの会話を手掛かりにして、あの街に住んでいるらしい事も知っていた。……途中でストーカーの様だと思い、住所や学校等は調べなかったのだが……。」
「そ、そんな事をしてたのか。」
「ううっ、自分でも、今となってはどうかしていたと思う……………それで、美里が少しでも恋愛出来るチャンスを作れればと、更に、美里の潔癖症の改善に二人で外を学ぶのも良いだろうと思い………私の感傷もあって、翔殿が住む街の、『魔法瓶』で短期のアルバイトをしてみる事にしたんだ。勿論、美里を誘ってな。」
「最初にアルバイトと言われた時は流石に驚きましたが……命ちゃんは、そんな事を考えていたんですね。」
美里が、納得がいった様に微笑すると、命は顔を赤らめて視線を逸らした。そして、翔の方を見て、微笑んだ。
「ふふっ、そんな事を言いつつ、私が翔殿にもう一度会いたいという気持ちから始めたというのが本音なのかも知れないけど。……でも、翔殿が店に来た時は本当にびっくりした、思わず咄嗟に隠れてしまうくらいに。美里は、私が美里の様子がおかしいのに気付いていたのに、助けに出て行かなかったのがおかしいと言ったが、実は、私も舞い上がっていて美里の事にまで気が回っていなかったんだ。ずっと、話し掛けて良いものかどうか迷って居たんだからな……。まぁ、どちらにしろその時点で私はおかしかったのだろうが。」
「そうだったのですか……。私も一つ疑問が晴れました。」
命の問いに、美里は微笑をたたえながら答えた。命には自分が翔に気付かなかった訳を教えておくべきかとも思ったが、翔から感情や意識が感じられずに接近に気付かなかった事は、今翔の前で言って良いのだろうかと美里は思案した。命は、美里が翔の方を気にしているのを感じたのか、翔の方を僅かに見ると、肩を竦めた。
「そうだな、その話はまたの機会にでもしよう………そうして、私が翔殿に好意を伝えられない内に、美里が翔殿に惹かれつつあるのに私も気が付いてな。私は、美里を他の輩に任せるくらいなら、翔殿と一緒になって欲しいと思ったんだ。翔殿も、私よりも美里の方が幸福になれるだろうと…………私はまだまだ小波家当主と周りに認められる程の力があるわけじゃない、だから恋人に割く事が出来る様な時間はないし、魅力がないとまでは思っていないが、美里の様に女の子らしく振る舞う事は出来ないからな…………美里、これが私の本音だ。」
「……命ちゃん……。」
そういって、自嘲気味に笑った命に、美里は悲しげに眼を臥せた。そして、諌めるような口調で、美里は続けた。
「嘘つきですね、命ちゃんは。それに、凄く怖がり。」
「う、嘘つき? 美里、私は本当に嘘などついていないぞ。それに怖がりって、私が何を怖がったというんだ。」
「きっと、命ちゃん自身も気付いていないんです。いいえ、気付かないフリをしているのかも知れませんね、自分の本心に。」
「……気付かないフリ? なんでそんな事をしなければならないんだ。美里の勘違いだ。……いくら美里でも、私以上に私の事は分からない筈だろう。」
命は流石に意味が分からないと言った様に美里の言葉を否定した。だが、美里はそれに取り合おうともしなかった。
「分かりますよ、昔から貴方を見ていた私には。力なんて関係ない、ただ友人であった私にだけは。……本当はもっと自由に振る舞いたいのに、貴方は弟さんが望むからと理由をつけて、自分で自由を捨てました。でも、それは弟さんの為だけなんかじゃない。命ちゃんは弟さんを救う事で自分が自由を求める事が出来ない理由を得たんです。貴方は自由を求めながら、それを恐れて逃げた。ずっとずっと昔から逃げ続けていた。」
「……意味が分からない。何でそんな事をする必要があるんだ!? 確かに自由に振る舞いたいと思う事はある。だが、なんでわざわざ自分からその希望を消さなければならないんだ。」
命がそういったのに対して、美里はその答えを予想していたかのように、そのままの調子で答えた。
「……そんなに難しい理由ではありません。………もし、命ちゃんが自由になってしまったら、貴方が望んでいる様な振る舞いをしないでいる理由がなくなりますからね? 貴方は自由な振る舞いを望みながら、『もし自分の素顔が他人にとって不愉快な物であり、嫌われてしまったら』と恐れてしまっているんですよ。貴方はただ言い訳をしたいだけ、自分をさらけ出して拒まれる事が怖いから自由に振る舞わない訳じゃないんだって。自分は自由がないからそうしないだけなんだって。自由よりも今の立場の保守に魅力を感じているんです。……命ちゃんだって自分では分かっているんでしょう?」
「そんな、私は……そんな事……。」
美里がそういうと、命は二の句も告げずに黙りこんでしまった。どうやら美里の言葉を否定する事が出来ないらしいと、翔は感じ取れた。そんな命の様子に、美里は愛おしむ様であり、悲しむ様な表情を作った。
「………でもね、命ちゃん。こんな事、他の人でも普通に考えてしまう事なんですよ? 家族や、他人に嫌われるのが怖くない人間なんかいません。でも、貴方は人に求められたいが為に、完璧を求めてしまった。恐れて当たり前の事を恐れる自分が、完璧でなくなってしまうと思って怖かったんでしょうね。……そして、それは翔さんの事も同様なのでしょう?」
「…………。」
周りから見ていると、美里が命を言及しているように見える。だが、翔は美里の声のトーンが、段々と何かを押さえ付ける様な物へと変化しているのを感じた。
「確かに先程言った理由もあるでしょうし、命ちゃんが自分の魅力に疎いのも私は知っています。……でも、翔さんの事を諦めきれてなんていないし、本当は私に任せるのではなくて、自分自身が隣に居たいのではないですか? 単純に私と翔さんを失うかも知れないから、私の婚約騒動を理由にしているだけではないのですか?」
翔には、美里が強い口調でありながら、発言する度に自分自身を諌めている様にも思えてしまった。そしてその理由を、美里は自身の口から言い放った。
「……私は命ちゃんがやっと見付けた好きな人の前で、命ちゃんに我慢して欲しくないんです!! 素直に自分の気持ちを吐き出して欲しいんです!! いつもいつも命ちゃんは我慢ばかりしてきました。ご両親や弟さんの前でも………私の……前でも。……翔さんは、貴方の気持ちを笑う様な真似は絶対にしません。昔、私が命ちゃんに課せてしまった重りを、外していられる場所になってくれます。」
「……美里、やっぱり気にしていたのか……。」
淡々と話していた美里が声を荒げ出した途端、命の表情が驚嘆と沈鬱の間にあるようなものとなる。
「……そんなの当たり前じゃないですか。気にするなと言われても無理です。命ちゃんがそこまでしなければならなくなったのは究極のところ、私が原因なんですから。……あの頃、私が唯一友人と呼べたのは……命ちゃんだけでした。だから私が周りからの重圧に、一人きりで堪えなくていいように、命ちゃんは考えて………。私は覚えています、貴方が急に完璧を目指して稽古事や剣術に打ち込み始めた時の事。私と一緒にいる時に、私へ集まる視線が命ちゃんにも向けられ出した時の事。……そして、命ちゃんが完璧であるのが周りにとって当たり前になってしまい、貴方が自由に振る舞う事を恐れ出した時の事。……きっと、私さえ隣にいなければ、貴方が弟さんの代わりにこの家を継ぐにしろ、ここまで注目されて、自由に怯える必要はなかったんです。翔さんの隣にはきっと貴方がいたんです。全部、最初から、私のせいなんです。」
「……美里は、そんな事を考えていたのか……。」
「……ええ、ずっと。でも、そうだというのにも関わらず、私は貴方の恋した人に恋をしました。唯一の取り柄とも思っていた、人の気配や感情を感じ取る力があるというのに、翔さんを盲目的に慕うあまり、命ちゃんの想いに気がつきませんでした。そして命ちゃんにそれを応援してもらう始末、なのに私はこの方から離れると言う選択肢を選べないのです。引き離されたら、また先程の様になるかも知れません。……本当に、自分すら制御出来ずに、貴方に何をしてあげる事が出来るのか……最低ですね、私。」
美里はそういって、うっすらと寂しげに微笑むと、翔の方を振り向き、翔の傍へと寄った。命も美里の発言に何も言えなくなってしまい。翔も、二人の間に入り話す事は躊躇われた。きっとこれは、二人にとっても深い所にある事なのだろうから。
「私も考えたんです。考えて、やっぱり命ちゃんには、自分の気持ちを封じ込めないで欲しいって思ったんです。このまま溜め込んでいても、きっと命ちゃんは後悔します。」
「だ、だが美里はどうなるんだ? それに、翔殿は私達の事情も知っている。それを選ばせるなんて……。」
「……やっぱり、前もって命には説明するべきだったな……。」
命の発言に対して、翔が独り言の様な口調で切り出した。拗れてしまったのは自分のせいだと言うのもあるかも知れない。もしもっと早くに切り出していれば、命が幻滅するにしろ、なんにしろ、二人に昔を思い出させる必要はなかったのだから。
「御免な、美里。もっと早く話してれば良かったな。……だから、もうそんな顔するな。」
「……はい。ですが、私自身にケジメを付けたかったから敢えて話さなかったのです。翔さんのせいではありません。」
「なんの事だ……? まだ私に何か隠し事でもあったのか?」
二人の様子に、命は少し訝しむ様な、そして悩む様な表情を見せた。自分の発言に対しての回答とも取れる言い方だったため、美里と翔にとって、さらには自分にとっても重要な物である可能性が高いからだ。そして何だかんだ言ってやはり、自分が知らない事を、翔と別の女性が共有している事が、相手が美里だったとしても、いや、もしかしたら美里だからこそ気になってしまうのかもしれなかった。命にとっても、美里の言う通り、翔を好きでいるのは間違いないのだ。翔自身もきっかけである昔の事は覚えていない様ではあるし、自分も美里の件があってからは忘れようとしていたのだが。
「命には、そのうち言わなくちゃいけないと思ってたんだけどな。……今日も何度か言おうとしたんだけど……。」
「……それは、先程言おうとしていた事か? 大切な事と言っていた……。」
「ああ、それで間違いない。もう少し落ちていてから話そうかとも思ってたんだけど……。」
翔の言葉に美里も察したのか、開きかけた口を閉ざした。翔が自分自身の口から話した方が良いと判断したのだろう。
「実はな、命。……今現在俺は真夕先輩、琴先輩、魔夜とも付き合ってる状態なんだ。」
「……なんだって?」
翔がそう切り出すと、命はその場の雰囲気にそぐわない。酷く呆けたような声をあげた。
「今のは聞き間違いか……? 翔殿が美里以外の者と付き合っているというように聞こえたんだが……。」
「聞き間違いじゃない、今は世間一般でいう四股かけてる状態だ。」
「…………。」
翔がそう言い放つと、命は美里の方に確認を取るように視線を向け、美里はその視線に対して頷く事で肯定を表した。その後、暫く呆然としていた命だったが、我に返った様に翔の方を見ると。
「……翔殿を殺して私も死ぬ……。」
「はっ……?」
「翔さん危ないっ!!」
ヒュンッ バチィッ!!
命がそう呟いた瞬間、焔が一線し、庇いに入った美里の結界に阻まれスパークした。こめかみの辺りから汗が吹き出てくるのが分かった。今のはかなり本気であったのではないだろうか?
「落ち着きなさい命ちゃん!! 翔さんを傷付けるのは駄目だと言ったでしょう!?」
「何故庇う、美里!! 翔殿は美里や皆を裏切ったのだぞ!? これが落ち着いて居られるか!!」
「ですから落ち着いて話をちゃんと聞きなさい!! それに、翔さんがいつ私達を裏切ったと言うのですか? 私を含め、全員同意の上でのお付き合いなのですよ?」
「だからってっ……………ん……? 同意……だと?」
「ああ……まぁ……冗談だと思うだろうけど、本当の事だ。」
「私は三番目です。とは言っても、順番等は関係ありませんが。どうも最初に言い出したのは渚先輩のようですね。」
翔と美里が口々にそういうと、今度は命は完全に黙り込んでしまった。
「……美里は……美里はそれで良いのか?」
「そうですね……確かに、翔さんをずっと独占していたい気持ちもあります。でも、翔さんに誰かを切り捨てさせる事もありませんし、それに何より、この方法なら命ちゃんと一緒に居られるじゃないですか。取り合ったり、お互いに遠慮をする事もありませんし。」
「……一緒にって……確かにそうかもしれないが……。」
命はそういって、視線を翔に向けて、そのまま真っ赤になって俯いてしまった。美里はそれを見ながら自嘲する様に笑った。
「……実は私も、翔さんと渚先輩が付き合っていると気付く前は、命ちゃんと同じ様に、一人で翔さんを独占したいとずっと考えていました。ですが私は、渚先輩と翔さんが付き合っているのを察した時、渚先輩から翔さんを奪う事を考えられなかったんです。私が恋愛と言うものに疎かった事も、ただ翔さんの傍に居たかったと言う事もあるとは思いますが………私には、あの方も私と同じ様な辛さを持った方だと直ぐに分かりましたから。私達にとって、翔さんがどれ程安心して傍に居られる存在かは理解していましたし。そこに恋愛感情まで加わると、失った時どうなるのかは、私自身先程身をもって知りました。……本当に、無理矢理引き離したりしようとしなくて良かったと、今感じています。」
「……気になったんだが、真夕先輩も同じって、どういう事だ?」
「……渚先輩の事はあくまで勘ですが……。元々、私が翔さんを慕うようになった最初の原因は、私の気配や感情への過敏さにあります。何故か翔さんからは……その……不快な感情が感じ取れなくて、ただ、私の居場所になってくれる様な空気がありましたから……。だから私は最初に翔さんに合った時も、気配が純粋過ぎるあまり、呆けてしまって、ぶつかってしまいました。……渚先輩も私と同じ匂いと言っていいのか……そういう物を感じたので、私と同じ様な気配の感じ方をする方ではないかと思ったのです。そして、もしかしたら私と同じ様な救いを翔さんに見たのではないかと……。渚先輩は繊細な方ですから、もしかしたら知られたら嫌われると思っているのかも知れません、あくまで推測ですが……。ですから、私がここでした発言は先輩にはしない方が良いかも知れませんね。私も少し、口が滑ってしまいました。」
「そうだったのか………でも、色々納得がいったよ。」
美里の話は普通の人には信じがたい話ではあったが、魔力が高い人は時に特殊な力が付随してしまうと聞いた事がある。それに、魔夜の力の例もあるので、翔は自然と受け入れる事が出来た。どうやら真夕もそうかも知れないというし………、自分はそういった力の持ち主に縁があるらしい。
「翔さん?」
「ああ、いや、何でもない。……でも、これで美里が何でいきなり好意を持ってくれたのか分かったな。美里は潔癖症で男嫌いみたいだし、告白された時、運命とかそういう言葉だけで俺への好意を片付けたのが不思議だったんだ。」
「う、あ、そ、それは……その……。あ、で、ですが、今は違いますよ? 私は翔さん自身を愛しいと思っています!! 翔さんと同じ感じがするなら誰でも良いという事ではありません!! その……確かに最初は、翔さんにと言うより、翔さんの持つ何かに陶酔してしまっていた様にも思えますが、今は違います!! 信じて下さい!!」
「ああ、分かってる。ありがとう、美里。」
「ふっ……く……ん……は、はい。」
あまりにも美里が取り乱して弁明(?)するので、翔は苦笑をしながら頭を撫でて美里を落ち着かせた。どうやら嫌われるかと思ったらしい。だが、美里の話が本当なら、真夕も同じなのだろうか? 真夕も、自分の中の何かに陶酔しているのだろうか?
「こんな事は言いたくはありませんが……ずっと私が恋と言う感情が分からなかったのは、翔さんに本当の恋をしている訳ではなかったからなのでしょうね。きっと翔さんに恋心を抱き始めたのは、翔さんが私を受け入れて下さった時なのだと思います。……翔さんに抱きしめて頂いた時、翔さんにもっと幸せになって欲しいと、そう思ったのです。それまで貴方を私の傍に繋ぎ止める事ばかり考えていました。でも、その時初めて、私は翔さんを愛したいと、愛されたいと思う様になりました。……ねぇ、この気持ちが恋なのでしょう? 命ちゃん?」
「美里……。」
「これで、貴方が翔さんに恋してはいけないと、自分の中で理由を付ける事も出来ないはずです。命ちゃんはあくまで、『自分より私の方が相応しいから』、『どちらかしか愛して頂けないから』という理由で拒否していたのですから。それとも、翔さんが気が多い方だと軽蔑しましたか? もう嫌いになりました?」
「そんな事はない……そんな事はないんだ………だが、翔殿の気持ちもあるだろう。」
まだ渋る様子の命に、美里は優しく笑いかけて言った。
「大丈夫ですよ、翔さんは大変鬼畜な性癖をお持ちですから。命ちゃんが望めばもう離れたくなくなるくらい甘やかして頂けますし。」
「……こら、美里。いくらなんでもそれはないだろう。」
「あら、でも私達の事も抱いて頂けるんですよね? 私達と言うのは私と命ちゃんの事ですが。翔さんは向けられた好意に好意以外の感情を返せない方ですし。」
翔が表情を引き攣らせながら美里に言うと、美里は何か間違ったのかとでも言うような、ちょっと意地悪な表情で返した。
「み、美里っ!? 何を言って……そ、それにそれではあまりに翔殿に失礼………ん………私達、『も』……?」
「ええ、翔さんは既に渚先輩と愛し合われていらっしゃいますし。……ごめんなさい、翔さん。いけないと分かっていても、意識してしまうのです。」
「……なっ、なんで知ってるんだ? まさか誰かが言ったのか?」
美里は翔の驚きの表情に少し困った様な、少し拗ねた様な顔になった。考えてみても、真夕が直接言うとは思えない。とはれば、琴だろうか? でも、琴もその手の話はあまり得意そうではないし……。
「先程言いましたでしょう? 私は他の方より気配に敏感なんです。まぁ、とはいえ私で無くとも、あんなにあからさまに、『私はこの人の物だから近寄らないで』ってオーラを渚先輩が出していれば、少し聡い方なら誰でも分かりますよ。確かにあの方は、元々私と同じか、それ以上に人嫌いな部分がありましたから変化に気付きにくくはありますが。……ああ、ですがやはり確信したのは、今まで自分の魔力だけで澄み切っていたあの方の魔力に、翔さんの魔力が混じっていた事に依る所が大きいでしょうか? もしかすると高い認識力を持つ方なら私以外にも気付いた方がいたかもしれませんが、元々、親しい間柄ならば魔力は徐々に影響し合う物なので、渚先輩の様なケースは珍しく思っていたのです。ですが、あの週初めの日に翔さんの魔力と殆ど同一化しているのを見た時は何事かと思いましたよ? 私も直ぐに理由に思い当たりましたが…………やっぱり、妬いちゃいますね。」
「……そうだったのか、真夕先輩の魔力が……。」
翔はそう言って、何かを考え込む様に顎に手を当てた。どうも今の話で引っ掛かるところがあった気がするのだ。真夕の事かも知れないが、何か別の、身近にいる誰かの事の様な気もする。
「う〜っ……翔さん………?」
「えっ、あっ、悪い、なんだ?」
「そんな事は今はどうでも良いではありませんか。今は、私達の事だけ考えていて欲しいです………私と、命ちゃんの事だけを……。そして命ちゃん、チャンスはそう何度も訪れる訳ではありませんよ? 良いのですか? 翔さんが離れて行ってしまっても。永遠に貴方に触れてくれなくても。」
「それは……だが……本当にいいのか? 翔殿は私で良いと思ってくれているのか? 私等いなくても、美里や先輩方がいるのに……。」
「それを決めるのは命ちゃんではありませんよ。それに、今重要なのは命ちゃんの気持ちです。」
美里はそういって命の後ろに回り込むと、翔に引き合わせるかの様に背中を押した。命は一瞬身を硬くしたが、翔が目の前に居るのを確認すると、指を絡ませて、何かを堪える様に俯いた。
「命、ごめんな。俺は命が思ってる様な人間じゃない。今も美里だけじゃなくて、真夕先輩や琴先輩や魔夜とも付き合ってるし、あろうことかそれを皆に認めさせてしまっている。俺には命が思うような誠実さはないんだ。それがどういう事かが分かっていても、命はまだ俺を好きでいてくれるのか?」
「………あ……うっ……しょ、翔殿が誰と付き合って居ようが、気持ちはそう簡単に変わりはしない。あの時の言葉で私が勇気付けられたのは、誰がなんと言おうが翔殿の御蔭なのだから……だから……その、私は……今でも……好き、だ。」
「……そうか、良かった。……命から軽蔑されるのも覚悟してたからな。」
「しょ、翔殿、それは答えに……なっていない……。」
「え? あっ、あー……そうだな、すまん。」
顔を赤くして俯き具合になった命を見て、翔はこれが命からの告白だった事を思い直し、美里の方を一瞥した。美里はいつもと同じ様に微笑みを返す。全てを貴方に任せます、と言われているのだろう。翔は、これはやはり自分の責任なのだろうと思い直した。自分はこの家に来てから、自身の気持ちの保全ばかり考えていて、命の気持ちに気付かなかったのだ。そもそも、命に好意と取れる感情を抱いている時点で、答え等は決まっていたのかも知れないが。
「命、先に言って置くけど、これは美里の親友だから言うんじゃない。命だから言うんだ。……命、俺はさっきも言ったが命一人だけを愛している事は出来ない。もしかしたら不満にさせてしまうかも知れない。それでもいいのか?」
「そんな、美里と一緒なら、喜びこそすれ、不満になんてなる筈ない。……翔殿は、美里と一緒に愛してくれるのだろう?」
「ああ。……命、色々と苦しませてしまったみたいだけど、俺の隣で、これからも好きでいて貰ってもいいかな?」
「……翔殿……。」
翔がそう言うと、命は驚いた様に目を丸くして、翔を見た。まるで、自分が受け入れてもらえた事が信じられないとでも言うように。
「えっと……勿論、命が良かったらで良いんだけど……。」
「……もう、翔さんは弱気になるのが早過ぎます…………命ちゃん? どうします? 翔さんは、貴方も隣にいる事をお望みですよ?」
「わ、私は……私も、翔殿の傍に居たい、愛されたい。美里以外で、翔殿だけが、あの時私の心に触ってくれた。閉鎖的になっていた私の心を自由にしてくれたんだ。だから、その、翔殿に………わ、私を………も、貰って、欲しい……。」
命はそう言うと、翔の胸に寄り掛かる様に顔を押し付けた。最後の方は声が小さくなってしまっていたが、翔には命からの告白がしっかりと聞こえていた。
「命……ありがとう。大事にするよ。」
「ぁ……ぅ……翔殿……。」
翔が命を抱きしめると、命は真っ赤になってそのまま硬直してしまった。美里はそんな命を優しく見つめ、思い出したかのように言った。
「命ちゃん、翔さんから愛して頂くなら、初めはやはり、浴衣姿の方が良いのではありませんか?」
「ほぇっ!? あ、えと……それはまだ恥ずかしいと言うか……。」
「でも、翔さんも見たいと言っていましたよ? そもそも、翔さんに見せずして、何の為の浴衣なのです? それに本当は、私の分の浴衣も先程お母様達が持ってきてくれていたんです。私も一緒に着替えますから、二人で翔さんに見て頂きましょう?」
美里は命にそういうと、命は暫し考えて、肯定の意思を示した。その後、美里は翔の方を見て、微笑むと、少し申し訳なさそうに言った。
「えっと、翔さん、しばらく向こうを向いていて下さいますか? どうしても、着替えを見たいと言うなら……その……私も頑張ってみますが……命ちゃんも私も、男性の前で裸になった経験がないので……今日は恥ずかしいな……なんて。」
「いや、そんなに無理しないで良いから……というか、美里の頭の中では俺はどういう人間になってるんだ……?」
「どういうと言われましても……男性の人は皆、とにかく女性の着替えを見たがるものだと、昔御祖母様が……。」
「……母親が母親なら祖母さんも祖母さんだな。ちゃんと着替えてる間は向こうを向いてるよ。」
「そうですか……? 取り合えず、私の着替えもクローゼットの中に入れてあるらしいので、早速着替えてしまいましょうか。」
翔の発言に、美里は安心半分、不満半分と言った様子で答えて、クローゼットの方へと浴衣を取りに行った。命もそれに続いて浴衣を取り出す。少しの間、部屋にきぬ擦れの音だけが響き、翔はそこで、部屋から出て行けば良かったと後悔した。つい、美里がわざと自分に聞かせているのではないかと思ったりもしてしまい、そんな自分に自己嫌悪をしていると、着替えが終わったらしく、後ろに人が立つ気配がしたので、振り返った。
「……おお……。」
「あの……どうですか? 変じゃありませんか?」
「翔殿、私のは……どうだ? 一応一番気に入っているのを着てみたんだが……。」
「あ、ああ、二人共似合ってる。期待してた以上で、正直驚いたよ。」
翔の言葉に、二人は顔を見合わせて少し恥ずかしそうにはにかんだ。美里の方は大人しめな青い生地の浴衣で、美里の肩の下くらいまで伸び、湯浴みしたせいで濡れている美しい蒼い髪や大人っぽい雰囲気とあいまっていて、とても落ち着いた感じである。一方、命の方は全体的に明るめの印象を受ける薄黄色の浴衣で、所々に白の線を重ねた様な模様が描かれている。命の長く赤い髪と影響し合って、とても鮮やかな印象を受けた。だが……翔は命の浴衣に何か引っ掛かる物を感じ、暫く考えた後、思い出した様に手を打った。
「そうだ、思い出した……。命の浴衣……初めて会った時、どちらかと言えば美里が着てるみたいな青っぽいやつだった……。」
「え………お、思い出してくれたのか……あの時の事……。」
「良かったですね、命ちゃん。翔さんはちゃんと覚えていてくれたじゃないですか。」
「ああ確か、2年前の夏だったな。うん、完全に思い出した。確かに亀の縫いぐるみを取った記憶もある……。」
翔がそういうと、命ははっとなり自分の机の引き出しの中から、デフォルメされた亀の人形を取り出した。翔はそれを懐かしそうに見て、笑った。
「懐かしいな……持っててくれたのか。」
「そ、それはそうだ。私に取っては大事な初恋の想い出の品だった訳だし……。」
翔が苦笑すると、命は視線を逸らして、恥ずかしそうにそういった。それに対し、翔は思い出しながら命に不思議そうに聞いた。
「でも、思い返してみても、全く好意を持たれる理由が分からないんだけど……。浴衣の事も、凄く微妙な褒め方した様な……。」
「その話には私も興味があります。なんとなく分かってはいましたが、命ちゃん本人から聞いたわけではありませんでしたし。」
「うっ、そ、それは……だが、翔殿と美里には聞く権利があるのかも知れないな……。」
命は恥じらう様に唸った後暫く沈黙し、観念したという風に大きく息を吐きだした。恥ずかしがる命の気持ちも理解出来たが、翔も美里も好奇心の方が勝っていたため、何も言わずに命の言葉を待っていた。
「その……翔殿と初めて出会ったのは、2年程前の夏祭りの時の事だったんだが、初めて翔殿を見た時、何やら二、三人の不穏な輩に絡まれていてな、翔殿は何も言わずにその輩からの暴言を受けていたんだ。」
「ああ、あの時は確か優の事でなんか言われてた気がするな。祭りの喧騒からは少し離れた場所だったとはいえ、一応は近くで祭りをやってるような所だったし、俺も困ってたんだよ。下手したら飲み物を買いに離れてた本人が戻ってきて流血沙汰になりかねないからな。」
あんまりヒートアップさせると余計に突っかかって来るだろうし、そうなれば騒ぎに気付いて戻ってきた優に全員纏めて病院送りにされかねないし、穏便に済ませられないかと頭を悩ませていた記憶がある。
「それじゃあ命ちゃんは……。」
「ああ、もちろん助けた。一人の人間を多人数で攻撃するなど、どちらに味方するかは決まっている。それに、翔殿は悪い人間には見えなかったし……。まぁ、少し手荒な方法を取ってしまったのは反省しているが……。」
確か焔の炎で相手を燃やさずに包んで脅してた様な気がする。まぁ結果的に助かった事には変わりないわけだが……。
「それで……実は翔殿がお礼だと言って近くの射的で人形を取ってくれたんだ。あまり時間が無いと言うので、その場にあった射的屋だったが、その時の人形がこの亀の人形なんだ。」
「なるほど、そんな経緯があったんですね。命ちゃんが見知らぬ方から物を貰うなど不信に思った事もありましたが、納得しました。」
「んー……褒めた記憶と言えばその後の事なんだけど……。」
「ああ、翔殿は私に言ってくれたんだ。その着物も似合ってるけど、もっと明るめの色でもいいかもな。無理に大人びた感じよりも、ずっと君らしい気がする、って。」
「……あの頃の命ちゃんには最高の殺し文句ですね、それは……。」
美里は呆れ半分、微笑ましさ半分の表情で、言われてる意味が分かっていない様子の翔を見た。命も翔の様子に苦笑したが、直ぐに気を取り直すと、翔に向き合った。
「あの時の私は当たり障りの無いような、緑の無地を着ていただろう? 本当は着飾った物もきてみたかったんだが、思い切りがつかなくて……だから、凄く嬉しかったんだ。もっと私らしくしていたら良いんだって言われたみたいで。それから何日も翔殿の言葉が忘れられなくて、いつの間にか、好きになっていたんだ。」
「そうだったのか、あの時はちょっと正直過ぎたかなって思ったけど、そんな事はなかったんだな。それがあるから、きっと俺は美里や命と逢えたんだろうし。」
「ふふっ、そうですね。その頃の翔さんと、命ちゃんに感謝しなくてはいけません。」
「ううっ……茶化さないでくれ……。」
命は二人から咄嗟に顔を逸らし、翔の様子を窺う様に視線だけを向けた。そしてそのまま翔を押し倒す様に飛びついた。
「み、命?」
「命ちゃん……?」
「そうだ、やっぱり翔が悪い……。」
「へ? いや、あの……。」
「ああ今思えば、全部翔が悪いんだ。いつの間にか私の心の中に入り込んで、美里や他の皆にまで好かれて、それでまた私を混乱させて。挙句の果てには告白までさせて……。私は、小波の当主とならなければいけないのに……翔の前では誰よりもただの女でありたいと思ってしまった。」
命はいきなり翔の胸倉をしがみつくように両手で掴むと、赤い顔を翔の胸に押しつけながら言った。翔は一瞬混乱してしまったが、命が不安そうに翔の眼を覗き込んできたのを見て、なんとなく命の心情を悟った。
「命は形から入る子なんだな、何にでも。」
命の自分への呼び方が翔殿から呼び捨てに変わっているのに気付いて翔はそういった。これはこの家の格式をそのまま写し取ってしまったのだろう。恐らくお祖父さんあたりの呼び方なのだろう。つまりは、小波家当主としての言葉使いと態度。自分の前ではそれをしたくないというなら、受け入れてあげるのが自分の役目なのだろう。
「こういう事に関しては鋭いんだな……まったく。」
「それは褒められてるんだよな?」
「…………。」
沈黙を守り始めた命の髪を梳いてやると、少し嫉妬混じりの視線を感じ、翔は苦笑してしまった。視線を上げると、なんだか居たたまれない様に恨めし気に命を見る美里がいた。
「美里も、そんな所にいないで、な? 俺だって恥ずかしいんだから、いつまで持つか分からないぞ?」
「翔さんの鬼畜……。」
美里は珍しく翔に悪態をつくと、命の横で一緒になって翔を押し倒した。さっきまでは堂々とした態度で命に発言していたのに、その面影は完全に消え失せている。
「私はもう、翔の前では遠慮なんてしない、我儘な事だって言うからな。そうさせたのは翔なんだから……ちゃんと責任とってもらう、私達の事。」
「そうですよー? 私だって、自分が愛される時間が減ってもいいなんて思ってるわけじゃないんですからね? 私達皆を、普通の何倍も愛してもらわないと満足出来ません。」
美里と命は口々にそう言うと、そのまま翔に触れる程度にキスをした。翔は多少表情を引き攣らせながらそれに答えた。
「えっと……態度豹変しすぎじゃないですか……?」
「仕方ありません。これでも我慢してたんですよ? 渚先輩の話をしながら、私がまだ翔さんに……その………貰って頂いていない事を思い直したりして……さっきも言いましたが、私だって嫉妬もしますし暴走だってするんです……。」
「私だって、今まで皆を見てるだけだったのだし、それなりに我慢してたんだからな。大事な話っていうのが実は翔からの告白だったらどうしようとか考えたり。思い出してくれた時、勢い余ってそのままキスしそうになったり……。」
命はそのまま、自分の言っている事が恥ずかしくなり、また翔の胸に顔を埋めると言う負のループに入った。聞いている翔の方もかなり恥ずかしい思いをしているのだが……。
「取り合えず、翔さんには私達を貰って頂かなくてはいけません。ね、命ちゃん?」
「そ、そう……だな。翔は待ってるといつまで待たされるか分からないし……今日は美里も一緒だし……。」
「えっと……美里、命。自分達が何言ってるか分かってる……よな?」
翔は背中に冷や汗の様な物を感じながら、じと目になった二人に確認の意味で聞いた。
「翔さん、男性の方はもっと積極的でもいいと思います。私達は既に貴方の物なのですよ? それに元々、心も体も翔さんがいなくなったら生きていけない様になってしまっていますし、翔さんに捧げなかったら一生、処女のままですよ?」
「美里の言う通りだ。翔殿は私達を大切にし過ぎる。私達にも求められたい時があるんだ。それにその………一応、美里と一緒にそういう本を読んだ事はある。だから、ちゃんと何をするか位は分かってるつもりだ。……翔はちゃんと愛してくれるんだろう……?」
二人から甘える様にそう言われては、断る気など起きないし、そもそも断る気は最初から無かった。そして、不謹慎だとは思ったが、真夕に求められた時の事を思い出してしまった。うん、自分の弱点が明白に見えて来た気がする。予想が確信に変わった感じだ。
「やっぱり、俺は甘えられると弱いのかもな。」
「……なら、沢山甘えさせて下さい。私達が心から安心して甘えられる場所は、世界に此処しかないんですから。そして、甘やかした分、甘えて下さい。貴方は唯一、私が愛するお方なのですから。」
「ふふっ、後悔したってもう遅いぞ? 今更逃げたら舌を噛み切るからな。」
「それは嫌だな……。今二人に居なくなられるのは俺だって困るし。」
翔が微笑みながらそういうと、二人は一瞬視線を交差させ、悪戯をしている子供の様な笑みを作り、息を合わせた。
「「私達を沢山愛して下さい、未来の旦那様♪」」
執筆期間は3、5ヶ月。今までで最長ですねすいません。一ヶ月に一本くらいのスピードで書いたつもりだったのですが、皆様はどちらの形態の方が良いのでしょうか? 感想をお待ちしております。