第6話:ある夜の出会いについて
「ふぅっ、やっと帰ってこれたな。」
翔はあの後も優に散々追い回された揚句、最後はファミレスで皆に夕食を奢るはめになった。理不尽過ぎる展開だ。
「おーい、爺ちゃん。……居ないのか?」
翔は祖父との2人暮らしで、家事などは殆んど翔がやっている状態だ。遅くなってしまったので夕食を買って来たのだが姿が見えない。
「もしかしてどっかに食いにいったのか?」
もう随分遅い時間だし、もしかしたらそうなのかもしれない。翔はそう納得して明日の準備を始めた。
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「遅いな…。もう10時周ってるし、どこで何やってんだか。まぁあの爺さんに限って何か危険な事なんてないだろうが…。」
翔の祖父、進は魔法も武道も勉学も何でも完璧な人物だ。女癖が悪いのが欠点、と無き祖母は言っていたが、結婚してからはそれも無いらしい。そんな人物だった。
「心配、だな。」
祖父も心配だが、どこぞのヤンキーにケンカうって病院送りにした挙句に慰謝料請求されるのは困る。今の我が家にそんな金銭の余裕はないのだ。
「探しに行くか……。」
翔は若干の気だるさを感じながら、祖父が途中で帰って来たらと考えてメモを残して家を出た。
「何処に言ったー、じじぃー。」
そんな事を言いながら飲食店を周ったが見つからない、進が携帯を持っていないのがこういうところで面倒だ。無理矢理にでも持たせることを考えた方が良いかもしれない。
「………入れ違いか?」
翔は既にそう思い、諦めて帰る事を考え初めていた。それはそんな時に起こった。
「あの、止めてくれませんか? 私早く帰らないと……。」
「何言ってんの?こんな時間まで外にいてさ、俺たちと遊びに行こうよ?」
「そうそう、怖がらなくっていいよ。何もしないって。」
「っ……。」
凄く危険な雰囲気が漂ってる感じだ。しかしまぁ、見捨てていくのはかなり気が引ける。きっと夢にも見ることになるのだろう。取り敢えず、助け舟を出せる人間を待ってる余裕はなさそうだ。
「ちょっとあんた等、その人に何してんの? 寄ってたかって。」
「あん…? なんだお前……。」
口調は正にヤンキー、天然記念物並みの存在だ。これで実は雨の日に猫を庇って風邪をひいたりするテンプレ的な性格なら問題はないのだが。
「その人離してあげなよ。あんた等に絡まれて嫌がってるじゃん。周りからの眼くらい読み取れよ。」
「なんだこいつ……うっさい、邪魔。」
「……あっ!?」
囲っている奴らの内でリーダーっぽい奴が、腕輪型の杖を光らせて衝撃波を飛ばす。絡まれていた女性は、それに気付くと咄嗟に悲鳴に似た声を上げた。……だが翔は、その衝撃波を一歩も動かずにレジスト(対抗)の魔法で打ち消した。
「初対面の人間に、何すんだよ。」
「なっ……!!」
翔としては咄嗟に撃ち払っただけなのだが、不良達にとってはそれがあまりにショックだったのか、絶句してしまった。
「見逃してやるからさっさと消えてくれ。こんな所で捕まりたくないだろ?」
「ちっ、生意気な餓鬼が………。」
不機嫌な演技をして翔がそう言うと、皆舌打ちをして去って行った。
「まじで天然記念物並の不良だな……。」
逃げて行った不良達を見送って、翔がしみじみとそう思っていると。
「あ、あの……。」
「……え?」
真面目に女の子の事を忘れていた。なんだろう、こういう時どういう顔をしたら良いんだろうか。
「えーっと………ど、どうも……。」
なんだか凄く気不味い。少女の肌は白くセミロングの髪は黒く柔らかい感じで顔には眼鏡を掛けている。澄も肌が白いが、同じくらい綺麗でなんだか大人っぽい人だと思う、学校で学級委員とかやっていそうだ。
「えっと、と、取り敢えず何かお礼を。」
「へ? ああ、いいよ。そんな、大した事じゃないんだし……。」
「そう言う訳には……。」
なんだか頑ななその少女を良く見ると、その少女の着ている服は光明の制服だった。見た事がない型だし、恐らくは上級生の制服なのだろう。見たところセーラー服タイプみたいだけど、そのタイプがあるのは何年生だっただろうか。
「それじゃあ、今度学園で会う事になったらその時お願いします。同じ学園ならまた会うと思いますし……。」
「学園……? 貴方は光明の生徒なんですか……?」
「そうなんですよ、先輩。」
翔が少女の口調を真似してそう言うと、少女は少し考えて一つ頷いた。
「わかりました。では、この恩は何れ。」
「……それじゃあ、家まで送りますよ。また何があるかわかんないですし、俺も帰ろうと思ってたので。」
「………えっと、それは送り狼と言うやつですか?」
「えっ…!? ち、違いますよ……。」
「うふふ、冗談です。……信じてますよ。」
遊ばれているなと、翔は理解した。丁寧な言葉遣いだが、もしかしたらこっちが本性なのかもしれない。
「それじゃあ、お願いしますね。」
その後、翔は少女を家まで送って行くことになった。
「ついた、ここが私の家。」
「デカい。こんな家、本当にあったんだな………。」
その和風の大きな門を見て翔はただただ呆然としていた。それを見て少女は笑う。
「そんなことないと思うな?」
「いや、あるって……。少なくとも俺は初めてみる大きさだ。」
「そうなんだ。まぁそれはさて置き、送って下さってありがとう。えーっと……。」
少女が言い淀んだのを聞いて、まだ自己紹介をしていなかった事を思い出した。
「篠原翔です。」
「篠原翔君か。それじゃあ、ありがとうございます、翔ちゃん♪」
「しょ…翔ちゃん…?」
「ふふ、何てよんだって私の勝手♪ なんだか反応がいちいち可愛くて、お持ち帰りしてもいいかな? ここ私の家だし……。」
「何を言ってるんですか……。」
最初は真面目そうな人だと思ったけど、どうやらそうでもないらしい。人は見掛けに寄らない。翔は少女を家に送るまでの間に完璧に玩具にされてしまった。
「ふふっ、冗談よ。最後になっちゃったけど私の自己紹介もしなくちゃね。私は御島 琴よ、それじゃあ……またね♪」
琴はそう言って家に入って行く、その横顔が少し寂しそうに見えたのは錯覚だろうか……なんて思っていると優にまた脅迫されそうだが。そんな事を考えて、少しぼーっとしてから翔は家にいるだろう爺さんの事を思い出した。
「やば、忘れてたよ……。」
その後、急いで戻らなければと思い立ち。翔は夜の闇の中で一陣の風になった。
「おーなーかーすーいーたー。」
案の定、翔が家に帰るとテーブルで俯せになっている進爺さんを発見した。どうやらすれ違いだったらしい。
「外で何か食ってこなかったのか?」
「翔坊が作ってくれるって信じておったしのぉ……ひもじいのぉ……。」
なんか微妙に責められてる気がする。………仕方ない、簡単な物でも作るか。
「……ところで、どこに行っておったんじゃ? 探したぞ?」
「ああ、優にたかられてた、その後は爺ちゃん探して、琴とかいう先輩が絡まれてたの助けて……。」
「そうか、そうか。相変わらず女っ気が多いのぉ、翔坊の周りは。せっかくじゃし、早く曾孫の顔がみたいの……。」
何言ってやがるこのジジイ、気が早いにも程があるだろ。そもそも女っ気が多いってどっから出やがったんだ。
「優は男だし、琴って先輩とはちょっと知りあっただけだ。曾孫どころか彼女もいないぞ……。」
「むぅ、そうか……ならワシが見合いでも。」
「おい、飯いらねぇのか……?」
なんだか本気でやりそうなので取り敢えず冷たい眼で睨んでおく。そんな事になったら優に殺されるだけじゃ済まない事になるだろう。恐らく見合い会場が爆発する、物理的に。
「婆さん、翔が酷いんじゃ……。親を失った翔坊をワシが今まで一生懸命育ててきたと言うのに……。」
「家事は俺がやってるな。遺産があるから少なくとも生きていく分には金には困らねぇし。」
そういうと進は泣きそうな顔をして……いや、あれは完全に泣いてる。
「うう、婆さんや。翔坊がワシの事を無能なクソジジィじゃと……うっ、うっ……。」
「あーハイハイ、俺が悪かったよ。……ほれ、チャーハンだ。これ食って機嫌直せ。」
「おお、すまんのぉ、いただこう。」
飯を与えて大人しくなるなんてまるで犬か猫の様だと、進むの反応に若干表情を引き攣らせながら、なんだか今日はもう疲れた事だしさっさと寝ようかと翔が部屋に戻ろうとした時だった。
「時に翔坊、学校は楽しく行けそうか?」
スプーンを片手にチャーハンの前でスタンバっていた進が突然なんの脈絡もなく、翔にそう聞いてきた。
「ん? ああ、何とかな。優とも同じクラスになれたし、友達もそこそこ出来たんじゃないかな。あんまり心配するなよ。……んじゃあ俺はもう風呂入って寝るから。」
「ふむ、そうか。おやすみ、翔坊。」
なんだかガラにも無く心配している様子の進に苦笑しながら、翔はそう言って一人リビングを出て行った。
今回は前回との空き時間を少なく出来ました…前回は本当にすいませんでした… 琴:本当に長かったよねぇ?情けないなぁ 琴さん…いたんですね 琴:まぁ初登場だしね少しくらい目立ちたいのよ♪ 初登場ですか、本当はもっと早い予定だったんですけどね。第4話あたりで出そうかと思ってたんですがねぇ 琴:あんたの技量不足だよ精進しなさいな♪ …わかってますよ。 琴:それじゃあ皆さん感想よろしくおねがいしますね♪