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まじかるタイム  作者: 匿名
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第53話:後夜祭、ダンスの種類はお好みで

「皆さーん、後夜祭を始めますよ〜♪ でも、ぶっちゃけ私思うんですよねー。フォークダンスとかもう古くない? 何事も個性の時代だよね、とっ!!! って事で、理事長権限フルに使ってルール変えます、踊りならサンバでもワルツでもブレイクダンスでも盆踊りでも構いませんっ!!! 踊り狂え若者よ、好きな女の子がいるなら『僕とブレイクしませんか?』と誘え、チャンスだぞ男の子っ!!! 女の子は相手が気持ち悪くても死ねとか言っちゃ駄目よ? ちゃんと『気持ち悪いから死んで下さい』って理由も言う事っ!!!! 特に生徒会メンバーはうざったいからって問答無用で魔法撃っちゃ駄目、怪我人は出しても死人は出さないでね♪」


「理事長、司ちゃん、一緒にバニーでラインダンスしよ♪」


「……もう嫌です……ぐすんっ……お嫁にいけません……ひっく……」


「悲惨だな、司先生……」


理事長と奏に振り回されながら地面に座り込む司を見て、間違いなくこの光明祭で一番苦労したのは司だと翔は同情した。翔の女装も回りから見れば同じくらい可哀相に見えたのだが、あの記憶は翔の記憶から完全に消去されていた。


「でも目茶苦茶ね、本当に盆踊りしてる人がいる辺りノリが良いのが分かるけど。」


「ああ、魔法を使うなと釘をさしてくれたのもありがたい。もっとも、優が聞くとは思えないけどな。」


翔はそう言って溜息をついた。今のところ怪我人はいないようだ。それを見て魔夜も呆れたように息をついた。


「それはいいけど、私ダンスなんて出来ないわよ?」


「やってるうちに慣れるよ、ステップを少し覚えるだけだ。それに、美人はそこにいるだけで絵になるからな、魔夜なら問題ない。」


「もう、すぐそういう事言う……。でも、下手なダンスなんて見られるの恥ずかしいし、フィールド張るわよ。」


魔夜が背中にさしてある杖を抜くと、杖の先端についている宝玉が発光し、魔夜の周りから一陣の風が放たれてフィールドが形成される。翔はそのフィールドが相当複雑な物だと見抜き、感嘆した。


「凄いな、これだけ複雑なフィールドを簡単に展開出来る人間がどれだけ居るんだか」


「まぁ、魔法については色々調べてるからね、この学園に来たのもその為だし。この学園は魔法関係では世界で最高のレベルを誇っているわ。」


「そう言えば、この学園って凄いんだったな。先生や理事長があんなだから忘れてたよ」


翔がそう言うと、魔夜はクスッっと笑って杖を戻した。


「その学園に推薦で入るエリートも十分凄いと思うけどなぁ、生徒会も推薦だし。それに、これくらい篠原君にも出来るでしょ?」


「いや、残念ながら俺には出来ない。推薦も優と一緒に学園側から誘われてな、入る時も特に面接もテストも受けてない。魔法もろくに使えないよ、レジストとバリアくらいだな。魔力の量だけだよ、俺が優れてるのはな。優は違うけど。」


「ふぅん、本当に謎が多い人ね。」


魔夜が疑わしげな眼でそういうと、翔は苦笑した。そして魔夜の手を引いて体を引き寄せる。


「まぁ今はそんな事どうでもいいだろ、踊ろうぜ。」


「だからステップなんて分からないって言ってるじゃない。」


「それじゃあ俺のステップに合わせろよ、リードするから。」


魔夜がむくれた顔でごねると、翔はそう言ってステップを踏んだ。魔夜もそれにステップを合わせて踊る。


「やっぱり強引。」


「魔夜は強引なのは嫌いか?」


「……相手によるわよ。」


魔夜がそう言って顔を逸らすと、翔は苦笑した。何だかんだで魔夜も飲み込みが早く、直ぐに優雅に踊れるようになっていた。


「なんだ、全然踊れるじゃんか。」


「ふふっ、才能があるのかも知れないわよ?」


「相手が良いからだろうな。」


「はいはい、調子に乗らないの。」


魔夜は呆れた口調でそう言っていたが、表情は笑っていた。そのまま魔夜は眼を細めて、翔の眼を見つめた。


「ありがとね……。」


「何がだ?」


「もう、分かってる癖に性格悪いわよ。」


翔がそう言って微笑すると、魔夜は白々しいとでも言うように返した。


「篠原君は私がいつも無理して生活してると思って、心配してくれて、こういう風に連れ回してくれてるんでしょ?」


「まぁな。でも、俺が魔夜といて楽しかったのは本当だぞ?」


翔がそう言うと、魔夜ははにかみながら頷いた。幸せだと、楽しいと、魔夜は自分がそう思える事に感謝した。翔は数少ない気兼ねせずにすむ相手だ、翔を誘う時に言った事は嘘ではなかった。

分かってはいるのだ、この人は自分が見てきた他の人とは違うと。分かってはいるのだ、この人は澄や美里が惚れるような優しい人だと。

でも、自分の親も優しかったのだ。この力を知って、それが自分に使われる事を知るまでは、確かにあの親も優しかったのだ。


「篠原君は、私に力を使われても良いって、そう思ってくれる?」


魔夜は自分で言って、無駄な事を言ったなぁ、と後悔した。翔ならきっと、心から言ってくれるだろう、構わないと。


「別に構わないな。」


「ふふっ、やっぱりそう言ってくれた。」


魔夜はそう言って笑った。誰でもそういうに決まっているのだ。それでも自分は安心してしまった。


「篠原君の心、読めたら良いのに。」


魔夜は踊りながらそう呟いた。自分から読みたいと思ったのは初めてだった。翔の先程の推理に間違いはない、翔の心は読めないし、この力を消し去りたいとも思っている、勿論使うのも嫌だ。でも、今だけ翔の心を読みたい。読む事自体に意味はない、ただ信じる為には証拠が欲しかった。あの親とは違うという証拠。読まれても、心を見られても、今までと変わらずに一緒に居てくれるという証拠が。


「篠原君、私も皆の気持ち分かるよ。共感出来るって意味でね。」


「どういう事だ?」


「……あんまり、泣かせないでって事。」


自分が信じてしまえばそれで済む事だ、きっと受け入れてくれる。だからこれは自分のせいだ。自分の臆病さとトラウマに、翔を振り回しているだけだ。魔夜の心を知ってか知らずか、翔は困ったような、済まなそうな顔をしている。なんとかケジメをつけなければならない。


「ねぇ篠原君。私と、えっち……したい?」


「……いきなり凄い事言うな、魔夜は。流石に驚いたぞ。」


「私の初めて、欲しくないの? 好きにさせてあげるよ。」


これで終わりにしよう。これは今日の御礼。そのまま依存してしまうかもしれないけど構わない、どうせ自分のせいなのだから。魔夜はそう思って、フッと笑みを浮かべた。


「俺がうん、と言うとでも?」


「言わないんだ……。ちょっと予想通りだけど、残念かも。篠原君なら良いかなって思えたから。」


魔夜はそう言いながら翔の顔が真面目な表情を作っているのを見た。そして、ダンス中だというのにグイッと自分の方に引き寄せられた。


「……何? 本気で欲しいなら、してもいいよ?」


「俺はそんなに信用ないか?」


「そうじゃないの。ただ、無理なのよ。ずっと信じてた物に裏切られるのは辛いから。今ならまだ耐えられるもん。」


魔夜は無表情にそう言った。翔がなんと言おうと無駄だ。どんな行動をしようと無駄だ。結局は心の問題で力の問題だ。それに翔の腕の中と言うのはなかなか甘美で、居心地がいい。こんなものを一ヶ月と味わってから裏切られたら流石に自殺してしまうかもしれない。それはもう酷い死に方をする自信がある。


「それじゃ、私は調子悪いから帰るわね。後は他の子と一緒に踊りなさい。」


そう言って、魔夜は翔の腕から離れた。これでいい、この力をどうする事も出来ないのはなんとなく分かっている。その上、翔が裏切らないか確かめようもないのだ。こんな気持ちでいるのはきっと耐えられない、それなら諦めてしまった方がいい。まだ気持ちが小さい内に、苦しむ前に。


「俺は諦めが悪いんだ。本気で言ってるならまだしもな。」


「知らないわよ、そんな……自分勝手。」


翔が魔夜の腕を掴むと、魔夜の体が固まった。振りほどこうとするが、力も入らない。魔法を使うのがためらわれたのは、まだ未練があったからだろうか。


「こっちを向くんだ魔夜。」


「無理だって言ってるじゃない。 お願いだから……もう……放っておいてよぉ……」


翔が魔夜を振り向かせて引き寄せると、魔夜は力無く翔にもたれかかり、翔の服に顔を埋めた。魔夜の声に徐々に嗚咽が混じってくる。翔も魔夜を放っておきたくは無かったが、このままでいても余計に魔夜を傷付けてしまうのではないかと思い始めた。だが今離したら、魔夜は自分を避け続けるだろうと言う確信もあった。


(しょうがないなぁ……この子の為なら仕方ないか。)


「え……?」


頭の中に直接響くような高い、女の子の声が聞こえた。魔夜は驚愕に眼を見開き、顔を上げる。その様子に、翔も驚いた様に魔夜を見た。


「どうした?」


「……ううん、なんでもない。」


今のは翔の心の声ではない、明らかにまだ幼い女の子の声だった。そんなうまい話があるわけないだろう。そう思い、魔夜は自嘲した。


(嘘じゃないなんて、言葉で言っても意味がないよな。)


「………っ!!」


「おい、やっぱり何処か体調が悪いのか!?」


「あ、いや、そうじゃないの……。」


今のは確実に翔の声だった。自分の力が強くなったのだろうか。それとも、翔が何かをしたのだろうか。魔夜は考えながら身を固くした、どちらにしろ翔の心が読めるようになったのだ。


(やっぱりキスとかするべきなんだろうか。真夕の時はそうすれば信じられるって言ってたけど、魔夜だしなぁ。嫌がられるかも……でもさっきはもっと過激な事言ってたし……)


「き、キス……。」


「…………」


その言葉に翔は先程の魔夜の様に眼を見開いた。それに対し、魔夜はやってしまったと言う様に身を堅くした。恐る恐る翔の方を見てみる。すると、翔はおかしな物でも見るように魔夜を見てプッっと噴き出して、魔夜の顎を引き寄せた。


「なっ……。」


「これが証拠か、なんだかキザだけどな。」


「ふぇっ!? んっ……む……」


翔は有無をいわさず魔夜に素早く口付けをした。いきなりだったので、魔夜は翔に答える暇さえ無かった。


「……んむぅ……ふっ……ぷぁっ……。」


「ふぅ……これで信じてくれるか?」


「ぇ……ぁ……。」


魔夜は呆然として翔を見た。頭の中は軽く混乱している。さっきまで半泣きだったのがもう何処かに吹き飛んでいた。


「しょ、証拠って……。」


「言ったろ、俺は諦めないって。魔夜に心を読まれても良いって言ったのは嘘なんかじゃないからな。」


「…………。」


魔夜は呆然と翔を見つめた。やがて、フィールドの外の音楽が切り替わる。


「そう……ね。十分な証拠よ。」


魔夜はそう言うと、暫く沈黙した。そして、翔にギュッと抱き付いてくる。


「篠原君は、嘘つけないものね。それに、澄ちゃん達を見てれば分かる。篠原君は私が心を読んだ程度で心変わりする人じゃないって。……結局私が一人で、自分を孤立させてただけだったんだね。」


「魔夜……。」


「私の事、好きって言ったのも本当だよね……。」


魔夜は翔の腰に回していた腕を離すと、翔の眼を見て微笑んだ。


「私のファーストキスを無理矢理奪ったんだから、私の事も責任とってよ?」


「ああ……。」


翔が答えると、魔夜も満足したようにクスリと笑い、わざとらしく溜息をついた。


「もう、読めないみたいね。なんだったのかしら、さっきの。」


「んー、愛の力とか?」


「篠原君……寒いわよ。……だから暖めてね、さっきより優しく。」


魔夜はそう言うと、翔の首に手を回した。翔も抵抗などせずに魔夜の腰に手を回して、唇を奪った。









「あ、翔坊君、御帰りなさい。」


「ただいま新羅さん、来てたんですね。」


魔夜を家まで送り、家に帰宅すると台所には新羅が立っていた。翔がいない時に来ていると言っていたし、ここで会うのは初めてだ。先程靴を見たが優はまだ帰ってきていないようだ。


「学園祭の後だし、朝帰りかと思ったわ。」


「……それはどう突っ込んでいいんですか?」


「受け入れなさい、私も進君の浮気癖は受け入れたわ、最近はおとなしいけどね。」


新羅が野菜を切りながらシレッとそう言った。


「親から子へは受け継がれなかったけど、孫へは受け継がれたのね。遺伝って怖いわ♪」


「…………。」


からかうような口調の新羅に翔は表情を引きつらせた。まさに何も言えない状況だ。


「さ、さて、俺は二階で休んできます。」


「はいはい、口説き疲れたからって寝ちゃ駄目よ。優ちゃんが買い物から帰ったら降りて来てね。」


「……了解。」


「あっ、そうだ。」


新羅に遊ばれ、翔は本当に疲れた様子で部屋から出ようとしたが、新羅に呼びとめられた。今度は何を言われるのかと思い足を止める。


「魔夜ちゃんの力は強くなる事はないわ、安心してね。」


「……何故それを……?」


「優ちゃんに聞いたのよ。今日は魔夜ちゃんと回ったんでしょ?」


翔が驚いたように聞くと、新羅はクスッっと笑ってそう返した。翔は暫く固まってしまった。


「もしかして一瞬だけ、読まれたりした?」


「え、はい、何故か少しの間だけ……」


「そう。あの子の力は特殊だから、私の方でも調べてるのよ、それだけ。ごめんね、引き止めて。」


そう言うと新羅は翔から視線を外し、元の作業に戻った。翔は新羅の言葉に納得し、部屋を出て行く。少し経って、進の部屋の扉が開いた。


「翔坊が帰って来たのか。」


「うん、今さっきね。……それと、翔坊君の心の周辺の魔力、ちょっとだけ動きがあったの。多分、後夜祭の辺りかなぁ。」


「ほぉ。優ちゃんのストレスが溜まりそうじゃのぉ。」


進が笑ってそう言うと、新羅は呆れたように溜息をついた。


「優ちゃんが可哀相だしね、これで良いのよ。まだ、子供だもの。」


「ワシらよりずっと、大人な子供かもしれんのぉ。」







「あれ、優。買い物じゃなかったのか?」


「ええ、今帰ったところよ。」


優がそう言うと、翔は開いている窓に視線を移した。なんで自分より先に部屋にいたかが容易に想像出来る。


「優、窓から入るのは止めろよ。」


「ほら、家に帰ったら一番最初に翔の顔を見たいじゃない♪」


「…………ったく。」


優が率直にそう言うと、翔は何も言えなくなってしまう。それを見て、優は手を口元に当てて笑った。それを見ていると、何故かとても安心してしまう。


「翔、ちょっと後ろ向いて。」


「ん、ああ。」


「えいっ。」


翔が優の言葉通り優に背を向けると、優が翔の背中に飛び付いて顔を埋めた。そして、そのまま黙り込んでしまう。


「…………。」


「……優、何かあったのか?」


翔が訝しく思い聞くと、優は一瞬、翔の服をギュッと掴んでから、離れた。


「んーん、何もないよ。ただ、ちょっとやりたかっただけ。」


優はそう言って笑った。別にこういう行為が珍しいわけではない。ただ、いつもふざけている時は胸を押し付けて来たり、何らかの別の行為をして来るのだ。


「本当か?」


「私が翔に嘘ついた事があったかしら?」


「ない……な。」


翔がそう言うと、優は本当に嬉しそうに笑った。


「でも、心配してくれたんだ、やっぱり翔は優しいね。ありがと。」


「……はぁ、先に行ってるぞ。飯だから早くこいよ?」


優が翔に邪気の無い礼をすると、翔はつい溜息をついてしまった。なんだか小恥ずかしくなってしまい、先に部屋を出た。優はそれを見送って、またクスッっと笑った。


「……優し過ぎるから、私が守ってあげるからね、永遠に。」


優は俯きかげんにそう言うと、次の瞬間にはその場から消えていた。


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