第52話:聞こえる物、見える物、隠している物
「お待たせー。って、着替えるの本当に早いわね……」
「ああ魔夜、俺は今最高に感動しているよ。もうあの悪魔の衣装を着なくていいんだからな。正に禊ぎ払いを終えた後の心の様だ」
「また良く分からない例えを……。」
午前中の仕事を終えた魔夜が更衣室から出て来ると、翔は既に外で魔夜を待っていた。魔夜とは二日目を一緒に回ると約束していたからだ。
魔夜も随分と素早く着替えたつもりだったのだが、何故かメイド服という面倒な服を着ていた翔の方が早く出て来ていた事に苦笑を漏らした。
「でも、似合ってたと思うわよ? なんだかんだで受けも良かったし。男女逆転って公言してるのに、あれだけ人が言い寄って来るのは似合っていた証拠よ」
「魔夜、褒め言葉の全てが相手を喜ばせると思わない様にな?」
「やっぱり流石の篠原君でも同性からはキツかったか、喜んでたら逆に引くけど」
「引かなかったら、むしろ俺が魔夜に引くぞ」
翔の反応を楽しむ様な魔夜に、翔は言い返しながらも溜息をつく。魔夜はそんな動作も面白いと言う様に笑った
「そう言えば、みっちゃんとも随分仲良くなったみたいね」
「相変わらず目敏いな……」
「ふふっ、優が言ってたのよ。なんでも翔さんのお爺さんの若い頃がそんな感じだったらしいとかなんとか」
魔夜がそう言うと、翔はあからさまに嫌そうな顔をした。
「頼むから爺ちゃんと比べないでくれ」
「んー、優の話を聞く限りでは似過ぎてるくらいなんだけどなぁ」
「…………」
改めて考えると否定出来ない事実に翔は愕然とする。確か進は学生の頃は自分でも何人と付き合っていたか忘れるくらいであったらしい。絶対にそうはならないなりたくないと思っていたが、数こそ違えど、これはそのままなのではないだろうか? と翔は考えてから落ち込んだ
「あれ、落ち込んだ」
「落ち込ませたのは誰だ」
「んー、私かな?」
魔夜はコロコロと笑うと話題を切り替えていく
「そう言えば、昨日からかな先生の姿が見えないんだけど」
「そう言えばそうだな。何処かでコスプレショーでも演ってるんじゃないか? 司先生あたりも巻き込まれてるだろうけどな」
こう言う時に一番はしゃぎそうな人間が教師だと言うのもおかしな話だが、確かに奏の姿は昨日回った時に見ていない
「そう言えば、司先生もコスプレさせられるとか言ってたわね。かな先生に懇願されたかららしいけど」
「そう言えば生徒会室でそんな事言ってたなぁ。司先生は奏先生に弱いみたいだしな」
「篠原君が優に弱いのと一緒でね♪」
「俺らの話題を持って来ないでくれ……」
自分と優の話題に切り換えられて、翔は少し嫌そうな顔をした。優に対しては昔から頭が上がらないのだ、優に甘いと周りから言われているし、それが誤解に繋がっているのも分かっているのだが、何故か優にだけは常に甘くなってしまう。翔にもちゃんと自覚はあるのだ。
「それで、何か聞きたい事でもあるのか?」
「え、何で分かったの?」
魔夜が驚いた様に言った。翔は、やっぱりかとでも言いたげな顔になる
「だって俺と回れる様に時間合わせたんだろ? 美里と時間が変わった時に魔夜も一緒に時間変更したからな。無理矢理変わってたみたいなのに、優達と時間が合わないのから俺と回るなんて理由は不自然だろ。」
「私が恋する乙女化してる可能性は?」
「…………考えてなかったな」
「……だから鈍感とか言われるのよ」
魔夜が呆れた様な顔をして言った。翔としては何も言えなくなってしまうが、一番最初の予想が合っていたので、問題無いと言う事にしておく。翔達はそう話ながら近くのベンチに座った。なんだか話が長くなりそうな雰囲気があったからだ
「それで、何が聞きたいんだ? 先週の土日の事なら言えないぞ」
「それも出来れば知りたいけど。私が知りたいのは優の事かな」
「優? 何が知りたいんだ?」
翔はそう言えば琴にも優の事を聞かれたなぁ、と思い出した。あの時は何が言いたいのか良く分からなかったが
「優ってさ、凄く頭良いじゃない?」
「まぁな、今回のテストも学年トップ取ってたし。優自身はあんまり気にしてないし、俺もたまに忘れそうになるけど」
「んー、そうなんだけど。ちょっと格が違うって言うか、有り得ないって言うか」
翔が思い出しながらそう言うと、魔夜は何かそうじゃないと言いたげに唸った。
「有り得ないって……、まぁ確かに天才って言えるだけの力はあると思うけど」
「そうじゃないのよ、んー、何て言ったら良いんだろう」
魔夜は腕を組んで、んーんーと唸りながら言葉を探した
「つまり、知ってる筈のない事を知ってるのよ、まだ解明されてない事とか。後は今の私達の魔法って概念を全て覆したりとか」
「知らない事を知ってるって、優がか? 魔法の概念を覆すって、良く意味が分からないんだけど」
「……やっぱり、知りたい事だけ言っても駄目よね。自分で言ってて意味わかんないわ」
魔夜は諦めた様に溜息をついてから、翔の顔をじっと見た。暫く考える様な動作をしてから、自分の中で何かを決定した様に、よしっ、と言った
「篠原君、今からする話を嘘だとか思わない事と、誰にも言わない事、約束出来る?」
「ん? まぁ、言うなってんなら言わないよ」
翔が訝しげにそう言うと、魔夜は満足した様に立ち上がった
「よし、それじゃあ人けの無い所に行きましょう。他の人に聞かれたくないから」
「ここで良いかしら? 密談には丁度良い雰囲気だし」
「一応学園祭中だしな、好んで体育館裏に来る奴はいないだろ」
「学校で一番呼び出されそうな人は目の前にいるしね♪」
魔夜はそう言って壁に寄り掛かった。
「えっとね、人の心を読めるのよ。全員じゃない事がこの学園に来て分かったけど」
「……はい?」
「うん、まずは信じてね。私でもそうなるだろうから特に何も言えないけど」
魔夜はそう言ってちょっと困った顔をした。まだ話は、始まったばかりだ、翔はそう考えて落ち着いた
「えっと、今俺が考えてる事分かるか?」
「優と篠原君は読めないのよ、これにも理由があるらしいんだけど。後で説明するから。」
これがさっき念を押した理由か、と翔は納得した。取り敢えずは信じるしかない、それになんだか魔夜が少し不安そうにも見えたのだ
「実は初めて会った時にも、どんな人なのかなぁって思ってね。読もうとしたのよ、篠原君達全員の心を。何かと便利だから」
魔夜はそう言って笑った。翔はじっとそれを聞いていた
「あ、あれ、怒らない……のかな? それとも信じてない?」
「怒ってないし、信じる様に努力もしてるよ、続けてくれ」
「う、うん。」
魔夜はなんだか動揺した様になったが、翔が促すと頭の中で言いたい事を整理した
「ん、んっと、その時篠原君と優の考えてる事だけは分からなくて。その後、入学式に行く時に優に呼び出されたのよ。それに付いて行ったら、いきなりその力を翔に使うのを止めろって言ってきたの」
「優は、魔夜のその魔法だか力だかに気付いてたのか?」
「そうみたいね」
「……優が格が違うってのはその事か?」
「それもあるけど……」
翔が尋ねると、魔夜はそう返した。翔は別に優の行動自体には驚かない、何かと翔の事を気にかけてきたし、魔法的な事も優の方が優れているのは分かっている
「優の話によると、心を読んだり、記憶を操作したり、心を操ったりって言うのは不可能らしいの。常に心って言われる部分には、その人の魔力が更に高密度になったバリアみたいな物になってるらしくて、そのせいで他人の魔力が介入出来ない状態らしいわ。もし介入しようとしても、その魔力が弱いとの主導権も相手に奪われちゃうし、もし相手の魔力密度を越えた魔力をどうにか作っても中の心自体を壊しちゃうんだって。」
確かにそんな事が可能であれば世界は大変な事になるだろう。だが、何故優がそんな事を知っているかと言うのは確かに気になる。魔法に関してはまだ殆ど分かっていない筈だ。
「そもそも、相手を洗脳したり心を見る行為は難し過ぎて私達には出来ないみたいよ。私は特異体質らしくて、その魔力の壁を透かして透視みたいな事をしてるらしいから出来るらしいんだけどね。優と篠原君は魔力の量と密度が他の人とは比較にならないらしいから、透かして見ようとしても無理なんだって。優に関しては自分で隠す事も出来るらしいけどね」
「……なるほどな、俺も魔力の多さについては何となく分かる」
翔も自分の魔力の多さくらいは分かっている。翔が使う防御以外の魔法は魔力の多さに頼った物で、もしも普通の魔力だとしたら、翔の技術では戦闘なんて不可能だ。
「本来、私の使う事の出来る魔力じゃ、人間所か虫の心の魔力すら越えられないし、心に干渉する魔法自体も良く分からないけど使えないらしいわ」
「また曖昧だな」
「何でも、私達の使ってる魔法とは種類が違うらしいの。私達のは錬金術とか魔術って言われる様な物らしいんだけど、優の言ってるのはそういうんじゃないみたい」
翔はなんとか理解しようとしたが、諦めた。ただでさえ複雑なのに、曖昧な内容を又聞きしているのでは理解出来る筈もない
「まぁ、何となくは分かった。確かにそんな事を知ってるのは不思議だわな」
「うん、それで優が何者なのか気になっちゃって……。篠原君なら何か知ってるんじゃないかなぁって思ったんだけど、知らないみたいね。」
魔夜はそう言って息をはいた。翔も確かに優の事は気になったが、翔が優と会ったのは小学生になった時で、それから優はずっと翔と一緒にいたので、それもきっと何かの本で読んだのだろうと思って頭の中から消し去った。
「なるほどな、取り敢えず信じる事にする。でもこの事も優には言わないよ。勿論魔夜の体質の事もな」
「うん、ありがと。……でも、篠原君は気味悪がらないんだね。私の事」
魔夜が自嘲する様にそう言うと、翔は、やっぱりそんな事を考えてたのか、とでも言いたげに魔夜に苦笑した
「実害がないし、魔夜がそれを悪用してないしな。魔夜もその力を何とかしたいって思ってるんだろ? それに、さっきの心を読もうとしたってのも嘘なんだろ?」
「……何でそう思うの?」
「そうでもなきゃ、なんで優の事をこんなリスクを負ってまで聞きに来たんだよ? 明らかに知的好奇心と天秤にかける様な事じゃないな。優に魔夜が恋する乙女化でもしない限りは……だがな。出来ればそれは止めて欲しい。」
翔が冗談めかしてそう言うと、魔夜はクスッっと笑ってから、また自嘲するように苦笑した。
「……でも、この力を使うのには変わりないわよ。事実私が気にしてる人間の心だけが分かるんだもの。無意識とはいえ、私が使ってるのに変わりなんてないわ。」
魔夜はそう言って唇を噛んだ。沈黙が流れて、表で騒いでる生徒の声が際立って聞こえた。
「まぁそうだな、俺には魔夜の気持ちは分からないよ、なんでその力を嫌ってるのかもな。俺がその体質ってわけじゃないし、俺は魔夜の事を小さい時から見てるわけでもないし」
「うん……。こんな話して、ごめんね」
翔はそう言って立ち上がると、魔夜は少し寂しそうに俯いた。
「さて、時間は少ないんだし早く回ろうぜ。」
「え……?」
「俺の心は読めないんだろ? だったら良いじゃんか、俺は別に気にしないよ」
何を言ってるのか分からないと言う様に魔夜は驚いて翔を見る。
「わ、私が嘘ついてる可能性もあるわよ? 篠原君に嫌われたくないからって……」
「嘘ついてる奴はそんな事一々言わないだろ。それとも魔夜は、俺と回りたくないのか?」
翔は魔夜の言葉に呆れた様な口調で返しながら、強引に魔夜の手を取った。
「そう言うわけじゃないけど……」
「なら問題ないな。ほら行くぞ、実は司先生のコスプレってのには個人的な興味があるんだよ」
翔はそう言うと魔夜の手を引いて歩き出した。魔夜は嘆息とも溜息とも取れる息をはいた後、うっすらと笑って翔の後について歩いた
「絶対に嫌です、無理です、風紀違犯ですっ!! 捕まっちゃうじゃないですかっ!!」
「もー、司ちゃんもいい加減に観念しなよー。そんなに似合ってるのにぃ……」
「「…………」」
翔と魔夜が二人を探しに生徒会室にまで来てみると、バニーガールの格好をした二人が言い合っていた。なんだか良く分からないがヒートアップしているようだ。奏が黒、司が赤のバニーガールになっていて、司はいつもアップにしている髪をおろしている。翔はなんだかいたたまれなくなり、声をかけようと口を開いたのだが、奏が先に翔に話し掛けた
「あ、篠原君に未倉さん!! ちょーど良かった、ナイスタイミングだよ♪ 司ちゃんに何とか言ってあげてよー、流石に二日はやる元気ないだろうと思って今日だけにしたのに強情なんだよ!?」
「何かもっとこう……露出の少ない物だと思ったんですよ、奏が何とかってイベントに着ていく様なっ!! これは流石に恥ずかしくて死んじゃいますっ!!!」
「ま、まぁ、学校でバニーガールはねぇ……」
「ああ、司先生だとシャレにならないな……」
奏に先に声をかけられて救出するチャンスを逃してしまい、翔と魔夜は渇いた笑みをこぼした
「ほらほら、もう生徒に見られちゃったんだから二人も千人も同じでしょ!! 大丈夫、理事長がコスプレ広場作ってくれたから、皆そこでコスプレしてるよ♪ 浮かないって!!」
「浮くとか浮かないとかじゃないんです、大体二人と千人は全然違いますよ!?」
司が断固拒否しますとばかりに頑な態度をとると、奏は少し瞳を潤ませた。それを見て司が後退りをし始める
「司ちゃん約束したもん、一緒にやるんだもん、司ちゃんなら似合うと思って持って来たんだもん……」
「うっ……」
奏があからさまにいじけ出して、地面にのの字を書き出すと、司の表情から心が揺れているのが丸分かりだった。陥落間近だ
「いいもんいいもん、学校止めてニートになるもん。家で在宅レイヤーやるもん。一日中写真に一番綺麗に写る角度を研究しちゃうんだもん……」
「……うぅ、分かりましたよぉ、奏の馬鹿ぁ。付き合えば良いんでしょ、私が教え子や後輩の前でバニーの格好すれば良いんですよね……」
奏の説得により、ようやく司はうなだれて観念した。奏は満面の笑みで、うんうんと頷く。その顔は清々しい達成感に満ちていた。
「そうだ、二人も一緒にバニーやらない? 篠原君は男の子だけど女装でいけるよね♪」
「え……?」
奏の言葉に翔の顔が真っ青になる。魔夜がクスリと笑うのが分かった。司も縋る様な眼で翔を見る。
「篠原さん、旅は道連れ世は情って言いますよね?」
「なっ……。あ、そうだ、俺ちょっと用事を思い出しました。ほら、行くぞ魔夜!!」
「えーっ……」
「えーっ、じゃない!! それでは、失礼しました!!!」
翔はそう言うと渋々了承といった感じの魔夜の手引いて逃げ出した。
「あ、篠原さん!?」
「ほらほら、巻き込まない巻き込まない♪」
翔がいればなんだかんだで有耶無耶に出来るかも、と言う司の期待は裏切らた。奏は依然ニコニコと笑っている
「駄目だよー司ちゃん。部屋に入ってから出るまで手を繋いでる様な二人の邪魔しちゃあ」
「あ、そう言えばそうですね。今までは友達って感じでしたけど、これも学祭効果ってやつでしょうか?」
司は何か納得した様に、うんうんと頷いてから、奏も少しは教師っぽくなったかなぁと顔を見た。それに気付いた奏は、にこっと笑うと司の手を掴んだ
「じゃ、私達も行こっか?」
「嫌ですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?!?!?!?」
その日、コスプレスペースは異様な盛り上がりになったらしい
「あ、魔夜ちゃんこっちこっち!! 安くしたりは出来ないけどね♪」
「ふふふっ、未倉さん、彼氏さんと一緒にどう?」
「か、彼氏とかじゃないよ!! もぉ〜……」
「はは……」
こうして魔夜と回っていて、翔は魔夜の顔がとても広い事に気が付いた。翔も生徒会役員であるし、色々と動く事もあるので別に交友関係が狭いわけではないが、魔夜と一緒にいる間は、一際色々な人から話しかけられるのだ。
「篠原君いいの? 私とまで噂が広まったら冗談じゃなく本当に鬼畜扱いよ? 私、結構知り合い多いんだから」
「それは光明祭が始まる前から諦めてるよ」
翔が苦笑すると、魔夜が呆れた様にそれを見る。そして、魔夜も翔と同じ様に苦笑した
「まぁ、私に友達が多いのも、きっとこの力のお陰なんでしょうけど」
「……確かに人付き合いは楽だろうな」
「楽よ。使う気が無くても……ううん、やっぱりこれは無意識に私が使おうとしてるんでしょうね、依存してるのよ。お陰で誰との関係もスムーズに進むわ」
魔夜はクスクスッと楽しそうに笑う。比較的に人がいない所に出ると、魔夜は壁を背に寄り掛かった。翔も歩くのをやめて、魔夜に合わせた
「本当に自己否定が過ぎるな、そんなに自分が嫌いか?」
「事実を並べてるだけよ。それより、篠原君こそ何が目的なの? こんな女と回ってて楽しい筈ないわ」
「そうか? それなりに楽しんでるけどな」
翔がそういうと、魔夜はムッっとして翔をにらんだ
「傷心の女の子なら簡単に落とせそうだから?」
「……はい?」
「男なんて結局は下心で動くじゃない。下心のない男なんて会った事ないわ。」
魔夜はムッっとした表情のまま、少し視線を逸した。翔は魔夜の顔がなんだか少し赤い気がした。
「今までの男がそうだからって俺がそうとは限らないだろ。」
「か、確立の問題よ。こんな女と回りたいなんて下心のある男くらいしか考えられないし……。自惚れるわけじゃないけど、容姿には結構自信があるもの」
「ま、容姿の点は否定はしないけどな」
「またそう言う事を言う……」
翔がそういうと魔夜は先程よりも顔を赤らめて翔を睨む、翔はそれを見て苦笑をした。今日の魔夜は肩にかかる紫色の髪を一束横で結っていて、それもよく似合っているし、魔夜自体が完璧にスタイルが良いと言うわけではないがスレンダーで健康的な体付きをしている
「大多数がそうだって言っても、俺がそうだとは限らないだろうが」
「…………」
翔の言葉に、魔夜は沈黙して苦々しく顔を歪めた。
「そうかも知れないわね。でも、もし私の力が篠原君の力を凌駕する様な事が起こったら?」
「どう言う事だ?」
「別にそのままの意味よ。私の力が篠原君の心を読めるだけ強くなったらって事」
つまりは手の平を返す様になるだろうと言う事だ。そうなったなら先程から言っている、自分には害はないから問題はないという言い訳はきかなくなる。
「……なぁ、さっきから思ってたんだが。」
「なによ?」
「何でそんなにその力を嫌うんだ? 別に魔夜に害があるわけじゃないだろうし」
「それは……」
翔がそういうと魔夜は黙りこんで俯いた。何かあるのだろうと思って踏み込まない様にしていたが、このままでは埒があかない
「別に……大した事じゃないわよ。親に捨てられただけだから……」
「……その力が原因なのか?」
「ええ、そうよ。私がまだ小さくて、この力の事を親に話したの、最初は信じてなかったみたいだけど、段々と避けられる様になっちゃってね。今は一人暮らしよ」
魔夜は何でもない事の様に言ったが、翔にはそれがどうでもいい事を話している様には見えなかった。魔夜はそのまま続ける
「心で幾ら愛してるだの大切だの思った所で、結局その程度で心変わりするのよ。親だって同じ、篠原君もきっと同じだわ。だから私は誰も信じないし、私をこういう嫌な人間にした力も嫌い」
魔夜はそう断言すると翔の顔色を見る様に顔を上げた。表情は先程翔が手を引いた時の様に、薄く笑っていたが、翔はそれと同時に、何か失望か諦めの様な物が見えた
「でもこれで分かったでしょ。私は誰も受け入れない、この力を何とかしないと誰も本当に受け入れてはくれないから」
「……そうか。」
「ふふっ、そうよ♪」
嘆息をつく翔を横目で見て、魔夜はクスリと笑った。翔は何も言わずに黙り込む。魔夜はそんな翔から顔を逸して、背を向けた
「さて、そろそろお祭も終わりじゃないかしら。後夜祭は誰か別の人と行きなさいな、昨日回った美里は満足してるだろうけど、澄ちゃんも先輩方も篠原君と一緒に居たがってるわよ? 優は良く分からないけど、多分篠原君が側に居ればそれで満足する様な気がする、勘だけどね」
魔夜はそう言って、また、きっと笑った。背を向けられたせいで魔夜からは表情が読み取れなかったが、笑っていただろうと翔は思った。だが表情だけが笑っていた所で、翔には下がる気など皆無なわけだが
「それじゃ……」
「あ、魔夜。後夜祭行かないか?」
翔があっけらかんとそう言うと、魔夜は流石に振り向いて、笑みを思いっ切り引きつらせた。
「えっとぉ、ちゃんと話聞いてた?」
「聞いてたぞ。……悪いが俺は、他の人とは回らない。澄にはちゃんと言ってあるし、優は家で十分過ぎる程スキンシップしてるし。真夕先輩と琴先輩は後でベタベタする約束してるから問題ない」
「……篠原君、その台詞は捕らえ方によっては最悪よ?」
翔は魔夜の言葉を特に気にした様子もなく魔夜の手を取る。魔夜は非難するような視線を翔に送ったが、それも気にしない。
「魔夜は俺と一緒じゃつまらないのか?」
「別にそういうわけじゃないけど……その言い方はズルイと思う。」
翔の言葉に魔夜は視線を逸して口ごもった
「それにしても、随分とエゴイストなのね、篠原君って。」
「自覚してるよ。もっとも最近、少し認識が変わったけどな」
翔がそういうと、魔夜は表情を諦め、呆れたようにし嘆息した。だが翔は、表情とは裏腹に魔夜の手が震えているのを感じた
「さて、行くか」
「もう、仕方ないわね。」
翔は魔夜の返答に満足し、魔夜から視線を外した。だから、その時の表情は誰も知らない。少し強く魔夜が手を握り返した、その瞬間の表情を。
きっと、魔夜自身も気付いてはいなかった。
手を握り返してしまった事も、自分自身の表情も
こんにちはこんばんは八神です。ううっ……2週間で出来た事は出来たのですが、ちょっと手を入れていたらたま一週間かかってしまいました。 恋:「それは書き上げてない気がするな」 むぅ、ごもっとも。それと魔夜編を一話で書き上げられませんでした。それも申し訳ないです。書いてるうちに魔夜がもっと書きたくなってしまって……。勿論まだまだ書きますけどね!! 恋:「さて、そろそろ宣伝をしたらどうだ?」 そうですね、いつも見てくだっている方もそうでない方もありがとうございます。今回は評価も沢山頂きました。とても励みになりましたし、嬉しかったです。あまり評価をした事が無かったり、しかたが分からない方も感想をどんどん下さいね、待ってます♪