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まじかるタイム  作者: 匿名
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第47話:想いを

「篠原様、到着致しました♪」


「ありがとうございます」


車を止めて蘭がそう告げる。翔が車を降りようとすると真夕が名残惜しそうに擦り寄ってきた。それに苦笑しながら真夕の髪を梳く様に撫でると、真夕は気持ち良さそうに眼を細める


「本当に一日でここまで進展するなんてどれだけ速攻なのやら」


蘭がバックミラーで二人を見つつそう言った。翔はそれを聞こえないふりをして流しつつ車の外へ出る


「それじゃあ真夕先輩、また学校で」


「…分かった……」


真夕がそう言うと翔は扉を閉め車が発進し、翔はコクリと頷く真夕になんだか微笑ましさを感じながら車を見送った。すると突然に、後ろから楽しそうにかけられる声があった


「目的地まであんなに豪華な車で来るなんて、翔ちゃん今凄く目立ってるわよ?」


「…琴先輩…もう来てたんですか…まだ一時間前です…よ……?」


言われた通りに一時間前に来た自分よりも早い琴に呆れながら翔が振り向くと、そこにはいつも通りの琴が……いなかった…


「そういう翔ちゃんだって本当に一時間前に来て……待たせられたって事で今日一日奢って貰うつもりだったのになぁ……、って翔ちゃん?」


「え、あ、いや、何でもありません。その、今日は随分といつもとは違うんですね」


「それはもう!! デートの日に普段の格好っていうのも雰囲気でないじゃない♪」


まず今日の琴は眼鏡をしていない、恐らくコンタクトなのだろうが、翔が振り返った時一瞬誰だか分からなかった。というのもそれだけが原因ではない、服装が違う事もあるだろう。涼しげな薄い水色のワンピースで、手に持っている薄茶色のハンドバックと良く合っている。全体的に見ると良い所のお嬢様といった感じだ。事実お嬢様なのだがそんな清楚な雰囲気の笑顔はとてつもない破壊力があった


「で、デート…ですか?」


「そうよー、男女が二人で腕組んで歩いてたらそれはもうデートでしょ?」


琴はそう言って、そっと翔の腕を取った。翔は周りからの視線が強くなった様に思える。琴がどれくらいここにいたかは分からないが、恐らくは琴に声をかけようとしていた者も多かった筈だ。今日の琴は普段優達からアタックを受けている翔から見てもとてつもなく綺麗なのだから


「どうしたの? もしかして惚れちゃった?」


「そう言う事を言わなければ惚れたかも知れませんね」


「可愛くないなぁ、翔ちゃんはもぅ…。惚れたって言ってくれれば、まゆまゆみたいに大切に守ってきた物も捧げちゃうのにな」


「そう言う事を言うのがいけないんですよ」


翔は溜息をついて少し笑った。やはり琴は少しくらい雰囲気が変わっても琴なのだと、当たり前の事に安心した。少し、からかい方が危なくなってはいるが…


「さぁ、それじゃあエスコートしてもらっちゃおうかな、お願いするわね、翔ちゃん♪」


「はいはい、お供しますよ、お嬢様」


琴はしっかりと翔の腕に身を寄せた。クスリと笑って翔の方を見る琴に翔は呆れながら、取り敢えず買い物にでも付き合おうと思った







「やっぱりいつもの琴先輩か…」


「もぉ、何言ってるの、当たり前でしょ? 翔ちゃんが可愛過ぎるのがいけないのよ♪」


先程までは琴が色々な服で一人ファッションショーをしながらキワドい服を来て翔に擦り寄りその感想を聞き続ける、という羞恥プレイをしていた。

途中で若い女店員が凄く仲が良いんですね、とクスクス笑いながら話かけて来たのが翔には一番恥ずかしかった。ともあれ、今は琴が案内した落ち着いた感じの飲食店のカウンター席に来ている。レンガで囲まれている店内で、コーヒーの香りがとても良い雰囲気を作り出している店だ。なんだかいつもの琴には合わない感じの店だったが、良く来るのだろうかと翔は考えた。


「ほらほら翔ちゃん、あーん」


「あーん、じゃないですよ!! こんな所でそういう事されると恥ずかしいに決まってるじゃないですか!!」


「だからするんじゃないですかー♪ はい、あーん」


出されたナポリタンを食べさせる琴の様子を周りで食事をしている女性客がクスクスっと笑って見ていた。主人らしい女性も口に手を当てて笑っている


「大丈夫よ、ここは顔見知りしかいないから」


「大丈夫な理由になってませんよ」


「もうー、つれないんだから」


琴は不満げにそう言うと持っていたフォークを置いた。そうしていると女主人が興味深そうに近付いて来た


「最近琴ちゃんの話に出て来る翔ちゃんってのは君の事かぁ。ふふふ、美形だねぇ、優しそうだし」


「俺よく話題に出るんですか?」


「も、もう那奈さん!! 余計な事は言わなくて良いの!!」


翔がそう聞くと、那奈と呼ばれた女性は面白そうに、そうなのよー♪ と返した。珍しくうろたえる琴の事は全く気にしていないようだ


「なんでも、一夫……むぐむぐ……」


「もう那奈さん、それ以上はまだ駄目。まゆまゆと那奈さんにくらいしか教えてないんだから」


「むぐぅ…」


那奈が琴に謝罪の視線を送ると琴は溜息をついて翔に笑いかけた。翔は那奈が何を言おうとしたのか分からなかったが、琴が何かを企んでいる事は分かった


「まぁとにかく琴ちゃんが誰かを連れて来るなんて初めてだしね、大事にしてあげてよ? これでもこの子今まで恋愛とは無縁だったから」


「那奈さん余計な事言わないでって言ってるじゃない」


琴は拗ねる様にソッポを向いてしまう。那奈はそれを見て笑みを深めた。琴がからかわれると言う珍しい事態に翔を自然と笑ってしまう


「はい、琴先輩、あーん」


「なっ…、翔ちゃんまでからかわなくていいのっ!!! …もう……はむっ」


翔がからかいながら琴に自分のパスタを食べさせると琴は真っ赤になって怒鳴りつけた後、強がる様にそれを食べた。そんな琴を可愛いと思ってしまう自分に気付きながら翔はまた笑った


「琴ちゃん照れちゃって可愛い〜♪ ほら彼氏君、もう一回。写真撮るから」


「そんな物撮らなくていいの!! 翔ちゃん、もう出ましょう!!」


「えー、良いじゃないですか」


「駄目、私はからかうのは好きだけどからかわれるのは嫌いなの!! あ、御会計は翔ちゃん宜しくね」


「はいはい、楽しかったですし、それくらいなら。那奈さん、ご馳走さまでした」


「ふふふ、また来てね♪」


翔が手を振って見送る那奈に、勿論です。と返していると琴が店から不機嫌そうに出ていってしまう。翔もそれを追いかけるように店から出た







「もう、翔ちゃんの馬鹿!!」


「だからすいませんって、なんだかからかわれてる琴先輩が可愛くって♪」


「そ、そう言う事を簡単に言わないの!! うう、翔ちゃんのくせにぃ……」


いじけ気味だがしっかりと腕を絡めている琴に、翔は苦笑しつつ次はどこに行こうかと思案した


「あ、翔ちゃん」


「なんですか?」


「あそこ入らない?」


琴の指の先にはゲームセンター、扉の所には格闘ゲームの新台追加と言うポスターがはってあった。間違っても女子高生のイメージにはあわなそうな雰囲気だったが…


「琴先輩ってゲームセンターとか行くんですか?」


「もう、私を何だと思ってるのよ……そんなわけないでしょ? 普段なら入れないから入ってみたくなったのよ♪」


「なるほど」


確かに女一人で入れる様な場所ではないだろう。興味がわくのも当然だ。翔は期待するように自分を見つめる琴に苦笑した。


「それじゃあ入ってみましょうか」


「そうこなくっちゃね♪」


琴はゲームセンターの中に入ると興味深げにキョロキョロと辺りを見回した。ゲームをしている男達が皆琴の方を見ている事には本人はまるで気付いていないようだ


「あ、翔ちゃん、あれやらない?」


琴がそう言って指を指した先には先程入口にポスターがはってあった格闘ゲームだった


「か、格ゲーですか……琴先輩出来るんですか?」


「んー、まぁ家ではよくやるかなー」


女の人でもゲームセンターで遊んでいる人はいるが格闘ゲームをやっている人は殆どいないだろう。事実、翔も中学の頃から辰と一緒にゲームセンターには来ているが、今までそんな人は見た事がなかった。


「ほらほら、とにかくやって見ようよ。翔ちゃん、もしかして負けるのが怖いの?」


「ふふふ、言いますね。まぁ良いですけど、でも俺もこの作品の前作やり込んでますからね。負けませんよ?」


「そうでなきゃ面白くないわ、私をからかった罰として最初の犠牲者にしてあげる」


二人は不敵な笑みを浮かべながらそう言って、対戦台についた







「ああ、今ガードの反応遅れたぁ!!」


「いや、一発くらいは食らってあげてもいいと思うんですが…」


現在17連勝、しかも全てストレートで勝っている。勿論その中には圧倒的な力を見せ付けられた翔もいた。画面の中ではスピード系の琴のキャラが相手プレイヤーにガード崩しを見事に決め、敵にとどめの空中コンボをかけている。琴の鮮やか過ぎる勝利にいつの間にか大量のギャラリーが集まっていた


「しかし強いですね、やった事あるんですか? 出たばっかりみたいですけど」


「んー、私も翔ちゃんと同じで前作やり込んでたからね。よし、18連勝」


画面では琴のキャラクターが相手のキャラクターを投げてKOの文字が浮かんだ。ギャラリーの中で次の挑戦者が対戦台につこうとしている


「さて、そろそろ行こ翔ちゃん」


「あれ、もう良いんですか?」


「うん、きりがなくなっちゃうしね。それに……」


琴は興味を失った様に対戦の始まった台から立ち上がった。そしてまた今までの様に腕をからめて翔に体を寄せた


「せっかく翔ちゃんと遊びに来てるんだし…ね?」


「あ、はい…」


琴がクスリと笑ってそう言うと、翔は自分の体温が上っていくのを感じた。ギャラリーからの嫉妬視線もかなりの物だったが……


「ほ、ほら、ぼーっとしてないで行くわよ。こんな人が見てる中で抱き付くのって恥ずかしかったりするんだから……」


琴は顔を赤らめてそう言った。恥ずかしいなら離せば良い事なのだが、翔はそうは言わなかった。そして琴に引っ張られながら二人はゲームセンターを出た







「あーあ、楽しかったなぁ。何だかこうして思いっ切り遊び回るのなんて初めてかも」


「そうなんですか? いつも思いっ切り遊び回ってる気がするんですけど」


「もう、そう言うのとは違うのよ」


赤く染まった帰り道、琴は依然翔に寄り添ったままで、楽しそうに笑っている。翔にしても今日は楽しかった、多少の嫉妬の視線等気にならない程に


「…………」


「…………」


沈黙、普段の琴には似合わないが、今はそんな事は気にならなかった。しかし、琴によって沈黙は破られた


「ねぇ、翔ちゃん。ちょっと……聞いていいかな?」


「ん? なんですか」


「いや、あの、優ちゃんの事なんだけど……」


琴は気まずそうにそう切り出した


「翔ちゃんと優ちゃんって付き合い長いの?」


「まぁそうですね、少なくとも友人の誰よりも長いと思います」


「ふぅん、そうなんだ」


琴は何かを考える様に俯いた、そして問いを続ける


「前から思ってたんだけど、なんで優ちゃんってあんなに翔ちゃんラブなの?」


「んー、そう言えば何故でしょうか、考えた事もなかった」


「あのねぇ……」


琴は呆れた様に翔を見た。翔は苦笑しながらその視線を受ける


「というより、何で皆俺なんですかね? 優もそうですけど。真夕先輩は優しいって言ってくれました、でもそれって凄く曖昧で……」


「はぁ……知らないわよ、もう……」


琴は少し溜息をついて翔を睨み付けた


「もっと女の子の気持ちを察する事が出来る様になりなさいよ?」


「…善処します……」


突き刺さる様な琴の視線を受けて翔はそう言った。しばらく無言で歩いていたが、琴の家の前まで来て、琴は歩みを止めた。


「翔ちゃん、こっち向いて」


「はい」


琴が翔の顔を真直ぐに見つめる。翔は素直に琴の指示に従った。その様子に琴は優しく笑って、そのまま唇を押しつけた


「ふ……んんっ……」


いきなりの事で翔は呆然としてしまった。琴はそれに気を良くしたのか、翔の舌に舌を這わせてきた。


「む……ぷはぁ……」


「………こ、琴先輩…?」


「ん〜?」


琴は口を離すと、翔に甘える様に寄り掛かる。翔がそんな琴に困惑したように言うと、琴はクスリと笑った


「あの……」


「女の子の気持ちが分かる様に、善処しなさいよ?」


琴は真っ赤に染まった顔を上げて潤んだ瞳で翔にそう言った。そしていつも通りの笑顔を翔に向ける


「えっと、それはつまり、そういう事ですか」


「ファーストキスは相手からして欲しかったんだけど、相手がこれじゃあしょうがないわよねぇ……」


琴は顔を見ていたずらっぽく笑った。翔は立て続けに二人に予想外過ぎる告白をされたせいかまだいささか混乱してる様だった


「ほらほら、男の子でしょ。責任持って二股かけます、くらい言わないと!!」


「それは流石に不味いのでは……」


「気にしない気にしない、男の子は野望を持ってなんぼのもんなんだから。それじゃあね、送ってくれてありがと♪」


琴はそういうと最後に頬に軽くキスをすると鍵を使って家の中へと消えて行った


「なんというか……本当に琴先輩だな……」


翔はそう言って苦笑すると帰り道を歩き出す。

自分はどうするべきなのだろうかと考えつつ、こね二日の事を思い出す


「二日連続か、どう考えても琴先輩が計画したな……何かやるだろうとは思ったけど」


二人の好意はとても嬉しく、きっと断る事は出来ない、受ける理由はあっても断る理由が見つからないのだから。なら、自分はどうすれば良いのだろうか。翔は家につくまでずっと同じ事を考えていた







「き、緊張した……。生徒会選挙の時でも緊張なんかしなかったのに……」


笑顔で翔と別れた後、琴は門の裏でへたりこんでいた。勝手に頬が緩んでしまっている。暫くその余韻につかる。風が気持ち良かった


「ふぅ、優ちゃん…か……」


あの完璧過ぎる少女を思い浮かべる。結局翔に聞いても優について何も分からなかった。琴はチェスでの事を思い出す


「ただ戦場に置かれるキング…か…」


自分に口止めした事や家族以外誰も知らない事を知っていた事も気になったが、何よりもあのチェスの中でも見えた優の信念めいた物が気になる


「ただ好きなだけじゃないの……?」


翔も一度だけ優と戦ったが惨敗だった様だ。だが一度だけ、しかも接戦でなければ気付かないだろう。優がただの一度もキングを動かさない事に、どんなに自分に不利益でも、キングだけは他の駒を幾ら潰しても使わない事に。クイーンを抜いた賭けだったからこそ気付く事が出来たのだ


「私を殺す…か……」


本気だったのだろうか。男子がクラスでふざけて言い合っているのとは違う、圧倒的な威圧感があった。優が翔にあそこまで恋慕するのは何故なのだろうか、翔は優に何をしたのだろうか


「まぁ、考えてても仕方ないわよね」


琴はそう言うと溜息をついて立ち上がった


「さて、早く翔ちゃんのメイド服仕上げなきゃ♪」


琴は普段の様な機嫌の良さそうな笑みを浮かべて家へと戻って行った







「それで、何故こんな事したんですか……?」


「何もなかったから大丈夫よ」


「大丈夫なわけないでしょ……!!」


森羅が壁に寄り掛かかりながら軽く言うと優が声を荒げて森羅に詰め寄った


「ちゃんと進君の許可も取ってあるし、翔坊君の事は真夕ちゃんが言い出したのよ?」


「…っ……」


優は少し俯き拳を握り締めた。森羅は軽く息をはくと言葉を続けた


「優ちゃん、貴方はずっとこのままのつもりなの?」


「…………」


森羅の問いに優は答えなかった。黙り込む優に、森羅はそのまま諭す様な口調で優に言う。


「何も変わらないじゃない、分かってるんじゃないの?」


「…また来ます……」


優はそう言うと森羅から逃げる様に部屋から出た、扉が閉まりパタンと言う音がなる。気配が消えた所を見ると瞬間転移したらしいと森羅は推測した。


「…ふぅ……」


森羅は部屋の窓にかかるカーテンを払った、占いに使う物や魔法的な物が多い森羅の部屋に合うシックなカーテンだ。窓を開けて外に出て空を見上げると、黄色い月が森羅の顔を照らした


「神様、貴方は私を進君と出会わせて下さいました。私は今、とても幸せです」


森羅は胸の前で手を組み、祈るように眼をつむった


「どうかあの子に祝福を御与え下さい。どうか二人に幸福に同じ道を歩かせてあげて下さい」


優しい風が吹き、祈る森羅の長い髪をなびかせた。


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