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まじかるタイム  作者: 匿名
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第46話:帰宅、その後

「…蘭…ただいま…」


「あ、二人ともおかえりなさ……へ…?」


「…まぁ、そのリアクションは予想してましたけどね……」


真夕と翔が玄関の扉を開け、何か記録用紙の様な物を書いている蘭に真夕が帰って来た事を告げると蘭は絶句した。翔はそれを見て溜息をつく


「うわぁ、お姫様抱っこで散歩から帰る人を初めて見ました♪」


「いや、これには色々とわけが…」


「深い深ーいわけがありそうですね♪ 大丈夫です、秘密にしますから……多分♪」


「絶対誰かに言いますよね!? というか無駄に深読みしないで下さい!! 何もしてませんから!!」


何もしなかったわけではないのだが蘭が想像している事とは確実にかけ離れているだろう。何故翔が真夕に所謂お姫様抱っこをしているのかと言うとかなり情けない理由だったりする


『あの…帰り道が分からないので先に行って欲しいんですけど』


『…抱っこ……』


『いや…』


『…抱っこ……』


『おんぶじゃ…』


『…抱っこ……』


『はい…』


とまぁこういったやり取りがあったのが理由だ。翔は真夕しか帰り道を知らない状況で引く様子のない真夕が甘える声で抱っこを連呼してきたのだから仕方ない、と自分を納得させたのだがやはり客観的に見るととても情けない


「…翔君……お風呂はいろ…?」


「お風呂ですか!? 混浴ですね!? 大丈夫です、誰にも邪魔はさせませんから!!!」


「何危な過ぎる誤解をしてるんですか!! 真夕先輩も誤解される様な事はもう言わないで下さい!!」


真夕の言葉を聞いた瞬間に更に瞳の輝きが増した蘭に翔は真夕が本当に入って来そうな危機感を覚えつつもそう言った


「……誤解…?」


「分かってないからタチが悪いなぁ…」


「でもそこが真夕ちゃんの魅力でもあるんですよ? あ、お風呂は男女分けてありますから後は篠原様にお任せしますね♪」


首を傾げる真夕を見てから蘭は怪しく笑って翔にそう言った。翔は真夕に『入って来ちゃダメですよ?』と言い聞かせつつ蘭が覗きに来ると言う可能性を考え始めた







「…本当に覗きに来るとはなぁ……」


翔は脱衣所で服を来て廊下に出てから溜息混じりにそう言った。蘭と茉子は後で真夕にでも見せるつもりだったのかビデオカメラまでしっかり持って隠れていたのだ。運良く見つけられなかったら確実に取られて真夕の下へと送られていただろう。勿論ビデオカメラは魔法で粉にして二人はちゃんと追い出したが


「…やっぱり今日は客室で寝させて貰った方がいいか…」


翔はそう言いながら真夕の部屋を通り過ぎる


「…何処行くの……?」


「うっ…」


目の前にはお風呂から上がりたての真夕が立っていた。シルクの白いパジャマは少し大きい様で手が隠れてしまっているくらいだ


「…私の部屋は…ここ……」


「いや、あの…俺は客室で寝るので…」


「…なんで……?」


翔がそう言うと真夕はいつもの通り小首を傾げる。なんでと言われても自分に自信が持てないからと答えるしかないのだが、そう言っても真夕は理解してはくれないだろう。


「…えーっと……」


「…私の事……やっぱり…嫌い…?」


「そ、そんな事はありません!!!」


真夕が寂しそうにそう言うのを翔は全力で否定した。しかし、その瞬間に真夕の表情はいつもの無表情にパッと戻る


「…なら…問題ない……」


「いや、問題あり過ぎですから。と言うかやり口が琴先輩ですよ!?」


「…違う……蘭がこうしたら…言う事聞くって……」


「蘭さんこれ以上変な事教えないで下さい…」


翔はそう言って溜息をついた。真夕はそんな翔からちょっと眼を逸らして頬を赤らめた


「…でも…嬉しい……」


「えっと…」


いつも無表情な真夕に本当に嬉しそうにそう言われると翔もなんともいえないこそばゆい気分になってしまう


「…一緒に……だめ…?」


そう言えばこう言う頼まれ方をされて断れた事がないと翔は今更ながらに思った







「やっぱりこうなるんだよなぁ…爺ちゃんの孫だからか…? そうだ、そういう事にしよう…」


「…翔君……?」


真夕はベットの上に座りながら隣りで何やら暗い顔をしている翔の顔を覗き込んでちょっと首を傾げる。翔は真夕のそんな動作から逃げる様に視線を逸らした


「ほ、ほら、早く寝ましょう!!」


「………?」


真夕は首を傾げながらもコクリと頷く。それを見て翔も安心してベットに横になった。ソファで寝ようとしたのだが真夕にゴネられてベットに寝る事になるのは分かりきっているので早く寝てしまおうと思ったのだ。思ったのだが…


「………」


「…真夕先輩、なんで馬乗りになるんですか…?」


何故かあたり前とでも言う様に乗っかった真夕に翔はこめかみを引きつらせた。


「…なんとなく…?」


「何で疑問系なんですか…。というより、そんな事を不用意にしてはいけません…」


翔は言い聞かせる様にそう言った。しかし真夕は手を翔の胸の上に置いて微笑んだ


「…翔君にしかしないから…平気……」


「………はぁ…」


翔は溜息をついて真夕の眼を見ると真夕の手を引いてベットに押し付け、自分の体との位置を逆転させた。体勢としては翔が真夕に馬乗りになっている感じだ


「えっとですね。俺も結構いっぱいいっぱいなのでそういう事をされるとちょっと押さえ切れなくなるので止めて欲しいというか…って真夕先輩!? 眼を閉じないで下さい!!! なに受け入れようとしてるんですか!?!」


「…なんで……?」


本当に分かっていない様子の真夕に翔は懸命に理性や自制心を働かせた。しかし真夕の表情はそんな翔の心情も知らずに、またあの湖で見せた綺麗な微笑みを作る。そして翔はそれに吸い寄せられる様に近付いて


「真…」


ゴトンッ


「………へ…?」


「………?」


いきなり部屋に響いた音に翔と真夕の動きが止まった。そして音のしたドアの方を向くと、そこには今日散々翔の事をからかった有能なメイドさんが茫然と立っていた。そして足下にはメイドさん……蘭が落したと思われるデジカメが転がっている。


「…あ…えっと…ですね……まさか本当にそこまで進んでいるなんて思ってなくて……」


「い、いや、誤解です!! そうにしか見えないと思いますが誤解です!!!」


「はい、私誰にもいいません!! シーツの処理も任せて下さい!!! そ、それでは私はこれで、御邪魔しましたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「ちょ、ちょっと蘭さん!!!」


バタンッ!! と音を立ててドアが閉まり蘭が走り去っていく。翔と真夕はあまり大きな声で話していたわけではないので、蘭には真夕が馬乗りになった後に翔が押し倒した様にしか見えなかったであろう。


「はぁ…取り敢えず、覗きの事も含めて蘭さんに言い聞かせてきます……真夕先輩…?」


「…今行ったら……次はいつになるか分からないから……」


翔の腕を掴んで引き止めながら真夕はそう言った。翔は言葉の意味が分からずに困惑する。そんな翔を見て真夕は顔を赤くして先程とは違う少し大人びた笑みをいつもは無表情な顔に浮かべた。


「真夕先輩…それはどういう…」


「…本当…鈍感……」


真夕は嘆息してから翔の首に腕を回して湖でしたよりも長いキスをする。翔も自分でも驚く程に穏やかにそれを受け入れた。そして、それと同時に真夕の言わんとする事を理解した


「…逃げちゃ…いや……」


「……こんなに曖昧なのにですか…?」


「…やっぱりちょっと不安だから……」


真夕は瞳を伏せてそう呟く。きっとそれはその言葉が翔を正当化させる事ができる言葉だと知っての発言ではない。


「不安…俺が真夕先輩の事を好きだと言った事に対してですか?」


「…翔君は誠実で…嘘なんてつかないのが分かる…けど……」


真夕は依然翔の首に手を回したまま言う。真夕の瞳が潤んでいるのが翔には見えた


「…まだ…キスもしたけど…まだ……翔君の本気が分からないから…だから…そうすれば…私も……」


不安そうに翔を見上げながら言う真夕に翔はグラリと揺さぶられた。真夕は続けて何かを言おうとしていたが翔は真夕がそれを言う前に口付けを交わす


「これでも…駄目ですか…?」


「…駄目……」


「…なんで優といい澄といい大胆な人が多いんだろうな……」


「……他の人は関係ない…今は…私だけを…」


真夕はそう言うと脱力したように首に回した腕を外し、翔に儚げな笑みを送った









「おはよー翔ちゃん♪ あれ、なんでそんなに暗い顔してるのかな?」


「琴先輩こそなんでここに? わざわざ真夕先輩の家まで迎えに来なくても……」


琴は明らかに鬱状態の翔を面白そうに見つつ笑う琴にそう言った。すると琴は翔の返答がお気に召さなかったらしく、少しいじわるな表情を作った。


「あららー、それが会いに来た女の子に言う言葉? まぁ昨日の夜はまゆまゆとラブラブしてたみたいだし御邪魔だったかしらねー? 今日のお洗濯物には二人が寝れる大きさの赤いシーツとか♪」


「なっ…!?」


琴がからかいが多いに混じった口調でそう言うと、翔は明らかに動揺した様子で琴を見返した。その様子に琴は固まった。しばらく沈黙が流れる


「なるほど、良く分かったわ。あーあ…まゆまゆも一足先に大人になっちゃって……って翔ちゃん、壁に手をつけて暗くならなくていいから!!!」


完全に背中に影を落としている様子の翔を見て琴は溜息をついて苦笑した。


「ほらほら、男の子なんだからうじうじしないの!! そんな事より、今日の十二時丁度に前に偶然会った映画館前ね? 遅れたら昨日の事を学校の放送室から暴露する事をここに誓います♪」


「一時間前に行かせて頂きます…」


「素直で宜しい♪」


翔の答えに満足したように頷く琴に翔は少し気が楽になるのを感じた。本当は琴に一番色々と言われる気がしていたのだがそんなことは杞憂だったようだ。


「それじゃあ私は行くから、それとまゆまゆの事も許してあげてね。あの子はあれで結構人を信用出来ない子だから、最初は私も色々と苦労したのよ?」


「許すも許さないも俺が悪いわけですし…」


「そうよねー♪ まぁ取り敢えずはあそこでこっちを見てるまゆまゆと御話しをした方が良いんじゃないかな?」


琴が視線を送った先には廊下からちょっと顔を出してこちらの様子を伺っている真夕がいた。翔と眼が合うとまた隠れてしまったが…


「それじゃあ私は行くから、本当に遅れちゃ駄目よ?」


「大丈夫です、絶対に遅れませんから」


琴の言葉にそう返すと、琴はクスッっと笑って部屋を出て行った。翔は隣りの部屋にいるらしい真夕の方に近寄って行き、扉の横の壁に背中をつけて隠れていた真夕を見つけた


「真夕先輩」


「…昨日は…ごめんなさい……」


真夕はそう言って頭を下げた。翔の方は真夕が何故そんなことを言うのか分からなかったが、しばらく考えて昨日の事が翔を縛り付けるのではないかという事に対してだと分かった


「真夕先輩が謝る事ないじゃないですか」


「…うん…ありがとう……」


真夕がそう言って少し微笑むのを見て翔は安心したように笑った


「…責任とかは考えなくていい…」


「いや、それは…」


「…大丈夫…翔君は今まで通りでいいから…今まで通り…皆を幸せにする事を考えてくれればいい……」


真夕はそう言って翔に抱き付いた。翔は真夕の言葉の意味がよくわからなかったが咄嗟に真夕を抱き留めた


「本当に…良いんですか…?」


「…いい…そうすれば…翔君は私も皆も…幸せにしてくれるはずだから……」


真夕はそう言って幸せそうに眼を閉じた。周りに誰かいたらかなり騒ぎ立てられそうな状況だが、今は気にならなかった


「…ただ……一つだけお願い…聞いてくれる…?」


「はい、なんでしょうか?」


翔は自分に出来る事ならなんでもするつもりでいた。真夕もそんな翔の心理が分かっているのか少し嬉しそうに身をすり寄せる


「…これからは…先輩って呼ぶの…駄目…真夕って呼ぶ……」


「はい……ってええ!?」


「…拒否権はないから……」


真夕はそう言って翔を見上げた。どうやら早く呼べという意思表示らしい。翔はなんだか改めてそう呼ぶのがなんとなく恥かしかったが意を決して真夕の髪を梳きながら言った


「真夕、これからはそう呼べばいいんですね…?」


「う、うん…そう…」


翔には翔が真夕と呼んだ瞬間真夕の体が少し震えた様に感じた


「…やっぱり…なし……身が持たない……」


「俺もそっちの方が良いです。呼び慣れてますし…」


二人はそう言って恥ずかしさで逸らしていた顔を見合わせるとクスッっと笑った


「…翔君…朝御飯出来てる……行こ…?」


「そうですね、行きましょうか」


真夕は翔に寄り添う様にして歩き出した。この後何かと気をきかせてくる蘭に色々と言い訳をしつつ納得させて、何故か頷き続ける森羅に顔を引きつらせたりしたのだが、真夕の機嫌は終始良かった様に翔は感じた


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