第45話:蒼い光の中で
前話に付けようかと思ったのですが、なんだか長くなってしまうので離しました
「…翔君…ちょっと…時間いい……?」
「へ…? いや、特に何をする予定もないですけど」
夕食後、円形の食卓を流を除いた5人で囲んでいると真夕が唐突にそんな事を言い出した。ちなみに流は昼間の言葉が傷になっている様で部屋に籠ってしまっている。過度に子煩悩な父親だ。分かってはいたが
「何かあるんですか?」
「…ある……」
翔の右隣りに座っている真夕がいつもと同じ無表情でそう言い、立ち上がった
「真夕ちゃん? 何処に行くの?」
「…ただの散歩…翔君も来て……」
「あ、はい」
翔は真夕に言われて立ち上がる。真夕に連れられて外に出ると、空には満天の星が広がっていた。翔はそれを見て感嘆の息を漏らす
「これは…凄い星の数ですね…」
「…この辺りは…空気が綺麗だから…星が良く見える…」
真夕は空を見上げてそう言うと、魔法を使って家の入口にある門を開いた。翔はてっきりこの広い中庭を散歩するものだと思っていたのだが、どうやら違うらしい。だが星が明るいとはいえもうこの森は暗い、とても散歩に適しているとは思えない状態だ
「真夕先輩、森なんかに入って大丈夫なんですか?」
「…大丈夫…私が道を知ってるから…」
真夕はそう言って歩き出したが、直ぐに道から外れて獣道に入る。どうやら何処かに目的地がある様だったが翔にはこの森の中にある何かに見当もつかない。暫く歩き続けると何だか方向感覚までなくなって来た。一体どこに向かっているのだろうか、真夕は迷っていると言う感じは全くなく平然と歩いているが、本当に大丈夫なのだろうかと心配になる。
「…もうちょっと…」
翔の不安に気付いたのか真夕がそう言った。翔は完全に方向感覚を失っているのに、どうやら本当に迷っていないらしい
「何があるんですか…?」
「…内緒……あ…」
真夕は一言そう返答すると何かに気付いた様に走り出した、翔もそれを追って走る。翔は木と木の間から蒼い光が漏れているのに気付いた。そして、真夕が歩みを止める
「…着いた…」
「湖が…蒼く光ってる…」
そこには、蒼く光る小さな湖があった。光は湖の中から発せられているようだ
「…この光を出してるのは湖の中の蒼氷石…冬に魔力を含む水の中に生まれて…夏の夜に光を出しながら溶けていく……」
「蒼氷石…」
真夕が説明を終えると靴を脱いで湖に入って行った。蒼氷石の光を浴びた真夕の細い体躯は、自分から光っている様にも見えてとても幻想的だ
「これを見せる為にここに連れてきてくれたんですか?」
「……違う…」
真夕は水が膝とくるぶしの真ん中辺りにくる深さまで歩いて行った後にそう言って、掌サイズの蒼氷石を手に取ってから否定した
「…ここは…特別な場所…不安な時…いつも私を助けてくれる…大切な場所……」
真夕は振り向くが、表情はいつもの無表情のまま。翔は何も言わずに真夕を見つめていた
「…翔君に聞きたい事がある……」
「聞きたい事…ですか?」
真夕は少し迷う様にして蒼氷石を両手で握り締めた。翔は真夕が聞きたい事とは何か想像してみたが全く思い付かない。真夕が知りたい事で翔が知っている事なんて思い浮かばなかった
「それってなんですか? 俺に関する事ですか?」
「…ん…えっと…澄ちゃんの…事……」
「…澄の…?」
ますます分からなかった。澄の事で真夕が知らず翔が知っている事など澄の家に行った事くらいだ。地下に続く階段の件はないだろうし、でも澄の家での事なら琴に聞いた方が良いだろう
「澄の事って…俺達まだ会って一ヶ月くらいですけど」
「…分かってる…だから聞きたい……」
真夕は多少俯き気味だった顔を翔の眼を見る様に上げた
「…澄ちゃんに…何かしたの…?」
「…はい…?」
「…澄ちゃんは…怖がってた…琴を通じた人間以外を…男の人は友達がいないから特に……」
「ああ、そうみたいですね…」
それは前に澄から聞いた。辛い幼少時代を過ごした事も聞いたし、そのせいで男女に関わらず苦手だったと、確かに琴は女の子だから澄も男の人と話す機会はあまりないだろう
「…初めてあった時…澄ちゃんに…何かしたの…? …おかしい……」
「えっと、何もしてませんけど…澄から話し掛けてきましたし…」
「…そう……」
そう言って真夕はまた俯いてしまった。なんだか少し落ち着かない感じだ。本当にこれを聞くためにここに呼び出したのだろうか
「真夕先輩の話ってそれだけですか?」
「…それだけ…ううん…違う……」
「真夕先輩…?」
翔は明らかにいつもと違う真夕に戸惑った。昼間からそうだが今日はちょっと様子がおかしい。いきなり呼び出されたのもそうだが真夕が何かを言い淀むのは珍しい
「…別に…澄ちゃんの事を聞きかったわけじゃない……」
「…え、えーっと…先輩…?」
今さっき真夕が自分で聞きたいと言ったのに、それをいきなり聞きたかったわけじゃないと言う、翔は全く意味が分からなかった。
「…だめ…無理…でも…うん…」
真夕の顔は蒼く照らされているのにも関わらず赤くなっている。翔には聞き取れなかったが、何かを呟いているらしい事は分かった
「本当にどうしたんです?」
「…わ、私は…翔君に…言いたい事が……」
真夕が絞り出す様に声を紡ぎ出す。俯いた顔はこれ以上ない程に赤く染まり少し震えているようだ。
「言いたい事…?」
「…翔君…私は……」
真夕は言葉を区切った後、意を決した様に翔の方を見た
「…私は……翔君が好き……琴よりも、家族よりも…この場所よりもずっと……好き……」
「……え…?」
真夕の言葉に翔は固まった。真夕は今なんといったのか、いや、聞き間違う事はないだろう、真夕は自分を好きだといったのだ。翔は今まで優に散々好きだと言われて来た。澄からの好意も感じているし、美里からも同じ様に好意を向けられているのも分かっていた。でも、真夕からそんな告白を受けるとは思っていなかった。
確かに告白にはうってつけの雰囲気だとは思っていたが…
「真夕先輩が…俺の事を…?」
「…最初は…澄ちゃんに何かしたのかと思って……でも…琴とも凄く仲が良いし…どんな人なのか知りたくなって…一緒に出かけた……」
「…そう言えば、あの時はいきなり俺の家に来ましたね……」
翔は初めて真夕が家に来た時の事を思い出した、あれは本当に調査だったのだと理解した。真夕は続けて言う
「…ずっと…一緒にいて…また一緒にいたくなって…琴に話したら…恋だって言われて…最初はよく分からなかったけど……今なら分かる……」
「………」
「…翔君、私は翔君が好き……翔君は…翔君は私の事……好き……?」
真夕は翔から視線を逸らさない、真剣な瞳で翔を見ている。
翔はなんと答えてよいか迷った。
真夕の事は文句なしに好きだ。真夕は自分の事を真剣に想ってくれていて、それを凄く嬉しく思う自分がいて。無理矢理にこの家に連れて来られたが、そのお陰で真夕の事が色々分かってそれが嬉しいと思う。でも…きっと…自分を本気で想ってくれている人は一人じゃない、もし真夕を受け入れてしまえば…
「俺は…」
「…優ちゃんや澄ちゃんは関係ない…私は、翔君の…私への気持ちが聞きたい……」
真夕は翔の心を読んだ様にそう言った。翔は真夕の言葉を受けてから、気持ちを落ち着けて言った。
「俺も真夕先輩は好きです、友愛なんかじゃなくて…本当に。これが…俺の気持ちです」
「…翔君……良かった……」
風が流れる。光の中で真夕の髪がそよぎ、真夕は真っ赤な顔で笑った。そんな真夕があまりにも綺麗過ぎて、翔は見とれてしまった。しかし次の瞬間、真夕の膝が折れ、崩れ落ちた
「真夕先輩!?」
翔は真夕が倒れる前にそれに気付き、真夕の体を支えた。真夕の体は驚く程に軽く、先程抱き締めた時よりも軽い気がした。それが翔を不安にさせる。
「真夕先輩!! どうしたんですか!?」
「…………………緊張した……」
「…は…?」
「……凄く緊張して…それがとけて……力が入らない……」
「………」
翔は大きく息を吐き出した。本当に驚いた、いきなり目の前で倒れたのだからそれも当たり前だが、まさか緊張で倒れるなんて考えもしなかった
「…でも良かった……嫌われてなくて…良かった……」
「…俺が真夕先輩を嫌う理由なんてないじゃないですか」
「…でも…私、翔君を疑ったから……」
真夕はそう言って申し訳なさそうに俯いた。翔はそんな真夕が可愛く思えて苦笑した
「それは澄の事を考えてそうしたんでしょ? 全然嫌う理由になりませんよ」
「……うん…」
翔がそう言うと真夕は嬉しそうに笑った。真夕の笑みは何度見ても見惚れてしまう。しかし、翔は少し苦しげな表情をした。自分はきっとこの人を傷付ける。
「…俺は真夕先輩が好きです。…でも、俺はまだ一人を決められないみたいです……すいません…」
翔がそう言って真夕に謝罪する。しかし、真夕はまだ笑みを作ったままだ。翔はそれを見て不思議に思った。怒らないのだろうか、好きだと言っておきながら何も決断出来ないのに
「…分かってる…翔君が…何で誰とも付き合ってないのか…決められないのか……」
真夕はそう言って翔の胸に擦り寄った。真夕の言葉に翔はますます困惑する。自分が決断出来ないのは自分の意志が弱いからだろう。なのに何故自分を肯定してくれるのか…
「…翔君が決められないのは…翔君を好きな人が沢山いるから……澄ちゃんも、優ちゃんも、美里ちゃんも……」
「…そうです……」
「…皆の事も…好き…?」
「……はい…」
翔はそう言って真夕に対する申し訳ない気持ちが沸き上がってきた。自分が真夕に好きと言って、あんなに喜んでくれたのに直ぐにこんな事を言って。真夕は失望しただろうか。
「…翔君は…誰も傷付けたくない…そう思ってる…」
「…そうです……」
「…選ばなくちゃいけないのに…選んだら…他の誰かが傷付く……」
昔から優がいつも一緒にいて好意をぶつけて来たから他の誰かと付き合う事は出来なかった、優は付き合うと言う言葉を何故か押しとどめていたから勿論誰かと付き合う事はない。高校に入って向けられる好意の数が多くなって誰かを選ぶのはもっと難しくなった
「ただの優柔不断ですよ、中学の時にも誰かに相談するとよく言われました。傷付くのはしょうがないとか、誰にでも優しいのは残酷なだけとか…」
「…違う……」
真夕はそう言って翔の顔に手を伸して掌で包みこんだ。
「…残酷な優しさなんかじゃ…ない……下心があれば別…でも…翔君の優しさは違う…そんな風に言われるの…私……嫌……」
「真夕先輩…泣かないで下さい…」
真夕がそう言いながら泣いているのを見て翔は困ってしまった。自分の為にこんなに泣いてくれる人を傷付けたくない、そして手放したくない。でもそれなら他の人なら良いかと言えばそんな事は有り得ないのだ。皆本気で好いてくれているのが分かるから、平気な顔をするだろうがきっとそれは平気ではない。自分は贅沢過ぎる。このままでいれば皆の将来にも影響が出るかもしれない。
「…翔君は…優しかっただけ……本当に優しくて…間違ってるなら…優しさなんかない……」
「ありがとうございます真夕先輩…でも、俺も気付いてないだけで皆を手放したくないだけだと思います」
事実、真夕に泣かれた時に本当に手放したくないと思ったのだから。確かに傷付くのは嫌だがそれと同じくらい手放すのも嫌なのだ
「…それならそれで…いい…」
「どうしてです…?」
「…翔君は優しいばっかりだから……それに…私もそう思われると……嬉しい……」
真夕はそう言うと顔を更に赤くして視線を逸らした。そんな真夕の様子に翔も何だか恥ずかしくなってしまって視線を逸らしてしまう
「…そろそろ帰りましょうか…」
「……翔君…」
「なんで…」
「…んっ……」
翔が尋ねると同時に真夕が翔の首に手を回して唇を重ねた。翔は何も出来ずに固まってしまう。ただ、真夕から感じる感触は心地よかった。真夕は数秒そうしていると、ゆっくりと唇を離した
「ま、真夕先輩、いきなり何を!?」
「…先払い…」
「え…いや…先払いって…」
「…翔君は意気地無し…誰も選べない…だから平気……」
真夕の言葉の意味が分からず唖然とする翔に、真夕は幸せそうな微笑を浮かべた
なんとか更新する事が出来ました。前書きの通りに、前回の話に付ける予定だったのですが文字数が多くなってしまうので離しました、長い方が良いと言う方には申し訳ないのですが… さて、まゆまゆが主役の話ですが、如何でしたか? ああ、これからもバンバン出しますから真夕が好きだと言って下さった方も御安心下さい。 恋:「な!? 今回は後書きがあるのか!!」 ああ、恋先生気付いちゃいましたか、折角一人でやってたのに… 恋「なんだそれは、嫌がらせか…? 最近後書きも少ないし…」 いやぁ、私の書く後書きなんてどうせ見てる人いないだろうなーと思いまして 恋:「八神!! 私を見に来ている方々が悲しむだろうが!!」 自意識過剰も大概にしないとウザイって思われちゃいますよ? もう私とか思ってますし 恋:「ほぉ…本音が出たな八神…」 くっ、この威圧感…力が上っている!! 恋:「ふっ、読者の皆様の前で殺生は控えてやる」 私八神は感想評価をお待ちしております。感想だけでも全然構わないので宜しくお願いします!! 恋:「あっ、八神、それ私が言おうとしたのに!!」 『ある日の執事、ある日の主』と言う短編小説を書いて見たので宜しければ皆様の感想を頂きたいです。もしかしたら連載になるかも知れないので宜しくお願い致します。それでは、私は…なっ…この首輪は一体!? 恋:「私の役目が……八神…さようなら」 いやぁぁぁぁっ!!