第43:貴様に義父さんと呼ばれる筋合はない
アクシデントの為更新が遅れました。申し訳御座いませんでした
「お初に御目に掛かります篠原様。私はメイドの蘭と申します♪」
「は、はい…翔です。宜しくお願いします」
車を運転するメイドさんに自己紹介されて取り敢えず翔も自己紹介をする。灰色の髪は一つに纏められていて、御島家のメイドの灯と比べて雰囲気が幼い、とは言っても年齢は真夕よりも上で身長もスタイルも歳に見合っている。現在翔がいるのは黒塗りの馬鹿でかい車の後部座席である。
「……で、もう随分と時間が経っているんですけど。ここ何処ですか…?」
「後少しの辛抱です、後一時間くらいで着きますから♪」
翔は前回真夕が家に来た時の事を思い出していた。その時は途中のワープポイントまで送ったのだが、恐らくはその向こうに車が来ていたのだろう、と翔は考えた。もう周りには木しかないくらい街から離れてしまっている
「真夕先輩って毎日こんなに長い道を通ってたんですか?」
「…もう慣れた……」
「俺には考えられませんね…」
翔はいつも優に起こされてギリギリの時間なのでこの距離では確実に遅刻になる。こう考えるとかなり情けないのだが、何故か朝ばかりは何度改善しようとしても無理だった
「そうだ、これからは真夕ちゃんが起こしに行ったらどうですか?」
「いや、遠慮しておきます…」
そんなことを頼んだら優と鉢合わせして確実に地獄に送られる事は確定する
「あら、朝は売約済みなんですね♪ まぁそれは良いとして、真夕ちゃんとは何処までいったんですか? 私はもうお赤飯の準備とかした方が良いかなーとか考えてるんですけど♪」
「……何処まで…?」
「何処までもいってませんよっ!!」
「…翔君……? …何処までって何……?」
真夕が首を傾げる横で翔は泣きそうになりながら言った。蘭はそれを見てクスッっと笑う。翔はそれを見て琴の顔を思い出した
「次は私も混ぜて下さいね♪ 真夕ちゃんの成長を見守るのもメイドの役目ですから」
「…蘭…話が分からない……」
「あはは、今夜篠原様と一緒に寝れば分かりますよ♪」
「…分かった……」
「お願いですから分からないで下さい。それと昨日は本当に何もなかったんですよ!!」
翔はそう言ったが蘭は聞こえていないかの様に無視を貫いた。そしてまた楽しそうに笑う
「やっぱり篠原様は琴ちゃんから聞いた通りの人ですね」
「…なんて言ってたんですか…? あんまり良い事言われてないと思いますが…」
「それはどうでしょうか? そうですねー、試しに当てて見てください。多分当たると思いますから♪」
蘭はそう言うとバックミラー越しに何と言うのか興味津津の様子で翔を見た。それを翔は呆れた様に見返して、琴の性格を考慮した答えを言った
「琴先輩の事ですから、多分からかいやすいとか言ってたんじゃないですか?」
「あは、正解です。流石は篠原様ですね、琴ちゃんの事を良く分かっていらっしゃいます」
「多分誰でも分かりますよ、琴先輩ですから」
「そうでしょうか?」
蘭の返答を聞いて翔はやっぱりな、と言った感じで溜息をついた。蘭はその様子を見て苦笑する。すると真夕が独り言を言う様に呟いた
「…翔君は……琴の言う事を信じ過ぎる……あんまり信じ過ぎちゃ…ダメ……」
「……えっと…信じちゃダメって…?」
それを聞いて翔は琴がどれだけこのパートナーに信用されていないのかと思って呆れてしまった。だが真夕は表情を変えずに翔の方を向いた
「…言葉通り…翔君はちょっと…自覚がなさすぎる……」
「真夕ちゃん」
真夕の言葉を蘭が遮った。それと同時に真夕が口を閉じる。そして蘭にしては強めの口調で真夕をたしなめる様に言った
「それ以上は駄目ですよ。やり過ぎはいけません」
「………」
「…蘭さん…? 何の事ですか…?」
「あはは、篠原様は気にしないで良いんですよ。こっちの話ですから」
蘭はクスッっと笑ってそう言った。良く分からないが聞かない方が良いと判断したので、翔も何も言わずに黙った
「うん、やっぱり真夕ちゃんと琴ちゃんが思ってる通りの子ですね」
蘭は翔の様子を見て、誰にも聞こえない小さい声で嬉しそうにそう言った。
「着きましたよ♪」
「うわぁ…でか…」
今は渚家の門の前だがその門がとにかくデカい。家を囲んでいる森はもしかしたら渚家の私有地なのかも知れない。車から降りた蘭がIDカードを使うと扉が音を立てて開いた
「なるほど、シンメトリーの庭ですか…凝ってますね」
「旦那様が手入れをなさっているんです。凝り性なので」
車が中に入ると真ん中の噴水を中心に道が広がり、植木の位置から配置してある物まで全てが左右対照だった。家の造りも屋敷と呼ぶにふさわしく豪華で、洋風であり、これもシンメトリーである。
「さ、降りて下さい」
蘭が車を止めて降りてから、翔側のドアを開いてそう言ったが、すぐ何かに気付いたようにハッっとして先程の台詞に付け加えた
「車から降りる時は危険なので気をつけて下さいね」
「…翔君…気をつける……」
「え…? 気をつけるって何を…?」
翔がそう言いつつ外に出ると真後ろに殺気を感じた
ヒュンッ
「うわっ!! 危なっ!!」
「ちっ…避けやがったか…」
翔が慌てて跳躍すると今迄翔がいた所には、今まさに日本刀で切り掛かかりましたといわんばかりの姿勢の男が殺気を発しつつ立っていた。翔にはそれがどんな立場の人間か何となく分かったので、気をつけるってこういう事か…と翔は納得しつつもまた飛び掛かられない様に距離を取った
「…お父さん…ただいま……」
「おう、御帰り真夕。待ってろ、今この悪い虫を退治して開放してやるからな!!!」
「……やっぱり真夕先輩の親か…」
翔は何だか凄くベタで濃い父親に溜息をついた。日本刀でいきなり切り掛かって殺人鬼にでもなるつもりなのだろうか。
「ふんっ、この害虫め。覚悟しろ!!」
「…害虫って……酷い言われようだな…」
翔は表情を引きつらせつつも、この親がどうしたら日本刀を鞘に納めるか考える。まぁ取り敢えず話し合いの方向で…
「えっと、真夕先輩のお父さ…」
「誰が義父さんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「言ってねぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
真夕の父親がいきなり凄い形相で迫って来るのに突っ込みながら翔はシールドを張るか迷った。
取り敢えずこの家の主人っぽいし、真夕の父親に無礼を働くのはどうかと思ったからだ。でも向こうは攻撃を止めてくれそうにないし、真夕は顔を少し赤らめてるだけだし、蘭に至っては旦那様なんてボッコボコですよー♪ なんて言ってる始末だ。翔が考えを巡らして取り敢えず避けようとしたその時、横からかなりの密度の魔力が構成する魔法が創られるのを感じた。
「貴様に義父さんと呼ばれる筋合は『我に使えし盟約の花に命ず、漆黒の霧!!』ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
誰かが魔法を唱えると黒い霧が真夕の父親を包み、晴れた時には父親は動かなくなっていた
「…お母さん…ただいま……」
「御帰り真夕ちゃん♪ 蘭ちゃん、お迎えご苦労様」
「いえ、でも相変わらずエグイ魔法ですねー。今度は何の毒ですか?」
蘭が興味深そうに聞くとお母さんと呼ばれた女性は上品に笑って言った
「私が品種改良した『魔草バットエンド』よ。運が良ければ五時間程意識のある状態で動けなくなるだけで済むから大丈夫よ♪」
「…………」
夫に毒を使ったらしい。それもかなり強力な毒だ。翔は倒れている父親を見て哀れに思いつつも談笑している三人の方に顔を向けると何故か真正面に真夕母の顔があった
「ふむふむ、真夕ちゃんもなかなかやるわね」
「えっと…」
「あ、私は茉子よ。真夕ちゃんのママやってるから義母さんとか茉子お姉さんとか呼んでね♪ ちなみにそこで死んでるのは一応夫の流、ゴミとかクズとか呼んであげてね」
そう言って茉子は笑った。茉子の容姿は真夕にとても良く似ていて真夕が成長して髪を一つに束ねたらこんな感じになるだろうと想像が出来た。ただ真夕の天然な感じと大人しそうな雰囲気が抜け落ちていて、活発な感じを受けた
「さて、中に入りましょうか。お母様が待ってるだろうし」
「…お祖母様が……?」
真夕が不思議そうに聞き返した。どうやらお祖母様という人物はこの家でかなりの影響力を持っているらしいと翔は今の会話から読み取った。もしかしたら流が真夕の翔の家への外出や、翔が家に来るのを知っていながら止められなかったのもそのお祖母様とやらの影響じゃないかと続けて推測した
「珍しいですね大奥様が誰かと接触をしたがるなんて、私なんてここのメイドになって半年くらい存在も知らなかったですよ」
「そうね……」
話しながら玄関の扉の前まで来ると蘭が先回りをして扉を開けた。先程車から降りる時もそうだったが蘭はメイドとしてはしっかりと仕事をしている様だ。そう思いつつ部屋に入ると、直ぐにフード付きのローブを纏った人物に出迎えられる。翔は何故かその人の雰囲気と言うのか、オーラのようなものに違和感を覚えた。懐かしいような、そんな感慨を覚えてしまう。
「久し振りだね、翔坊君。って言っても覚えてないと思うけど」
その人物は少女の様な声でそう言うとフードを取った。中から出て来たのは緑の長い髪に大きな黄色のリボンを着けている少女だった。
「貴方は…?」
翔はその人の顔を見た事がある様な気がした。思い出せないが、何処か記憶にあるような。
「私は新羅。こんななりだけど、この家の主よ。ちなみにここの家族って事になってるけど血は繋がってないわ」
「新羅……さん?」
「……ふふふっ、そうよ。ほら、そんなに強張らなくてもいいわよ。私、進君以外に興味ないから取って食べたりしないわ」
新羅がそう言って笑うと翔以外の三人は驚いた様に固まった。一方翔は翔坊君と言う独特の呼び方から進の知り合いだと思っていたのでそこまで驚かなかった。逆に進の知り合いと言う事で安心したくらいだ。恐らく小さい頃に会っているのだろう。
「さぁ、お茶の準備をするから早く中に入ってね。話したい事も色々あるし」
そう言って新羅は、もう一度優しく微笑んだ。