第4話:脱出その後と生徒会
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「きゃっ!?」
ドシーンと言う音を立て、悲鳴と共に翔と澄は地面に尻餅をついた。どうやら、転移は無事に成功したらしい。
「いたた……無事……みたいね。」
「落ちた……のか? また何で……。」
何処からか自分を照らす光に、思わず澄が顔を歪める。翔は、何故ワープをした先で尻餅をついているのかと思いつつ周りを見渡した。
「なんなんだ、此所は……?」
翔は警戒しながら辺りを見ると、そこはかなりの大きさのホールのようであった。ゆうに野球くらいは出来るであろう広さだったが……。
「澄、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だけど、此所って……。」
何処なの? 澄がそう言い掛けると、さっき聞いたばかりの声が後方から聞こえてきた。
「あ、おめでとうございまーす、一番乗りでーす♪」
「……え? 奏先生?」
その明るい声に二人が振り向くと、そこには我らが担任、外見は中学生にしか見えない教師。霜月 奏が立っていた。その事実を元に、翔は自分が今いる場所を理解した。
「え? とすると、此所は体育館……なのか?」
「そうですよ? あれ? 地図どうり来たんでしょ?」
「いや、俺らはワープポイントから降って来たんですが……。」
「ワープポイント? うーん……体育館に繋がる物はなかったと思うんですけど……それは何処のですか?」
混乱しながらも説明する翔に対し、奏は半信半疑な様子だった。
「それがですね、砂の石像とか竜みたいなのとかいるところなんですが、学校の地下じゃないかなと思います。結構降りましたけど……大分深くまで。」
「ち、地下ですかぁ?」
それを聞いて奏は頬を膨らませる。睨んでいる様だが全く怖くない、むしろ和む。
「先生をからかわないでください!! そりゃあちょっと体は小さいですよ? でも、かなは大人です!! 十九です!! お酒だって飲める年です!! そんなことが嘘だって言うのは分かるんですよ!?」
「いや、嘘じゃ……って、未成年じゃないですか、教師なのに。」
翔は心の中で、いやどう見ても中学生だろう、とつっこんだが、それをいったら泣きそうなので止めておく。酒は二十までだめな事は補足しておいたが。
「からかってないですよ、本当なんです。ね? 翔君?」
「はい、本当ですよ、ワープ出来なきゃどうなっていたかわからないです。モンスターっての、本当にいるものなんですね。」
二人の真面目な顔に奏も少し考えてから言った。
「うーん、篠原君も御島さんも、面接と内申を見る限りそんな子ではない見たいですし……分かりました、信じましょう♪」
奏はそういってニコリと笑う。物分りの良い先生で二人は安心したように笑った。
「一応理事長に相談して見ますが、口外しちゃダメですよ? 興味をもって調べる学生が出ても問題ですし。」
「「はい、わかりました。」」
二人は声を合わせて返事をする。それを見て、奏は満足したように頷いた。どうやら、完全に信じてくれたようではないみたいだが、理事長に話を通してもらえるならそれで充分だ。
「それより……ふふふっ。」
奏は今度は口に手を当てて笑いだした。からかうような、なんだか嫌な笑い方だ。
「なんですか、いきなり?」
「いやー、篠原君が御島さんをお姫様抱っこかぁ……って思いまして。二人っきりで何があったのか、すっごく気になりますねぇ?」
それを聞いて翔と澄はお互いを見る。その一瞬で澄の顔が赤くなった。どうやら、混乱し過ぎてそんな状況である事も忘れていたらしい。
「あ、ああ、悪い。」
「わ、私こそ、気付かなかった……。」
二人は物凄いスピードで離れて、お互いに謝罪した。奏はニヤリと表情を笑みの形に歪める。
「照れなくてもいいのにぃ♪ でもそろそろ皆もくると思うから、あんまりイチャイチャしてちゃダメだよ? 特に男子には眼の毒だし、私だって彼氏いないんですからね? ……あーあー、いいなあ青春。」
「先生誤解です。」
「そうですよ!?」
「ふふふっ、初々しくて良いですねぇ……それでは、お邪魔しましたー!!」
奏はそれだけ言ってウィンクすると、さっさとホールの入口の方へと消えていった。恐らく他の生徒たちを誘導するためだろう。
「……しょ、翔君……。」
澄が翔の制服の袖を掴んで話しかけてくる。心無しか瞳が潤んでいて翔はドキッとしたが、奏のせいだと責任を押し付けた。
「なんだ? そんな捨てられた子犬見たいな眼して。」
「そ、そんな眼してないよ!! ……私が方向オンチって誰にもいっちゃダメだよ?」
澄の言葉に翔は何故? とでも言うように首を傾げた。それを見て澄は少しムッっとしたように頬を膨らませた。
「恥ずかしいから言わないでっていってるのっ!!」
「……言わないよ、何の得にもならないしな。」
「そ、そう?」
そんなに恥ずかしがる事かな? と翔は思ったが、人それぞれコンプレックスは違うのだろうと無理矢理に納得した。少なくとも名誉なことでないのは確かだが。
「にしても、あれだな、遅れると思ったのにまさか一番乗りするとはな、直通のワープポイントなんて都合良くあって助かったよ。」
「……そもそも、なんであそこにワープポイントがあるのかが分からないわ、誰が使うのよ? ……まあ、私達は使ったけど……。」
「それは……。」
澄のもっともな意見に翔は何も言えなくなってしまう、確かに疑問だらけだが、あって助かった事には変わりない。
「まぁ、光明だもんなぁ。有名学校の裏……みたいな?」
「裏、ねえ……普通に魔物がウロウロしてる学校なんて嫌よ、私。入る場所間違えたかしら。」
そう言って澄は大きく溜息を吐き出した。どうやら澄も疲れているようだったし、それは翔も同じことだ。随分と迷子が大冒険に発展したものだ。そんな事を思いながら、翔は学園理事長の言葉が長くならない事を祈るのだった。
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「こら、翔? 聞いてるの?」
翔はそう言われて、隣から優が話しかけてきているのに気づいた。どうやら随分話しかけられていた様だが、そう言われても勿論、全く、話など聞いてなかった。
「あ〜、悪い、何だっけ?」
聞いていないものは仕方がないと開き直り、翔が素直にそう言うと、優は呆れたように額に手を当てた。どうやら随分とイライラしている様で、いつもよりも口調が荒い。
「だから、私達とはぐれて何処行ってたの? って聞いてるのよ……。」
「いや、別に普通に迷ってたけど?」
「なんで迷ってるくせに私達より早く、それも一番乗りに来れるのよ?」
「そうそう、篠原君、同じクラスの……御島さん、だっけ? と一緒にいたしさ♪」
咄嗟に誤魔化した翔の言葉を華麗に切り返しつつ詰め寄る優の隣で、魔夜はニヤニヤしながら問詰めてきた。翔はなんで優がいる前でそういうことを言うんだろうかと疑問に思ったが、魔夜の表情で理解した、楽しんでいるなこの女。
「別に澄は関係ないだろう? それに偶然先回りしちゃっただけだよ。」
実際翔としてはそれしか言い様がない、学校の地下のワープポイントが何だと言う訳にはいかないのだから。
「御島 澄さんですかぁ……翔さんや優ちゃんと同じで、推薦で入った秀才らしいですよ? 何でも、もう生徒会の役員に勧誘されてるって聞いてます、凄いですよねぇ……。」
「へぇ、生徒会にね……美里、詳しいな。」
「いえ、小耳に挟んだものですから。」
生徒会の推薦……確かに凄いと翔も思った。この学校では選挙の他に生徒会推薦と言う枠が2人分あり、それは生徒会や理事長が生徒を推薦して、了承しだい生徒会に迎え入れるといったシステムだ。ちなみに今までこのやり方で生徒会に入った者は、大体が3年で会長を勤めている。無論、誰も選ばれない事が殆んどらしいが……そのシステムで選ばれていると言う事は、大分優秀な学生なのだろう。
「生徒会かぁ……翔、私達もやってみない?」
「嫌だよ。ダルいし、面倒だ。何より目立つ。」
「そう言うと思ったわ、でも部活はどーせやらないし、生徒会に入っとくと色々面白そうじゃない? 私やりたいな。」
「篠原君? 姫は貴方も一緒がいいらしいわよ?」
「誰が姫だ。」
魔夜はそういってクスクスと笑うが、翔はツッコミを入れつつ拒絶アピール。翔としては、あまり面倒な事はやりたくない。特に必要もないのだし。
「魔夜が一緒にやってみたらどうだ?」
「うーん、私も目立つのはなぁ……。」
「やっぱりな。」
自分で言っといてこれか、と翔は呆れた。誰だって面倒事は避けたいだろう、有名校の生徒会に入る……そう考えれば悪い話でもないのだが。
「まぁそれは置いといて、その御島さんの事だけど……。あー、翔は澄って呼んでたっけね……?」
「……いや、澄がどうかしたか……?」
一歩引いて身構える。優からは明らかな殺意が滲み出ている。全然隠しきれていない。隠す気すら皆無だろう。……どうやら、見目麗しい女の子と連続して知り合ったものだから、優の外行きの仮面が外れかけているようだ。
「お、篠原君を巡る抗争が始まるのかな?」
「翔さんモテそうですしねぇ、優ちゃんも大変です。」
「美里も止めてくれ、あと優もその光球どっかにしまえ……。そして美里、そう言いつつお前も何か雰囲気が怖いぞ?」
「ちっ……学園でいきなり目立ちたくないものね。」
「ふふっ……お気になさらず。」
翔が懇願すると優は渋々手のひらに作った光球を消した。それでも何故か美里の雰囲気は変わらなかったが……。
ちょうどその時、少し遠くから先ほどまで一緒であった少女の声が聞こえてきた。話題の渦中の人物が都合よく現れたようだ。
「あーいたいた、翔く〜ん。」
「……澄か、どうしたんだ?」
「奏先生に呼ばれてね、翔君も呼んで来てっていわれたのよ。……理事長室に。」
奏先生に呼ばれる、そして理事長室、ということは地下の事だろうかと翔は推測した。そういう事なら早いほうが良い。
「ああ、すぐに行こう。ホームルームの時間を圧しても悪いし。」
「…………。」
「……なんだ、どうしたんだ?」
歩きだそうとした翔の隣で、澄は優達をじぃっと見つめていた。なんだか、少し呆れている様にも見える。
「翔君って、結構女の人にだらしないの……?」
「はい……?」
「だって……女の子ばっかり……。」
「あ、ああ、そういう事か。」
優の事は……後で説明しておかなくてはならないだろう。美里も魔夜も今日あったばかりだし、優は男なので自分が周りからどう見えているのか、翔は今初めて実感していた。
「翔さん、確かに男性の友人より女性の友人の方が多そうですよねぇ……。」
「あーもうその話はいいから行くぞ、澄。」
「あ、ちょっと翔君!! 待ってよぉっ。」
美里の追撃に翔は逃げるように去り、澄も翔を追いかけて行ってしまう。そんな二人を見送って、優達は首を傾げた。
「なんであの二人だけ呼び出されるのかな?」
「翔がなんかやらかしたのかしら? 女性関係で。」
「……女性関係、ですか。優さん、翔さんの女性関係を私に詳しく……。」
優達は首をかしげてクラスに戻る。優も美里も相変わらず不機嫌だったが、魔夜はそれをいさめるつもりは毛頭なかった。