第38話:変わる日常
「ほーら、起きなさい!早く起きないと遅刻よ♪」
「ん…」
いつも通りベットに覆い被さる様にした優が声をかけてくる。だが…翔は何とも言えない違和感を感じていた
「あ…なんだ…?…優?もう学園に行く時間か…?それよりも退学がどうとかって…」
「うふふ、えいっ」
ムニッ
「……?」
何か柔らかい物が手に触れている感触。翔は寝ぼけていた事もあって一瞬それが何かを認識出来なかった。そして翔の手を胸に押し当てた優の笑顔を見つめること数秒
「…?…っ!!」
「翔、おはよう♪眼ぇ、覚めた?」
「な、なっ…」
優は困惑する翔に飛び掛かる体勢を取った
「ふふふ…。しょーお♪」
「…はっ!!ゆ、夢か…?うわぁ…なんつー夢見るんだよ俺は…。まさかあれか?欲求不満ってやつなのか?はぁ…俺はどうしちまったんだよ。まるで爺ちゃんだ…」
翔は自分自身に呆れて、額に手を当てた。時間を確かめる為に時計を見ると5時34分。学園の登校時間まではまだある。どうやら早く起き過ぎたようだった
「はぁ。しゃーない、二度寝するか」
ムニュ
「…………」
眠ろうと眼を瞑った瞬間、掛布団の中に入ったままの方の腕に何かが押付けられた。少し腕を動かそうとするがさっきのフニフニとした感触があるだけで動かない。腕は何かにしっかりとホールドされている様だ。翔はふとさっきの夢の内容を思い出した
「いやいや、ないよ。俺寝ぼけちゃってるな。もしくは夢の中で夢を見るってあれだ。そうだ、そうに決定」
「ん…翔…」
「…………」
再び沈黙。よく見ると掛布団が少し盛り上がっている。翔は頭が痛くなって来ていた。何やらこれは確認してはいけない気がしたが、それはない絶対にないと脳内で連呼しつつ掛布団をめくった
「…………」
「…う…うん…?あ…おはよぉ…翔…今何時…?」
「…え、あ、ああ、今は5時…って…。………優ううぅぅぅうぅぅぅぅっ!?!?」
「きゃん…そんなに叫ばないでよぉ…」
布団を捲ると全裸の優が翔の腕にしがみついて気持ち良さそうに眠っていた。起こしてしまった翔が少し罪悪感を感じてしまったくらいだ
「な、なんで優がこんな所に…。と言うかなんなんだよその格好!!」
フニッ
「んん〜、翔の温もりを感じに来たのよ♪うふふ、この方が感じ取りやすいでしょ?どお?気持ちいい?」
ムニッ
「はいとても!!…じゃない!!俺が聞いてるのはそう言う事じゃなくて…ん…?」
ムニュ
翔は恐る恐る腕がホールドされている辺りを見た。この感触はここから来ているとして間違ない。翔は頭の中で先程の夢を思い出した
「あのー。優さん?今押付けられている物は何かなぁなんて…」
「んー。自分で確認してみたら?ほら」
優はそう言うと抱き締めていた腕を開放し、翔の手を自分の胸にあてがってから、その手をつつみこんだ
グニュリ
「あっ…んっ…ふぅ…♪翔って大胆」
翔は一度思考をリセットしてやり直した。まず大前提として優は男だ。男の胸を触るのはそれはそれで危ないが今それは重要ではない。だが今自分の手は確実に優を女だと証明する感触を得ていて…つまり…
「…じ…ジジィぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
翔は叫びながら進が寝ている部屋へとダッシュで向かった。朝早くから大声を出したら近所の迷惑とかは全く頭にない
「おい、ジジイ!!!寝たふりしてんじゃねぇ!!!起きやがれぇぇぇぇぇぇっ!!!」
翔は進の部屋に入るなり掛布団を剥ぎ、布団をひっくり返した。勢いで進が宙を舞い畳に落ちる
「いたた…なんじゃ翔坊…年寄りはもう少し労らんかい…」
「労られる様な人間になりやがれよこの野郎!!!」
進はのっそりと身を起こして翔と向き合った。その顔からは少し、とても楽しそうな笑みが零れていた。翔はそれを見て絶対に楽しんでいると確信する
「謀ったな?」
「何がじゃ?」
あくまで惚ける進に翔はこめかみを引きつらせながらも言った
「戸締まりは完璧にしたんだから爺ちゃんしか優を家に入れられない事くらい分かってんだよ!!!」
「む、むぅ…なかなかの推理じゃ。流石翔坊じゃな。しかし翔坊の推理には穴がある」
「む…な、なんだよ」
たじろぐ翔に進は少し間を置いてから真剣な表情で言った
「ワシらが翔坊の部屋の窓の鍵に細工をしていたとしたらそれは、って翔坊まて!!花瓶は人に向けて投げてはいかん!!」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!その方がよっぽど悪いわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ちょっと翔っ!!それは流石に危ないわよ!!」
花瓶を投げ付けようとする翔を優と進が必死に押さえ込む。ちなみに優はシーツを体に巻いている状態だ。翔も優がその状態でくっついて来るせいで何だか力が抜けてしまい、結局花瓶は進に回収された
「くっ…まぁその事は置いておくとして…。なんで優が女になってるんだ!!!」
「私は元から女よ?」
「そうじゃねぇ!!」
翔が叫ぶと優が少し暗い顔をして誰にも聞こえない様な小さな声で、そうなんだけどなぁ。と呟いたが、翔は全く気が付かなかった
「別に優ちゃんが女になろうと男になろうと翔坊が口出しする事じゃなかろう」
「た、確かにそりゃあそうだが…」
翔は何か納得がいかないと言うように口を閉じた。
「優ちゃんに相談してくれなくて寂しかったか?」
「なっ…!朝飯抜くぞ!!」
「全面的にワシが悪かった」
即座に土下座の体勢に入る進。翔はそれを放って置いて優の方を見た
「翔は……私の事嫌いになった?」
「……はい?」
優は嫌いではない。むしろ一番信頼がおける友人と言っても過言ではない。別に女になったからといって優と友人関係を止めるとか軽蔑する気は毛頭なかったが…
「いや、そんな事はないけども…」
「本当?」
「あ、ああ。勿論」
優が外見まで女になったお陰で上目使いの破壊力が上って手の付けられない事になっている。翔はじーっと見つめてくる優にたじろいだ
「良かった…♪翔に嫌われなくて…」
「ゆ、優?」
優は泣きそうな顔で翔の胸に飛び込んで顔を埋めた。翔はそんな優を受け止めて困惑する
「翔……あっても……私が……」
困惑する翔の胸の中で優は何かを呟いてから顔を上げ、いつもの様にクスッっと笑いかけた。
「学園の登校時間まではまだあるみたいだしもう一眠りしましようか、翔の部屋で♪」
「え、あ、ああそうだな……ってまた隣りで寝るつもりか!?」
「あららぁ?澄ちゃんとは寝れて私とは寝れないなんて事は……ないわよね?」
「…………」
翔は優に腕を捕まれて部屋まで連れ去られて行った。後に残された進はふぅと溜息をついてから苦笑した
「ふむ、やっぱり在るべき状態というのは良い物じゃのぉ…。さて…」
進は誰もいなくなった部屋でニヤリと笑い。部屋にあるテーブルへと向かった
「名前…名前…まずは男の子が出来た場合じゃが…」
結局37つ目が出た時点で腕に優を絡み付かせた翔が起きて来てノートを発見し、何とか誤魔化そうとする進の前で焼却したとかしないとか