第32話:GWの聖戦
「悪い待たせたな」
「待ったなんて言ったらボコすけどね?」
「い、いや、待ってはないんだけどな…」
翔と優が待ち合わせ場所に来ると辰が翔を訝しげに見た。
「今日は特に変なツレはいないんだな?」
「まぁな、真夕先輩もそんなに暇じゃないだろ」
辰の問いに翔は渇いた笑みを返す。優の前でなんて事を…
「…?何でそこで真夕ちゃんがでてくるの?」
予想通り、今度は優が翔の眼を見つめ、翔が眼を逸らす。と、言うわけで。久し振りに3人で商店街に繰り出した翔、優、辰。トーナメントが丁度GWに入る直前だったのでトーナメントが終わり、即学校は長い休暇に変わった。何だか今までが騒がしかったから休暇が凄く久し振りな感じだ
「いやぁ、この前に辰と買い物に行った時に限り無く偶然真夕先輩に遭遇してな…?一緒に色々回ったんだよ。なぁ、辰?」
合せて下さいお願いします!!
翔がヒヤヒヤしながら辰にアイコンタクト
「ああ、そういう事だ。確かに偶然だった。そんな眼で見るなって…」
「…翔、後でたっぷり話を聞かせてもらうから…」
優の殺気を孕んだ視線に翔は声もなく首を上下に振る。こう言う時は優に逆らう事はしちゃいけない。血を見るだけだ
「…まぁいいわ、映画始まっちゃうし…翔が寝坊したせいよ?」
「あ、ああ悪い」
優はまだ怪しんでいる様だったが時計を見て諦めた様に歩き出す
「なぁ優、何を見る気だ?翔にも教えてないみたいだし、いい加減教えてくれないか?」
「そう言えば聞いてなかったな…優が映画なんて珍しい事いうから聞くの忘れてた」
映画なんて久し振りだ。優や辰と一緒の時は主に買い物だし…
「あら、言ってなかった?これよこれ♪」
《僕らの聖戦シリーズ第4章〜他人の恋には毒を盛れ〜》
「辰、買い物行かないか?俺この前のジャケットが唐突に欲しくなってきた」
「奇遇だな?俺もこの前買わなかった服が欲しくなってきたんだ」
翔と辰は映画のチラシを見せられるや否や視線を逸らして買い物に行く事を猛烈アピールしたのだが…
「大丈夫よ、2時間くらいで売れたりしないわ♪それより映画の方が大事よ♪」
「いや、分からないぞ?もしかしたらその2時間の間に……いや、すいません」
優の後ろでとてつもない量の魔力が収束していくのが分かりました
「心配しなくてもいいわ!絶対に良い映画だから♪」
「その自信はどこから来るんだ?」
辰が諦め気味に聞く
「だってこんな題名の映画が素晴らしくないはずないじゃない♪」
「俺らの不安要素をそう取りますか…」
あの危な過ぎる題名のどこに良さを感じる事が出来るのだろうか。
「ほらほら、後で買い物にも行って上げるから♪」
「仕方ないな…」
本気で映画に期待している優に翔はそう呟いて溜息をついた
「ストウカ…あんたは最高だよ…」
「ああ…ピンク色の全身タイツだけで仲間と共に決戦兵器彼氏に挑んだんだ。あれは男だよ…」
翔の感動に辰が同意する。最初は引き気味だったが映画が終わりに近付くに連れて翔と辰のテンションは物凄いスピードで上がっていった。
「ああ、結局は捕まったけどな。だが最後に婚姻届の裏に離婚届が糊付けされていたのは流石って感じだな。俺はああなりたくはないけど」
「ああ、執念を感じたぜ…。俺もいやだけど」
「大丈夫よ♪ファンクラブの連中には邪魔させないから♪」
えーっと、俺を見ながら言わないで欲しいなぁ…。翔が心の底から思っていると、見慣れた姉妹が映画館から出て来ているのが見えた
「あれ?翔ちゃんに優ちゃんじゃない♪」
「翔君達も映画?」
澄と琴は翔達に気付くと小走りに近付いて来た
「ああ、今見て来た所だ、今の時間はあれしかやってないし澄達もいたんだな?全然気がつかなかった」
「そりゃあこんなに面白そうな題名の映画を放って置くわけにはいかないしねぇ♪」
と、翔と澄が談笑している横で琴と優が面白くなさそうにしていた
「澄ったら…お姉ちゃんを放っておいて楽しそうに…やっぱり男が出来ると皆そうなのかなぁ…。優ちゃんどう思う?」
「翔も、良い女ならここにだって居るって言うのに…。後でしっかりお仕置をしなきゃいけないわね…」
「優も程々にな…」
辰の声は勿論優には届いていない。
「所で優ちゃん明日、明後日って翔ちゃんを借りても良い?」
琴の謎の言葉に首を傾げる優
「どうしてですか?」
「ん〜…何というか…家のお父さん達が翔ちゃんの事を気に入っちゃったみたいで…次はいつ来るんだ?ってうるさいのよ……って…ユ、ユウチャン…?」
琴がそう言えばあの事って内緒だったんだっけ…と気付いたがもう遅かった
「琴先輩…?詳しく教えて欲しいな〜何て思っちゃったりして♪」
そこには般若の面の上に笑顔を張り付けている優がいた
「…は、はひ……」
ちなみに翔と優はその後1時間もの間、あまりに一方的過ぎる攻防繰り広げたとさ
「し、死ぬかと思った…」
「翔君大丈夫…?」
「ごめんねぇ…?つい口が滑っちゃって…」
翔は優や辰と別れて現在二人を家まで送っている。ちなみに澄の家には優も行く事で納得した。優は何故か少し澄の家に興味があるらしい
「しかし、優ちゃんがよく許可くれたよね?保護者…と言うか優ちゃん同伴だけど…」
澄は何処か不満そうに言った。と言うより今回翔は一言も行くとは言っていないのだが何だかもう決定事項らしい。だが結局、翔は澄の料理等を結構楽しみにしていたりするので問題はない
「確かに優の許可にも驚いたけど、まさかまたこんなに早く澄の家に行くなんてな…。爺ちゃんがまた何かしない様に気をつけておくか…」
翔がそう言って嬉しそうに迷惑な策謀を企てる老人を思い浮かべた
「そう言えば翔君のお爺さんはこの前見たけどまだ話した事なかったなぁ…」
「私はあるわよ?大会に呼んだのも私だし。すっごく面白いお爺さんよ♪色々と気も合うし♪」
うーん…悪巧みをする時の爺ちゃんと琴先輩の様子が容易に想像できるな…。と言うか妙な事言ってないだろうなあの変態…
「お姉ちゃんと気が合うって事は、要注意な人なんだね…やっぱり…」
「要注意なのは確かだけど…その認識の仕方はどうだろう…」
澄の台詞に多少ショックを受ける琴を見つつ翔が言った。琴先輩の日頃の行いが良く分かる台詞だったな…
「うう…澄なんて方向音痴の癖に…」
「ほ、方向音痴は関係ないでしょ!」
閑静な住宅街に姉妹のケンカする声が響き、翔は明日の事を考えながらその様子に苦笑した。