第21話:孤独な世界、真っ白い時
「ふぅ…なんつーか…いかにもだな…」
翔達がワープして出てきた場所は暗い商店街の様な所だった
「まぁそうじゃな…だがそんなに悪い所でもないぞ?まぁ…ケンカに巻き込まれたりしたらケガじゃすまない無法地帯じゃが…」
爺ちゃんがいつもと変わらない様子で答えた。無法地帯か…なるほどねぇ…美里と命が言ってたのはそう言う事か
「よし!それじゃあ早速探しましょう!」
「うむ、ここなら望む物も見つかるだろう…審査の対象は…萌…だったか…?」
翔の顔が思わず引きつる。まさか命の口からその言葉が出るとは…
「ふむ。つまりは可愛い衣装を強い素材で作れば良いんじゃろ?……バニーガー
「却下だ!!!」…うう」
即座に却下すると進は地面に『の』の字を書きながらしゃがみ込んでしまった。このジジイ…さすがはあの優しい婆ちゃんが色情魔だと苦々しい顔で言っただけの事はあるな…まぁでも…美里と命のバニーガールか…ヤバい何か良いかも…
「翔坊、顔が緩んどるぞ。さすがはワシの孫じゃな、無理もないが」
「ば、バニーガールですか…その…翔さんはそういう格好がお好きなんですか…?」
「え…?い、いや別に、好きじゃないけど嫌いじゃないって言うか……って何笑ってんだジジイィィ!!」
美里と命が赤くなって俯く。あ〜もう少し想像しちまったよ!!俺は爺ちゃんみたいにはなりたくないのに!!
「ふむ、まぁそれは冗談だとしても結局何を作るかも決ってないんじゃあのぉ…」
「確かにな…二人は何か考えてるのか?」
そう言って二人を見ると二人も顔を見合わせて困っていた
「買い物をしながら考えようと思ってまして…まだ…」
「私もだ…と言うより可愛い服と言うのがよくわからん…」
まぁそうだろうなぁ…命はどっちかと言えば格好良い服が似合いそうだし。美里も袴とか和服とかそういう感じがするし
「うーん…」
いきなり行き詰まったな…前途多難だ…
「ふむ…取り敢えず知り合いに挨拶に行きたいのじゃがいいかの…?それにアヤツならそういう服にも詳しそうじゃしな、あれでいて面倒見も良いしの」
取り敢えず決まらなかったので爺ちゃんの友人に逢いに行く事になった。まぁ爺ちゃんの友人はそれはそれで気になるし
「うわぁ!しんちゃん久し振りだねぇ♪また少し老けたぁ?」
爺ちゃんについて来て着いたのは薬屋『鬼嫁』なんつー名前だと思ったが中から出て来た女性は何とも気さくで人が良さそうだ。長い金髪を後ろで束ねていて瞳は黄色、身長は女性ではかなり高い方だろう。しんちゃん…進を読み替えたのか
「天津、久し振りだのぉ…相変わらず独り身の様じゃが?」
「もう本当に困っちゃうわよ…この店の名前がいけないのかなぁ…鬼嫁だし。」
天津は俯いて溜息をついてしまった。うーんこの女性が爺ちゃんの友人かぁ…何というかやっぱり濃い人だな…そんなことを思っていると天津が視線を横に滑らせる
「まぁそれはそうと。そこの男の子はもしかして…?」
「うむ、孫の翔じゃ。こっちの二人は翔の学友の美里ちゃんと命ちゃんだそうじゃ」
進が一通り自己紹介をするのに合わせて会釈をする。天津は下から上へと視線を走らせてにこっと笑った
「何となくだけど、しんちゃんに似てるね。その歳で女の子二人も引き連れて…悪い事言わないからしんちゃんみたいにはなっちゃダメよ?」
「この二人はそんなんじゃありません!それに爺ちゃんみたいになるつもりもありません!!」
真顔の天津に言われて翔は反論する。ちらと進の方を見ると何やら美里と一緒になって落ち込んでいて、命は命で美里に何やら言っている。爺ちゃんは良いとして何で美里が落ち込むんだ?
「まぁそれはいいとして、私は天津よ!宜しくね」
「あ、はい宜しくお願いします。ところで天津って名前ですか?名字ですか?」
翔がそう質問すると天津はへ?知らないの?という顔をして答えた
「名前よ?両方を知ってる人…両方の世界を行き来してる人はここを裏界って呼んでるけど。名字何てある方が珍しいのよ?ここは表とは全く別の世界。文字通り住む世界が違うのよ、ポイントで繋がってるだけでね。まぁそっち側とこっち側の人が結婚したりすると名字が付いたりするけどね?まぁそういうのは特例よ」
と天津が一通りの説明をしてくれた。翔もこれには驚いた。世界が違う、つまりあのワープポイントは違う世界を繋いでいるという事になる。ワープポイントは魔法と科学が作り出した産物だ。魔法と科学と言う物はどれだけの可能性があるのか全く想像も出来ない
「取り敢えずこっちの世界から見ればおかしいのはそっちの世界だし、あんまり変な事は言わない方がいいよ。…まぁそれはいいとして、しんちゃんは何の用事で来たのかな?」
天津に聞かれて俯いていた進は、おお忘れとった!と顔を上げる。このジジイ本当に忘れてやがったな
「実は戦闘服で尚且つ可愛いと言う素晴らしい衣装を作る事になったんじゃが、何を作るのかさえ決まってなくてのぉ…ほれ、天津はコスプレとか言って色々な服に着替えとったりしたのを思い出しての?少しこの二人をコーディネートしてほしいんじゃが…」
え…天津さんってそんな事してたの?と思ったがそれはまぁ爺ちゃんの友人だし全然許容範囲だ。事実爺ちゃんの友人は変なの多いしね。天津は爺ちゃんの言葉を聞くと双方の眼を光らせた
「つまりこの子達を私の好きにしていいと…?」
「つまりそういう事じゃ」
うなずくジジイ。何か天津さんにまかせるのが不安だ。主に美里と命の貞操とかが…だがまぁこの人を頼るしか方法もアイデアもないのでこれはまぁしょうがない事だ。衣装をもらえればその分他の事に時間を使えるしな。虎穴にいらずんば何とかとも言うし
「それじゃあ御二人さん♪向こうで衣装合わせしましょうか♪ふふふ…腕がなるわ…」
「よ、よろしくお願いします!」
「お手柔らかに頼む…」
不安そうな二人を引き連れて天津は奥へと消えていった。店はいいのか?誰もいないんだけど…
「ふむ…翔坊、店はワシが見とくからお前は色々見てきなさい珍しい物も沢山あるじゃろうて。別にナンパしてきても構わんぞ?ちなみにここは…」
「しねぇよ!まぁ確かに面白そうだし見てくるかな…」
自分が住んでいる世界とは違う世界。知的好奇心を満たすにはもってこいだ。翔は厚い雲の覆った世界を歩き出した
くっ…迷った…まさかこんな所まで来て迷うとは…まぁ途中からある物全部が珍しくて道を憶えるのも忘れて進んだのが悪かったんだろうなぁ…どうしよう…はぁ…
「…迷子…そう言えば澄に会った時もこんな感じだったんだよな…」
パートナーとなった少女…あの時に迷ってなかったらあんな風に家に行って、あまつさえ一泊するなど絶対に無かった筈だ。翔がそんな事を思い出していると、いつの間にか翔の周りから人の気配が全くしなくなっていた。いや、それだけではない、何の音もしないのだ。まるで時間が止まった様な感じだ
「…?皆何処に行ったんだ…?これじゃあ道を聞く事もできないな…」
少しおかしく思ったが、行動を起こさなければ何も変わらない。なら人を探すか…そう思って翔は空に飛び上がった。しかし、直ぐにその行動が無駄だと気付いた
「……さすがに……ヤバいんじゃないか…?」
見渡す限り人の気配は無い。恐らく今ここに自分以外の人は存在しない事を翔は悟った。この世界について自分が知っている事は少ないし、もしかしたら何処かで何かの魔法にかかったのかも知れない。そう思って地上に降りる。…次の瞬間、後ろから何かの気配を感じ、少し間を置いてから翔は振り向いた
「……帰ったら澄に報告…だな…」
家が有った筈のそこにはさっきまで無かった筈の地下へと続く階段があった。行動を起こさなければ何も変わらない。翔はそう自分に言い聞かせてその階段を降りて行った。
「……」
中に入って歩き初めてから30分は経った気がする。実際はそんなに経っていないのかもしれないが翔の体感時間はそんな感じだった。
この前見たいにモンスターが出て来るんじゃないかと警戒していたが、今のところモンスターどころか何も見つからない。ただ一本道が続いているだけだ。
「まだ何か出て来てくれた方が気が楽だ…」
翔の魔法で照らされている所以外は完全に闇。どんな人間でもこんな所に一人でいたら気がおかしくなるだろう。
「くそっ…一体何がどうなってやがるんだ…やっぱり誰かの魔法なのか…?でも、なら何で俺が…」
世界同士を繋ぐ事さえ可能な魔法…こんな事が出来るのは魔法でしかあり得ない。
でも何故俺なんだ?偶然にしては同じ様な魔法に二回遭うなんて出来過ぎてる。
それにこれは幻覚じゃない…その証拠に俺に対する魔力を感じない。世界自体が変わっているんだ。
これだけの魔力を持っていて尚且つ俺に執着がある奴…優…いや、それはあり得ない。優だったとしてもこれだけ大規模な変革は無理だ。それに俺を狙ったなら俺の所在を知らなければいけない。同じ理由で今闇市に来てない澄等は無理。命と美里も魔力が足りないだろう。なら最後に残ったのは爺ちゃんか…だが、そうだったとしても何故。
「……ったく、何を馬鹿な事考えてるんだろうな、こんな事を考える様な奴自体俺の周りにはいないのに…何疑ってるんだか…」
皆気の良い奴ばかりだ、俺にはもったいないくらい良い仲間だ。そして爺ちゃんは家族だ。
「結局…考えても無駄って事だな」
翔がそう言って一人苦笑し、眼を閉じた。そして眼を開けた瞬間、翔の目の前には違う世界が広がっていた
「うっ…今度は何だ!?白い…世界…?」
真っ白い…でも全くの虚空ではない。確かにそこは世界であるという感覚があった。そして背後に感じる気配に翔は振り向いた。
「うわっ!?」
振り向いた瞬間に世界はこれ以上ないほどに輝き翔の眼を閉じさせた。しかし翔は眼を閉じる時、一瞬だけ何か少女の様な物を見た気がした。そして翔の意識は飛んだ
う…俺…気を失って…
「翔さん!?良かったぁ〜…私もう心臓止まっちゃうかと思いましたぁ…」
眼を開けると眼を赤くした美里が抱き付いて来た。周りを見ると命や進や天津もいる、良くわからないが助かったらしいな…
「嗚呼翔坊、犯られてしまうとは情けない、幾ら金を払っても翔坊の…」
ドゴッ…ドサッ
翔が跳ね起き腹部に思いっきり右ストレート。ぐふっ…っと言って進は地面に倒れた。なぁに、直ぐに復活するさ
「なんて事言いやがるんだ糞ジジイ…」
「そうよしんちゃん!襲ったのが相手だとは限らないわ!」
天津さん、貴方もですか…どうやら俺は爺ちゃんの孫と言う烙印を刻み込まれたまま生きていかなきゃいけないらしいな
「…はぁ…取り敢えず…何で俺はここに…?」
ここは見覚えのある『鬼嫁』だ。確か俺はあの地下で気を失った筈なんだが…そう思い出していると命が、ああその事かと説明してくれた
「私達の衣装が決まったので店の方を見に行ったのだが翔殿が出掛けたまま帰って来ないと言うから私と命とお爺様で探しに行ったのだ。まぁ直ぐに見つかったのだが…まさか中央広場のど真ん中の人だかりの中で翔殿が気絶しているとは…一体何があったのだ?」
…そんな馬鹿な…あの後誰にも気付かれずに俺をワープもしくは運んで来たなんて…
「翔坊…?どうかしたのか…?」
翔の様子をおかしく思った進が訝しげに見る
「ん?あーいや、何でもない。ちょっと疲れて倒れたのかな。最近どっかの誰かさんが俺を困らせたから」
「む…わ、ワシのせいか…?」
少し反省した様に俯く。…まぁ本当の事を言うわけにもいかないしな
「でも翔さんが無事で本当に良かったです…」
「ははは…心配かけて悪かったな」
相変わらずしがみついている美里の頭を軽く叩く。澄といい美里といい誰にでもこんな風にしてたら絶対に勘違いされるぞ?
「さてと、衣装も決まったみたいだしそろそろ帰るか」
「翔殿?衣装が何か聞かないのか?」
命が少し寂しげに聞いてくる。二人の衣装は確かに気になるけど…
「ま、美里と命なら何着ても可愛いんだから何かは当日の楽しみって事にしとくよ」
「か、かわ…っ」
「翔さん…」
翔がそう言うと、命は一気に顔を真っ赤にして狼狽し、美里は腕の力を強めた。
「…翔坊も甘言がうまくなったのぅ…」
「さすがしんちゃんの孫ねぇ…」
進と天津は翔に聞こえないように会話しながら、深く頷きあった。
こんにちは八神です。今回はいつもと違うお話です。書いてて思ったのですが、この物語って何てジャンルなんでしょう?学園ラブコメファンタジーとか長すぎですよね…何か良い呼び方あったら教えて下さい♪ 恋:「絞らない貴様が悪い」 久々に出ましたね。恋先生の毒舌…ですが、今回の様な事も合わせてこの物語を好きになってもらえたら私は感謝感激雨あられなのです♪ファンタジーだのラブコメだのごちゃ雑ぜですがこれからも宜しくお願いしますね♪ 恋:「私からもお願いするよ。今回のも前フリだと思ってくれ」 さて、今回も感想評価をお待ちしています♪それではまた次の後書きで…